デット・ファイナンス

デット・ファイナンス

概要

 デット・ファイナンスとは、Debt(負債)による資金調達のことをいい、エクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)と同様になじみの深い資金調達方法である。特に日本においては間接金融が主流であったこともあり、銀行からの借入が重要な資金調達手段となっている。
銀行からの借入は、銀行から資金を借入れ、借入期間に渡って分割もしくは一括して元利金を返済するという形式をとる。また担保による保全も行われるのが一般的である。銀行が企業に貸付を行うにあたり、元利金の回収可能性について評価し、与信枠や適用利率を決定する。信用力の高い企業はデフォルト確率が低いことから、与信枠は大きく設定され、貸出利率も相対的に低い利率が設定される。しかし、信用力の低い企業はデフォルト確率が高いことから、与信枠は小さく設定され、貸出利率も相対的に高い利率が設定される。
 また、社債による資金調達も重要な資金調達手段である。従前は信用力の高い大企業のみが公募債による資金調達を行っていたが、近年、銀行引受私募債や少人数私募債の発行が増加している。

<デット・ファイナンスの種類>

 デット・ファイナンスは、主に借入による資金調達と社債による資金調達に分類される。これ以外にも、企業が保有するアセット(資産)を担保としたアセット・ベースド・レンディング(ABL)がある。従来は不動産を担保として融資が大半であったが、バブル崩壊以降は、不動産以外のアセット、例えば売掛債権、在庫、知的財産等を担保とした融資が登場した。

<借入・社債発行・株式発行による資金調達の比較>

借入による資金調達の場合、返済期限が定められており、元本返済に加えて利息を支払わなくてはならない。貸倒リスクに備えて担保が要求されるのが通常であるが、株式発行の場合とは異なり、議決権はないので、会社経営に介入される可能性はない。
社債による資金調達の場合、返済が期日一括償還の場合が多いので、銀行からの借入による分割返済の場合よりも期中の資金繰りが楽である。ただし、社債は一般的に発行手続が煩雑であるため、借入のように迅速に資金調達することはできない。社債の場合も議決権はないため、経営に介入されることはない。
株式発行による資金調達の場合、調達資金の返済義務はなく、利息の支払いなどの約定のコストは不要であるが、通常は議決権が与えられるため、新しい株主に経営に介入される可能性がある。また株主からは配当やキャピタルゲインが求められる。社債や借入の場合には利息が税務上損金となるが、株式の場合は税引後利益から配当するので節税効果がないという特徴がある。

借入による資金調達の基本事項

<借入の種類>

(1)借入とは

借入とは、借入人が貸付人から貸付を受けることをいう。貸付とは、貸付人が借入人へ信用を供与することである。貸付を実行するのは金融機関の中でも主として銀行である。銀行は、不特定多数の顧客(預金者)から資金を預金として受け入れ(受信)、その資金を企業や個人に貸付け、利鞘(収益)を得るという金融仲介を収益モデルとして存立している。

企業に資金を貸付けて元利金を回収するという取引は、銀行の側からすれば信用リスクが伴う。信用リスクとは、貸付先(借入人)の財務状況の悪化等により、与信(貸付)の価値が毀損ないし消滅することにより、貸付金が回収できなくなり銀行が損失を被るリスクをいう。つまり、貸付先の財務状況が悪化することにより、貸付金が貸倒れるリスクである。銀行は企業の信用リスクを見極め、信用リスクの水準に応じた金利を要求する。
金融検査マニュアルでは、銀行が対処しなければならないリスクとして、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスクを挙げている。信用リスクは貸付を業とする銀行にとっては最も大きなウェイトを占める重要なリスクである。よって、貸付を実行する銀行としては、貸付先の信用リスクの見極めが非常に重要となる。

金融検査マニュアルにおけるリスクの種類

信用リスク: 貸付先(借入人)の財務状況の悪化等により、貸付金の価値が毀損ないし消滅することにより、金融機関が損失を被るリスク。
市場リスク: 市場の価格(金利・株価・為替等)の変動によって、保有資産の価値が変動し、損失が生じるリスク。
流動性リスク: 資金の運用と調達の期間のミスマッチや予期せぬ資金の流出等により、決済に必要な資金調達ができない、もしくは通常より著しく高い金利で調達を余儀なくされるリスク。
事務リスク: 役職員が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正等を起こすことにより損失を被るリスク。
システムリスク: コンピュータシステムのダウン又は誤作動等、システムの不備等に伴い損失を被るリスク、さらにコンピュータが不正に使用されることにより損失を被るリスク。

(2)融資の5原則

融資の5原則とは、銀行の融資に対する基本姿勢であり、銀行が融資を行うかどうかを判断する上で、考慮すべき基礎的判断基準のことである。銀行は融資の5原則に沿った融資を実行することが基本であることから、銀行から融資を受けようとする企業は、この原則を理解しておく必要がある。

①安全性の原則
 銀行は、不特定多数の顧客(預金者)から資金を預金として受け入れ(受信)、その資金を貸付(与信)等に運用して利鞘(収益)を得るという金融仲介を収益モデルとして存立している。よって、このような銀行のビジネスモデルからすれば、貸付として運用している資金は、主に預金者からの預金等から調達していることになり、預金として調達した資金を信用力・収益力のある企業に貸出し、元本及び利息を安全・確実に回収しなければならない。よって、貸付に際しては「安全性」が最優先事項となり、その安全性の判断においては、①資金使途、②返済原資、③貸付先の信用力、④貸付期間の妥当性、⑤貸付先の担保力がポイントとなる。

②収益性の原則
 銀行側は、資金調達のコスト、事務費等の経費以外に、信用リスクに対応するコストをカバーするだけの収益を獲得する必要がある。個別の貸付取引においては、顧客の信用力や経済状況(リスク)に応じた適正な収益(リターン)の確保に努めなければ銀行経営が成り立たない。融資を受ける企業からすれば、自社のリスクに応じた金利を要求されることになる。低い金利で融資を受けようとするならば、銀行から見てリスクの低い企業でなければならない。

③公共性の原則
銀行法の第1条によれば、「この法律は、銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的とする」とされている。つまり、銀行は国民の経済活動を資金面から支援し、社会に円滑に資金供給等を行うという役割を通じて日本経済の健全な発展に寄与するという、いわば公共的使命を負っている。従って、収益性だけの判断で貸付行為を行ってはならず、公序良俗に反する貸付取引や反社会的勢力への信用供与等を行うことがないように十分に配慮しなければならない。
また、銀行が不当に高い金利を要求する場合、企業の金利負担が重くなり、長期的には企業が競争力を失い、顧客を失うことになりかねない。よって、国民経済を健全に発展させるためには、適正な金利で資金を提供することが望ましい。

④成長性の原則
貸付は企業の成長性を高め、その見返りとして将来的にわたり金融機関の成長に繋がるものでなければならない。成長性が見込めない企業に対する貸付は、将来的に不良債権になる危険性が高く、銀行経営の健全性を脅かす要因ともなる。

⑤流動性の原則
銀行は不特定多数の預金者から預金として預かった資金を企業に貸出しているが、預金者からの払戻し請求に応じるだけの手元流動性(貸出資産の流動性)を確保していなければならない。よって、貸付金が貸付金は長期固定化しないように、流動性に配慮して貸付けることが望ましい。



<借入の実務>

(1)借入の流れ

借入は基本的に以下のような流れで行われる。まず、企業は銀行に対して融資に必要な情報を提供し、銀行においては、融資の申し込みを受け付けてから担当者が稟議書を起案し、審査を経て決裁権限に応じて本店または支店において決裁された後に、利率などの条件を交渉の上決定する。融資契約を締結し、その後の入金が行われる。融資の実行後は、元利金の回収が行われると同時に、経営状況について継続的にモニタリングが行われる。

□借入の流れ

融資申込

事前稟議

稟議書起案

審査

支店又は本店での決裁

条件決定

実行

事後管理

(2)借入に必要な書類

借入にあたり、企業は銀行に対して各種書類を提出することになるが、融資形態に応じて、図表2-6に示される書類を銀行に提出する。各借入形態共通して必要な書類の中に銀行取引約定書が含まれている。銀行取引約定書は貸付取引に関する銀行と企業の基本的な法律関係について規定した書類である。銀行取引約定書は、融資取引に係る取引全般について規定したものであり、個々の融資案件ごとに徴求されるのではなく、取引開始時のみ徴求される書類である。過去において、全国銀行協会連合会から銀行取引約定書が公表されていたが、現在では廃止され、各銀行が独自の銀行取引約定書を作成している。

□借入申込時に徴求される書類一覧

各借入形態共通して必要な書類: 銀行取引約定書
融資申込書
定款
商業登記事項証明書
印鑑証明
口座振替依頼書
保証書
(根)抵当権設定契約証書
証書借入 金銭消費貸借契約証書
手形借入 約束手形
手形割引 商業手形
割引申込書
当座借越 当座勘定貸越約定書
コミットメントライン コミットメントライン設定契約書

(3)借入の返済方法

 借入金の返済方法には、元金均等返済、元利均等返済、期日一括返済、元利金指定返済等がある。返済方法は契約条項の中に織り込まれる。

□借入金の返済方法

元金均等返済: 元金を均等に返済する方法
元利均等返済: 返済期間にわたり、元金と利息の合計額が一定額となるように計算された金額を返済する方法
期日一括返済: 返済期日に一括して借入金を返済する方法
元利金指定返済: 元金と利息の合計額について、毎回いくら返済するかを指定して返済する方法



<経営実態の開示>

(1)開示が求められる情報

借入に関して、貸付のために様々な形で経営実態の開示が求められる。また、借入後においては期中のモニタリングのために継続的に経営情報の開示が求められる。借入時における一般的な開示内容は以下の通りである。

□借入時の開示内容

会社基本情報: 会社名・代表者・住所・電話番号・業種・事業内容及び特色・資本金・従業員数・支店数・社歴等 企業の過去の歴史・推移
株主情報: 主要株主・持株数・大株主の状況・幹事証券会社・社債受託会社等 安定株主の割合・資本系列関係・会社支配の状況
経営者情報: 経営者及び経営者一族の氏名・生年月日・略歴等 経営者の資質・実権者
保証人情報: 債務者との関係・債務返済能力 保証人の返済能力
財務情報: 貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・キャッシュ・フロー計算書等 債務返済能力・収益力
主要取引先情報: 取引先名・所在地・取引品目・〆日・サイト・月取引額 仕入先・販売先の状況
関係会社情報: 会社名・所在地・業種・資本金・出資比率・取引関係・グループ内での位置づけ等 人的関係・取引実態の把握・資金のやりとりの有無

通常、借入にあたり、新規貸出の場合はヒアリングと同時に財務データの提出が求められる。最低でも直近3~4期分の財務諸表の提出が求められることが多い。約定後も定期的に決算情報を中心にデータの提出が求められ、モニタリングを受ける。提出された財務データは、金融機関のシステムに登録され、定量的に詳細に分析される。

(2)貸手の視点

 融資にあたり、銀行は主に定量的分析及び定性的分析により融資の可否を総合的に判断するが、融資判断の主な視点としては、融資先の資金使途、債務返済能力、問題点の有無、採算性が挙げられる。

①資金使途
融資申込みの内容と資金使途に整合性があるか。他の用途に資金が流用される可能性はないか。
貸付金額は資金ニーズと見合っているか。
投資内容と投資の効果に合理性があるか。

②債務返済能力
会社の信用力はどの程度か。
借入金返済原資(当期利益―配当+減価償却費)は十分確保されているか。
担保により保全されるか。
業績の悪化が隠蔽されていないか。

③問題点の有無
経営上の問題点を抱えていないか。
粉飾決算をしていないか。
コンプライアンス上の問題点はないか。

④採算性
会社や代表者の預金の状況も踏まえた上で、採算に合う融資か。


<与信判断>

(1)与信判断とは

与信判断とは、銀行が企業に対して与信を供与するか(貸付を行うか)どうか判断することをいう。一般的に、与信判断には①全社的な企業の信用力の判断、②個別的な取引案件の判断、③銀行のポリシーとの整合性の判断、3つのステップがある。

(2)銀行の信用リスク管理

①銀行の信用リスクと損益管理

銀行は営利企業として銀行の収益を極大化するために、貸付取引を行うにあたり発生する個々の信用リスクの量をコントロールし、信用リスク管理体制を適切に整備する必要がある。取引先が倒産(デフォルト)すると、その取引先から得られる収益では損失をカバーできない。よって、銀行が経営的に安定した収益を計上するためには、このような個別取引の貸倒れなどの信用リスクが、銀行全体の収益の範囲内で適切に収まるように適切にコントロールされている必要がある。銀行は過去の経験から過度な信用リスクの集中を避けるために、取引先・グループごとに貸出金額の上限を設け、信用リスクを分散する場合が多い。

②個別与信管理とポートフォリオ与信管理

銀行の信用リスク管理の手法として、大別して個別与信管理とポートフォリオ与信管理がある。個別与信管理は個々の与信取引ごとに個別に行われる与信管理である。ポートフォリオ与信管理とは、銀行の貸出資産全体を1つの大きなポートフォリオと捉えて信用リスクを管理するものである。個々の与信管理を適切に行ったとしても、個々の与信取引を積み重ねた結果、銀行全体から見て偏ったポートフォリオとなっている場合、銀行経営の健全性という観点から見た与信リスク管理には問題がある。
銀行は1つのポートフォリオとして貸付資産を捉えることで、ポートフォリオに基づくリスク分散効果により信用リスクをコントロールしている。一方で、ポートフォリオは個々の与信管理の積上げにより構成されるという側面があるため、貸付資産の健全性確保のためには、個別与信管理とポートフォリオ管理がともに重要となる。
銀行は、多くの債務者に対して分散して貸付を行うことで、信用リスクを減少させることができる。なぜなら、リターン一定の下で個々の債務者のデフォルトが独立して発生する場合、多数の与信先に分散して貸付を行うことにより母集団が大きくなるので、大数の法則が働き、ポートフォリオ分散効果により信用リスクを減少させることができるからである。銀行が特定の取引先や特定の業種、特定の国に偏って貸付を行う場合、与信リスクを分散させることはできない。

