エクイティ・ファイナンス

エクイティ・ファイナンス

募集株式の発行等

<概要>

エクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)とは、企業が新規に株式を発行することにより、投資家より資金調達をする方法である。金融機関からの借入等と異なり返済義務がなく、利払いも不要である。また自己資本を増強することにより、財務体質が健全化し金融機関の格付けが向上するといったメリットがある。
しかし、株主は会社経営に関して最終的なリスクを負うことから、投資に対するリターンとして配当やキャピタルゲインを要求する。また、株主は議決権を有していることから、会社法の規定に従い、株主としての権利を行使することができる。
会社法では株式の交付について募集株式の発行等と規定している。募集株式とは、募集に応じて株式の引受けの申込みをした者に対して割当てる株式のことをいい、具体的には新たに発行する株式(新株)や処分する自己株式のことをいう(会社法199条1項)。旧商法では新株の発行や保有する自己株式の処分について別々に規定されていたが、会社法ではこれらを一つにまとめて募集株式の発行等と規定した。
 なお、本章では資金調達という観点から、募集株式の発行等のうち新株の発行、とりわけ払込みを伴う有償増資について取り上げる。


<新株の発行>

(1)新株発行の種類

新株の発行形態は、誰に募集株式を引受けてもらうかにより、株主割当増資、第三者割当増資、公募増資の3種類に分類される。それぞれの内容は次のとおりである。

①株主割当増資

株主割当増資とは、既存の株主に対して、持株数に応じて新株の割当てを引受ける権利を付与する増資の方法をいう。株主割当増資は、株主に対して平等に権利を与えることとなるため、既存株主の利益を損なうことなく資本増強できるが、株式の割当先が既存株主に限定されることから、大規模な資金調達は困難な場合がある。

②第三者割当増資

 第三者割当増資とは、特定の第三者(既存の株主である必要はない)に対して、新株の割当てを引受ける権利を付与する増資の方法をいい、縁故募集とも呼ばれる。なお、既存の株主に対して新株の割当てを引受ける権利を付与する場合であっても、持株比率に応じたものでなければ、第三者割当増資となる。
 第三者割当増資は、取引先等を募集株式の引受先とすることにより、取引先等との関係強化または敵対的買収の防衛策とすることができるが、既存の株主の持株比率が変動してしまうこと、払込金額を不公正な金額で設定した場合において既存の株主に経済的な損失を与えてしまう恐れがある等のデメリットがある。
 なお、払込金額は原則として時価となる。これは、払込金額を時価に対して特に割安な価額とした場合(いわゆる有利発行の場合)、既存株主に不利益を与えてしまうためである。

③公募増資

 公募増資とは、不特定多数の投資家に新株の取得の申込みを勧誘する増資の方法をいう。公募増資は、広く一般から資金を調達するため、大規模な資金調達が可能となるが、株式の引受人が特定しておらず、発行価額が株式市況に左右されるため、資金計画の目途が立てにくいといったデメリットがある。なお、払込金額は第三者割当増資と同様、原則として時価となる。


(2)発行可能株式総数

 発行可能株式総数とは、株式会社が発行することのできる株式の総数のことであり、授権株式数または授権枠ともいう。
 発行可能株式総数は、定款の絶対的記載事項であり(会社法37条)、発行可能株式総数を変更する場合は、通常の定款変更として、株主総会の特別決議が必要となる(会社法466条、309条2項11号)。増資のため新株の発行をする場合には、まず最初にその新株の発行が発行可能株式総数の枠内であるかを確認し、発行可能株式総数を超えて新株の発行をするのであれば、新株の発行手続に先立って、定款の変更手続を行う必要がある。
 なお、公開会社(その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう)が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合、変更後の発行可能株式総数は、その定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることはできない(会社法113条3項)。これは、公開会社の場合、発行可能株式総数の枠内であれば、有利発行の場合を除き、株主総会の承認を得なくても取締役会の決議で新株の発行ができるため、取締役会の権限を規制するために設けられたものある。
一方、非公開会社(その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けている株式会社をいう)においてはこのような規制は設けられておらず、発行済株式総数の4倍を超えて発行可能株式総数を増加させることが可能である。


<株主割当増資の手続>


(1)募集事項の決定(機関決定)

①決議機関

a. 非公開会社の場合

募集事項等は、株主総会の特別決議により決定する(会社法199条2項、309条2項5号)。ただし、募集事項等を取締役の決定または取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合には、取締役の決定または取締役会の決議による(会社法202条3項1号、2号)。
なお、整備法施行日前に設立された株式会社で、定款に株式譲渡制限の定めがある場合には、定款に上記取締役会の決議によって定めることができる旨の定めがあるものとみなされる(整備法76条3項)。

b. 公開会社の場合

 募集事項は、取締役会により決定する(会社法202条3項3号)。


②募集事項

株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない(会社法199条1項)。

a. 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数)
b. 募集株式の払込金額又はその算定方法
c. 現物出資財産を出資の目的とするときは、その旨並びにその財産の内容及価

d. 金銭の払込み、現物出資財産の給付の期日又は期間
e. 株式の発行により増加する資本金及び資本準備金に関する事項
f. 株主に対し、募集株式の引受けの申込みをすることにより募集株式の割当を
受ける権利を与える旨(注)
g. 募集株式の引受けの申込みの期日(注)
(注)aからeは募集株式の発行において必ず定めなければならない共通の募集事項である。株主割当増資の場合は、f及びgの2つの事項もあわせて定めなければならない(会社法202条1項)。

(2)株主に対する募集事項の通知

 株式会社は株主割当増資を行う場合には、株主に対し、募集事項、当該株主が割当てを受ける募集株式の数、募集株式の引受けの申込みの期日を募集株式の引受けの申込期日の2週間前までに通知しなければならない。なお、公告は不可である(会社法202条4項)。

(3)募集株式の引受けの申込みをしようする者に対する通知

株式会社は募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。なお、通知は申込者の住所地に発すれば足り、公告である必要はない(会社法203条1項、6項)。
①株式会社の商号
②募集事項
③金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
④会社法施行規則41条(申込みをしようとする者に対して通知すべき事項)で定める事項

なお、株式会社が上記事項を記載した金商法2条(定義)10項に規定する目論見書を募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して交付している場合その他募集株式の引受けの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして会施規42条(申込みをしようとする者に対する通知を要しない場合)で定める場合には適用しない(会社法203条4項)。

(4)募集株式の申込み

募集株式の引受けの申込みをする者は、申込みをする者の氏名又は名称および住所、引受けようとする募集株式の数を記載した書面を株式会社に交付しなければならない。なお、書面の交付に代えて会社法施行令1条(書面に記載すべき事項等の電磁的方法による提供の承諾等)で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、次に掲げる事項を電磁的方法により提供することができる(会社法203条2項、3項)。

(5)募集株式の割当て

株主は、募集株式の申込みの期日までに募集株式の引受けの申込みをしないときは、当該申込みをしなかった株主は、募集株式の割当てを受ける権利を失う(会社法204条4項)。株主割当増資では、第三者割当増資や公募増資と違い、あらかじめ株主に株式の割当てを受ける権利が与えられているため、募集株式の割当てについての決議は必要なく、申込みに伴い自動的に株式が割当てられる。
 また、株式会社は、募集事項に定めた払込期日(払込期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の前日までに申込者に対して、その申込者に割当てる募集株式の数を通知しなければならない(会社法204条3項)。

(6)出資の履行

募集株式の引受人は、募集事項に定められた払込期日または払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払込まなければならない。なお、払込期日または払込期間内に払込みをしなかった場合には、その募集株式の株主となる権利を失う。また、募集株式の引受人は、その払込みをする債務と株式会社に対する債権とを相殺することはできない(会社法208条1項、3項、5項)。

