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財務分析の必要性


 外国人投資家の登場により、日本企業はかつてないほど自社の経営の結果に説明責任(アカウンタビリティ)が求められることになった。それは資金調達の局面でも同じである。なぜその資金が必要なのか、資金を何に使うのか、どのように資金を返済するのか、そして資金提供者にはどれぐらいのリターンが見込めるのか等について、資金の提供者に対し経営陣は合理的な説明を行わなければ、容易には資金調達ができない。このような説明責任を果たす手段として有用なツールが財務分析である。従来は、主に過去の経営の成果を分析するために財務分析が行われていたが、今日では資金を投下した結果、どれぐらいのリターンが得られるのか、そのシミュレーションにも財務分析が多用されている。財務分析を通じて、投資プロジェクトのリスクとリターンについての説明を行うことにより、資金提供者に納得して資金を拠出してもらうことになる。よって、財務分析をマスターすることなしに、円滑な資金調達は難しいと言っても過言ではない。



財務分析の目的


財務諸表分析とは、企業の財務諸表や関連資料を分析することにより、当該企業の実態を財務的側面から把握する方法である。金融機関は、企業の信用リスクを的確に把握するために、企業から複数期に渡る財務諸表を入手し、スコアリングモデルを中心とした定量的分析を行う。また、投資家(株主)は、企業への投資リスクとリターンの関係を調べるにあたり、企業の財務諸表のデータを要求する。

よって、企業は、資金調達を行うに際し、自社がどのように分析されるのか、資金調達の条件交渉を行う際には、どのような点をアピールすれば良いのか、さらには、資金調達ができない場合には、どこに問題点があるのかを知る手段として、財務諸表の分析の視点を身につけておく必要がある。

以下では、一般的な財務諸表分析の方法や留意点について記載する。

財務分析の体系

財務分析の種類


一般に、財務諸表分析は、大別して収益性分析・安全性分析・生産性分析・成長性分析・利益処分分析・株価分析・連結財務諸表分析に分類される(下記図表5-1参照)。これらのうち、どの分析を用いるかは、利用者の目的により異なる。例えば、銀行は安全・確実に融資が返済されるかという視点を重視することから安全性分析を重視するのに対し、投資家は投資リスクに対するリターン関係から収益性分析や成長性分析を重視する。よって、財務分析を行う際には、財務分析結果の利用者の視点を明確にし、その上で最適な分析を行うことが重要である。連結財務諸表分析は、単体企業ベースで財務分析を行うのではなく、企業集団ベースで分析する手法である。


収益性分析: 投資家が投下した資本が、どのくらい効率よく運用され、利益を出すことができるかを分析する→ 投資家・金融機関の関心が大

安全性分析: 企業の支払い能力や資金繰りの状況、倒産の危険性を分析する→ 金融機関・投資家の関心が大

生産性分析: 生産要素の利用度、企業の生産効率、付加価値の分配状況を分析する→ 投資家・経営者の関心が大

成長性分析: 企業の将来の成長性について、過去の趨勢より分析する。→投資家の関心が大

利益処分分析・株価分析: 企業の配当政策や株式市場におけるパフォーマンスについて分析する→投資家の関心が大

連結財務諸表分析: 企業集団・グループとしての収益性・安全性を分析する→ 投資家・金融機関の関心が大


<財務分析における留意点>

財務分析を行うにあたり、下記の点に注意する必要がある。


①会計処理方法の継続性

現行の制度会計においては、財務諸表は「継続性の原則」に従い作成されている。継続性の原則の下では、一度採用した会計方針は正当な理由がない限り変更できないが、会計方針を変更している場合には、会計方針の変更前後で財務数値の比較可能性が失われる。よって、会計方針を変更している場合には、変更による影響を加味して分析が行われるべきである。

②財務数値の限界

財務諸表上の資産のデータは、取得原価主義に基づき表現されていることから、分析時点における資産の時価等を反映していない。時価情報をベースとした分析が必要な場合は、別途実態バランスシートを作成する必要がある。

③定量データの限界

定量的な財務分析においては、財務数値による分析のみが行われ、経営の非財務的な側面は加味されない。

収益性分析


(1)収益性分析とは

収益性分析とは、企業が一期間において、どれくらい利益を獲得する力があるかを分析するものである。営利企業の究極の目標は、「利益の追求」であり、収益性が高い企業であることが継続企業として永続してゆくためには不可欠である。

収益性の分析の中心的指標は、「資本利益率」であり、投下した資本に対し、一期間にどれぐらいの利益を生み出したかを示す総合的な収益性を示す指標であり、基本的に以下のように算出する。