(3)信用格付

信用格付とは、金融機関が与信先企業を信用リスクのレベルに応じてランク付けすることをいう。信用格付には、企業の信用リスクに応じてランク付けする「企業の格付」と、個々の貸出案件のリスクのレベルを評価する「案件の格付」がある。信用格付は、企業の信用リスクを計量化してリスク管理を行うことにより、貸付の健全性を保つ機能と、銀行の収益性を管理する機能を有している。また、信用格付は適切な債務者区分のデータとして、そして正確な自己査定及び正確な償却・引当のためにも用いられる。金融検査マニュアルの中において、銀行は貸出資産の毀損度合いを適正に見積もって引当することが求められており、その中で貸出資産の信用リスクの査定(自己査定)が重要となり、貸出先の適切な債務者区分が重視されることとなっている。その債務者区分の基礎データとして信用格付は重要な役割を果たしている。

(4)与信判断のプロセス

銀行は企業に与信を供与するかどうかを判断するに当たり、まず企業全体の信用力の判断を行う。次に、個別取引案件の判断を行う。そして最後に、銀行のポリシーとの整合性の判断が検討される。

□与信判断のプロセス

企業の全社的な信用力の判断

個別取引案件の判断

銀行のポリシーとの整合性の判断

与信決裁・承認

銀行から融資を受けるためには、まず企業としての信用力(債務返済能力)を備えているかが問われる。次に個々の融資案件の中身が融資に適格かどうかが判断される。最後に当該与信取引がそもそも銀行全体のポートフォリオに偏りが生じないか、銀行全体の収益性に貢献するか、銀行のポリシーに反しないかの検討が行われる。与信判断の各段階での着眼点は以下の通りである。

□与信判断の着眼点
企業の全体的な信用力の判断 貸借対照表や損益計算書の分析を通じて、過去の業績を分析し、債務返済能力や収益力の有無について検討。
個別取引案件の判断
資金の使途は妥当か、返済原資は何か、借入期間は妥当か、担保価値を有する資産を保有しているか、利率の水準は妥当か等について検討。
銀行のポリシーとの整合性の判断 銀行のクレジット・ポリシーから逸脱した貸付でないか検討。

(5)資金使途の分類と返済原資

 資金使途とは、借り入れた資金を何のために使うのか、逆にいうと、何のために資金を借入れるのかという資金の使い道のことである。また返済原資とは、借入れた資金を返済するための原資となる資金のことである。資金使途と返済原資は一般的に下記のように紐付けすることができる。

□資金使途と返済原資の関係
経常運転資金: 売上代金回収のサイトと仕入代金支払いのサイトに不整合が生じた場合、一時的にキャッシュ・フローが悪化することから必要とされる資金。 売上債権の回収による資金
増加運転資金: 取引条件が変化した場合や、売上・仕入の水準が急に変動した場合にも運転資金が必要となる資金。 売上債権の回収による資金
つなぎ資金: 資金の収入・支出の時期に一時的に差が生じた場合に必要となる資金 売上債権の回収による資金
設備資金: 企業が設備投資を行う場合に必要となる資金。 留保利益+減価償却費
在庫資金: 将来の売上げを見越して在庫を備蓄するための資金。 売上債権の回収による資金
滞貨資金: 在庫を処分するために必要な資金。 余剰資金
決算資金: 納税・賞与の支払い・配当の支払いなど、決算と関連して必要となる資金。 当期の利益
季節資金: 季節性の強い商品を販売している場合等において、繁忙期に必要となる資金。 売上債権の回収による資金

各資金使途と各返済原資は密接に関連している。企業は借入資金を経営活動に投入し、将来回収する資金をもって借入金を返済する。よって、「何のために資金を借り入れ、何の資金で返済するのか」という合理的かつ明確な説明が必要とされる。また、返済方法や返済期間の決定は、返済原資との関連で決定されるのが通常である。
例えば、設備資金の返済期間は設備投資した資産の減価償却年数に合わせて返済すると、企業内部にプールされる減価償却費見合いの資金を返済原資に当てることができる。

(6)定量的判断と定性的判断

定量的判断とは財務数値を中心とした計数的な分析をいい、定性的判断とは財務数値以外の非計数的な分析のことをいう。与信判断における財務分析の中心は定量的分析であるが、企業は計数が全てではなく、数字には現れない定性的な部分の情報も重要視される。

□与信判断のプロセスにおける定性的判断と定量的判断のポイント

①全社的な企業の信用力の判断
安全性
収益性
資金繰り
実態貸借対照表(含み損益)
信用格付 事業概要
社歴
業種
経営者の資質
商品開発能力
個別取引案件の判断 貸付金額
貸付期間
収益率(利率)
担保保全率
保証金額 資金使途の妥当性
返済方法
融資の実行形式
他の金融機関との兼ね合い
取引状況

②銀行のポリシーとの整合性の判断
銀行の貸出資産のポートフォリオへの影響 銀行のポリシーとの整合性



第5節 貸出金利

(1)貸出金利とは

貸出金利とは、銀行が企業に融資する対価として求めるコストである。一般的に、格付が高い企業は信用リスクが低いことから低い貸出金利が適用されるが、逆に信用格付けが低い企業は信用リスクが高いことから、高い貸出金利が適用されることになる。ただし、優良な担保や保証が存在する場合には、貸出金の回収可能性が高いと判断され、低い貸出金利が適用される要素として加味される。

(2)固定金利と変動金利

 貸出金利には、固定金利と変動金利がある。固定金利とはあらかじめ契約で定められた一定の金利をいう。変動金利とは基準となるベースレートを決定した上で、スプレッド分を上乗せした金利をいう。

□固定金利と変動金利 

固定金利: 約定の固定金利を用いて利息を計算する 利率が契約により定められる。
変動金利: 基準となるベースレートを決定し、スプレッド分を上乗せした金利で金利期間の利息を計算する。 ベースレートには、短期プライムレート・長期プライムレート、中期基準金利・長期基準金利、TIBOR、LIBOR等がある。


(3)貸出金利の内訳

貸出金利は、資金の調達コスト、間接経費(人件費、物件費等)、信用リスクのコスト、利鞘により構成される。ここで、信用リスクのコストとは、デフォルト損失の期待値である。

貸出金利=資金の調達コスト+間接経費+信用リスクのコスト+利鞘

ただし、実務上貸出金利は上記の算式だけで求まるのではない。金利の決定要因としては、上記以外に担保・保証の内容、貸出期間、銀行との取引内容、他行の動向等が挙げられる。これらの金利決定要因を総合的に勘案した上で、借手との合意により貸出金利が決定される。

□貸出金利の決定要因

信用リスク: 融資先がどの格付区分にランクされているか。 格付けが上位である企業の方が、下位である企業よりも金利が相対的に低くなる。
担保・保証の有無: どのような担保・保証等により、債権がどの程度保全されるか。 担保・保証等により債権が保全されている場合、相対的に金利が低くなる。
融資期間: 融資期間が短期か長期か。 融資期間が短期の方が金利が低くなり、長期の方が金利が高くなる
銀行との取引内容: 貸出以外に普通預金・定期預金などが存在するか。もしくは給与振込や納税・配当の払込事務を取扱っているか。 普通預金・定期預金等の預金金利を勘案した「実効金利」が重要である。また、給与振込や納税・配当の払込事務を銀行が取扱っている場合には、貸出金利以外に手数料が入ることから、金利が低くなる可能性がある。
他行の動向: 地域内の他行の動向(銀行間の競争関係) 銀行間の競争が激しいほど、金利は低くなる可能性が高い。

(4)実効金利

契約上の利率で資金を借り入れた場合、その一部を定期預金等で預け入れることがある(いわゆる拘束預金)。このような拘束預金がある場合の実質的な借入コストのことを実効金利という。預金金利と借入金利を比較した場合、預金金利の方が低いことから、一般的に実効金利は契約上の利率よりも高くなるので、実質的な借入コストの観点から注意が必要である。実効金利は、一般的に以下のように算定される。

実効金利=(総貸出平均残高×貸出平均金利ー総預金残高×預金平均金利)/(総貸出平均残高ー総預金平均残高)

(5)金利の支払い方法

金利の支払い方法としては、金利先払いと金利後払いの場合がある。企業にとって、金利後払いの場合の方が、返済時に利息を支払うことから資金の運用効率の観点からは有利である。

□利息の支払い方法

金利先払い 借入時に先に利息を支払う方法。借入時に利息を支払うことから、資金の運用効率の観点からは不利である。
金利後払い 返済時(利払日)に利息を支払う方法。返済時に利息を支払うことから、資金の運用効率の観点からは有利である。


<担保>

(1)担保とは

担保とは、企業が保有する特定の資産を最終的な資金回収の引当てとするために、優先的に弁済を受ける権利を有するものである。金融機関は与信を実行するにあたり、信用リスクを把握した上で融資するが、ある一定の確率で将来予測し得ない事象により貸出金が回収できず貸倒れが発生する場合がある。そのような場合に備え、貸出債権を保全するために、融資先から担保を徴求するのが一般的である。融資額全体に相当する担保を徴求する場合と、一部のみを担保とする場合がある。金融機関からすれば、担保は企業の信用力・返済原資を補完するという機能を持っている。
担保は債務者の一般財産よりも強力な弁済手段を確保するためのものであり、対象となる資産の価値が変動するという特徴がある。一般に、担保には特定の資産から優先的に弁済を受けることのできる物的担保と、第三者が債務者に代わって弁済することを約する人的担保があり、人的担保は保証と呼ばれる。

(2)担保の種類

物的担保としては、法律に規定のある典型担保と民法の予想していない非典型担保(譲渡担保権)とがあり、前者はさらに留置権・先取特権のような法定担保物権(特別の債権につき法律上当然に認められるもの)と質権・抵当権のような約定担保物権(当事者の約定により定められるもの)とに分かれる。

□担保権の種類(法定担保物権は除く)

質権: 債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、かつ他の債権者よりも優先的に弁済を受けることのできる物権(民法342条)。 原則目的物の引渡しが必要であるため、債務者または第三者は目的物を使用収益することができない。所有権の移転は伴わない。
抵当権: 債権の担保として債務者または第三者から占有を移さずに、提供を受けた不動産・地上権・永小作権について他の債権者よりも優先的に弁済を受けることのできる物権(民法369条)。 目的物の引渡しが不要であるため、債務者または第三者は目的物を使用収益することができる。抵当権者は目的物を保管する義務がない。所有権の移転は伴わない。
譲渡担保: 判例によって形成された担保物権であり、債権の担保として所有権その他の財産権を債務者または第三者より債権者へ形式上移転・譲渡して信用授受の目的を達する制度。債務の弁済があればその権利は債務者または第三者に復帰するが、債務の弁済がない場合はその権利を確定的に債権者に帰属させることで債務の弁済にあてる。

担保の対象となる資産としては、定期預金・有価証券・不動産・商業手形・債権・動産等があり、融資の種類により担保として適格かどうかが判断される。担保の対象となる資産の形態と特徴は以下の通りである。

□担保の対象となる資産

定期預金: 通帳・定期預金証書を差し入れる。 銀行側の事務処理が簡便なので、利用頻度が高い
有価証券: 株式・公社債・金融債・受益証券等を差し入れる。 特に株式の場合は価格変動リスクがある。
不動産: 土地・建物・船舶への抵当権を設定する。 取引が継続して行われる場合には、根抵当権が設定される場合が多い。
商業手形: 手形を裏書きして差し入れる。 譲渡担保として設定されることが多い。
売掛債権・金銭債権: 売掛金・割賦債権・リース債権等の金銭債権に対して質権を設定、または債権譲渡を行う。 キャッシュ・フローのモニタリングが必要である。
動産: 在庫商品・機械装置・器具備品・車両等を担保とする。 モニタリングが必要である。

(3)第三者対抗要件

第三者対抗要件とは、既に有効に成立した権利関係を、第三者に対して主張(対抗)しうるための要件をいう。不動産について、所有権、地上権、抵当権などの物権を取得した場合は登記(民法177条)を、動産については引渡し(民法178条)を、債権譲渡については、原則確定日付ある通知または債務者の承諾が、それぞれ第三者対抗要件となっている。

(4)注記事項

財規によれば、資産が担保に供されているときは、その旨を注記しなければならない(財規43条)。

財務諸表規則43条(担保資産の注記)

 資産が担保に供されているときは、その旨を注記しなければならない。

会社法においても、担保提供資産は貸借対照表等に関する注記事項とされている(会計規134条1号)。

会社法計算規則134条  

貸借対照表等に関する注記は、次に掲げる事項(連結注記表にあっては、第6号から第9号までに掲げる事項を除く。)とする。
一  資産が担保に供されている場合における次に掲げる事項
イ 資産が担保に供されていること。
ロ イの資産の内容及びその金額
ハ 担保に係る債務の金額

第7節 保証

(1)保証とは

債務者が債務を履行しない場合に、保証人(または会社)の一般的な財産の価値を最終的な回収の引当とすることを保証という。また保証と類似したものに、保証予約がある。保証予約とは、現時点では保証ではないが、将来時点で一定事由が生じた場合に、保証となることを債権者に約することをいう。
保証人は、債務者が債務を履行しない場合に、債務者に代わって債務を履行する義務があることから、保証人は保証債務を履行するだけの資力を有している必要がある。