(7)変更登記の申請

 本店所在地において、払込期日又は払込期間の末日から2週間以内に変更登記を行う(会社法915条1項)。
 

<株主割当増資以外の増資(第三者割当増資および公募増資)の手続>


(1)募集事項の決定
 
①決議機関

a. 非公開会社の場合
 
募集事項は、原則として、株主総会の特別決議により決定する(会社法199条2項、309条2項5号)。なお、株主総会の特別決議により、取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することもできる(会社法200条1項、309条2項5号)。この場合、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を、株主総会においてあわせて定めておく必要がある(会社法200条1項)。
 ただし、有利発行の場合、取締役は株主総会において、その理由を説明しなければならない(会社法199条3項、200条2項)。また、種類株式発行会社において、譲渡制限株式に関する募集事項の決定をするときは、当該種類株主総会の特別決議が必要となる(会社法199条4項、200条4項、324条2項2号)。

b. 公開会社の場合

公開会社における募集事項の決定は、有利発行の場合を除き、取締役会の決議による(会社法201条1項)。
また、種類株式発行会社において、譲渡制限株式に関する募集事項の決定をするときは、当該種類株主総会のが必要となる(会社法199条4項、324条2項2号)。


②募集事項

株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式について次に掲げる事項を定めなければならない(会社法199条1項)。

a. 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。)
b. 募集株式の払込金額またはその算定方法
c. 現物出資財産を出資の目的とするときは、その旨並びにその財産の内容及び価額
d. 金銭の払込み、現物出資財産の給付の期日又は期間
e. 株式の発行により増加する資本金及び資本準備金に関する事項

(2)公開会社における株主に対する募集事項の通知

 公開会社が取締役会において、募集事項を決定した場合には、当該募集事項に定めた払込期日または払込期間の初日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を公告その他の方法により通知しなければならない(会社法201条3項、4項)。
 株式会社が募集事項について上記期日の2週間前までに金商法4条1項又は2項の届出をしている場合、その他の株主の保護に欠けるおそれがないものとして会施規40条(募集事項の通知等を要しない場合)で定める場合には、上記の通知は不要である(会社法201条5項)。

(3)募集株式の引受けの申込みをしようする者に対する通知

株式会社は募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない(会社法203条1項)。
①株式会社の商号
②募集事項
③金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所(取扱金融機関)
④会社法施行規則41条(申込みをしようとする者に対して通知すべき事項)で定める事項

ただし、株式会社が上記事項を記載した金商法2条(定義)10項に規定する目論見書を募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して交付している場合その他募集株式の引受けの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして会施規42条(申込みをしようとする者に対する通知を要しない場合)で定める場合には適用しない(会社法203条4項)。

(4)募集株式の申込み

募集株式の引受けの申込みをする者は、申込みをする者の氏名又は名称及び住所、引受けようとする募集株式の数を記載した書面を株式会社に交付しなければならない。なお、書面の交付に代えて会社法施行令1条(書面に記載すべき事項等の電磁的方法による提供の承諾等)で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、次に掲げる事項を電磁的方法により提供することができる(会社法203条2項、3項)。

(5)募集株式の割当て

 株式会社は、申込者の中から募集株式の割当てを受ける者及びその者に割当てる募集株式の数を定めなければならない。この場合においては、割当てる募集株式の数を、申込者から交付された上記の引受けようとする募集株式の数よりも減少することができる(会社法204条1項)。
 募集株式が譲渡制限株式である場合には、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の特別決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない(会社法204条2項、会社法309条2項5号)。  
また、株式会社は募集事項に定めた払込期日(払込期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の前日までに申込者に対して、その申込者に割当てる募集株式の数を通知しなければならない(会社法204条3項)。

(6)募集株式の総数の引受け

 募集株式を引受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、上記(4)及び(5)並びに(6)の手続を要しない(会社法205条)。これは、契約であるため申込みと割当て(承諾)が含まれているためである。なお、募集株式を引受けようとする者は1名である必要はなく、複数の者による総数の引受けであっても構わない。

(7)出資の履行

 募集株式の引受人は、募集事項に定められた払込期日または払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払込まなければならない。払込期日または払込期間内に払込みをしなかった場合には、その募集株式の株主となる権利を失う。また、募集株式の引受人は、その払込みをする債務と株式会社に対する債権とを相殺することはできない(会社法208条1項、3項、5項)。

(8)変更登記の申請
 
本店所在地において、払込期日又は払込期間の末日から2週間以内に変更登記を行う(会社法915条1項)。
 


<金商法上の取扱い>

(1)「募集」と「私募」

金商法においては、新たに発行される株式、社債等の有価証券の取得の申込みの勧誘(以下、取得勧誘という)について「募集」と「私募」に分類し、金商法上の「募集」に該当する場合には開示義務を課し、「私募」に該当する場合には開示義務を免除している。

(2)「募集」と「私募」の判定

金商法における「募集」とは、多数(50名以上)の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得勧誘を行うことをいい、有価証券の取得勧誘であっても「募集」に該当しない少人数のものを「私募」という。
また、有価証券の取得勧誘の相手方に一般投資家のほか、適格機関投資家が含まれる場合であって、当該有価証券がその取得者である適格機関投資家から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして金商令1条の4(適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合)に該当するときは、当該適格機関投資家を除いたうえで人数を計算する(金商法2条3項1号、金商令1条の5)。
また、50名未満の者を相手方として行う場合であっても、その取得者から多数の者に譲渡される恐れがある場合は「募集」に該当するものとして開示義務が課せられる。また、過去6ヶ月以内に同種の有価証券の発行があった場合には、当該6ヶ月以内の有価証券の取得勧誘の相手方の人数との合計で判定することに注意しなければならない(金商法2条3項2号ロ、金商令1条の6)。
一方、50名以上の者を相手方として行う場合であっても、適格機関投資家のみを相手方として行う場合であって、当該有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして金融商品取引法施行令1条の4(適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合)に該当するときは、「募集」には該当せず、「私募」(いわゆるプロ私募)として開示義務が免除される。(金商法2条3項2号イ)
なお、人数の計算にあたっては、実際に有価証券を取得した者の数ではなく、被勧誘者の数で判定することに留意する。

(3)発行開示

 有価証券の取得勧誘を行う場合は、その取得勧誘が「募集」に該当する場合、発行価額がいくらであるかによって開示書類が異なる。
金融商品取引法上、発行価額の総額が1億円以上の募集については、有価証券届出書の提出義務を課しており、発行価額の総額が1億円未満の少額の募集については届出義務が免除されている(金商法4条1項5号、5条1項)。
ただし、届出を要しない有価証券の募集であっても、その実態把握及び提出義務の回避を防止するため、発行価額が1千万円超1億円未満の募集については、有価証券通知書を提出しなければならない(金商法4条5項、開示府令4条4項)。
また、有価証券届出書は、証券取引所等に備置され公衆の縦覧に供されるが、これは間接的な開示であり、投資家に対する情報提供としては、十分ではない。そこで、投資家に投資判断の基準となる情報を直接提供する手段として目論見書の交付が行われる。目論見書は発行価額の総額が1億円以上の募集についてその作成が義務付けられている(金商法13条1項)。


<会計>

(1)資本金

 金銭出資を受けた場合、払込期日(払込期間を定めたときは、実際の払込日)に、原則として払込金額の全額を資本金とする。ただし、払込金額の2分の1を超えない金額については、資本金とせずに資本準備金とすることができる(会社法445条1項、2項、3項)。
 また、新株式の引受けの申込みの段階で申込証拠金を受入れた場合は、新株式申込証拠金を計上し、払込期日に資本金(または、資本金及び資本準備金)への振替を行う。
 なお、募集株式の引受人が株主となる時期は、払込期日を定めた場合は払込期日に、払込期間を定めた場合は実際の払込みの日(出資の履行をした日)となる(会社法209条)。


(2)株式交付費

 株式募集のための広告費、金融機関・証券会社に対する取扱手数料、その他新株の発行又は自己株式の処分に係る費用等の株式交付費については、原則として支出時に費用(損益計算書の表示区分は営業外費用)として処理する。ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動(組織再編の対価として株式を交付する場合を含む。)に係る株式交付費については、繰延資産に計上することができる。この場合には、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない(繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い(実務対応報告第19号))。


<税務>

(1)法人税

 金銭出資による新株の発行法人については、新株の発行は、当該法人の資本金等の額の増加を生ずる取引であるため、資本等取引に該当し、課税関係は生じない(法法22条)。ただし、増資により資本金が増加したことにより、資本金要件のある税法上の特例規定等の適用を受けられなくなる場合もあるため、事前に確認をしておく必要がある。
 なお、金銭の払込みによる増資があった場合における資本金の増加の日については、払込みの期日を定めたときは当該期日とし、払込みの期間を定めたときは当該払込みをした日となる。(法基通1-5-1)