(2)収益性分析の種類

収益性分析には、資本利益率分析と損益分岐点分析がある。
(3)資本利益率の種類

資本利益率には、総資本利益率、自己資本利益率、経常資本営業利益率があり、分析目的により用いられる資本利益率も異なる。

(4)総資本利益率の分解

総資本利益率は、下記のように「売上高利益率」と「総資本回転率」に分解することができ、これらを用いて収益性の良否の原因分析を行うことができる。すなわち、総資本利益率の善し悪しが、「売上高利益率」と「総資本回転率」のどちらに原因があるのかを調べることができる。

(5)売上高利益率の分解

売上高利益率は、売上高に対する儲け(収益性)を示しているので、高ければ高いほど良い。一般に、売上高経常利益率が低い要因として以下のような原因が考えられる。


 商品の単価が低い
 商品の販売数が少ない
 仕入れ単価が高い
 人件費等の経費が高い
 減価償却費が高い

(6)総資本回転率の分解

総資本回転率は、売上高を総資本で除して求められる。

総資本回転率=売上高/総資本

総資本回転率は、投下した総資本(負債+資本)の売上高を基準とした回転数、すなわち、資本の循環速度を意味している。総資本回転率は高ければ高いほど(早ければ早いほど)限られた資本を有効に利用していることから、経営的にはプラスとなる。言い換えれば、1期間の売上げを達成するために、少ない資本が何回も回転して懸命に働いたことを示すことを意味し、効率的に資本を利用したことになる。

一般に、総資本回転率が低い要因として以下のような原因が考えられる。

 売掛金の回収が滞っている(売掛債権の滞留化)→売上債権回転率の分析へ
 在庫が過剰である、もしくは滞留している(過剰在庫、滞留在庫)→棚卸資産回転率の分析へ
 生産設備が過大である(設備の稼働率が低い)→固定資産回転率の分析へ
 借入が過大である(必要額以上の借入がある)
 売上げが低迷している(本業の不調)


 業界・業種によって売上高利益率や総資本回転率は大きく異なるという特徴がある。一般的に、売上高利益率が高い業種は総資本回転率が低く、売上高利益率が低い業種は総資本回転率が高い。製造業の場合、生産設備(固定資産)を整えてから原材料を投入して生産活動を行い、製品を販売して代金を回収することから、総資本回転率は比較的低くなるのに対し、卸売業の場合は、商品を仕入れ、商品を販売してから代金を回収することから、総資本回転率は製造業に比較すると高い傾向がある。

また、会社の規模によっても総資本回転率は異なっており、比較的規模の大きい大企業の場合は、資本集約的になるため、総資本回転率が低くなる傾向にある。
総資本回転率の良否の原因を分析するためには、貸借一致の原則より総資本=総資産という関係が成立しているので、総資産を各資産別の回転率を算定し、各資産の運用効率を分析する方法が有効である。

売上債権回転率(回) :売掛債権が売上高を基準として1期間にどれだけ回転したかを示す指標。 この回転率が高ければ高いほど、売上代金の回収が順調であり、売掛債権の回収に延滞がないことを示す。一般的に、売掛債権のサイトが長いほど、売上債権回転率が低下し、資金繰り悪化の原因となる。

棚卸資産回転率(回) :棚卸資産が売上高を基準として1期間にどれだけ回転したかを示す指標。 棚卸資産が1期間に何回販売され売上げとして実現するかを示す指標である。この回転率が高ければ高いほど、販売サイクルが短く、資産を効率よく運用していることを示す。この回転率が低い場合は、滞留在庫の存在、過剰仕入、が原因であると考えられる。

固定資産回転率(回) :固定資産が売上高を基準として1期間にどれだけ回転したかを示す指標。 この回転率が高ければ高いほど、固定資産が効率的に利用されている(売上げに貢献している)ことを示す。この回転率が低い場合は、設備投資が過剰であることが原因と考えられ、過剰な設備から生まれる減価償却費は長期的に企業の収益性を悪化させる原因ともなる。

仕入債務回転率(回) :仕入債務が仕入高を基準として1期間にどれだけ回転したかを示す指標。 この回転率が高ければ高いほど、仕入債務の支払いが遅延していることを示すため、資金繰が逼迫していると考えられる。