(2)保証ならびにその類似の制度

□保証ならびにその類似制度
保証:主たる債務者が債務の返済を履行しない場合、保証人が債務を返済することを債権者に約すること。
連帯保証: 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する旨合意した保証であり、通常の保証とは異なり、保証人催告の抗弁および検索の抗弁ならびに分別の利益を有しない。
根保証: 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証
物上保証: 主たる債務者の債務を被担保債権として、物的担保を提供すること
保証予約: 保証予約とは、現時点では保証ではないが、将来時点で一定事由が生じた場合に、保証となることを債権者に約すること。
損害補償契約: 当事者の一方が他方に対し、一定の事項についての危険を引き受け、それによって生じる損害を担保することを目的とする契約

(3)保証形式

□保証の形式

特定債務保証: 特定の債務に対し保証するもの。
包括根保証: 現在または将来のすべての債務について、金額(極度額)および期間を定めずに保証するもの。
限定(度)根保証: 現在または将来のすべての債務について、金額(極度額)、期間等に一定の制限を定めて保証するもの
債務発生期限付限度根保証: 現在または将来のすべての債務について、金額(極度額)および期間を限定して保証するもの。
限度根保証:保証の対象となる取引を定めて保証するもの。
限定限度根保証: 現在または将来のすべての債務について、金額・期間および保証の対象となる取引を限定して保証するもの。

(4)保証の機能

今日において重要な経済的機能を果たしている保証とは次の三つがある。

a、資力や信用力の劣る企業(中小企業等)に信用を与え、金融機関からの融資を容易にするための保証(債務保証)
b、消費者信用に際して利用される保証(消費者信用・住宅ローン等)
c、物品納入や建設請負等の履行責任について要求される保証(物品保証・工事完成保証)

(5)信用保証協会保証付き融資における責任共有制度

 平成19年10月1日より、信用保証協会保証付き融資について全国の信用保証協会と金融機関との間で責任を共有する「責任共有制度」が導入された。
 従来の信用保証協会保証付き融資は、借入金額に対して信用保証協会が原則として100%を保証していたが、「責任共有制度」の導入により平成19年10月1日保証申込受付分からは、信用保証協会保証付き融資は一部の保証を除いて借入額に対する信用リスクの2割相当を金融機関が負担することとなった。これは、金融機関と保証協会との間で適切な責任共有を図ることにより、金融機関と保証協会が連携して中小企業の事業意欲等を継続して把握し、融資実行及びその後における経営支援等きめ細かい支援を行うことが期待されて導入された制度である。
従来は、保証協会の保証付きであれば融資先がデフォルトしても、保証協会が全額代位弁済することから、金融機関は全くリスクを負うことはなかった。しかし、責任共有制度の下では、金融機関も信用リスクの20%を負担することとなった。

<コベナンツ>

(1)コベナンツとは

 コベナンツとは、与信期間内における作為・不作為について、当事者の合意により貸付契約書において誓約する特約条項のことである。コベナンツは、金融機関が貸付先の経営をモニタリングするための手段である。コベナンツには作為義務と不作為義務がある。作為義務とは、「やらなければいけないこと」を誓約するものである。例えば、定期的に財務情報の報告する取り決めや、財務制限条項を守るという取り決めは、作為義務の具体例である。
 次に、不作為義務とは、不作為義務、すなわち「やってはいけないこと」を誓約するもの。例えば、債権者の許可なく社外に配当したり、他社と合併したり営業譲渡したりすることを禁じる取り決めは、不作為義務の具体例である。

(2)コベナンツの機能

企業はコベナンツに従い財務諸表を定期的に提出することになるが、金融機関は定期的な報告により適時に融資先の財務状況を把握し事業悪化のリスクが発現する前兆を早期に発見することにより、適切な対処によりリスクを軽減することができる。また、企業が常に金融機関からモニタリングされる状況になるため、借り手企業の放漫経営(モラルハザード)への抑止力としても機能する。

□コベナンツの機能

情報提供機能 :財務諸表を定期的に提出することにより、元利金の返済に関する情報等を適時に提供する機能。
業績悪化の前兆を発見する機能: 経営上の問題点や事業悪化のリスクが発現する前兆を早期に発見する機能。
モラルハザードへの抑止としての機能: 企業が常に金融機関からモニタリングされているため、放漫経営への抑止力としての機能。

(3)メリット・デメリットと実務上の留意点

コベナンツがある場合は、経営状況が急速に悪化した場合でも、事業のリスクを早期に発見して手を打つことができる。また常に金融機関からモニタリングされていることから、放漫経営への抑止力となり、経営者によるモラルハザードを防止できる
ただし、コベナンツの要件があまりにも厳しすぎる場合、経営の自由度が低下し、長期的な企業の成長を阻害することになる点に留意する必要がある。

□メリットとデメリット
事業のリスクを早期に発見して手を打つことができる。
常に金融機関からモニタリングされていることから、放漫経営への抑止力となる。
コベナンツの要件が厳しすぎる場合、経営の自由度が低下する。
コベナンツの設定にあたり、条件の決定等に時間と労力を要する。
モニタリングのためのコストがかかる。

(4)財務制限条項の具体例

 財務制限条項の内容は各契約により異なるが、一般的には下記の項目について制限が加えられるケースが多い。

□財務制限条項の内容と具体例
自己資本比率: 一定水準以上の自己資本・自己資本比率を維持
貸借対照表に基づく自己資本比率について、60%以上であること。

利益水準 :一定水準以上の利益を維持
損益計算書の経常損益について、2期連続して損失を計上しないこと。

流動性: 一定比率以上の流動性を維持
貸借対照表上に基づく流動比率について200%以上であること。

レバレッジレシ:オ 一定比率以下のレバレッジ比率(有利子負債残高/EBITDA)を維持
財務諸表に基づくレバレッジ倍率について3倍以下であること。

インタレスト・カバレッジ・レシオ: 一定比率以上のインタレスト・カバレッジ・レシオ(フリー・キャッシュ・フロー/支払利息)を維持
期末におけるインタレスト・カバレッジ倍率について、2.0倍以上であること。

フリー・キャッシュ・フロー: 一定水準以上のフリー・キャッシュ・フローを数期に渡り維持
フリー・キャッシュ・フローが2期連続してマイナスとなってはならない。

DSCR(デットサービスカバレッジレシオ): 年度末におけるDSCR倍率(フリー・キャッシュ・フロー/元利金支払額)を一定倍率以上維持
DSCR倍率について2倍以上あること。

配当制限: 配当等の社外流出項目に一定の制限を加える
借入金の元利金の返済が終了するまで、配当を行ってはならない。

エクイティ・ファイナンス: 新規のエクイティ・ファイナンスに制限を加える
貸付人の事前の承諾なしに、新規の募集株式の発行、募集新株予約権付社債の発行、その他エクイティ・ファイナンスを行ってはならない。

デット・ファイナンス: 新規のデット・ファイナンスに制限を加える
貸付人の事前の承諾なしに、新規借入れ、社債の発行その他デット・ファイナンスによる資金調達を行ってはならない。

設備投資: 新規の設備投資に制限を加える
貸付人が承認したもの以外に、一事業年度あたり2億円を超える設備投資を行ってはならない。

オフバランス取引: 新規のオフバランス取引に制限を加える
貸付人による事前の承諾がない限り、第三者に対する保証債務の負担を行ってはならない。
貸付人の前の承諾がない限り、一事業年度あたりの累計支払額が1億円を越えるオフバランス取引を行ってはならない。

資本取引: 新規の資本取引に制限を加える
貸付人の書面による事前の承諾がない限り、資本の減少、資本準備金の減少、株式分割、株式併合、合併、株式交換又は株式移転を行ってはならない。

(5)誓約条項の具体例
 誓約条項の内容は各契約により異なるが、一般的には下記の項目について制限が加えられるケースが多い。

□誓約条項の具体例
財務諸表提出 毎期財務諸表を貸付人に提出することを義務づけ
四半期毎に財務諸表を提出すること。
担保提供の制限 借入人以外の者に対する担保提供を禁止 貸付人の同意なく保有する資産を担保の用に供してはならない。

(6)コベナンツ抵触時の対応

コベナンツ抵触時には、金融機関は契約書等で規定されている期限の利益喪失請求、適用利率変更の権利(例えば、金利の引上げなど)を行使することができる。ただし、期限の利益を喪失させないと金融機関が判断した場合は、抵触の免除や契約内容を変更する場合もある。


ベーシックな借入形態

<証書借入>

(1)概要

①仕組み

証書借入れとは、企業が金銭消費貸借証書(一般に「金消契約書」と言われる)を貸手に差し入れることにより融資を受ける形態の借入をいう。その法律的性質は金銭消費貸借契約(民法587条)である。

金銭消費貸借証書には、融資額、資金の使途、返済期限、利息の支払方法、借入利率等の条件が記載される。一般的に、証書借り入れは返済期間の長い資金(設備資金や長期運転資金等)の調達に利用される。
過去において、全国銀行協会連合会の標準的な金銭消費貸借証書のひな形が存在したが、現在、金銭消費貸借証書として特に法律上定められた様式は存在しない。各金融機関は独自に定型的な契約書の書式を用意しており、原則として所定の書式で金銭消費貸借契約を締結する。ただ、契約書により細かく内容を定めることもできるため、契約書の内容が非定型的な内容となることもある。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

 証書借入のメリットとしては、金銭消費貸借契約書の内容により柔軟に借入条件をアレンジできる点にある。資金使途に応じて借入の条件を契約書上において細かく調整することができる。
ただし、金銭消費貸借契約書を作成し、双方合意に至る必要があるため、手形借入の場合と比較して契約書の作成に時間がかかる。また資金の調達が会社法上「多額の借財」に該当する場合には、取締役会の決議が必要である点に注意が必要である。

□メリットとデメリット
• 金銭消費貸借契約書の内容により柔軟に借入条件をアレンジできる。
• 手形借入と異なり即時の強制執行はない。
• 長期資金のニーズに対応する長期安定的な資金を調達することができる。
• 担保設定が同時に行える。 金銭消費貸借契約を作成する必要があるため時間がかかる。
・借入金額が多い場合には、印紙税が高額となる。
・資金の調達が会社法上「多額の借財」に該当する場合には、決議が必要である。

③コスト

実務上は、証書借入による場合、借入額が多くなると印紙税が高額となるため、印紙代が割安な手形借入により資金調達する場合も多い。

(2)会計

①会計処理

借入金は、資金の貸借日にその発生を認識し、その返金日に消滅を認識する(金融商品会計実務指針26項)。また、借入金の債務は、債務額をもって貸借対照表価額とすることから(金融商品会計基準26項)、借入金を時価で評価する必要はない。また、借入金を返済する場合には、金融負債の契約上の義務を履行した場合に該当することから、金融負債の消滅の認識を行う(金融商品会計基準10項)。
利息の支払時期又は支払額が不規則な借入金については、元本と利息の合計額の将来キャッシュ・フローの現在価値が取得価額又は調達価額に一致するような割引率(実効利子率)に基づいて、債権者への支払額を元本と利息とに区分する(金融商品会計実務指針131項)。利息の支払が不規則な借入金は、キャッシュ・フローを操作した結果であり、契約上の利息額を利息として処理することは不適切なので、キャッシュ・フローを内部収益率を用いて現在価値まで割り引く方法により、実質的な利息を計算して処理する(金融商品会計実務指針307項)。

金融商品会計実務指針26項

貸付金及び借入金は、資金の貸借日にその発生を認識し、その返金日に消滅を認識する。

金融商品会計実務指針131項

利息の支払時期又は支払額が不規則な貸付金、借入金、社債等については、第105項の取得した債権の処理に準じて、元本と利息の合計額の将来キャッシュ・フローの現在価値が取得価額又は調達価額に一致するような割引率(実効利子率)に基づいて、債務者からの入金額又は債権者への支払額を元本と利息とに区分する。

金融商品会計実務指針307項

利息の支払が不規則な貸付金、借入金、社債等は、キャッシュ・フローを操作した結果であり、契約上の利息額を利息として処理することは不適切なので、キャッシュ・フローを内部収益率を用いて現在価値まで割り引く方法により、実質的な利息を計算して処理すべきものとした。

②金商法上の取り扱い

借入金は、流動固定分類(1年基準)に従い、流動負債又は固定負債に表示する。また、株主、役員若しくは従業員からの借入金で、その金額が負債及び純資産の合計額の百分の一を超えるものについては、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記する。また、関係会社からの借入金は他の借入金と区分して表示する。また付属明細表として借入金等明細表を作成する。

財務諸表規則
50条 前条第1項第13号の負債のうち、株主、役員若しくは従業員からの短期借入金等の短期債務又はその他の負債で、その金額が負債及び純資産の合計額の100分の1を超えるものについては、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。
51条 社債、長期借入金、関係会社からの長期借入金、引当金(第47条第4号に掲げる引当金を除く。)、負ののれん及びその他の負債で流動負債に属しないものは、固定負債に属するものとする。
52条
固定負債に属する負債は、次に掲げる項目の区分に従い、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。
一  社債
二  長期借入金(金融手形を含む。以下同じ。)。ただし、株主、役員、従業員又は関係会社からの長期借入金を除く。
三  関係会社長期借入金
(以下省略)
53条 第52条第1項第9号に掲げる項目に属する負債のうち、株主、役員若しくは従業員からの長期借入金又はその他の負債で、その金額が負債及び純資産の合計額の百分の一を超えるものについては、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。
121条
附属明細表の種類は、次に掲げるものとする。ただし、財務諸表の提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、第3号及び第4号に掲げる附属明細表については作成を要しない。
一  有価証券明細表
二  有形固定資産等明細表
三  社債明細表
四  借入金等明細表
五  引当金明細表
六  資産除去債務明細表
2  前項各号の附属明細表の様式は、様式第7号から第12号までに定めるところによる。