法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)

  内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。
5 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)をいう。

(2)法人事業税

増資に伴い資本金が増加し、資本金の額が1億円を超えた場合、従来の所得割額課税から、外形標準課税の対象法人となる(地法72条の2第1項1号)。
 外形標準課税とは、電気供給業、ガス供給業および保険業以外の事業を行う法人(公益法人等、特別法人および人格のない社団等その他一定の法人を除く)のうち資本金の額または出資金の額が1億円を超えるものを対象とし、その法人の所得だけでなく、付加価値額および資本金等の額という外観から客観的に判断できる指標を組み合わせた課税方式であり、赤字の企業であっても税負担を求められることになる。

①.課税標準

 外形標準課税における課税標準は次の区分による。

a. 付加価値割の課税標準

付加価値割の課税標準は各事業年度の付加価値額であり、各事業年度の収益配分額(報酬給与額、純支払利子および純支払賃借料の合計額)と各事業年度の単年度損益との合計額による(地法72条の14)。

付加価値額=収益配分額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)+単年度損益

なお、その事業年度の収益配分額のうちにその事業年度の報酬給与額の占める割合が100分の70を超える法人の付加価値割の課税標準の算定は、その事業年度の付加価値割額から雇用安定控除額を控除する(地法72条の20第1項、2項)。

雇用安定控除額=その事業年度の報酬給与額―その事業年度の収益配分額×70/100

b. 資本割の課税標準

 資本割の課税標準は各事業年度の資本金等の額であり、各事業年度の資本金等の額とは、各事業年度終了の日における法人税法2条16号に規定する資本金等の額をいう(地法72条の21第1項)。なお、事業年度が1年に満たない場合は、資本金等の額にその事業年度の月数を乗じて得た額を12で除して計算した金額とする(地法72条の21第2項)。
 また、資本金等の額が1,000億円を超える法人の資本割の課税標準は、次の金額の区分によって資本金等の額(資本金等の額が1兆円を超える場合には、1兆円とする)を区分し、その区分に応ずる次に定める率を乗じて計算した金額の合計額に圧縮することができる(地法72条の21第4項)。

  1,000億円以下の金額・・・100分の100
  1,000億円を超え5,000億円以下の金額・・・100分の50
  5,000億円を超え1兆円以下の金額・・・100分の25

c. 所得割の課税標準

 所得割の課税標準は各事業年度の所得及び清算所得であり、各事業年度の所得は、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額によるものとし、地方税法又は政令で特別の定めをする場合を除くほか、その各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定する(地法72条の23第1項)。

②普通法人の法人事業税率

 3以上の道府県において事務所又は事業所を設けて事業を行う法人で、資本金の額又は出資金の額が1千万円以上のものは、次に掲げる表中の比例税率により計算し、それ以外の法人は軽減税率により計算する。
 また、適用税率については各都道府県の条例により定められているため、各都道府県の適用税率を確認する必要がある。
 なお、平成20年10月1日以後開始する事業年度より、地方法人特別税(国税)が課税されるため、それに伴い事業税の税率が引き下げられる。


③税額計算

外形標準課税による法人事業税 = 付加価値割 + 資本割 + 所得割



(3)法人事業税以外の法人地方税(道府県民税、市町村民税)
 
増資があった場合、法人事業税以外の法人地方税については均等割及び自治体によっては法人税割の税率に影響することがある。均等割は、法人等が都道府県・市区町村内に事務所等または寮等を有する場合に課税され、資本金等の額や従業員数によって税率が決定する。
また、法人税割は、その法人の法人税額を課税標準とし、これに税率を乗じて計算するが、その税率は、道府県民税が標準税率5%、制限税率6%となっており、市町村民税が標準税率12.3%、制限税率14.7%となっている(地法51条、314条の4)。
なお、法人事業税以外の法人地方税の適用税率についても、事業税と同様、各自治体において条例により定められているため、各自治体の適用税率を確認する必要がある。


(4)消費税

金銭出資による増資は、消費税の課税の対象となる取引ではない(ただし、現物出資の場合は課税の対象となる)。一方、新株の発行に伴い支払った金融機関・証券会社に対する手数料、株式募集のための広告費等の株式交付費は、消費税の課税仕入等として仕入税額控除の適用を受けることができる。なお、株式交付費については繰延資産として資産計上した場合においても、その課税仕入等を行った日の属する課税期間において仕入税額控除する。(消基通11-3-4)

消費税法基本通達11-3-4(繰延資産に係る課税仕入れ等の仕入税額控除)

創立費、開業費又は開発費等の繰延資産に係る課税仕入れ等については、その課税仕入れ等を行った日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるから留意する。




新株予約権


<概要>

(1)仕組み

新株予約権とは「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」をいう(会社法2条21号)。すなわち、新株予約権を有する者にとっては、発行会社の株式を引き受けることができる権利であり、発行会社にとっては、権利行使が行われた際に、新株もしくは保有する自己株式を交付する義務を負うものである。

新株予約権は、平成13年度の商法改正以前は「新株引受権」と言う名称で単独発行が認められておらず、ストックオプション(取締役、従業員に限定したもの)として付与する場合や転換社債や新株引受権付社債に付加した形での発行しか認められていなかった。
しかし、平成13年度の商法改正以降、新株予約権の単独発行が可能となり、現在では資金調達やベンチャー企業の資本政策、敵対的買収防衛策等で新株予約権を活用した新たな手法が登場している。

(2)発行手続

①募集事項

株式会社は、その発行する新株予約権を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集新株予約権について募集事項を定める必要がある(会社法238条1項)。
募集事項は、新株予約権の内容とその他の募集事項、ならびに新株予約権付社債において定める事項とに分かれるが、これらの内容は次のとおりである。

a. 新株予約権の内容(会社法236条)
・新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
・新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
・金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
・新株予約権を行使することができる期間(その他行使の条件)
・新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項
・譲渡による新株予約権の取得について株式会社の承認を要することとするときは、その旨
・新株予約権について、株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、その旨、取得事由、一部取得の方法並びに取得対価の内容及び数又は算定方法等
・合併等の組織再編に際して存続会社等が新株予約権を交付することとするときは、その旨及びその条件
・新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
・新株予約権に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨(新株予約権付社債に付されたものを除く。)
・新株予約権証券を発行する場合において、新株予約権者が記名式と無記名式との転換の請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨(新株予約権付社債に付されたものを除く。)

b. 他の募集事項(会社法238条)
・募集新株予約権の数
・募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
・募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要する場合には、募集新株予約権1個と引換えに払い込む金銭の額
・募集新株予約権の割当日
・募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日

c. 新株予約権付社債において上記に追加して定める事項(会社法238条、676条)
・募集社債の総額
・各募集社債の金額
・募集社債の利率
・募集社債の償還の方法及び期限
・利息支払の方法及び期限
・社債券を発行するときは、その旨
・社債権者が記名式と無記名式との間の転換の請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨
・社債管理者が社債権者集会の決議によらずに、当該社債の全部についてする訴訟行為又は破産手続、再生手続、更生手続若しくは特別清算に関する手続に属する行為(会社法705条1項の行為を除く。)をすることができることとするときは、その旨
・募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日
・一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするときは、その旨及びその一定の日
・その他、法務省令(会施規162条)で定める事項
・新株予約権付社債に付された新株予約権についての、会社法118条1項、777条1項、787条1項又は808条1項の規定による新株予約権買取請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め

②募集事項の決定から新株予約権の引受人の決定まで

新株予約権に関するこれらの事項は、会社法238条から244条までの規定による。しかしながら、基本的には募集株式の発行と同様であり、また実務上株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与えない場合が多いので、株主割当てについては第1章 第3節「株主割当増資の手続き」を参照されたい。

a. 募集事項の決定

 募集事項の決定機関は次のとおりである。

・公開会社においては、有利発行に該当する場合または定款で別段の定めを設けている場合を除き、取締役会の決議(会社法240条1項、238条2項)。
・非公開会社においては、株主総会の特別決議(会社法238条2項)。
・種類株式発行会社において、公開会社と非公開会社とを問わず、募集新株予約権の目的が譲渡制限株式である場合には、当該譲渡制限株式の種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがない限り、当該種類株主総会の特別決議(会社法238条4項)。

b. 株主総会から取締役会等への募集事項の委任

株主総会が募集事項を決定する場合(公開会社における有利発行及び非公開会社における発行の場合)に、株主総会の決議によって次の事項を定めた場合には、株主総会の決議の日から1年以内に割当日を設定する募集新株予約権の発行決議について、これを取締役の過半数の一致(取締役会設置会社にあっては取締役会)に委任することができる(会社法239条1項、3項)。