(注):仕入債務=買掛金+支払手形―前渡金


(7)財務レバレッジ効果


総資本利益率と自己資本利益率の関係として、財務レバレッジ効果が広く知られている。
総資本利益率が負債の利子率を上回っている場合、すなわち、(総資本利益率-負債利子率)>0の場合には、借入によりレバレッジをかければ、左辺の自己資本利益率が増加する。例えば、不動産投資で言うと、投資用不動産の運用利回りが銀行からの借入金利より高ければ、借金して投資用の不動産を購入し、賃貸物件として運用する方法が正しいという理屈になる。
しかし、総資本利益率が負債の利子率を上回っている場合、つまり(総資本利益率-負債利子率)<0の場合には、借入の利率よりも総資本利益率が小さくなることから逆鞘の状態となり、資金繰りを圧迫する要因になる。また、レバレッジをかけると、自己資本利益率の変動(ボラティリティー)が大きくなることから、企業の経営の安定性が損なわれるリスクが高まる。


(8)収益性を高める方法の検討

以上より、収益性を高める方法としては、売上高利益率を高める方法か、もしくは資本回転率を高める方法が有効であることが分かる。売上高利益率を高める方法もしくは資本回転率を高める方法として、以下の方法が考えられる。

<売上高利益率を高める方法>
利益率の高い高付加価値の製品を開発する。
原価の低減を図る。
金融収支を改善する
<資本回転率を高める方法>
売掛債権のサイトが短くなるように交渉する。
在庫を圧縮する。
設備等の固定資産を、生産効率の高いものに取替える。

(9)インタレスト・カバレッジ・レシオ

インタレスト・カバレッジ・レシオとは、営業活動から得られた利益と支払利息との比率をいい、企業の金利支払い能力を示す指標である。企業の本業での営業利益と金融収益の合計が、支払利息の何倍あるかを示す指標である。
この比率が高ければ高いほど金利負担能力が高いと評価される。銀行から資金調達する際には、金利支払能力という観点からこの指標が重視され、銀行による信用格付にも影響する項目である。

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)= (営業利益+受取利息配当金)/支払利息


(10)損益分岐点分析


 損益分岐点とは、売上高=費用となり、利益も損失もでない境界となる分岐点のことをいう。損益分岐点分析とは、売上高・原価(変動費・固定費)・利益の相関関係に着目し、損益がゼロになる売上高(損益分岐点売上高)を分析することをいう。ここで、変動費とは売上高の増減に応じて増減する費用のことをいい、固定費とは、売上高の増減に関わらず一定額発生する費用をいう。変動費の例としては、材料費や外注費等がある。固定費の例としては、減価償却費や家賃等がある。売上高に対する変動費の割合のことを変動比率という。損益分岐点分析を行うことにより、企業の損益構造を平面的に把握することができ、どれぐらい売上げが減少すると赤字になるのかという情報を提供が明かとなる。また損益分岐点分析は企業利益の予測に資する情報を提供するものである。
 損益分岐点分析にあたり、以下のような前提条件が存在しているので、分析の際には注意が必要である。

 全部原価計算ではなく、直接原価計算を前提としている。
 売価(売上単価)は一定である。
 原価は固定費と変動費に明確に分解(固変分解)できる。
 固定費は常に一定である。
 変動費は、売上高に比例して発生する。
 生産数量と売上数量は同じである(製造したものは全てその期に販売されると仮定する)。
 単一の製品を前提としている。


損益分岐点売上高= 固定費/限界利益率

このようにして求められる売上高は、損益分岐点売上高とと呼ばれている。固定費の金額と限界利益率(粗利率)が分かれば、損益がゼロになる売上高(損益分岐点売上高)を算定することができる。

損益分岐点分析を行うにあたり、費用を固定費と変動費に分解する必要がある。このように費用を固定費と変動費に分解することを固変分解と呼ぶが、固変分解の方法には、費目別精査法、IE法、高低点法、スキャッター・チャート法、最小二乗法が存在している。各々長所と短所があるが、分析の目的に照らして合理的な固変分解の方法を選択することが必要である。

費目別精査法: 費用を精査し、変動費と固定費に分ける方法。 勘定科目の特性を反映することができるが、全ての費用を精査し、変動費と固定費に分けるのが煩雑である。また、準変動費や準固定費に対応できない。
IE法: 過去の経営管理のデータを用いて、工学的アプローチにより変動比率と固定費額を算定する方法。 科学的な裏付けが存在するため、信頼性が高いが、適切な経営管理のデータを抽出したり、工学的アプローチにより算定する手間が煩雑である。
高低点法: 高点と低点における原価の差分から変動比率と固定費額を算定する方法。 計算が簡便であるが 高点と低点が異常値であれば、適切な変動比率が算定されない。
スキャッター・チャート法: 原価データをプロットし、目分量で各点の中央に直線を引くことにより変動比率と固定費額を算定する方法。 目分量で線を引くため、変動比率を簡単に求めることができるが、目分量で線を引くため、厳密性に欠ける。
最小二乗法 誤差の二乗値を最小にするような変動比率を求める方法。 数学的な厳密性が存在する。が、計算が煩雑である。