連結財務諸表規則
38条
固定負債に属する負債は、次に掲げる項目の区分に従い、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。ただし、第5号以外の項目に属する負債の金額が負債及び純資産の合計額の100分の1以下のもので、他の項目に属する負債と一括して表示することが適当であると認められるものについては、適当な名称を付した科目をもつて一括して掲記することができる。
一  社債
二  長期借入金(金融手形を含む。以下同じ。)
三  リース債務
四  繰延税金負債
五  引当金
六  資産除去債務
七  負ののれん
八  その他
92条
連結附属明細表の種類は、社債明細表、借入金等明細表及び資産除去債務明細表とする。
2  前項に規定する社債明細表、借入金等明細表及び資産除去債務明細表の様式は、様式第9号から第11号までに定めるところによる。

財規ガイドライン
50条 規則第50条の規定による区分掲記に関しては、次の点に留意する。
1 株主、役員若しくは従業員からの短期借入金等の短期債務を区分掲記しなければならない場合とは、株主、役員若しくは従業員からの短期借入金等の短期債務の合計額が負債及び純資産の合計額の100分の1を超える場合をいう。
47条 3 返済期限が1年後に到来する債務(規則第47条第1号から第5号までに掲げる負債に属するものを除く。)で分割返済の定めがあるものについては、1年内の分割返済予定額を正確に算定しうるものであっても1年内の返済予定額が負債及び純資産の合計額の100分の1以下である場合には、その全額を固定負債として記載することができる。
なお、分割返済の定めがあっても、個々の分割返済の金額及び期日の定めがないため、1年内の返済予定額を正確に算定できないものについては、その全額を固定負債として記載するものとする。ただし、適当な方法によって1年内に返済が見込まれる額を算定
し、その金額を流動負債として記載することができる。

③会社法上の取り扱い

会社法上、借入が多額の借財に該当する場合は、取締役会の承認が必要である(会社法362条)。また、取締役からの借入は、会社と取締役間の利益相反取引となるので、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認が必要である(会社法356条2項)。また借入に重要性が高い場合には、当該株式会社の状況に関する重要な事項として、事業報告書に記載する(会施規120条1項5号イ)。

会社法計算規則
107条 負債の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、各項目は、適当な項目に細分しなければならない。
一  流動負債
二  固定負債
2  次の各号に掲げる負債は、当該各号に定めるものに属するものとする。
一(略)
二  次に掲げる負債 固定負債
イ 社債
ロ 長期借入金
ハ 引当金(資産に係る引当金及び前号ニに掲げる引当金を除く。)
(以下省略)
134 第134条  貸借対照表等に関する注記は、次に掲げる事項(連結注記表にあっては、第六号から第九号までに掲げる事項を除く。)とする。
一~五(略)
六  関係会社に対する金銭債権又は金銭債務をその金銭債権又は金銭債務が属する項目ごとに、他の金銭債権又は金銭債務と区分して表示していないときは、当該関係会社に対する金銭債権又は金銭債務の当該関係会社に対する金銭債権又は金銭債務が属する項目ごとの金額又は二以上の項目について一括した金額
七(略)
八  取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債務があるときは、その総額

(3)税務

企業が役員や関係会社から資金を借り入れる場合、利率が世間の相場から乖離していないか、借入利率の妥当性が税務上問題となる。
役員からの借入に合理性がない場合、支払利息が役員報酬・役員賞与として認定されるリスクがある。よって、借入の必要性(議事録の存在)、利率の妥当性の根拠、契約書の有無、借入時・利払時・返済時の書類の有無及び実際の現金の動きの有無について留意する必要がある。


<手形借入>

(1)概要

①仕組み

手形借入とは会社が金融機関から融資を受ける場合に、借用証書の代わりに借入人を振出人、受取人を金融機関とする約束手形を振り出し、この手形を金融機関に差し入れる形態の資金調達方法をいう。

会社は手形借入を行うにあたり、借入人を振出人、受取人を金融機関、借入金額を手形額面金額、返済期間を手形期日として手形を振り出す。会社は手形額面金額から手形期日(満期日)までの支払利息分を差し引いた金額について入金を受けるのが一般的である。
手形借入は証書借入と異なり金銭消費貸借契約書を作成する必要がなく、比較的短期の運転資金や賞与資金の資金需要に利用されることが多い。手形期日が到来しても、金融機関と会社の合意に基づき返済期限の延長を図るために手形を書き換えることもできる。ただし、書き換えの際に融資条件の見直しが行われるのが一般的である。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

証書借入のように金銭消費貸借証書の作成を要しないため、手続簡便である。また印紙代が証書借入の場合より安い。
ただし、手形の書き換え時に融資条件が変更されるリスクがあり、手形が更新されないリスク(リファイナンスリスク)もある。また、6ヶ月以内に2回の不渡りを起こすと、金融機関から取引停止処分を下され倒産することになる点、注意が必要である

□メリットとデメリット
• 借入の手続が証書借入より簡便である。
• 金銭消費貸借契約書を作成する必要がないため、証書借入と較べて印紙税を節約することができる。
• 借入条件の変更が簡単である
• 主に短期の資金調達に用いられ、長期の資金調達には不向きである。
• 利息が前払いとなることが多い。
• 手形の書き換え時に融資条件が変更されるリスクがある。
• 手形が更新されないリスク(リファイナンスリスク)がある。
• 手形期日に借入が返済されない場合には、不渡りとなり非常に危険である。
• 担保の設定が必要な場合、別途契約が必要である。

手形期日に借入が返済されない場合には、不渡りとなることから、支払手形を振り出す場合には、資金繰りの管理が非常に重要となる。また、万が一手形が更新されない場合に備えて、余裕を持った資金調達を心がける必要がある。
手形借入の法律的性格は、金銭消費貸借と解されており、金融機関は会社から手形を受領することにより、手形の権利者として会社に対し手形の額面金額を請求することができる。金融機関は会社に対して金銭消費貸借契約における債権者としての権利と、手形の所持人としての権利の両方を有しており、どちらの権利を行使するかについては金融機関の判断に委ねられている点において金融機関が有利である点、留意が必要である。

③コスト

証書借入と較べて印紙税を節約することができる。ただし、手形借入の場合は利息が前払いとなるのが一般的であり、資金的なデメリットがある


<当座借越>

(1)概要

①仕組み

当座貸越とは、会社が金融機関と当座貸越契約を締結し、小切手や支払手形等の支払で資金が不足した場合に、あらかじめ設定された限度額(極度額)まで資金を借入れる形態の借り入れをいう。

当座貸越には、貸付専用型当座貸越と一般当座貸越がある。貸付専用型当座貸越は契約に従い貸出専用口座を設け、一定額まで自由に資金を借入・返済ができる。一般当座貸越は、当座預金と連動するもので、小切手や支払手形等の決済時に資金が不足した場合に自動的に不足額を借り入れる(当座預金勘定がマイナスとなる)ものである。いずれも短期の借入と同様であることから、利息が徴収される。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

 当座借越の場合、極度額以内であれば、必要な時に必要なだけ借入ることができることから、短期の資金調達手段として非常に簡便である。また手形借入のように手形の不渡り等のリスクがない。

□メリットとデメリット
• 極度額以内であれば、必要な時に必要なだけ借入ることができることから、短期の資金調達手段として簡便である。
• 利息が後取りであり、資金的な負担が軽減される
• 証書借入および手形借入とは異なり、印紙税の課税物件(いわゆる3号文書)に該当しない。 • 利息が後取りで簡便な反面、利率が高めに設定されることが多い
• 原則として担保(定期預金・株式・社債等の換金性の高い資産)が必要である。

③コスト

証書借入および手形借入とは異なり、印紙税の課税物件(いわゆる3号文書)に該当しない。また利息が後取りであり、資金的な負担が軽減される。
ただし、利息が後取りであり、利用が簡便な反面、利率が高めに設定されることが多いことから、証書借入や手形借入よりも利率が高くなるのが一般的である。

<コミットメントライン>

(1)概要

①仕組み

コミットメントラインとは、金融機関と会社があらかじめ契約した一定期間にわたり、一定の融資枠の範囲内で会社の請求に基づき、金融機関が融資を実行することを確約(コミット)する契約である。コミットメントライン契約締結の際に所定の約定料がかかるが、金融機関は融資依頼を拒絶したり融資を減額したりすることができない。よって、会社は安定的に運転資金枠を確保することができ、不測の資金需要にも対応することができるメリットがある。ただし、一般的に比較的大規模な会社しかコミットメントラインの対象とならない。
コミットメントラインの契約方法には、バイラテラル方式(相対型)とシンジケート方式(協調型)がある。バイラテラル方式(相対型)とは、各金融機関と個別にコミットメントライン契約を締結する方法である。シンジケート方式(協調型)とは、アレンジャー行(幹事金融機関)を中心に、複数の金融機関と一つの契約書に基づき、同一条件でコミットメントライン契約を締結する方法である。シンジケート方式の場合は、事務効率化、契約書及び条件の一本化というメリットがある。またシンジケート方式の場合には資金調達を一つの金融機関に依存せず調達リスクの分散を図ることができるというメリットがある。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

コミットメントラインにより資金調達する場合、安定的な経常運転資金枠を確保することができ、マーケット環境の変化等による不測の事態に対応することができる。また担保の提供が不要であることから、担保価値のある資産がない場合であっても資金調達が可能である。また必要な時にコミットメント枠の範囲内で機動的に資金調達できるので、資金を効率的に利用すれば貸借対照表をスリム化することができる。
ただし、一定規模以上の会社でなければ利用できないことから、小規模の会社には不向きである。

□メリットとデメリット
• 安定的な経常運転資金枠を確保することができ、マーケット環境の変化等による不測の事態に対応することができる。
• 担保が不要である。
• 貸借対照表をスリム化することができる。
• 一定規模以上の会社でなければ利用できない。
• 約定料(コミットメント・フィー・ファシリティー・フィー)を支払う必要がある。また案件によってはアレンジメント・フィーが必要となる場合がある。
• 極度限度額以内で空枠があっても約定手数料が発生してしまう場合がある。

③コスト

コミットメントラインの場合、イニシャルコストとしてアップフロント・フィーやアレンジメント・フィーが必要となる場合がある。またランニングコストとして約定料(コミットメント・フィー・ファシリティー・フィー等)を支払う必要がある。コミットメント・フィーは、貸出極度額から貸出平残(貸出額の一日当たりの平均額)を、引いた額に一定の料率を掛けて求められる。ファシリティ・フィーは、貸出極度額に一定の料率を掛けて求められる。
極度限度額以内で空枠があっても約定料が発生してしまう場合があるので、コミットメント枠を効率的に利用できない場合はコストが高くなる点に留意が必要である。

④金商法上の取り扱い

コミットメント・フィーは、期末には発生主義に基づき、当期に対応する部分を支払手数料として費用に計上する(金融商品会計実務指針139)。

金融商品会計実務指針139項

当座貸越契約(これに準ずる契約を含む。)及び貸出コミットメントについて、貸手である金融機関等は、その旨及び極度額又は貸出コミットメントの額から借手の実行残高を差し引いた額を注記する。コミットメント・フィーは、期末には発生主義に基づき、当期に対応する部分を受取手数料又は支払手数料として収益又は費用に計上する。

コミットメントラインおよび前節の当座借越は将来の借入余力を示すキャッシュ・フロー情報として有用であるところから、その旨及び借入枠から実行残高を差し引いた額を注記するのが望ましいとされている(金融商品会計実務指針311-2)。

金融商品会計実務指針311-2

当座貸越契約(これに準ずる契約を含む。)及び貸出コミットメントの注記対象となるものには、契約上原則として無条件で取消し可能なもの(例えば、CPバックアップライン等)も含まれる。ただし、支払承諾として貸借対照表に計上されている額は注記の対象からは除かれる。このように、当座貸越契約及び貸出コミットメントは、原則としてすべてのものが注記の対象となるが、一般にはその注記金額の一部しか借手が実行せず、当該金額の全体について貸手に支払義務が生じるものではないことから、財務諸表の読者の誤解を招かないようにするため、金額の注記に加えて、その旨の補足説明(定性情報)を付すことができる。
当座貸越契約及び貸出コミットメントの借手においては、将来の借入余力を示すキャッシュ・フロー情報として有用であるところから、その旨及び借入枠から実行残高を差し引いた額を注記するのが望ましい。

⑤会社法上の取り扱い

会社法上、借入が多額の借財に該当する場合は、取締役会の承認が必要である(会社法362条)。また借入に重要性が高い場合には、当該株式会社の状況に関する重要な事項として、事業報告書に記載する(会施規120条1項5号イ)。

<企業間信用>

(1)概要

①仕組み

企業間信用とは、買掛金や支払手形など、企業の商取引において支払いの一定期間の猶予を認めることをいう。支払いが一定期間猶予されるということは、取引先が一定期間の信用を供与してくれることから、無利息で取引先から資金調達するのと同じであり、その意味において資金調達の効果を有している。現金ベースでの決済契約であれば、商品等を購入した時点で現金を支払わなければならないが、支払いサイトを決めて買掛金や支払手形により仕入を行えば短期的に資金を調達することができる。
例えば、商品代金の決済方法として、締め日を20日とし、支払いを翌月末とする場合には、最低でも約40日間は支払いを猶予される。さらに、支払いを支払手形で行う場合には、手形が決済されるまでの期間、追加的に支払いが猶予されることになる。

買掛金や支払手形のサイトの長さは、業種・業界固有の営業サイクルにより異なっている。支払手形の場合、造船業や鉄鋼業の場合は数年にわたることもあるが、一般の小売・卸業であれば30日~60日のものが一般的である。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