(a) その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集新株予約権の内容及び数の上限。
(b) (a)の募集新株予約権につき金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨。
(c) (b)に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額の下限。

なお、これらの手続による委任をする場合でも、募集新株予約権の内容自体は確定的に定める必要があり、会社法236条1項各号の決定まで委任することはできないとされる。

c. 株主への通知

 公開会社は、募集事項を取締役会で定めた場合(株主総会による募集事項の決定委任の場合を除く。)には、割当日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知または公告し、募集新株予約権発行差止請求の機会を与えなければならない(会社法240条2項、3項)。
 なお、会社が募集事項について割当日の2週間前までに金商法4条1項または2項の届出をしている場合等には、株主に対する通知又は公告を要しない(会社法240条4項、会施規53条)

d. 募集新株予約権の申込み

 申込みをしようとする者は、会社から申込事項の通知を受け、募集新株予約権の引受けの申込をする(会社法242条)。

e. 募集新株予約権の割当て

 募集新株予約権の割当先等の決定機関は次のとおりである。

・公開会社においては、代表取締役等の決定(会社法243条1項)。
・公開会社において、募集新株予約権の目的である株式の全部または一部が譲渡制限株式である場合、または募集新株予約権が譲渡制限新株予約権である場合には、定款で別段の定めがある場合を除き取締役会の決議(会社法243条2項)。
・非公開会社においては、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)(会社法243条2項)。


f. 総数引受契約を締結する場合

 募集新株予約権を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、 d.募集新株予約権の申込み、e.募集新株予約権の割当ての行為は不要となる(会社法244条1項)。

③新株予約権の発行

募集新株予約権の割当てを受けた申込者または募集新株予約権の総数を引き受けた者は割当日において、新株予約権者となる(会社法245条)。なお、有償で新株予約権を発行する場合であっても、新株予約権の効力は割当日に生ずる。


<新株予約権の活用方法>

(1)資金調達手段としての活用

新株予約権を資金調達の手段として活用する場合、具体的には次の様な手法がある。

① 新株予約権付社債として活用

 新株予約権付社債とは新株予約権を付した社債であり(会社法2条22項)、新株予約権付社債に付された新株予約権および社債は分離して譲渡及び質入れすることができない(会社法254条2項、3項および267条2項、3項)。
新株予約権を行使する際、新株予約権者は金銭又は金銭以外の財産をその出資の目的とする(会社法236条1項2号、3号)。会計上、新株予約権付社債について権利を行使する際に当該社債をその出資の目的とするものを「転換社債型新株予約権付社債」といい、当該社債以外の財産をその出資の目的とするものを「転換社債型新株予約権付社債以外の新株予約権付社債」(以下「その他の新株予約権付社債」)という。

企業は新株予約権を付すことにより、普通社債と比べ社債利息を軽減でき、有利な資金調達を行うことができる。また、転換社債型新株予約権付社債の場合、権利行使により社債が資本へ振り変わるため、有利子負債を圧縮すると同時に資本を増加でき、財務体質を改善できるというメリットがある。

② 新株予約権付融資として活用

ベンチャー企業は一般的に物的担保が少なく、信用力が不足しているため、金融機関からの借入に困難を伴うことが多い。株式公開を目指すベンチャー企業にとって、資金調達の手段として新株予約権を活用することにより、円滑な資金調達が可能となる。

ベンチャー企業は金融機関に対し、無償にて新株予約権を付与し、金融機関は有利な条件(低利・無担保)にてベンチャー企業に対して融資を実行する。新株予約権の付与を受けた金融機関は、株式公開後に権利を行使して株式を取得し、市場にて売却することにより、キャピタルゲインを得ることができる。
ベンチャー企業にとっては、株式公開前に新株予約権の発行により有利な条件で資金調達が可能となるが、権利行使による株式の発行がオーナーの持株比率を低下させることになるため、資本政策を十分検討した上で行うことが望ましい。

③ MSCB

MSCBとは、Moving Strike Convertible Bondの頭文字をとったものであり、日本語に訳すと「行使価格修正条項付転換社債型新株予約権付社債」となる。MSCBとは、新株予約権付社債のうち、権利行使価額が株価の変動に伴い下方または上方に修正されるものをいう。
MSCBは、権利行使価額を株価の90%程度に設計することが多い。これは、日本証券業協会が平成15年3月11日付「第三者割当増資の取扱いに関する指針」において、「発行価額は、当該増資に係る取締役会決議の直前日の価額に0.9を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から発行価額を決定するために適当な期間(最長6ヶ月間)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる」という自主ルールを定めているからである。投資家にとっては10%程度ディスカウントされた価格で株式を取得でき、発行会社にとっては低金利かつスピーディな資金調達を行い、株式に転換されることにより自己資本が増強されるメリットを持つ。
しかしながら、MSCBは権利行使価額が株価に対して10%程度ディスカウントされることから、権利行使により株価は下落し、さらに株価の下落に伴い権利行使価額も下方修正されることから権利行使による発行株式数も増加するため、結果的に1株当たりの株式の価値が希薄化され、既存株主に損害を与えるケースが多数発生し批判を受けた。
MSCBの設計では、権利行使価額に下限を設け、株式の希薄化を抑制するものが主流であるが、いずれにせよ一部の投資家の判断により株式の希薄化が行われ、既存株主に損害を与える手法として批判されるケースが多い。

④ エクイティ・コミットメントライン

エクイティ・コミットメントラインとは、行使価格修正条項付新株予約権を投資家に割り当て、発行会社に資金需要が生じた時に、発行会社が割当先に対して、一定の期間内に、一定数の新株予約権を行使すべき旨を指定できるものである。割当先は一定期間内に指定された新株予約権の数を行使しなければならない。

エクイティ・コミットメントラインによる資金調達の特徴は、発行会社に資金調達の必要性が生じたときに資金調達が可能となることである。割当先は、発行会社から権利行使すべき旨の通知があった場合は基本的に権利行使しなければならず、割り当てられた新株予約権は権利ではなく義務とも言える。
エクイテイ・コミットメントラインでは、MSCBと同様、権利行使価額が株価の90%程度に設計されるため、株式の希薄化が生じやすいものの、権利行使のタイミングを発行会社が決定できるため、株式の希薄化を発行会社がある程度抑制することが可能となる。この点において、エクイティ・コミットメントラインによる資金調達は、MSCBによる資金調達を発展させたものと言うことができる。

(2)その他の活用

 新株予約権の資金調達目的以外の一般的な活用方法としては、インセンティブ・プランとしての新株予約権の活用や敵対的買収防衛策としての活用がある。

① インセンティブ・プラン

会社がその取締役、会計参与、監査役、執行役及び雇用関係にある従業員や取引先等に対してストック・オプションとして新株予約権を割り当てることにより、優秀な人材の確保や取引先との提携強化、取引条件の改善等を行うことが可能である。ストック・オプションとはあらかじめ定められた権利行使価額で一定数の株式を会社から買うことができる権利をいう。従って、ストック・オプションを付与された者は、その会社の株価が権利行使価額を上回った時点で権利行使を行うことにより、時価よりも低い価額でその会社の株式を取得することができ、さらにその株式を売却することにより売却益を得ることができる。
ストック・オプションを付与された者にとっては、会社の業績向上が株価の上昇に連動することから、業績向上へのインセンティブとなる。