安全性分析


(1)安全性分析とは

安全性分析とは、企業経営の安全性、すなわち資金繰りの安全性(債務支払能力の有無)を分析することを言う。企業が負債により資金を調達する場合は、企業の財務的安全性が特に重視される。銀行が融資を行う場合には、企業のデフォルト確率を注視することから、安全性分析が最大の問題となる。

(2)安全性分析の種類

安全性分析は、主に流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率、自己資本利益率、負債比率に分類される。
(3)流動比率

流動比率とは、流動負債に対する流動資産の比率であり、企業の短期的な債務支払能力を判断するための指標である。

流動比率=流動資産/流動負債×100

流動比率の数字が大きいほど、財務的な安全性が高いと考えられている。ただし、流動資産の中に換金価値のない資産が含まれている場合は、流動比率が過大に算定されるので注意が必要である。例えば、回収不能となった売掛債権や滞留在庫などがある場合には、支払能力がない資産が分子の流動資産に含まれるため、そのような資産は除外して流動比率を算定すべきである。流動比率は、一般的に200%以上であることが望ましい。

(4)当座比率

当座比率とは、流動資産に対する当座資産の割合を示す指標であり、企業の短期的な債務支払能力を判断するための指標である。ここで、当座資産とは、流動資産のうち、棚卸資産などの費用性資産を控除したものである。このように、流動資産の中でも、換金価値の高い資産による短期的な支払い能力を見ようとするものが当座比率であり、流動比率の補完的な比率として位置づけられている。

当座比率=当座資産/当座負債×100

当座比率の数字が大きいほど、財務的な安全性が高いと考えられている。当座比率は、一般的に100%以上であることが望ましい。
(5)固定比率

固定比率とは、自己資本に対する固定資産の割合を示したものであり、企業の長期的な安全性を判断するための指標である。

固定比率=固定資産/自己資本×100
固定比率は、一般的に100%以下であることが望ましいと考えられている。なぜなら、固定資産は返済の必要がない資金で調達されていることが望ましいからである。
固定資産は流動資産とは異なり短期的な支払い能力を持たない。固定資産は減価償却費として耐用期間にわたり費用計上され、減価償却の金額だけ投下した資金が回収されてゆくという自己金融機能を持っているが、固定資産を負債で調達する場合、投下資本が回収する前に返済期限が到来すると、キャッシュ・フローが悪化する。よって、固定資産はなるべく自己資本で調達すべきである。

(6)固定長期適合率
固定長期適合率とは、貸借対照表の貸方の固定項目(自己資本+固定負債)に対する固定資産の割合を示した指標である。企業の長期的な安全性を表す指標である。

固定長期適合率=固定資産/(自己資本+固定負債)×100

固定長期適合率は、固定資産がどれだけ短期的に返済する必要のない資金(自己資本+固定負債)により賄われているかを判断する指標である。
固定長期適合率は、一般的に100%以下であることが望ましいと考えられている。なぜなら、固定資産は長期的に営業の用に供することから、短期的に返済する必要がない資金で調達されていることが望ましいからである。
本来であれば、固定比率により固定資産投資に対する安定資金の調達度が判断できれば良いが、日本企業の場合は自己資本による資金調達よりも長期借入金(固定負債)による資金調達が主流であったため、固定比率のみで資金調達の安定度を図るのは実態にあわないという欠点があった。そこで、代替的な指標として、固定負債を加味したものとして固定長期適合率が考案された。
固定長期適合率が100%以上である状況の場合は、裏を返せば流動比率が100%未満となっていることから、企業の短期的な支払い能力に問題が生じているので、注意が必要である。


(7)自己資本比率

自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合を示した指標である。自己資本比率は、資金調達の安全度を表す指標であり、安全性の指標の中でも、融資の際に特に重視される指標である。