日本においては、企業間信用は商取引において慣習的に認められており、支払いサイトを決めるだけでよいので資金調達手段として簡便である。資金の調達コストは一般的にはゼロであり、仕入先との話し合いで条件を変更できるので資金調達方法として弾力性がある。
ただし、過度な企業間信用の利用は会社経営を破綻させる危険性がある。支払手形に関しては、手形が決済されるように資金繰りをコントロールする必要がある。
また、仕入先との力関係を悪用して支払いを遅延したり代金を一方的に減額する場合には、下請代金支払遅延等防止法に抵触するリーガルリスクが存在するので留意する必要がある。

□メリットとデメリット
• 資金調達コストが低い。
• 商取引において慣習的に認められており、支払いサイトを決めるだけでよいので簡便である
• 仕入先との話し合いで条件を変更できるので資金調達方法として弾力性がある。 • 過度な企業間信用の利用は会社経営を破綻させる危険性がある。
• 支払手形に関しては、手形が決済されるように資金繰りをコントロールする必要がある。
• 「下請代金支払遅延等防止法」に抵触しないように留意する必要がある。

③コスト

企業間信用による資金の調達コストは一般的にはゼロであるが、契約上、前倒しで現金決済すると割引が受けられる特約が付いているようなケースであれば、その割引分(金利)が実質的な調達コストとなる。

④金商法上の取り扱い

支払手形及び買掛金は、流固分類(1年基準)に従い、流動負債又は固定負債に表示する。関係会社との取引に基づいて発生した支払手形及び買掛金の合計額が負債及び純資産の合計額の100分の1を超える場合には、当該支払手形及び買掛金の金額をそれぞれ注記しなければならない。ただし、関係会社に対する支払手形又は買掛金のいずれかの金額が負債及び純資産の合計額の100分の1以下である場合には、これらの合計額のみを注記することができる。

⑤会社法上の取り扱い

支払手形及び買掛金については、流動固定分類に従い、負債の部に計上する(会計規107条2項1号イ及びロ)。また、関係会社に対する金銭債務をその金銭債務が属する項目ごとに、他の金銭債務と区分して表示していないときは、当該関係会社に対する金銭債務の当該関係会社に対する金銭債務が属する項目ごとの金額又は二以上の項目について一括した金額を貸借対照表に注記する(会計規134条1項6号)。

(2)税務

買掛金や支払手形として負債の部に計上するためには、期末時点までに原則として次に掲げる要件のすべてに該当する必要がある(法基通2-2-12)。
①当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
②当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
③当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

法人税基本通達2-2-12(債務の確定の判定)

法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件のすべてに該当するものとする。

(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

社債による資金調達

<概要>

(1)社債とは

社債とは、企業が発行する債券であり、会社を債務者とする金銭債権であって、会社法676条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるものをいう(会社法2条23号)。社債による資金調達は、借入の場合と同様に返済義務があり、あらかじめ定められた利息を支払う必要があるが、借入の場合と較べて一括返済の場合が多い。また直接資本市場から大規模な資金を調達することも可能である。

(2)社債の種類

 社債は、大別すると普通社債と新株予約権付社債に分類される。普通社債は、公募債、私募債(プロ私募および少人数私募)に分類される。

(3)公募債

①仕組み

公募とは、不特定多数の投資家を募集して証券を発行する行為をいう。金融商品取引法上の「募集」に該当する場合は公募となり、企業内容等の開示が必要となる。公募債は債券市場を通して不特定多数の投資家から大規模な資金を調達するために発行する社債である。また、公募の場合は一般投資家を保護するために、金融商品取引法により様々な規制が設けられている。

②発行手続

公募債の発行手続のフローチャートは以下の通りである。

□公募債の発行手続

財務局に発行登録書を提出

格付取得

主幹事証券会社の選定

取締役会決議

投資家ヒアリング

発行条件決定

資金の払込み

期中管理

③メリット・デメリットと実務上の留意事項

社債を公募する場合は、不特定多数の投資家より資金調達できるため、大規模な資金調達が可能である。しかし、社債の目論見書作成関連費用、監査費用、財務代理手数料、証券会社の引受手数料、格付取得費用等のコストが必要であるため、小規模な資金調達の場合は費用対効果が見合わない。
株式とは異なり、経営権を確保したままで大規模な資金調達が可能である(新株予約権付社債の場合を除く)。また社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがある。

□メリットとデメリット
• 不特定多数の投資家より資金調達できるため、大規模な資金調達が可能である。
• 経営権を確保したままで資金調達が可能である。
• また社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがある。 • 小規模な資金調達の場合は費用対効果が見合わない。
• 社債の目論見書作成関連費用、監査費用、財務代理手数料、証券会社の引受手数料、格付取得費用等のコストが必要である。


④コスト

イニシャルコストとして、社債の目論見書作成関連費用、監査費用、財務代理手数料、証券会社の引受手数料、格付取得費用が必要である。また、ランニングコストとしては、社債利息、利息支払手数料、元金償還手数料、開示関連費用が必要である。

<銀行引受私募債>

①仕組み

銀行引受私募債とは、企業が発行する社債の全てを銀行が引受ける形式で発行する私募債をいう。私募とは、特定の少数の投資家に対して証券を発行することをいうが、このうち銀行が社債を引き受けるものを銀行引受私募債という。
銀行引受私募債の場合は、銀行が社債を引受けることから、社債引受けの手数料を銀行に支払う必要がある。また銀行が財務代理人となる場合が多く、財務代理人としての手数料を銀行に支払う必要がある。さらに、保証会社により保証を受ける場合は保証料を支払う必要がある。
保証付私募債の場合、保証協会が要求する財務的要件がクリアされていることから信用力が高まり、より多くの資金を調達することができる。

②発行手続

銀行引受私募債の場合は、公募の場合のように証券会社を通して募集するという手続が不要なため、公募の場合よりも手続が簡略化されている。ただし、銀行が社債を引受けるため、その条件の決定や担保による保全の有無などが厳しく審査される。

□銀行引受私募債の発行手続

取締役会決議

銀行側が発行条件を決定

契約締結

資金の払込み

利息の支払い

期中管理

③メリット・デメリットと実務上の留意点

銀行引受私募債は銀行の審査を経なければ社債を発行できないため、発行すれば会社の信用力が高まる。また少人数私募債より規模の大きい資金調達が可能である。ただし、会社の信用力によっては担保が必要な場合がある。また保証付きの場合は保証料を支払う必要がある。
社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがある。

□メリットとデメリット
• 銀行の審査を経なければ社債を発行できないため、発行すれば会社信用力が高まる。
• 少人数私募債より規模の大きい資金調達が可能である。
• 経営権を確保したままで資金調達が可能である。
• また社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがある。 • 担保が必要な場合がある。
• 保証付きの場合は保証料を支払う必要がある。


④コスト

イニシャルコストとしては、財務代理手数料、引受手数料、登録手数料、保証料等が必要である。これらの手数料は、発行価額に一定の料率を掛けて計算される。ランニングコストとしては、社債利息、事務手数料、保証料等が必要である。

<少人数私募債

①仕組み

少人数私募債とは、企業の創業者やその家族、知人等の縁故者が引受ける形式で発行する私募債をいう。少人数私募債の場合は、主に縁故者(経営者や従業員の親族、取引先、知人、友人等)による引受であるため、引受手数料や財務代理人手数料等のコストが不要である。また銀行や保証協会が関与しないため、財務内容が良くない企業であっても発行できる可能性があり、比較的自由に利率や償還期間を設定できる。ただし、縁故者からの資金調達であるため、資金調達額に限界がある点が特徴である。

②発行条件

 社債権者が50名未満であること(金商法2条3項1号)。
 発行金額が1億円未満であること。発行価額が1億円を超える場合には、社債権者に対して有価証券発行の届出が行われていないこと及び譲渡制限等が付されている旨、並びに有価証券の権利内容の制限などを投資家へ告知すること(金商法23条の13第3項、開示府令14条の15第1項)。
 社債の総額を各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合は管理会社の設置が不要である(会施規169条)。

開示府令14条の15

 法第23条の13第3項 (法第27条 において準用する場合を含む。次項において同じ。)に規定する内閣府令で定める事項は、当該有価証券の有価証券発行勧誘等が少人数向け勧誘(法第23条の13第3項 に規定する少人数向け勧誘をいう。)に該当することにより当該有価証券発行勧誘等に関し法第4条第1項 の規定による届出が行われていないこと及び次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項とする。
一  当該有価証券に定義府令第13条第1項 に定める方式に従つた譲渡に関する制限が付されている場合 当該制限の内容
二  前号に掲げる場合のほか当該有価証券が定義府令第13条第2項 又は第3項 に定める要件を満たしている場合 当該要件のうち当該有価証券の所有者の権利を制限するものの内容

③発行手続

 少人数私募債の発行手続は下記の通りである。社債券の発行や社債管理会社の設置・財務局への届出等を省略でできることから、比較的簡単な手続で社債を発行することができる。

□少人数私募債の発行手続

取締役会決議

社債募集要項の作成・配布

社債申込書の作成・受付

引受人の審査・決定

払い込み

期中管理

④メリット・デメリットと実務上の留意点

 短期の銀行借入よりも安定した長期の資金調達が可能である。借入金とは異なり一括償還のため、毎月分かつ返済する必要がなく、資金繰りに余裕が生じる。また担保が不要なため、担保がない場合でも資金調達できる。また社債利息は配当と異なり税務上損金に算入されるため、節税メリットがある。また投資家にとっても、社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがあるので、経営者が引受ける場合には、経営者の節税対策ともなりうる。
銀行引受私募債とは異なり、審査がないために財務内容が芳しくない企業でも社債を発行できる可能性がある。また、少人数私募債の場合は社債管理会社を設置する必要がなく、公募の場合に必要とされる開示義務もないことから、公募社債よりも事務負担が軽減される。
ただし、私募債は縁故者を中心に資金を調達することから、集まる資金量に限界があり、大規模な資金調達には不向きである。

□メリットとデメリット
• 安定した長期の資金調達が可能である。
• 担保が不要である。
• 地方自治体が少人数私募債の利子補填等の補助を実施している場合がある。
• 経営権を確保したままで資金調達が可能である。
• 財務内容が悪い会社でも発行できる可能性がある。
• また社債利息は源泉分離課税(税率20%)で完結することから、投資家にとっては節税になるケースがある。 • 縁故募集であるため、集まる金額に限界があり、大規模な資金調達には向かない。


⑤コスト

特にイニシャルコストは発生しない。ランニングコストとしては、社債利息、事務にかかるコスト必要である。

<信用保証協会による特定社債保証制度

特定社債保証制度とは、中小企業の資金調達の多様化を図り、資本市場から資金調達を円滑に進めることを目的として、私募債を起債しやすい環境を整備するために、信用保証協会より提供されている保証制度である。保証を受けるためには、一定の要件を満たしていることが必要である
□信用保証協会による社債(私募債)保証制度の概要(例)
保証対象: 会社に限定
保証形態: 原則、取扱金融機関との共同保証方式
発行額: 一回の最低発行額 3、000万円
発行最高限度額 :5億6、000万円
信用保証協会の保証金額は発行額の8割
また、特定社債保証以外の保証分(経営安定関連保証・新事業開拓保険に係る保証等を除く)を含めて5億円を上限
発行形式: 振替債または登録債
資金使途: 運転資金または設備資金に限定
保証期間: 2年から7年までの1年単位
担保: 原則として保証金額2億円を超える場合(発行額2億6、000万円以上の場合)には担保設定(登録免許税は通常の1/4)
保証人: 不要
保証料率: 保証協会所定の料率
適債基準:あり
出所:東京信用保証協会ホームページを基に筆者作成
http://www.cgc-tokyo.or.jp/business/shibosai.html



<金商法上の規制>

金商法上のディスクロージャー制度において、企業内容等に関する開示として、発行開示と継続開示が存在する。発行開示とは、下記の場合において株式・社債等の有価証券を募集又は売出しを行う場合に義務づけられている。社債の発行開示については、第3部 第1章 第5節「金融商品取引法上の取扱い」を参照のこと。


<会社法上の規制>

(1)発行体

社債は株式会社、合名会社、合資会社、合同会社が発行することができる。また、いわゆる特例有限会社も発行することができる。

(2)決議機関

 会社法では、会社が募集社債において定めなければならない事項を676条において規定している。ただし、取締役会設置会社については、それ以外の事項について取締役に対して委任することができる(会社法362条4項5号、会社法施行規則99条)。

会社法362条(取締役会の権限等)
1~3(略)
4  取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一  重要な財産の処分及び譲受け
二  多額の借財
三  支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四  支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五  第676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として会社法施行規則99条で定める事項
(以下、省略)

会社法施行規則99条(社債を引き受ける者の募集に際して取締役会が定めるべき事項)

会社法第362条第4項第5号 に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一  2以上の募集(法第676条 の募集をいう。以下この条において同じ。)に係る法第676条 各号に掲げる事項の決定を委任するときは、その旨
二  募集社債の総額の上限(前号に規定する場合にあっては、各募集に係る募集社債の総額の上限の合計額)
三  募集社債の利率の上限その他の利率に関する事項の要綱
四  募集社債の払込金額(法第676条第9号 に規定する払込金額をいう。以下この号において同じ。)の総額の最低金額その他の払込金額に関する事項の要綱
2  前項の規定にかかわらず、信託社債(当該信託社債について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うものに限る。)の募集に係る法第676条 各号に掲げる事項の決定を委任する場合には、法第362条第四項第五号 に規定する法務省令で定める事項は、当該決定を委任する旨とする。