② 敵対的買収防衛策

新株予約権を利用した敵対的買収防衛策としてライツプランがある。ライツプランの一般的内容としては、買収者だけが行使できないという差別的条件を付した新株予約権を無償で全株主に割り当て、買収者以外の全株主に買収者登場前の時価よりも大幅に安い価格で新株予約権の権利行使を認めて株式の取得をさせることにより、買収者の持ち株比率を低下させる方法である
なお、買収者は買収実行前または買収途中に、ライツプランを発動せずに新株予約権の消却を求めて会社と交渉することになるので、この仕組みが現実に発動することは想定されていない。
具体的には、事前警告型ライツプラン、信託型ライツプラン、SPC型ライツプランの3類型がある。
 事前警告型ライツプランとは、買収者登場時に講じる買収防衛策を平時のうちに開示して事前警告を行い、買収者が登場した際には、事前警告に従い、買収者だけが行使できないという差別的条件を付した新株予約権を無償で全株主に割り当てるものである。買収者以外の全株主に新株予約権の権利行使を認めて株式の取得をさせることにより、買収者の持ち株比率を低下させる方法である。事前警告型ライツプランにおいては、買収者登場前には新株予約権の発行を行わないことが特徴である。
 信託型ライツプランとは、平時のうちに、買収者だけが行使できないという差別的条件を付した新株予約権を無償で信託銀行に発行し、信託銀行は買収者登場時の株主を受益者とする信託を設定し、発行された新株予約権を信託勘定で管理する。買収者登場後、信託銀行は買収者登場時における全株主に対し、管理していた新株予約権を無償交付し、買収者以外の者が新株予約権を行使することにより買収者の持ち株比率を低下させる方法である。
 SPC型ライツプランは、信託型ライツプランとほぼ同じ内容であるが、平時のうちに買収者だけが行使できないという差別的条件を付した新株予約権を無償でSPCに発行する。SPCは新株予約権を信託銀行へ信託し、信託銀行は買収者登場時の株主を受益者とする信託を設定し、発行された新株予約権を信託勘定で管理する。買収者登場後、信託銀行は買収者登場時における全株主に対し、管理していた新株予約権を無償交付し、買収者以外の者が新株予約権を行使することにより買収者の持ち株比率を低下させる方法である。


<新株予約権の評価>

新株予約権は一種のコール・オプション(買う権利)であり、企業は新株予約権を発行するにあたり、その価値(オプションの場合はオプション・プレミアムという)を算定する必要がある。

(1)オプション・プレミアムのプライシングモデル

オプション・プレミアムの算定方法としては、オプション・プレミアムのプライシングモデルとして、ブラック・ショールズ式や二項分布モデルが有名である。ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)においても、ストック・オプションの公正評価額の算定する際の株式オプション価格算定モデルとして、ブラック・ショールズ式と二項モデルが示されている。

ストック・オプション等に関する会計基準48項

公正な評価単価とは、一義的には、市場において形成されている取引価格であり、本来、ストック・オプションの公正な評価単価の算定についても、市場価格が観察できる限り、これによるべきものと考えられる。しかし、ストック・オプションに関しては、通常、市場価格が観察できないため、株式オプションの合理的な価格算定のために広く受け入れられている、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して公正な評価単価を見積ることとした。
「株式オプション価格算定モデル」とは、ストック・オプションの市場取引において、一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積るためのモデルであり、市場関係者の間で広く受け入れられているものをいい、例えば、ブラック・ショールズ式や二項モデル等が考えられる。

以下では、上記のブラック=ショールズ式に基づくコール・オプション・プレミアムの算定方法について解説記載する。

(2)ブラック=ショールズ式とは

ブラック=ショールズ式とは、ある一定の仮定の下でコール・オプション・プレミアムを算定するための式をいう。ブラック=ショールズ式の各変数に値を代入してゆくことにより、オプションの評価額を算定することができる。ブラック=ショールズ式における計算要素は、原資産価格、権利行使価格、無リスク利子率、ボラティリティ(株価の変動)の4つである。
ブラック=ショールズ式の基本的な考え方は、直感的にはコール・オプションの権利行使日における株価がコール・オプションの権利行使価格を上回る確率を織り込んだ株式価値から、権利行使価格の現在価値を差し引いたものがコール・オプション・プレミアムであるというものである。つまり、将来受取る予定である原資産の現在価値から、支払う予定である権利行使価格の現在価値を差し引いた差額がコール・オプションの価値であることを意味している。
ブラック=ショールズ式を用いると、株価のボラティリティが高ければ、コール・オプション・プレミアムも高くなり、ボラティリティが低ければ、コール・オプション・プレミアムも低くなる。また、権利行使価格が低ければコール・オプション・プレミアムは高くなり、権利行使価格が高ければコール・オプション・プレミアムは低くなるという関係にある。

ブラック=ショールズ式は、その公式を導くことは難解であるが、原資産価格、権利行使価格、無リスク利子率、権利行使期間、株価のボラティリティのデータさえ分かれば、関数電卓やエクセルシートで簡単に計算することができる。実際の計算において、原資産価格、権利行使価格、無リスク利子率、権利行使期間のデータは用意に入手できる。
ただし、ボラティリティの値はオプションがマーケットで取引されている場合はその価格から逆算して求めることができるが(インプライド・ボラティリティ)、コール・オプションがマーケットで取引されていない場合は、過去の株価変動のデータから推計する必要がある(ヒストリカル・ボラティリティ)。
ブラック=ショールズ式は、満期日のみに権利行使できるというヨーロピアン・オプションが前提となって式が組まれている。

(3)ブラック=ショールズ式の仮定

 ブラック=ショールズ式は下記のような事項を仮定している点、注意しなければならない。

1. 株価のボラティリティは、権利行使期間を通じて一定である。
2. 株価の変化は、時間的・価格的に連続した確率過程(伊藤のレンマ)に従う。
3. 無リスク利子率は常に一定である。
4. 取引コストや税金は0と仮定する。
5. 株式に配当はない。

実際には、これらの仮定を緩めた修正されたブラック=ショールズ式が、数多く開発されている。


<会計>


新株予約権に関する会計処理については、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(企業会計基準適用指針第17号)」に規定されている。新株予約権に関する会計処理の概要は次の通りである。


□発行者側の処理:

発行時:新株予約権の払込金額を「新株予約権」として純資産の部に計上する。
権利行使時(新株を発行) 新株予約権の発行に伴う払込金額と権利行使による払込金額を資本金または資本金および資本準備金に振り替える。
権利行使時(自己株式の処分) 新株予約権の発行に伴う払込金額と権利行使による払込金額との合計額と、自己株式の帳簿価額との差額を自己株式処分差額とする。
権利行使期間満了時 権利行使期間が満了し、当該新株予約権が失効したときは、当該失効に対応する額を失効が確定した会計期間の特別利益として処理する。

□取得者側の処理:
取得時:有価証券の取得として時価で測定し、保有目的に応じて売買目的有価証券又はその他有価証券として処理する。
権利行使時 新株予約権の保有目的に応じ、売買目的有価証券の場合は権利行使時の時価で株式に振り替え、その他有価証券の場合は帳簿価額で株式に振り替える。
譲渡時 新株予約権に対する支配が他に移転したときは,その消滅を認識するとともに,移転した新株予約権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を当期の損益として処理する(金融商品会計基準第11項)。新株予約権を発行者に譲渡した場合(会社法第236条第1項第7号)においても同様に処理する。なお,新株予約権の発行者が一定の事由が生じたことを条件として当該新株予約権を取得できることとする条項(取得条項)が付された新株予約権について,発行者が当該取得条項に基づき自己新株予約権を取得した場合には,取得条項付の転換社債型新株予約権付社債における転換社債型新株予約権付社債権者側の会計処理に準じて処理する。

権利行使期間満了時:権利行使期間が満了し、当該新株予約権が失効したときは、当該新株予約権の帳簿価額を当期の損失として処理する。


<税務>

(1)新株予約権の発行法人の税務

新株予約権の発行法人について、新株予約権の発行および権利行使による新株の発行(自己株式の処分を含む)は、当該法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引であるため、資本等取引に該当し、課税関係は生じない。
なお、「ストック・オプション等に関する会計基準」の適用により費用計上された額については、法法54条においてその取り扱いが定められている。すなわち、新株予約権の付与を受け、所令第84条の適用を受けて権利行使時において給与所得課税等を受ける場合には、発行法人において費用計上された額については、当該権利行使時において損金の額に算入され、給与所得課税等を受けない場合(措法29条の2に規定される税制適格ストック・オプションがこれに該当する)には、発行法人において費用計上された金額については損金の額に算入することはできない。

法人税法第54条(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)