自己資本利益率=自己資本/総資産×100

自己資本比率が高いほど、将来に返済しなければいけない資金が小さいことから、財務体質が強いと見なされる。自己資本は、資本の部の合計をいい、剰余金も含まれる。


(8)負債比率

負債比率とは、自己資本に対する負債の割合をいう。企業の資金調達の安定度について、負債と自己資本の関係から判断するものである。

負債比率=負債/自己資本×100

負債比率が高いほど、将来に返済しなければいけない資金が多いことから、財務体質が弱いと見なされる。


資金分析


(1)資金分析とは

資金分析とは、期首と期末の現金(キャッシュ)の増減が、どのような原因によりもたらされたかについて、原因別分析をすることをいう。資金分析を行えば、一期間で資金をどのように調達し、それをどのように運用しているのか、結果としての期末現金はいくらなのかが分かる。

(2)資金分析の種類

資金分析は、主に資金運用表、資金移動表、キャッシュ・フロー計算書、資金繰表の分析に分類される。

(3)資金運用表

①資金運用表とは


資金運用表とは、2期分の貸借対照表の各勘定の増減を、資金の調達方法と運用方法の変化とに分類した表をいう。資金運用表分析は、貸借対照表の各勘定の「ストック」の変化に着目し、資金運用表において資金の増減を分析するものである。
資金運用表においては、貸借対照表の流動・固定項目の増減を固定資金、運転資金、財務資金に分け、それぞれを資金の運用と調達に分類し、分析する。


②分析のポイント


固定資金の運用である設備投資は、固定資金の調達により賄われているかいるかについてチェックする必要がある。固定資金が不足となっている場合、短期資金(運転資金・財務資金)を調達して長期固定資金として運用していることになるので、資金繰りを圧迫する要因になる点、注意が必要である。

運転資金については、流動資金余剰の場合は運転資金に余剰があることを示すが、流動資金不足の場合は、下段の財務資金か上段の固定資金により調達していることになるので、どの資金により不足部分を調達したのかについて分析が必要である。

財務資金は、固定資金および運転資金の不足分を何で賄っているのか(短期借入金、割引手形、現金)を示している。


(4)資金移動表


①資金移動表とは
資金移動表とは、発生主義ベースの損益計算書を現金ベースで調整した表をいう。資金移動表分析は、一期間における資金の収支という「フロー」を資金的に分析するものである。資金移動表においては、損益計算書の収益・費用に貸借対照表における関連項目の増減を加減することにより現金ベースでの収支に変換し、収支を経常収支、固定収支、財務収支に区分して分析する。

②分析のポイント

経常収支が支出超過の場合、本業で現金を生み出せていないことを示しているので、注意が必要である。損益計算書の経常利益がプラスであっても、資金移動表の経常収支が支出超過の場合は、黒字倒産のリスクがある。

経常収支の良否は、一般的に経常収支比率により判断されることが多い。
経常収支比率が100%を上回っている場合は、本業で資金を稼ぐ力があることを示すが、100%を下回っている場合には、本業で資金不足が生じ、資金繰りが悪化し倒産のリスクが高まっていることを意味する。

固定収支は、設備投資が多額の場合にはマイナスになることが多い。そのような場合に支出超過分が長期項目でまかなわれているかについて分析することが必要である。支出超過が短期借入金などの短期項目で賄われている場合は資金繰りが不健全であると言える。 

財務収支については、どの区分の不足を何で補っているのかという視点から見る必要がある。財務収支は、経常収支尻と固定収支尻がどのような資金で賄われたのかを示している。


(5)キャッシュ・フロー計算書


キャッシュ・フロー計算書とは、基本的に資金移動表と考え方が同じであるが、連結キャッシュ・フロー計算書等作成基準に従い作成される書類である。公開企業はキャッシュ・フロー計算書の作成が義務づけられている。

①作成目的

連結キャッシュ・フロー計算書は、企業集団の一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を報告するために作成するものである。

②資金の範囲

連結キャッシュ・フロー計算書が対象とする資金の範囲は、「現金及び現金同等物」である。現金とは手許現金及び要求払預金をいい、要求払預金とは、預金者が一定の期間を経ることなく引き出すことができる預金をいい、例えば、普通預金、当座預金、通知預金が含まれる。

現金同等物とは、容易に換金可能であり、かつ価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資をいう。現金同等物は、この容易な換金可能性と僅少な価値変動リスクの要件をいずれも満たす必要があり、市場性のある株式等は換金が容易であっても、価値変動リスクが僅少とはいえず現金同等物には含まれない。

資金の範囲は、「キャッシュ・フロー計算書」を作成する上で基本となる事項であり、毎期継続して適用することとし、これをみだりに変更してはならず、資金の範囲の継続性が求められている。資金の範囲に含めた現金及び現金同等物の内容に関する方針を変更した場合には、その旨、その理由及び影響額の注記しなければならない。