社債に関する募集事項の決定を大幅に取締役に対して委任することができることとなったため、企業は機動的にシリーズ発行や同一銘柄の追加発行を実施することができる。

(3)社債の発行手続

会社が社債の発行を行う場合、募集事項の決定(676条)、通知(677条1項)、申込み(677条2項。3項)、割当て(678条)という手続を行う。

□会社法上の社債の発行手続
募集の決定

通知

申込み

割当て

①募集事項の決定
 会社が社債を引き受ける者を募集する場合には、以下の事項について決定しなければならない。

 募集社債の総額
 各募集社債の金額
 募集社債の利率
 募集社債の償還の方法及び期限
 利息支払の方法及び期限
 社債券を発行するときは、その旨
 社債権者が第698条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨
 社債管理者が社債権者集会の決議によらずに第706条第1項第2号に掲げる行為をすることができることとするときは、その旨
 各募集社債の払込金額若しくはその最低金額又はこれらの算定方法
 募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日
 一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするときは、その旨及びその一定の日
 その他法務省令(会施規162条)で定める事項

② 通知

会社は、社債の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをしようとする者に対して、次に掲げる事項を通知しなければならない。

 会社の商号
 当該募集に係る前条各号に掲げる事項
 その他法務省令(会計規163条)で定める事項

③ 申し込み

 社債の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を会社に交付しなければならない。
 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
 引き受けようとする募集社債の金額及び金額ごとの数
 会社が会社法676条9号の最低金額を定めたときは、希望する払込金額

④ 割当て

会社は、社債の申込者の中から募集社債の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集社債の金額及び金額ごとの数を定めなければならない。

(4)社債原簿

 会社は、社債を発行した日以後遅滞なく、社債原簿を作成し、下記事項(社債原簿記載事項)を記載又は記録しなければならない(会社法681条)。
 会社法676条3号から8号までに掲げる事項その他の社債の内容を特定するものとして法務省令(会計規165条)で定める事項
 種類ごとの社債の総額及び各社債の金額
 各社債と引換えに払い込まれた金銭の額及び払込みの日
 社債権者(無記名社債(無記名式の社債券が発行されている社債をいう。)の社債権者を除く。)の氏名又は名称及び住所
 上記の社債権者が各社債を取得した日
 社債券を発行したときは、社債券の番号、発行の日、社債券が記名式か、又は無記名式かの別及び無記名式の社債券の数
 その他法務省令(会計規166条)で定める事項

社債権者(無記名社債の社債権者を除く。)は、社債発行会社に対し、当該社債権者についての社債原簿に記載され、若しくは記録された社債原簿記載事項を記載した書面の交付又は当該社債原簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる(会社法682条1項)。また、会社は、社債原簿管理人を定め、当該事務を行うことを委託することができる(会社法683条)。
社債発行会社は、社債原簿をその本店(社債原簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない(会社法684条1項)。社債権者その他の法務省令で定める者は、社債発行会社の営業時間内はいつでも以下の請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
 社債原簿が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
 社債原簿が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令(会計規226条24号)で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

この場合、社債発行会社は、会社法684条2項の請求があったときは、次のいずれかに該当する場合を除き、これを拒むことができない。
 当該請求を行う者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
 当該請求を行う者が社債原簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
 当該請求を行う者が、過去2年以内において、社債原簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

社債発行会社が株式会社である場合には、当該社債発行会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該社債発行会社の社債原簿について684条2項各号に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。

(5)社債管理者

会社は、社債を発行する場合には、社債管理者を定め、社債権者のために、弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならない。ただし、各社債の金額が1億円以上である場合その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合(ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合)は、この限りでない(会社法702条)。
社債管理者は、社債権者のために、公平かつ誠実に社債の管理を行わなければならず、社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理を行わなければならない(会社法704条)とされ、社債管理者には善管注意義務が定められている。
社債管理者は、社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。社債管理者が上記の弁済を受けた場合には、社債権者は、その社債管理者に対し、社債の償還額及び利息の支払を請求することができる。この場合において、社債券を発行する旨の定めがあるときは、社債権者は、社債券と引換えに当該償還額の支払を、利札と引換えに当該利息の支払を請求しなければならない(会社法705条)。
社債管理者は、会社法又は社債権者集会の決議に違反する行為をしたときは、社債権者に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(会社法710条)。 また、社債管理者は、社債発行会社が社債の償還若しくは利息の支払を怠り、若しくは社債発行会社について支払の停止があった後又はその前三箇月以内に、以下に掲げる行為をしたときは、社債権者に対し、損害を賠償する責任を負う。ただし、当該社債管理者が誠実にすべき社債の管理を怠らなかったこと又は当該損害が当該行為によって生じたものでないことを証明したときは、この限りでない。

①当該社債管理者の債権に係る債務について社債発行会社から担保の供与又は債務の消滅に関する行為を受けること。
②当該社債管理者と法務省令で定める特別の関係がある者に対して当該社債管理者の債権を譲り渡すこと(当該特別の関係がある者が当該債権に係る債務について社債発行会社から担保の供与又は債務の消滅に関する行為を受けた場合に限る。)。
③当該社債管理者が社債発行会社に対する債権を有する場合において、契約によって負担する債務を専ら当該債権をもってする相殺に供する目的で社債発行会社の財産の処分を内容とする契約を社債発行会社との間で締結し、又は社債発行会社に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結し、かつ、これにより社債発行会社に対し負担した債務と当該債権とを相殺すること。
④当該社債管理者が社債発行会社に対して債務を負担する場合において、社債発行会社に対する債権を譲り受け、かつ、当該債務と当該債権とを相殺すること。


<会計・税務>

(1)会計処理

社債は発行時において債務額をもって貸借対照表価額とする。ただし、社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額をもって、貸借対照表価額としなければならない(金融商品会計基準26項)。
社債発行費については、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理する。ただし、社債発行費を繰延資産に計上することができる。この場合には、社債の償還までの期間にわたり利息法により償却をしなければならない。なお、償却方法については、継続適用を条件として、定額法を採用することができる(繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い3(2))。社債発行費には、社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用が含まれる。
会社法上においても、払込みを受けた金額が債務額と異なる社債については、事業年度の末日における適正な価格を付すことができる(会計規6 条2 項2 号)。

財規121条1項3号に従い、付属明細表として社債明細表を作成する必要がある。

財務諸表規則121条

附属明細表の種類は、次に掲げるものとする。ただし、財務諸表の提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、第三号及び第四号に掲げる附属明細表については作成を要しない。
一  有価証券明細表
二  有形固定資産等明細表
三  社債明細表
四  借入金等明細表
五  引当金明細表
六  資産除去債務明細表
2  前項各号の附属明細表の様式は、様式第七号から第十二号までに定めるところによる。

(2)税務

法人税法上、社債等発行費は任意償却であることから、社債等発行事業年度において全額損金算入するか、もしくは繰延資産として計上して償却時に損金として処理することもできる。また、社債等発行費のうち、消費税が課される費用については、支出した日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となる。

<コマーシャル・ペーパー(CP)>

(1)概要

①仕組み

コマーシャル・ペーパー(CP)とは、信用力のある優良企業が市場において短期資金を調達するために発行する無担保の約束手形もしくは短期社債をいう。コマーシャル・ペーパーには、約束手形の様式を持つ手形CPと、電子的に発行され流通する電子CPとがある。電子CPは「短期社債等の振替に関する法律」において、短期社債として位置づけられている。2005年3月末に手形CP に係る印紙税特別措置が廃止されたことから、現在は主に電子に移行している。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

 即日ベースで簡単に資金調達ができることから、機動的な資金調達が可能である。手形CPの場合は印紙税が必要であるが、電子CPの場合は不要である。また、資金繰りの調整が容易になり、資金繰りを精緻化できる。
ただし、信用力の高い会社でないとCPの買い手がつかないことから、信用力が低い企業がCPにより資金調達を行うのは難しいと考えられる。

□メリットとデメリット
• 即日ベースで資金調達ができる。
• 印紙税が不要。
• 資金繰りの調整が容易になり、資金繰りを精緻化できる。
• 資金調達を効率化することにより、バランスシートを改善させることができる。 • 信用力のある企業でないと実質的には資金調達できない。
• 短期社債振替制度への参加手続が必要。

③コスト

 手形CPの場合には、下記の印紙税が必要となる。電子CPの場合は、下記印紙税は不要であるが、イニシャルコストとして、制度参加手数料(5万円)がかかり、ランニングコストとして発行の都度、新規記録手数料がかかる。電子CPの方が手形CPよりトータルコストはかなり安くなると考えられる。

(2)会計

①会計処理

企業会計基準委員会より公表されている「コマーシャル・ペーパーの無券面化に伴う発行者の会計処理及び表示についての実務上の取扱い(実務対応報告8号)」によると、発行した電子CPについては原則として償却原価法に基づいて算出された価額を持って貸借対照表価額とし(金融商品会計基準26項)、流動負債において「短期社債」又は従来の手形CPと同様に「コマーシャル・ペーパー」等の当該負債を示す名称を付した科目名をもって掲記する。なお、その金額に重要性がない場合には、流動負債において、「その他」に含めて表示することができる(企業会計基準委員会 実務対応報告第8号)。
また、損益計算書上、「短期社債利息」又は従来の手形CPと同様に、「コマーシャル・ペーパー利息」等の当該費用を示す名称を付した科目をもって区分掲記し、その金額について重要性がない場合には、「その他」に含めて表示する。なお、債務額よりも低い金額で発行したことによる差額を「前払費用」として計上した場合には、発行日から償還期限までを計算期間として当該発行差額を定額法により按分する(金融商品会計基準26項、金融商品実務指針126項)。

②会社法上の取り扱い

会社法では、会社が募集社債において定めなければならない事項を676条において規定している。ただし、取締役会設置会社については、それ以外の事項について取締役に対して委任することができるが(会社法362条4項5号、会社法施行規則99)、短期社債についても簡易な手続で迅速に発行できる。また、短期社債の場合は会社法の特例が設けられており、社債原簿の作成や社債権者集会は不要とされている。
ただし、会社法上、CPの発行額が多額の借財に該当する場合は、取締役会の承認が必要である(会社法362条)。また発行額に重要性が高い場合には、当該株式会社の状況に関する重要な事項として、事業報告書に記載する(会計規120条1項5号イ)。

社振法83条(短期社債の発行等に関する会社法の特例)

短期社債には、新株予約権を付することができない。
2  短期社債については、社債原簿を作成することを要しない。
3  短期社債については、会社法第4編第3章 の規定は、適用しない。
(振替社債の発行に関する会社法 の特例)
第八十四条  振替社債の発行者は、当該振替社債についての会社法第677条第1項 の規定による通知において、当該振替社債についてこの法律の規定の適用がある旨を示さなければならない。ただし、短期社債については、この限りでない。
2  振替社債についての社債原簿には、当該振替社債についてこの法律の規定の適用がある旨を記載し、又は記録しなければならない。
3  振替社債の引受けの申込みをする者は、自己のために開設された当該振替社債の振替を行うための口座を会社法第677条第2項 の書面に記載し、又は同法第679条 の契約を締結する際に当該口座を当該振替社債の発行者に示さなければならない。
4  会社法第166条第1項 本文の規定による請求により振替社債の交付を受けようとする者は、自己のために開設された当該振替社債の振替を行うための口座(特別口座を除く。)を当該振替社債を交付する会社に示さなければならない。

(3)税務

手形CPの場合、印紙税が課税される(印紙税法別表第一3号参照)。所得税の源泉徴収は不要である。電子CPの場合、印紙税も所得税の源泉徴収ともに不要である。

新しい借入形態の登場

<シンジケート・ローン>

(1)仕組み 

①シンジケート・ローンとは

シンジケート・ローンとは、企業の大規模な資金調達のニーズに対応するため、複数の金融機関が同一の約定条件、同一の契約書により協調して融資する貸出形態をいう。企業の資金需要が巨額の場合、単一の金融機関だけで資金を融資するのは信用リスクの集中につながりリスクが高いため、複数の銀行がシンジケート団を組成することにより、金融機関の信用リスクを分散しつつ企業の大規模な資金調達ニーズに応えるために開発された手法である。参加金融機関にとっても、融資後の期中管理コストを節約しつつ貸出を増やすことができる。また他行と同一の条件で貸出すことができ、貸出債権を流通市場で転売できることから、組成後にリスクを移転することができる。またアレンジャー行は手数料収入を受け取ることができる。
シンジケート・ローンは、間接金融と直接金融の特徴を融合した新たな資金調達手法としてその残高は急増している。
シンジケート・ローンの場合、融資取引が従来の相対取引から一対多の関係になることから、全体を取りまとめるアレンジャー(主幹事金融機関)が必要となる。ここでアレンジャーとは、複数の金融機関に対してシンジケート・ローンへの参加を募り、シンジケート団を組成する役割を果たす金融機関をいう。アレンジャーは貸出条件の調整・借入企業の情報の配布を行う。アレンジャーは、一般的には取引関係にある金融機関が就任する場合が多く、アレンジャーが複数の場合もある。
また、借入後の期中管理を行うエージェントが存在する。エージェントは、契約後の事務管理、すなわち元利金の受領・分配事務、金利通知、決算書等の借入人の開示情報の授受、担保の設定と管理等の期中事務管理の代行を行う。

② シンジケート・ローンの種類

シンジケート・ローンには、コミットメントライン方式、タームローン方式、コミットメント期間付タームローン方式がある。コミットメントライン方式とは、金融機関と会社があらかじめ契約した一定期間にわたり、一定の融資枠の範囲内で会社の請求に基づき、金融機関が融資を実行する方式であり、比較的短期の資金調達に用いられる。タームローン方式とは、証書貸付による比較的長期の資金調達に用いられる。コミットメント期間付タームローンとは、コミットメントライン方式とタームローン方式の折衷方式で、コミットメント期間終了時において利用された融資額が、長期のタームローンに切り替わる方式である。これは、設備投資等で資金が必要なことは分かっているが、その時期や金額が確定していない段階で資金を調達しておきたい場合に利用される。
企業が既に取引関係にある金融機関、および取引関係のない金融機関から広く参加者を募り、シンジケート団を組成する方式をジェネラル型シンジケーション方式といい、企業が既に取引関係にある金融機関の中からシンジケート団を組成する方式をクラブ型シンジケーション方式という。