内国法人が、個人から役務の提供を受ける場合において、当該役務の提供に係る費用の額につきその対価として新株予約権(当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権を当該新株予約権と引換えにする払込みに代えて相殺すべきものに限る。)を発行したとき(略)は、当該個人において当該役務の提供につき所得税法その他所得税に関する法令の規定により当該個人の同法に規定する給与所得その他の法令111の2で定める所得の金額に係る収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額を生ずべき事由(次項において「給与等課税事由」という。)が生じた日において当該役務の提供を受けたものとして、この法律の規定を適用する。
2 前項に規定する場合において、同項の個人において同項の役務の提供につき給与等課税事由が生じないときは、同項の新株予約権を発行した内国法人(略)の当該役務の提供に係る費用の額は、当該発行法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
3 前項に規定する場合において、第1項の新株予約権(略)が消滅をしたときは、当該消滅による利益の額は、発行法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。
4 発行法人は、確定申告書に当該新株予約権の一個当たりのその発行の時の価額、発行数、当該事業年度において行使された数その他当該新株予約権の状況に関する明細書の添付をしなければならない。
5 内国法人が新株予約権を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額(金銭の払込みに代えて給付される金銭以外の資産の価額及び相殺される債権の額を含む。以下この項において同じ。)がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないとき(その新株予約権を無償で発行したときを含む。)又はその新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額を超えるときは、その満たない部分の金額(その新株予約権を無償で発行した場合には、その発行の時の価額)又はその超える部分の金額に相当する金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入しない。
6 第4項に定めるもののほか、第1項から第3項まで又は前項の規定の適用に関し必要な事項は、法令111の2で定める。

(2)新株予約権の法人取得者に対する税務

新株予約権は、法人税法上有価証券に該当し、有価証券の取得価額は払込金額(金銭以外の資産を給付した場合にはその資産の時価)に付随費用を加算した金額となる。新株予約権を時価により取得した法人については、課税上問題になることはない。また、当該新株予約権の権利行使を行い、株式を取得した場合についても、法令119条1項2号により、権利行使直前に帳簿価額に払込金額を加算した金額が株式の取得価額となるため、課税上の問題は生じない。                 
しかしながら、新株予約権を時価未満で取得した場合には、当該新株予約権の時価と取得対価との差額については受贈益として課税される。ただし、株主割当等による取得に関しては、株主間での経済的利益の移転はされないことから、受贈益として課税されることはない。
新株予約権(権利行使により取得した株式を含む)を売却した場合には、当該法人が定めた有価証券の評価方法に基づく譲渡原価により、譲渡損益を計算する。

(3)新株予約権の個人取得者に対する税務

新株予約権は、所得税法上有価証券に該当し、有価証券の取得価額は払込金額(金銭以外の資産を給付した場合にはその資産の時価)に付随費用を加算した金額となる。
新株予約権を時価により取得した個人については、課税上問題になることはない。また、当該新株予約権の権利行使を行い、株式を取得した場合についても、権利行使直前に帳簿価額に払込金額を加算した金額が株式の取得価額となるため、課税上の問題は生じない。

所得税法基本通達48―6の2(新株予約権の行使により取得した株式の取得価額)

新株予約権の行使により取得した株式(発行法人から与えられた所令84条3号又は4号に掲げる新株予約権で同条の規定の適用を受けるものの行使により取得したものを除く。)1株当たりの取得価額は、次の算式により計算した金額によるものとする。

(算式)
株式1株当たりの払込金額+(当該新株予約権の当該行使直前の取得価額÷当該行使により取得した株式の数)

48―6の3(新株予約権付社債に係る新株予約権の行使により取得した株式の取得価額)
新株予約権付社債に係る新株予約権の内容として定められている新株予約権の行使に際して出資される財産の価額が当該新株予約権付社債の発行時の発行法人の株式の価額を基礎として合理的に定められている場合における当該新株予約権の行使により取得した株式1株当たりの取得価額は、次に定める算式により計算した金額によるものとする。

(算式)
株式1株につき払い込むべき金額+(当該払込みに係る新株予約権付社債の当該行使直前の取得価額が当該払込みに係る新株予約権付社債の額面金額を超える場合のその超える部分の金額÷当該行使により取得した株式の数)

新株予約権を時価未満で取得した個人については、取得時点で時価と払込金額との差額についての受贈益課税は行わず、権利行使時において「権利行使時における株式の時価」-「当該新株予約権の取得価額+権利行使価額」の経済的利益を得たものとして所得税が課税される。これは所法36条1項及び所令84条1項4号に規定されている。すなわち、所法36条1項において、「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」をその年分の各種所得の計算上収入金額とすべき金額とすると規定しており、所令84条において、特に有利な条件による新株予約権を与えられた場合における収入金額の価額は、新株予約権の権利行使時における株式の価額から当該新株予約権の取得価額に権利行使価額を加算した金額を控除した金額によることが規定されているからである。
なお、措法29条の2に規定する税制適格ストック・オプションに該当する場合には、権利行使時においての課税は行わず、当該株式の売却時においてキャピタルゲイン課税を行うこととしている。


所得税法第36条(収入金額)

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3 無記名の公社債の利子、無記名株式等の剰余金の配当(所法24条1項(配当所得)に規定する剰余金の配当をいう。)又は無記名の貸付信託、投資信託若しくは特定受益証券発行信託の受益証券に係る収益の分配については、その年分の利子所得の金額又は配当所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、第1項の規定にかかわらず、その年において支払を受けた金額とする。

所得税法施行令第84条(株式等を取得する権利の価額)

発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第36条第2項(収入金額)の価額は、当該権利の行使により取得した株式(これに準ずるものを含む。以下この条において同じ。)のその行使の日(第5号に掲げる権利にあっては、当該権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日))における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。
一 商法等の一部を改正する等の法律(平成13年法律第79号)第1条(商法の一部改正)の規定による改正前の商法(明治32年法律第48号)第210条ノ2第2項(取締役又は使用人に譲渡するための自己株式の取得)の決議に基づき与えられた同項第三号に規定する権利 当該権利の行使に係る株式の譲渡価額
二 商法等の一部を改正する法律(平成13年法律第128号。以下この号において「商法等改正法」という。)第1条(商法の一部改正)の規定による改正前の商法第280条ノ19第2項(取締役又は使用人に対する新株引受権の付与)の決議に基づき与えられた同項に規定する新株の引受権 当該新株の引受権の行使に係る新株の発行価額(商法等改正法附則第6条第2項(取締役又は使用人に対する新株の引受権の付与に関する経過措置)の規定に基づき、当該新株の引受権の行使により当該発行法人の有する自己の株式の移転を受けた場合には、当該株式の譲渡価額)
三 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第64条(商法の一部改正)の規定による改正前の商法第280条ノ21第1項(新株予約権の有利発行の決議)の決議に基づき発行された同項に規定する新株予約権 当該新株予約権の行使に係る新株の発行価額(当該新株予約権の行使により当該発行法人の有する自己の株式の移転を受けた場合には、当該株式の譲渡価額)
四 会社法第238条第2項(募集事項の決定)の決議(同法第239条第1項(募集事項の決定の委任)の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第240条第1項(公開会社における募集事項の決定の特則)の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき発行された新株予約権(当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。) 当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額
五 株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前各号に掲げるものを除く。) 当該権利の行使に係る当該権利の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額


種類株式

<概要>

 一般的に種類株式とは、普通株式に対する概念として、その権利について特別な内容が設けられている株式と捉えられている。会社法では、株式の内容として定めることができる事項について、107条(株式の内容についての特別の定め)1項において、株式会社は、その発行する全部の株式(つまり、1つの種類の株式のみを発行する場合)の内容として、①譲渡制限、②取得請求権、③取得条項の3つの事項を定めることができることとしている。
 また、108条(異なる種類の株式)1項において、株式会社は、9つの事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができるとしており、その事項とは、①剰余金の配当、②残余財産の分配、③議決権制限、④譲渡制限、⑤取得請求権、⑥取得条項、⑦全部取得条項、⑧拒否権、⑨役員選任権の9つである。
 なお、会社法は2条(定義)13号において種類株式発行会社について、「剰余金の配当その他の第108条第1項各号に掲げる事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する株式会社をいう。」としていることから、会社法107条の規定による場合(1つの種類の株式のみを発行する場合)、その株式に譲渡制限または取得請求権もしくは取得条項が定められていたとしても、厳密には種類株式ではなく、当該会社においては普通株式ということになる。反面、108条の規定により2以上の種類の株式を発行する場合には、株式の内容として特別な定めのない普通株式であっても、特別な定めがないという点において種類株式ということになるが、本書では株式の内容として特別な定めがない株式を普通株式として取り扱う。