③キャッシュ・フロー計算書の区分


キャッシュ・フロー計算書は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つの区分に分けて表示する。個々のキャッシュ・フローを営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー又は財務活動によるキャッシュ・フローのいずれの区分に記載するかについては、原則としてそのキャッシュ・フローに係る取引がいずれの性格をより強く有するか、つまり、当該キャッシュ・フローがどの活動とより強く関連しているかにより判定する。なお、キャッシュ・フローに係る取引の性格の判定においては、企業の事業目的や決済条件等の取引慣行を考慮して決定する。


④営業活動によるキャッシュ・フロー


営業活動によるキャッシュ・フローの金額は、企業が外部からの資金調達に頼ることなく、営業能力を維持し、新規投資を行い、借入金を返済し、配当金を支払うために、どの程度の資金を主たる営業活動から獲得したかを示すものである。営業活動によるキャッシュ・フローが赤字である場合、本業から現金を獲得する能力が乏しいと考えられ、資金繰りが悪化していることを示している。

営業活動によるキャッシュ・フローの区分には、営業損益計算の対象となった取引に係るキャッシュ・フロー、営業活動に係る債権・債務から生ずるキャッシュ・フロー並びに投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローを記載する。

営業損益計算の対象となった取引とは、「商品及び役務の販売による収入、商品及び役務の購入による支出等」とされており、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費に含まれる取引に係るキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載する。

営業活動に係る債権・債務から生ずるキャッシュ・フローには、商品及び役務の販売により取得した手形の割引による収入及び営業債権のファクタリング等による収入も含まれる。また、営業活動に係る債権から生じた破産債権・更生債権等や償却済み債権の回収についても、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載するものとする。営業活動によるキャッシュ・フローの区分に含まれる投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローの例としては、災害による保険金収入、損害賠償金の支払、巨額の特別退職金の支給などがある。

なお、取引先への前渡金や営業保証金の支出及び取引先からの前受金や営業保証金の収入等は、営業損益計算の対象には含まれず、また、営業活動に係る債権又は債務から生ずるキャッシュ・フローでもないが、その取引の性格から、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載する。

法人税等(住民税及び利益に関連する金額を課税標準とする事業税を含む。)に係るキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローの区分に「法人税等の支払額」として一括して記載する。なお、事業税のうち付加価値割及び資本割並びに電気供給事業、ガス供給事業、生命保険事業及び損害保険事業に係る事業税は利益に関連する金額を課税標準としていないことから、これらの事業税の支払は、営業活動によるキャッシュ・フローに含まれるキャッシュ・フローではあるが、「法人税等の支払額」に含めてはならない。

利息及び配当金の表示区分について次の2つの方法の選択適用が認められているが、選択した方法は、毎期継続して適用しなければならない。

a.受取利息、受取配当金及び支払利息は、営業活動によるキャッシュ・フロ」の区分に記載し、支払配当金は財務活動によるキャッシュ・フローの区分に記載する方法

b.受取利息及び受取配当金は、投資活動によるキャッシュ・フローの区分に記載し、支払利息及び支払配当金は財務活動によるキャッシュ・フローの区分に記載する方法

現金及び現金同等物の運用から生じる受取利息等は、他の受取利息等と区分して把握することが実務的に困難であるから、上記受取利息に含めることとし、負の現金同等物に関連して支出する支払利息も同様に上記支払利息に含める。なお、利息の受取額と支払額は、相殺せず総額で表示する。

⑤投資活動によるキャッシュ・フロー


投資活動によるキャッシュ・フローの金額は、将来の利益獲得及び資金運用のために、どの程度の資金を支出し又は回収したかを示す。

投資活動によるキャッシュ・フローの区分には、有形固定資産及び無形固定資産の取得及び売却、資金の貸付け及び回収並びに現金同等物に含まれない有価証券及び投資有価証券の取得及び売却等の取引に係るキャッシュ・フローを記載する。


⑥財務活動によるキャッシュ・フロー


財務活動によるキャッシュ・フローの金額は、営業活動及び投資活動を維持するためにどの程度の資金が調達又は返済されたかを示す。

財務活動によるキャッシュ・フローの区分には、借入れ及び株式又は社債の発行による資金の調達並びに借入金の返済及び社債の償還等の取引に係るキャッシュ・フローを記載する。