③特徴

シンジケート・ローンは間接金融の相対性と、直接金融の市場性を有している点に特徴があることから、市場型間接金融とも言われている。間接金融の相対性とは、借入条件の決定が相対の交渉で決まることである。直接金融の市場性とは、企業が参加金融機関に対し情報開示を行い、開示された情報を基に、参加金融機関から信用力の評価が行われ、金利決定に市場原理が働き、借入条件の決定が行われる点である。
シンジケート・ローンにおいては、必ずコベナンツが付される。金融機関と企業との相対取引であれば融資契約において必ずしもコベナンツは付かないが、シンジケート・ローンの場合は金融機関が多数に及ぶため、契約内容に客観性が求められ、コベナンツ条項が契約書に盛り込まれることになる。
また、シンジケート・ローンは、ローントレーディング市場(セカンダリマーケット)が存在することから、貸し手の金融機関にとっても貸出債権をマーケットで売却する機会が存在する。

□シンジケート・ローンの流れ

アレンジャーが企業に借入条件を提示

承諾

アレンジャーの決定

守秘義務契約の締結

インフォメーション・メモの作成・配布

参加の可否の決定

シンジケート団の組成

エージェントの決定

借入条件の最終合意

契約の締結(調印)

融資の実行

期中管理

(2)メリットとデメリット実務上の留意点

複数の金融機関から同時に資金調達が出来るので、大規模な資金調達が可能である。一方で特定の金融機関からの融資が過大になるのを防止でき、今まで取引関係になかった金融機関からも融資を受けるので、資金調達のパイプが太くなる。
また低コストの資金を提供できる金融機関を市場から募ることにより、相対取引による融資よりも金利を低くできる可能性があり、期間や返済方法を比較的自由にアレンジできる。交渉窓口がアレンジャー行だけなので、複数の金融機関と交渉する手間とコストが省ける。複数の金融機関から信任を得ており、金融機関への説明能力があることの証明となることから、IR効果が期待できる
コミットメントライン方式の場合、あらかじめ融資枠を確保できるので、不測の資金需要に対応することができる。
 ただし、アレンジメント・フィーやエージェント・フィー等のコストがかかるため、資金調達コストがその分高くなり、小規模な資金調達の場合は相対的にコストが高くなる。また比較的信用力が高く、財務の透明性の高い企業でないとシンジケート・ローンを組むことが困難と考えられる。

□メリットとデメリット
• 多額の資金調達が可能。
• 低コストの資金を提供できる金融機関を市場から募ることにより、相対取引による融資よりも金利を低くできる可能性がある。
• 特定の金融機関からの融資が過大になるのを防止できる。
• 今まで取引関係になかった金融機関からも融資を受けるので、資金調達のパイプが太くなる。
• 期間や返済方法を比較的自由にアレンジできる。
• 交渉窓口がアレンジャー行だけなので、複数の金融機関と交渉する手間とコストが省ける。
• 複数の金融機関から信任を得ており、金融機関への説明能力があることの証明となることから、IR効果が期待できる。
• コミットメントライン方式の場合、あらかじめ融資枠を確保できるので、不測の資金需要に対応できる。
• ばらつきがあった各金融機関との取引条件を一本化できる。
• 必要な時に必要なだけ資金調達できるので、資金効率が改善される。 アレンジメント・フィーやエージェント・フィー等のコストがかかるため、資金調達コストがその分高くなる。
・比較的信用力が高い企業でないとシンジケート・ローンを組むことができない。
・コミットメントラインを方式の場合、コミットメント枠の利用がない場合でも、金利がかかってしまう。

(3)コスト

シンジケート・ローン固有のコストとして、アレンジメント・フィーやエージェント・フィー等のコストがかかる。また、低コストの資金を提供できる金融機関を市場から募ることにより、相対取引による融資よりも金利を低くできる可能性がある。


<プロジェクト・ファイナンス>

(1)仕組み

①プロジェクト・ファイナンスとは

プロジェクト・ファインスとは特定のプロジェクトを遂行するにあたり、事業主としての会社が資金調達してプロジェクトに資金を投入するのではなく、プロジェクトが生み出すキャッシュ・フローに応じで融資する方法をいう。具体的には、会社がプロジェクトを遂行するためのSPCを設立し、返済原資を当該プロジェクトが生み出すキャッシュ・フローに限定してファイナンスを行うノンリコース型のファイナンスをいう。プロジェクト・ファイナンスは、長期にわたる大型プロジェクト、例えばプラント建設、高速道路の建設、発電所の建設等の大型案件の場合に実施される金融手法である。
プロジェクト・ファイナンスにおいては、プロジェクトの開発のための資金をSPCが調達し、返済原資は当該プロジェクトから生み出されるキャッシュ・フローに限定され、当該プロジェクトに係る全ての資産や権利・契約上の地位等が担保となる。

②特徴 

プロジェクト・ファイナンスの場合、スポンサー企業が事業主体となるのではなくSPCが契約主体となり事業を遂行してゆくことから、従来のコーポレート・ファイナンスの場合と以下の点で異なっている。

(2)メリット・デメリットと実務上の留意点

プロジェクト・ファイナンスの場合、会社自体の信用力が低くても、キャッシュ・フローを生み出す事業(プロジェクト)があえば、会社の信用力とは切り離してSPCが資金を調達できるので、事業の実現性を高めることができる。ノンリコースローンによる資金調達であるから、親会社(スポンサー会社)はSPCの債務に対して原則として責任がなく、リスク負担割合が関係当事者間で事前に割り振られるため、親会社が全面的に事業リスクを負うことはない。さらに、出資比率や支配力によってはSPCがスポンサー会社の連結対象から外れる。
ただし、プロジェクトが生み出すキャッシュ・フローの予測に主観が入る危険性があり、事業に伴う様々なリスクを誰がどれだけ負担するかを契約により決める必要があり、高度なリスク管理能力が要求される。エネルギー関連の事業やPFI事業など大型のプロジェクトのみが対象となる場合が多く、比較的小規模のプロジェクトには不向きであると言える。

メリット デメリット
• 会社自体の信用力が低くても、キャッシュ・フローを生み出す事業(プロジェクト)があえば、会社の信用力とは切り離してSPCが資金を調達できるので、事業の実現性を高めることができる。
• ノンリコースローンによる資金調達であるから、親会社はSPCの債務に対して原則として責任がない。
• 出資比率や支配力によっては、SPCがオフバランス化され、財務諸表がスリム化される。
• リスク負担割合が関係当事者間で事前に割り振られるため、出資者が全面的に事業リスクを負うことはなく、事業者はリスクが限定される。 プロジェクトが生み出すキャッシュ・フローの予測に主観が入る危険性がある。
・事業に伴う様々なリスクを誰がどれだけ負担するかを契約により決める必要があり、高度なリスク管理能力が要求される。
・案件によってはSPC設立コストやスキーム維持のためのコストが相対的に高くなる場合がある。
・エネルギー関連の事業やPFI事業など大型のプロジェクトのみが対象となる場合が多い。
・小規模な資金調達にはなじまない。

(3)コスト

事業のリスクが必ずしも全て予測できないことから、通常の貸付を行う場合よりもリスクが高い。よって、信用力が高い企業にとってはその分金利が高くなることが多い。また案件によってはSPC設立コストやスキーム維持のためのコストが相対的に高くなる。

<DIPファイナンス>

(1)仕組み

①DIPファイナンスとは

DIPファイナンスとは、会社再建手続(民事再生手続、会社更生手続)を申し立てた企業に対して、再建手続終了時までの期間に実行される融資をいう。DIP(Debtor In Prossesion)とは、占有継続債務者を意味し、破綻企業の経営者が法的手続後も退任せずに再建を行う経営者を意味する。アメリカの場合は、連邦破産法(Chapter 11)を適用し再建過程に入った企業に対する融資がDIPファイナンスと言われている。DIPファイナンスは一般の融資よりも金利が高いミドルリスク・ミドルリターン型の融資であり、金融機関にとっても収益性の高いビジネスである。

②DIPファイナンスの機能

DIPファイナンスは、法的再建手続に入ったものの、企業の継続価値が清算価値を上回る企業に対して融資を行うことにより、企業の倒産直後の企業価値の毀損を防止する機能を有している。再建過程で必要となる資金を供給することにより、事業価値を保全もしくは増大させることができ、事業再生プロセスに必要不可欠な融資である。

③特徴

DIPファイナンスによる融資は、銀行にとっては共益債権となる。ここで、共益債権とは、再建手続前に存在した債権に優先して弁済を受けることができる請求権である。よって、金融機関の視点からすれば、DIPファイナンスによる融資が共益債権として再建過程において優先的に弁済されるという取り扱いがなされ、しかも通常の融資よりも高い金利を設定できることから、DIPファイナンスはミドルリスク・ミドルリターン型の融資であるという特徴を有している。

④民事再生手続と会社更生手続

 会社倒産法制として、日本では民事再生法と会社更生法が整備されている。民事再生手続とは、会社再生契計画に従い大幅な債権カットにより債務超過を解消し、事業を再生する手法をいう。民事再生の場合、経営者が引き続き経営にあたるのが原則であり、裁判所の判断により例外的に管財人が選任される。
民事再生手続では、手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で無担保かつ優先権のない債権のみが権利変更の対象となる。民事再生手続は、手続に拘束される関係者の範囲を限定した簡易迅速な手続である点、経営者の経営手腕等の活用が可能である点、および決議要件が緩和されているため計画の成立が容易である点に特徴がある。
 次に、会社更生手続とは、経済的に行き詰まった株式会社について、会社債権者等の利害関係者の多数の同意の下に更生計画を決定し、これを遂行することにより、利害関係者の利害を適切に調整しつつ会社の事業の再建を図る手続をいう。会社更生手続の場合、裁判所が選任した管財人(経営責任のない経営者は管財人として選任可)に会社経営が委ねられ、旧経営陣は原則として会社経営に参画できない。
また、手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権のみならず、担保権付の請求権や株主の権利に関しても権利変更(減免等)の対象となる点に特徴がある。つまり、担保付債権や優先債権であっても権利変更ができるうえ、株主の権利にも変更を加えることができるため、会社支配の構造も変更することができる。さらに、資産は時価で評価される。
会社更生手続は、すべての利害関係人を手続に取り込み、会社の役員、資本構成、組織変更まで含んだ抜本的な再建計画の策定が可能な手続である点、担保権者の権利行使を全面的に制限している点に特徴がある。ただし、手続が複雑かつ厳格であるため、手続及び費用の負担が大きく、主として大企業向けの債権手段として利用されている。

⑤DIPファイナンスのニーズ

一旦企業が再建手続に入ってしまうと、信用取引を行うことができなくなるケースが多く、その場合は支払いに現金決済が求められることになる。つまり、営業取引が企業間信用ベースからキャッシュ・ベースに変わってゆくことから、運転資金の需要が一気に逼迫する。また、得意先も債権企業との関わりを避けるために取引を停止したり、返品したりすることも多く、売りサイドでの現金収入が落ち込むことになる。
このような状況の中で、金融機関から一定のファイナンスを受けることにより、信用不安を払拭し、得意先・仕入先との取引を従来通り円滑に行うことができれば、急速に企業価値が毀損することを回避することができる。このような状況においてDIPファインナンスが必要とされるのである。

⑥DIPファイナンスの現状

 融資である以上、貸し手は回収可能性について審査を行うのは当然である。しかし、日本の場合、再建企業に対する融資はリスクが高いものであるという認識が強く、民間の金融機関はDIPファイナンスに積極的ではない。ただし、株式会社日本政策投資銀行や株式会社商工組合中央金庫等の金融機関はDIPファイナンスを積極的に行っている。
また、一般に、企業再建手続に入っている企業の場合は保有している不動産が既に既存債権の担保となっている場合が多いので、売掛債権や動産を担保として差し入れるケースもある。また。スポンサーに融資の保証を付してもらうケースも多い。
民事再生手続きにおいては、共益債権について、担保権者が担保物権より弁済を受ける分より劣後し、一般優先債権と同列の取扱となる。よって更生手続上の共益債権となるDIPファイナンスの方が、民事再生手続上の場合よりも相当程度保護されていることから、会社更生手続の方が民事再生手続に比べて、DIPファイナンスを受けやすいと考えられる。

⑦DIPファイナンスの手続

 DIPファイナンスの手続は一般に以下のような手続で行われる。まず、企業は民事再生又は会社更生の申し立てを行い、その後に金融機関に対してDIPファイナンスの申込みを行う。金融機関は対象企業の調査を行い、与信判断を行う。その後に監督委員の同意を得てから(民事再生の場合)、融資契約を金融機関との間で締結し、融資が実行される。

□DIPファイナンスの手続

手続の申し立て

融資申し込み

企業調査

融資判断(審査)

監督委員の同意

契約の締結

融資の実行

事後管理(モニタリング)

手続終了

(注)民事再生手続の場合を想定している。



(2)メリット・デメリットと実務上の留意点

企業は事業再生過程であってもDIPファイナンスにより融資を受ける可能性がある。貸付人にとっては金利が一般の融資よりも高いことから、収益性の高い融資であり、DIPファイナンスによる貸付債権は、共益債権(手続申し立て前に発生していた債権)よりも優先するので、金融機関としても融資のメリットがある。
ただし、金利は一般の融資と較べて割高である。資金需要が急速に逼迫するため、融資申込から実行までのスピードがなれば資金がショートする可能性がある。DIPファイナンスにおけるコベナンツとして、財務制限条項及びモニタリングの条項が多く付く場合があり、機動的な経営が阻害されるリスクがある。