<株式の内容に係る定款変更手続>

株式の内容に変更を加える場合、定款を変更する必要があるが、その決議機関は以下の通りである。

(1)1つの種類の株式のみを発行する場合

①譲渡制限を付す場合

株主総会の特殊決議(会社法309条3項1号)が必要である。

②取得請求権を付す場合

株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)が必要である。

③取得条項を付す場合

株主全員の同意(会社法110条)が必要である。

(2)種類株式を新設する場合

株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)が必要である。

(3)株式の種類を追加する場合

通常の株主総会の特別決議が必要である。ただし、ある種類の種類株主に損害を及ぼす恐れがあるときは、当該種類株主総会の特別決議も必要である(会社法309条2項11号、322条1項1号、324条2項)。

(4)既発行の一部の種類株式の内容を変更する場合

①譲渡制限を付す場合

通常の株主総会の特別決議に加え、当該種類株主総会の特殊決議、当該種類株式を取得の対価とする取得請求権付株式及び取得条項付株式の各種類株主総会の特殊決議が必要である(会社法111条2項、324条3項1号)

②取得条項を付す場合

通常の株主総会の特別決議および当該種類株主全員の同意が必要である(会社法111条1項)。

③全部取得条項を付す場合

通常の株主総会の特別決議に加え、当該種類株主総会の特別決議、当該種類株式を取得の対価とする取得請求権付株式及び取得条項付株式の各種類株主総会の特別決議が必要である(会社法111条2項、324条2項1号)。

④ある種類の種類株主に損害を及ぼす恐れがある場合

通常の株主総会の特別決議および当該種類株主総会の特別決議が必要である(会社法309条2項11号、322条1項1号、324条2項)。

⑤上記以外の場合

通常の株主総会の特別決議が必要である(会社法309条2項11号)。


<株式の内容>

(1)剰余金の配当について他の株式と異なる定めをした株式(会社法108条1項1号)

 剰余金の配当について、他の株式より優先して受けられる株式を「(配当)優先株式」といい、逆に他の株式より劣後する株式を「(配当)劣後株式」という。実務上は優先株式が劣後株式よりも圧倒的に多く利用されている。
 また、優先株式は、優先配当を受けた後の残余の配当を他の株式とともに受けることができる「参加型」 と、受けることができない「非参加型」に分類され、さらに、ある期の配当が所定の配当金額に達しない場合に、その不足額が累積する「累積型」と累積しない「非累積型」に分類される。
 なお、その活用方法としては、会社の経営に参加することよりも配当を重視する投資家に対して、下記(3)の議決権制限を付した優先株式を交付することにより、経営の安定性を確保した資金調達を行うこと等が考えられる。

①定款記載事項

a. 当該種類の株式の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法
b. 剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
c. 発行可能種類株式総数

②定款記載例

(優先配当)
第○条 当会社は、定款第○条に定める剰余金の配当を行うときは、甲種類株
式を有する株主に対し、甲種類株式1株につき年○○円の優先配当金を支払
う。

(非参加条項)
第○条 甲種類株主に対しては、優先配当金を超えて剰余金の配当は行わな
い。

(非累積条項)
第○条 ある事業年度において、甲種類株主に対して支払う剰余金の配当の額   
が優先配当金の額に達しないときは、その不足額は翌事業年度以降に累積し
ない。

(2)残余財産の分配について他の株式と異なる定めをした株式(会社法108条1項2号)

 本来、残余財産は持株数に応じて株主に分配されるが、剰余金の配当と同様、残余財産の分配についても、普通株式より優先して受けられる「(残余財産分配)優先株式」と、普通株式より劣後する「(残余財産分配)劣後株式」がある。
 なお、会社法では第105条2項において、剰余金の配当を受ける権利及び残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しないと規定しているが、これは、両方の権利を与えないことを禁じており、どちらか一方の権利を与えない旨の定めは可能であると解されている。
 また、その活用方法としては、上記①の剰余金の配当に関する株式と同じ活用方法が考えられる。

①定款記載事項

a. 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法
b. 当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
c. 発行可能種類株式総数

②定款記載例

(残余財産の分配)
第○条 当会社の残余財産を分配するときは、甲種類株主に対し、普通株主に
先立ち、甲種類株式1株につき○○円支払う。
2 甲種類株主に対しては、前項のほか残余財産の分配は行わない。

(3)議決権制限株式(会社法108条1項3号)

 議決権制限株式とは、株主総会において議決権を行使することができる事項について他の株式と異なる定めをした株式をいう。
 会社法は、公開会社に対して、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至った場合には、直ちに議決権制限株式の数を発行済株式総数の2分の1以下にするための措置をとらなければならないとし、議決権制限株式の発行に制限を設けている(会社法115条)。一方、非公開会社にはそのような制限はない。
 議決権制限株式は議決権が制限されているため、発行価額を低く設定することができ、会社の経営に興味がない投資家に対して、他の種類株式と組み合わせることなどにより、経営の安定性を確保した資金調達手段として活用することができる。

①定款記載事項

a. 株主総会において議決権を行使できる事項
b. 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
c. 発行可能種類株式総数
②定款記載例
<議決権を付与しない場合>

(議決権)
第○条 甲種類株主は、法令による別段の定めがある場合を除き、株主総会において議決権を行使することができない。

<特定事項につき議決権を付与しない場合>

(議決権)
第○条 甲種類株主は、法令による別段の定めがある場合を除き、株主総会において次に掲げる事項について、議決権を行使することができない。
 ①合併、株式交換、株式移転、株式分割
 ②解散
 ③取締役の選任及び解任

(4)譲渡制限株式(会社法108条1項4号)

 株式は譲渡自由が原則であるが、その例外として、定款に譲渡による当該種類の株式の取得について当該会社(取締役会設置会社にあっては取締役会、取締役会非設置会社にあっては株主総会)の承認を要する旨の定めをした株式が譲渡制限株式である。ただし、定款によりこれと違う定めをすることができる(会社法139条1項但)。会社は譲渡の許否の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者に対し、当該決定の内容を通知しなければならない(会社法139条2項)。
 譲渡制限株式は、会社の承認なしに譲渡することができないことから、株式の分散を防ぐことができ、ひいては会社の買収防衛策として活用することもできる。

①定款記載事項

a. 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
b. 一定の場合においては株式会社が会社法136条(株主からの承認の請求)または137条(株式取得者からの承認の請求)1項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合
c. 種類株式発行会社においては発行可能種類株式総数

②定款記載例

<全部の株式の内容を譲渡制限株式とした場合>

(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない。
2 株主間の譲渡については、前項の承認があったものとみなす。

<種類株式発行会社で特定の株式を譲渡制限株式とした場合>

(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の甲種類株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければ
ならない。

(5)取得請求権付株式(会社法108条1項5号)

 取得請求権付株式とは、株主がその所有する株式について、会社に対して取得するよう請求できる株式である。
 その対価として、現金はもちろん、当該株式会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債、他の種類株式(種類株式発行会社の場合)、株式等以外の財産を定款に定めておくことができるが、他の種類株式以外の財産を対価とする場合は財源規制がある(会社法107条2項2号、会社法108条2項5号、会社法166条1項)。
 取得請求権付株式は、株主にとってプット・オプション(売る権利)が付された株式であり、会社側からすると当該株主からの取得の請求があった場合に、会社は調達した資金を株主に返さなければならないリスクがある。ただし、対価については現金以外の財産とすることも認められているため、例えば、社債をその対価として交付することにより、資金の流出を先延ばしし、償還期限を確定させて資金計画を立てやすくすることができる。株主にとっても、投下資金の回収についてのリスクが低いため、資金調達がしやすく、他の株式より高い価額で発行することも可能である。

①定款記載事項

a. 株主が当該株式会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨
b. 上記aの株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類(会社法681条1号に規定する種類をいう。以下この節において同じ。)及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
c. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
d. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての上記bに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての上記cに規定する事項
e. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう。以下同じ。)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
f. 株主が当該株式会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間
g. 種類株式発行会社においては、当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
h. 種類株式発行会社においては発行可能種類株式総数