⑦直接法と間接法の比較


 キャッシュ・フロー計算書には直接法と間接法がある。直接法とは、営業収入、原材料又は商品の仕入れによる支出等、主要な取引ごとにキャッシュ・フローを総額表示する方法をいう。間接法とは、税金等調整前当期純利益に、非資金損益項目、営業活動に係る資産及び負債の増減並びに「投資活動によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に含まれるキャッシュ・フローに関連して発生した損益項目を加減算して「営業活動によるキャッシュ・フロー」を表示する方法をいう。

 直接法の場合は営業キャッシュフローが総額で表示されるため、直感的に取引規模が分かりやすく読み方が簡単である反面、作成が大変である。間接法の場合は利益とキャッシュの関係が明らかになり、作成が簡単な反面、グロスでの営業収支が分からないという欠点がある。

実務においては、作成が簡単で利益とキャッシュとの関係が明らかである間接法によりキャッシュフロー計算書を作成する場合が多い。
(6)資金繰表

資金繰表とは、日々の資金の出入りを管理するために、企業内部で作成される管理表である。貸借対照表は期末時点でのキャッシュの残高を示すが、企業の手持ちの現金は日々増減しており、企業間信用取引を行っている場合は、収益・費用の発生のタイミングと、決済のタイミングが異なることから、日々の支払い金額を上回るキャッシュが手元にある必要がある。特に、支払手形を振り出している場合、支払手形が期日に決済できない場合、不渡手形となることから、このようなリスクを避けるための管理表が資金繰表である。

第6節 生産性分析


(1)生産性分析とは

生産性=付加価値/(資本投入量+労働投入量)

 生産性分析とは、生産要素の投入と生産物の産出の関係を分析するものである。効率的に生産活動を行うためには、少ない投入量で最大の算出を行うことが必要である。
(2)労働生産性


 労働生産性とは、従業員1人あたりどれぐらいの付加価値を生み出したかを示す指標である。労働生産性は、以下のように2通りに分解することができる。


労働生産性=1人あたり売上高×付加価値率

労働生産性=設備装備率×設備投資効率


ここで、付加価値額は以下のように定義される。


付加価値額=経常利益+労務費+人件費+減価償却費+賃借料+支払利息・割引料―受取利息・配当金+租税効果

上式の通り、労働生産性は、1人あたり売上と付加価値率、もしくは設備装備率と設備投資効率に分解することができる。労働生産性と各指標の関係は、以下の通りである。

1人あたり売上高=売上高/平均従業員数

どれだけ従業員が売上げに貢献したかを示す指標。

付加価値率=付加価値額/売上高

ヒト・モノ・カネをいかに効率よく投入し、生産・販売活動を行ったかを示す指標。

設備装備率=有形固定資産/平均従業員数

設備投資によりどの程度合理化が行われているかを示す指標。

設備投資効率=付加価値額/有形固定資産

有形固定資産の回転率(利用効率)をいい、設備投資が付加価値にどれぐらい貢献しているかを示す指標。


(3)労働分配率

労働分配率=人件費/付加価値額×100

付加価値のうち、どれだけ労働の対価として分配したのかを示す指標は、労働分配率と呼ばれている。企業の生み出す付加価値額が大きくても、労働分配率が低い場合、従業員のモチベーションが低下する。一方で、労働分配率が高いと、資本分配率が低くなるという特徴がある。
(4)資本分配率

資本分配率=経常利益/付加価値額×100
付加価値のうち、どれだけ投下した資本の対価として分配したのかを示す指標は、資本分配率と呼ばれている。経常利益は人件費控除後の数値であることから、労働分配率が高いと、資本分配率が低くなるという関係にある。


第7節 成長性分析


 成長性分析とは、企業の時系列的な動向を分析する手法である。各種数値の趨勢を図示することにより、視覚的に将来予測のための基礎的情報を提供することができる。

一般的に、金融機関は貸付金の回収可能性を重視することから、安全性を重視する傾向にあるが、投資家は、配当及びキャピタルゲインを要求することから、企業の(利益の)成長性を重視する傾向にある。企業の成長性は、過去の趨勢を分析することにより、ある程度把握することができる。