□メリットとデメリット
• 事業再生過程であっても融資を受ける可能性がある。
• 貸付人にとって収益性の高い融資である。またDIPファイナンスによる貸付債権は、共益債権(手続申し立て前に発生していた債権)よりも優先するので、金融機関としても融資のメリットがある。 • 金利が一般の融資と較べて割高である。
• 資金需要が急速に逼迫するため、融資申込から実行までのスピードがなれば資金がショートする可能性がある。
• DIPファイナンスにおけるコベナンツとして、財務制限条項及びモニタリングの条項が多く付く場合がある。
• 不動産担保がない場合、売掛債権や動産を担保に提供する場合がある。

DIPファイナンスの場合、銀行側の手続や審査を含めておおよそ1ヶ月程度で資金を調達する必要に迫られることが多いことから、融資を受けるまでのスケジュールがタイトであることに留意が必要である。

(3)コスト

 DIPファイナンスの場合、金利が通常の融資よりも高く設定される。また、融資に際しアップフロント・フィーが必要な場合がある。売掛債権や動産を担保設定する場合には、登記費用や対抗要件具備のためのコストが必要である。



第6章 リース・ファイナンス

(1)概要

リース取引とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料を貸手に支払う取引をいう。
リース取引は法的には賃貸借取引であるが、リース物件を購入する資金がない場合に、リース会社が企業に代わって物件を購入し、企業はリース会社から物件を賃貸借することにより独占的に使用収益し、対価としてリース料を支払うという取引である。特に、当初の賃貸借契約で所有権が借手に移転する旨が規定されている場合には、貸手が借手に融資を行っているのと同じ経済的効果を持つ。この場合、借手に代わって貸手が金融機関から資金調達を行っているのと実質的には同じということになる。
リース取引には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引がある。ファイナンス・リース取引には、所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引とがある。

(2)メリット・デメリットと実務上の留意点

固定資産を購入する資金がなくても、リース取引により利用することができる。また、貸手が借手に代わって資金調達を代行してくれる効果があり、その分、銀行のクレジットライン(与信枠)を残すことができる。支払リース料に含まれる支払利息相当額の利率が、一般の借入金利よりも低い場合があり、保険料も割安である。
しかし、リース取引を行う際に審査が必要であることから、信用力の低い会社はリース取引を利用できない場合がある。また、リース会計基準が改正され、原則としてリース資産・負債がオフバランスできなくなった。またファイナンス・リース取引の場合、中途解約ができないため、対象物件が陳腐化したとしても、ペナルティーを支払わなければ契約の途中で売却して現金化したり入替たりすることができない。

□メリットとデメリット
• 固定資産を購入する資金がなくても、リース取引により利用することができる。
• 貸手が借手に代わって資金調達を代行してくれる効果がある。その分、銀行のクレジットライン(与信枠)を残すことができる。
• 担保が不要である。
• リース物件に係るキャッシュ・フローを確定することができる。
• 支払リース料に含まれる支払利息相当額の利率が、一般の借入金利よりも低い場合があり、保険料も割安である。 リース取引を行う際に審査が必要であることから、信用力の低い会社はリース取引を利用できない場合がある。
・リース会計基準が改正され、原則としてリース資産・負債がオフバランスできなくなった。
・ファイナンス・リース取引の場合、中途解約ができないため、対象物件が陳腐化したとしても、ペナルティーを支払わなければ契約の途中で売却して現金化したり入替たりすることができない。


(3)リース取引の判定

① ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引

ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引(以下「解約不能のリース取引」という)で、借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(以下「フルペイアウトのリース取引」という)をいう。オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいう。
ここで、解約不能のリース取引には解約時に未経過のリース期間に係るリース料のおおむね全額を規定損害金として支払うこととされているリース取引や、解約時に未経過のリース期間に係るリース料から借手の負担に帰属しない未経過のリース期間に係る利息等として一定の算式により算出した額を差し引いたもののおおむね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引が含まれる。

② ファイナンス・リース取引に該当するかどうかの判定基準
次のいずれかに該当する場合は、ファイナンス・リース取引と判定される(リース会計基準適用指針第9項)

<現在価値基準>
 解約不能のリース期間解中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で購入するものと仮定した場合の合理的見積金額(以下「見積現金購入価額」という。)の概ね90%以上であること。(フルペイアウト判定の原則的基準。)

<経済的耐用年数基準>
 解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75%以上であること(ただし、リース物件の特性、経済的耐用年数の長さ、リース物件の中古市場の存在等を勘案すると、現在価値基準の判定結果が90%を大きく下回ることが明らかな場合を除く。)(フルペイアウト判定の簡便的基準)



(a) 現在価値を算定する際の割引率
借手が現在価値を算定する際に必要な割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利子率とし、知りえない場合は借手の追加借り入れに適用されると合理的に見積もられる利率を用いる(リース会計基準適用指針17項)。

(b) 経済的耐用年数
 経済的耐用年数は、物理的使用可能期間ではなく経済的使用可能予測期間に見合った年数であり、特に不合理と認められる場合を除き税法耐用年数を用いて判定を行うことも認められる。

③ ファイナンス・リース取引の分類

 ファイナンス・リース取引のうち、次のいずれかに該当する場合には所有権移転ファイナンス・リース取引に該当し、それ以外は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する。

 リース物件の所有権が借手に移転することとされているリース取引。
 借手に対してリース物件が名目的な価額又は著しく有利な価額で買い取る権利が与えられており、その行使が確実に行われると予想されるリース取引。
 リース物件が借手の用途等に合わせた特別仕様となっているため、使用可能期間中その借手によってのみ使用されることが明かなリース取引。

(4)会計

① 会計処理の概要

 リース取引は所有権移転ファイナンス・リース取引、所有権移転外ファイナンス・リース取引、オペレーティング・リース取引の3種類に分類されるが、それぞれの会計処理の概要は以下の通りである。

所有権移転ファイナンス・リース取引: 売買処理による
所有権移転外ファイナンス・リース取引: 原則売買処理によるが、重要性が乏しい場合等には賃貸借処理も認められる
オペレーティング・リース取引: 賃貸借処理による

改正前のリース会計基準においては、所有権移転外ファイナンス・リース取引は原則売買処理であったが、賃貸借処理を行うと同時に一定の事項を注記するという取り扱いが例外的に認められていた。平成20年4月1日以降に適用される新リース会計基準により所有権移転外ファイナンス・リース取引は原則として売買処理することとなった。

② ファイナンス・リース取引の会計処理

 ファイナンス・リース取引は、原則的には売買処理にて会計処理を行うが、重要性の乏しい場合等に該当すれば賃貸借処理も認められる。

 所有権移転ファイナンス・リース取引については、重要性の乏しい資産で購入時に費用処理をする資産を対象とするリース取引またはリース期間が1年以内のリース取引についてはオフバランス処理が可能となる。また、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、これらの要件を満たすリース取引に加え、重要性の乏しいリース取引で、1件当たりのリース料総額が300万円未満であるものについてもオフバランス処理が可能となる。

(5)金商法上の取扱い

 リース取引に関する借手の注記については、ファイナンス・リース取引に関しては重要性の乏しいものを除き注記をしなければならない。また、オペレーティング・リース取引については、解約不能のオペレーティング・リース取引で重要性の乏しいものを除き注記をしなければならない(財規8条の6)

(6)会社法上の取扱い

リースにより使用する固定資産に関しては、会計監査人設置会社及び会計監査人設置会社以外の会社で公開会社に該当する会社について、ファイナンス・リース取引の借主である株式会社が当該ファイナンス・リース取引について通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行っていない場合においては、当該リース物件に関する注記が必要である(会計規第139条)。

(具体的な注記内容)
 当該事業年度の末日における取得原価相当額
 当該事業年度の末日における減価償却累計額相当額
 当該事業年度の末日における未経過リース料相当額
 これらのほか、当該リース物件に係る重要な事項

(7)税務

① リース取引に係る所得計算

内国法人がリース取引を行った場合には、そのリース取引の目的となる資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該リース資産の売買があったものとして、当該賃貸人又は賃借人である内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法法64条の2第1項)。
 法人税法上、リース取引とは下記の2要件を満たす取引であり、会計上のファイナンス・リースに該当する要件と同じである。

a. 当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること。
b. 当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。

ここで、a. に関して、資産の賃貸借につきその賃貸借期間において賃借人が支払う賃借料の金額の合計額がその資産の取得のために通常要する価額のおおむね90%に相当する金額を超える場合には、当該資産の賃貸借は、法法第64条の2第3項2号の資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであることに該当する(法令131条の2第2項)。 つまり、リース料総額を現在価値に割引かない金額をもって、その資産の取得のために通常要する価額のおおむね90%に相当するかどうかを判定する。
リース会計基準の場合、フルペイアウトの要件はリース料総額を現在価値に割引いた後の数値で判断することから、この点において会計と税務が乖離している。

② リース取引の分類
 上記①に該当するリース取引のうち、次のいずれかに該当するもの(これらに準ずるものを含む)は所有権移転リース取引となり、いずれにも該当しないものは所有権移転外リース取引となる。
  a. リース期間終了の時又はリース期間の中途において、当該リース取引に係る契約において定められている当該リース取引の目的とされている資産(以下「目的資産」という。)が無償又は名目的な対価の額で当該リース取引に係る賃借人に譲渡されるものであること。
  b. 当該リース取引に係る賃借人に対し、リース期間終了の時又はリース期間の中途において目的資産を著しく有利な価額で買い取る権利が与えられているものであること。
  c. 目的資産の種類、用途、設置の状況等に照らし、当該目的資産がその使用可能期間中当該リース取引に係る賃借人によってのみ使用されると見込まれるものであること又は当該目的資産の識別が困難であると認められるものであること。
  d. リース期間が目的資産の法定耐用年数に比して相当短いもの(当該リース取引に係る賃借人の法人税の負担を著しく軽減することになると認められるものに限る。)であること。

 aからcまではリース会計基準及びリース会計基準適用指針における所有権移転ファイナンス・リース取引と実質的に共通しているが、dは法人税法上独自の取り扱いである。


法人税法64条の2 (リース取引に係る所得の金額の計算)

内国法人がリース取引を行った場合には、そのリース取引の目的となる資産(以下この項において「リース資産」という。)の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該リース資産の売買があつたものとして、当該賃貸人又は賃借人である内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
2  内国法人が譲受人から譲渡人に対する賃貸(リース取引に該当するものに限る。)を条件に資産の売買を行った場合において、当該資産の種類、当該売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、当該資産の売買はなかったものとし、かつ、当該譲受人から当該譲渡人に対する金銭の貸付けがあつたものとして、当該譲受人又は譲渡人である内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
3  前2項に規定するリース取引とは、資産の賃貸借(所有権が移転しない土地の賃貸借その他の政令で定めるものを除く。)で、次に掲げる要件に該当するものをいう。
一  当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること。
二  当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。
4  前項第2号の資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているかどうかの判定その他前3項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。


法人税法施行令131条の2(リース取引の範囲)

法第64条の2第3項 (リース取引に係る所得の金額の計算)に規定する政令で定める資産の賃貸借は、土地の賃貸借のうち、第138条(借地権の設定等により地価が著しく低下する場合の土地等の帳簿価額の一部の損金算入)の規定の適用のあるもの及び次に掲げる要件(これらに準ずるものを含む。)のいずれにも該当しないものとする。
一  当該土地の賃貸借に係る契約において定められている当該賃貸借の期間(以下この項及び次項において「賃貸借期間」という。)の終了の時又は当該賃貸借期間の中途において、当該土地が無償又は名目的な対価の額で当該賃貸借に係る賃借人に譲渡されるものであること。
二  当該土地の賃貸借に係る賃借人に対し、賃貸借期間終了の時又は賃貸借期間の中途において当該土地を著しく有利な価額で買い取る権利が与えられているものであること。
2  資産の賃貸借につき、その賃貸借期間(当該資産の賃貸借に係る契約の解除をすることができないものとされている期間に限る。)において賃借人が支払う賃借料の金額の合計額がその資産の取得のために通常要する価額(当該資産を事業の用に供するために要する費用の額を含む。)のおおむね100分の90に相当する金額を超える場合には、当該資産の賃貸借は、法第64条の2第3項第2号 の資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであることに該当するものとする。
3  法第64条の2第1項 の規定により売買があつたものとされた同項 に規定するリース資産につき同項の賃借人が賃借料として損金経理をした金額又は同条第2項 の規定により金銭の貸付けがあつたものとされた場合の同項 に規定する賃貸に係る資産につき同項の譲渡人が賃借料として損金経理をした金額は、償却費として損金経理をした金額に含まれるものとする。

③ 税務上の留意点

消費税法上、ファイナンス・リース取引は、リース資産の受渡日の属する課税期間においてリース料総額が仕入税額控除の対象となり、オペレーティング・リース取引は、その課税期間における賃貸料の合計額をリース期間にわたり仕入税額控除を行う。ここで、会計上ファイナンス・リース取引に該当するが、重要性が乏しいため賃貸借処理を行った場合でも、消費税法上は当該リース開始時における課税期間において、リース料総額について全額仕入税額控除を行わなければならない点に注意する必要がある。
また、減価償却の方法が、所有権移転リース取引と所有権移転外リース取引で異なる点に留意が必要である。

図表2-58 リース取引における税務上の留意点
種類 法人税 消費税
所有権移転リース取引 自己所有の固定資産と同様に減価償却を行う。 リース資産の受渡日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となる。
所有権移転外リース取引 リース期間を耐用年数とした定額法で減価償却を行う。 リース資産の受渡日の属する課税期間において仕入税額控除の対象となる。
オペレーティング・リース取引 減価償却はない。支払リース料が損金に算入される。 リース期間にわたり仕入れ税額控除の対象となる。