売上高成長率=当期売上高/前期売上高 ×100

当期と前期の売上を比較する指標である。成長の原因を、単価と数量・シェアに分解して分析する必要がある。

付加価値成長率=当期付加価値/前期付加価値 ×100

当期と前期の付加価値を比較する指標である。経営努力の結果の伸び率を示す指標である。

労働生産性成長率=当期労働生産性/前期労働生産性 ×100

当期と前期の労働生産性を比較する指標である。

第8節 利益処分分析・株価分析


(1)利益処分分析・株価分析とは

利益処分分析とは、企業の利益処分の状況に関する分析であり、株価分析とは、企業の財務指標と株価との関係についての分析である。

(2)配当率

配当率=配当金/資本金×100

配当率とは、資本金に対する配当金支払額の割合を示した指標である。株主が払い込んだ資本に対し、どれぐらい配当を行ったかを示す。

(3)配当性向

配当性向=配当金/税引後当期純利益×100

 配当性向とは、企業の営業活動の結果として得られた税引後当期純利益のうち、どれだけ株主に配当が支払われたかを示す指標をいう。配当性向が高い場合は、剰余金の中から株主に配当としてキャッシュが支払われるため、内部留保が薄くなる。安定配当政策を採用している企業の場合には、配当額が毎期一定金額となる。

(4)1株あたり利益(EPS)

EPS=当期利益/発行済株式数(期中平均)

 1株あたり利益とは、発行済株式1株あたりの利益をいう。1株あたり利益は、当期利益を発行済株式数(期中平均)で割って求められ、収益性の業績評価の指数として用いられる。有価証券報告書提出会社は、EPSが注記事項とされている(1株当たり当期純利益に関する会計基準および1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針参照)。

(5)株価収益率(PER)

PER=株価/1株あたり利益

株価収益率(PER)(倍)とは、株価を1株あたり利益で除した指標である。PERの倍率により、現在の株価が割高か割安かを判断する指標である。株式市場が効率的であると考えた場合、PERが高い企業は、その企業の潜在的成長率が高いことを意味する。逆に、株式市場が効率的でないと考えた場合、PERが高い企業は、現在の株価が企業の経営成績に照らして割高であることを意味する。

(6)株価純資産倍率(PBR)

PBR=株価/1株あたり純資産

株価純資産倍率(PBR)(倍)とは、株価を1株あたり純資産で除した指標である。PBRは、株価を簿価純資産で割って求められることから、会社の清算価値と株価との関係を表す指標である。株式市場が効率的であると考えた場合、PBRが1倍以上の企業は、簿価以上の価値を有する会社であることを意味し、何らかの超過収益力を有している企業と見ることができる。ただし、偶発債務が存在している企業の場合は、株価純資産倍率(PBR)が実態より高めに算出されることに分析上注意する必要がある。

第9節 連結財務諸表分析


(1)連結財務諸表分析とは

連結財務諸表とは、支配従属関係にある2つ以上の会社からなる企業集団を単一の組織とみなして、親会社が当該企業集団の財政状態及び経営成績を総合的に報告するために作成されるものである。連結貸借対照、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結附属明細表により構成される。連結財務諸表分析は、単体企業ベースで財務分析を行うのではなく、企業集団ベースで分析する手法であり、連単倍率や実数分析による分析も行われる。

連単倍率=連結財務諸表の数値/個別財務諸表の数値

(2)連単倍率分析

 連単倍率とは、親会社単体の財務数値と連結財務諸表の財務数値とを倍率で示した指標である。連単倍率により、親会社と子会社の規模の違いを把握することができ、企業集団の実態や活動状況を分析することができる。一般的に連単倍率が1倍以上場合、子会社が企業集団の財政状態および経営成績に貢献していることを示すが、1倍未満の場合には、子会社が親会社の足を引っ張っていることになる。


(3)連結・単体財務諸表の実数分析

 連結財務諸表の数値と個別財務諸表の合計値の差異を分析することにより、親会社の財政状態・経営成績が、関係会社の財政状態・経営成績によりどのように影響したのかを分析することができる。例えば以下のような分析を行うことができる。

① 総資産の差異

 親子会社間取引があり、棚卸資産や固定資産に未実現利益がある場合には、連結財務諸表の数値と個別財務諸表の合計値の差異が生じる。また、親子会社間に債権・債務がある場合にも、差異が生じる。

② 棚卸資産の差異

 親会会社間で押し込み販売がある場合、連結ベースでは相殺消去されることから、単体合計の棚卸資産の数字が大きくなる。

③ 貸付金・借入金の差異

 親会社から子会社への多額の貸付金がある場合、当該取引は連結ベースで相殺消去されることから、貸付金の単体合計の数字が大きくなる。

④ 少数株主損益

少数株主損益がプラスの場合、子会社の業績が悪いと判断される。

⑤ 連結剰余金の差異

単体の剰余金の合計額より連結剰余金の金額が大きい場合、子会社が企業集団の業績に貢献していると考えられる。

⑥ 法人税の差異

単体よりも連結べースでの法人実効税率が低い場合、欠損金を抱えている子会社が存在すると考えられる。