②定款記載例

<全部の株式の内容を取得請求権付株式とした場合>

(取得請求権付株式)
第○条 株主は、次に定める取得の条件により、当会社に対して、株式の取得の請求をすることができる。
 ①取得と引換えに株主に交付する対価
  金銭
 ②取得と引換えに株主に交付する金銭の額
  株式1株につき○○円
 ③取得を請求することができる期間
  平成○年○月○日から平成○年○月○日まで

<種類株式発行会社で特定の株式を取得請求権付株式とした場合>

(取得請求権付株式)
第○条 甲種類株主は、次に定める取得の条件により、当会社に対して、甲種類株式の取得を請求することができる。
 ①取得と引換えに甲種類株主に交付する対価
  当会社の普通株式
 ②取得と引換えに甲種類株主に交付する普通株式の数
甲種類株式1株につき、普通株式○株
 ③取得を請求することができる期間
  平成○年○月○日から平成○年○月○日まで

(6)取得条項付株式(会社法108条1項6号)

 取得条項付株式とは、会社が、株主の同意なしに一定の事由が生じたことを条件として強制的に株主の所有する株式を取得できる株式をいう。
 その対価として、現金はもちろん、当該株式会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債、他の種類株式(種類株式発行会社の場合)、株式等以外の財産を定款に定めておくことができるが、他の種類株式以外の財産を対価とする場合は財源規制がある。(会社法107条2項3号、会社法108条2項6号、会社法170条5項)
 取得条項付株式は、会社にとってコール・オプション(買う権利)のついた株式であり、その活用方法としては、敵対的買収者が現れた際、当該株式を買い戻し、その対価として無議決権株式を交付することにより買収防衛策として活用することや、株式の分散防止等が考えられる。

①定款記載事項

a. 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨及びその事由
b. 当該株式会社が別に定める日が到来することをもって上記aの事由とするときは、その旨
c. 上記aの事由が生じた日に上記aの株式の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する株式の一部の決定の方法
d. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
e. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
f. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのニに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのホに規定する事項
g. 上記aの株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
h. 種類株式発行会社において、当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
i. 種類株式発行会社においては発行可能種類株式総数

②定款記載例

<全部の株式の内容を取得条項付株式とした場合>

(取得条項付株式)
第○条 当会社は、株主に次に掲げる事由が生じた場合には、当該株主から当会社の株式を 次に定める取得の条件により取得することができる。
 ①自然人である株主が死亡したとき
 ②株主に破産または民事再生のおそれがあるとき
2 取得と引換えに株主に交付する対価
  金銭
3 取得と引換えに株主に交付する金銭の額
  上記の事由が生じた日の属する事業年度の直前事業年度における貸借対照表の純資産の額の合計額を、当該直前事業年度の末日における発行済株式の総数で除して計算した金額に、取得の対象となる株式数を乗じて計算した金額とする。


<種類株式発行会社で特定の株式を取得条項付株式とした場合>

(取得条項付株式)
第○条 当会社は、甲種類株主に次に掲げる事由が生じた場合には、当該株主から甲種類株式を 次に定める取得の条件により取得することができる。
 ①自然人である株主が死亡したとき
 ②株主に破産または民事再生のおそれがあるとき
③株主が当会社の役員以外の者に譲渡しようとしたとき

2 取得と引換えに甲種類株主に交付する対価
 当会社の普通株式
3 取得と引換えに甲種類株主に交付する普通株式の数
 甲種類株式1株につき、普通株式○株


(7)全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)

 種類株式発行会社が株主総会の特別決議により、そのうち1つの種類の株式の全部を取得することができる株式である(171条1項、309条2項3号)。その取得にあたっては、取締役が株主総会において、全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明したうえで、その取得対価(当該株式会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、株式等以外の財産)、その取得対価の割当てに関する事項、取得日を当該株主総会の特別決議により定めなければならない(会社法171条)。
 全部取得条項付種類株式は、100%減資への活用を期待して創設された制度といわれている。100%減資は会社の更正手続において行われ、資本の再構成のために既存の株主を除外して新たな出資者から出資を受けることをいい、旧商法においては、少数株主保護の観点から100%減資には株主全員の同意が必要との立場をとっていた。しかし、実際に株主全員の同意を得ることは困難であることから、会社法は2以上の種類の株式を発行する場合において、そのうち1つの種類の株式に全部取得条項を付すことにより、株主総会の特別決議で100%減資を行うことを可能とした。
具体的なスキームは以下の通り。
債務超過に陥っている普通株式のみを発行している取締役会設置会社であるA社が、B社の支援を受けて100%減資による事業再生を行う場合

①株主総会の特別決議により、発行済みの普通株式以外に、何らかの種類株式を定める定款の変更を行う。これは、全部取得条項付種類株式を発行するためには、2以上の種類の株式を発行する必要があるためである。なお、現実に発行する必要はないため、当て馬株式とも呼ばれる。
②株主総会の特別決議により、発行済みの普通株式に全部取得条項を付するための定款変更を行う。この場合、全部取得条項を付される当該種類の株主の種類株主総会の特別決議も必要である。
③全部取得条項付種類株式の取得のための株主総会の特別決議を行う(会社法171条、309条23項)。なお、取得対価は0円とする。
④B社を引受人とする総数引受けの第三者割当増資を行う。この場合、払込期日を資本減少の効力発生日としておく。
⑤株主総会の特別決議により減資を決議する(会社法447条、309条2項9号)。
⑥債権者保護手続を行う(会社法449条)。
⑦取締役会において、取得した全部取得条項付種類株式の消却を決議する(会社法178条)。
⑧出資の履行


また、100%減資は必ずしも資本金の減少や株式の消却を必要とするものではないことから、全部取得条項を付して旧株主から取得した全部取得条項付種類株式をB社に交付し、その全部取得条項を廃止する旨の定款変更を行うことにより、登録免許税等のコストを抑えることもできる。

取得した全部取得条項付種類株式をB社に交付した場合

①株主総会の特別決議により、発行済みの普通株式以外に、何らかの種類株式を定める定款の変更を行う。これは、全部取得条項付種類株式を発行するためには、2以上の種類の株式を発行する必要があるためである。
②株主総会の特別決議により、発行済みの普通株式に全部取得条項を付するための定款変更を行う。この場合、全部取得条項を付される当該種類の株主の種類株主総会の特別決議も必要である。
③全部取得条項付種類株式の取得のための株主総会の特別決議を行う(会社法171条、309条23項)。なお、取得対価は0円とする。
④種類株式の定めの廃止及び全部取得条項付種類株式を普通株式に変更するための定款変更を決議する。その際、効力発生日は取得日より後にしておく。
⑤取得した株式(自己株式)を、B社による総数引受けにより処分する。

①定款記載事項

a. 会社法171条(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)1項1号に規定する取得対価の価額の決定の方法。
b. 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件。
c. 発行可能種類株式総数

②定款記載例

(全部取得条項付種類株式)
第○条 当会社は、平成○年○月○日現在において発行済の当会社の普通株式について、その内容として、会社法第108条第2項第7号の定めを設ける。
2 当会社が全部取得条項付種類株式を取得する場合には、当会社の全部取得条項付種類株式1株の取得の引換えに、当会社の普通株式○○株を交付する。

(8)拒否権付株式(会社法108条1項8号)

 拒否権付株式とは、当該種類の株式を発行している株式会社は、株主総会(取締役会設置会社においては、株主総会または取締役会)において決議すべき事項につき、当該株主総会の決議のほか、当該種類株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議を必要とする旨の定めのある株式であり、黄金株とも呼ばれる。会社がこの種類株式を発行すると、株主総会や取締役会の決議事項について、その決議とは別に種類株主総会の決議をすることが要件となる。よって、当該種類株主にその事項について拒否権を与えたのと同じ効果がある。
 拒否権付株式については、東京証券取引所が、重要事項の決議において拒否権を発動することができる拒否権付株式の発行を、原則として認めない方針であるため、上場会社においてはその活用が難しく、その強力な効果から弊害が発生する場合も考えられる点に留意が必要である。
 拒否権付株式については、買収防衛策としての活用が考えられるほか、事業承継での活用が期待されている。例えば拒否権付株式を1株だけ発行し、これを事業承継者に割当てれば、定款に定めた重要事項についての拒否権、つまりは会社の支配権を1株の保有コストで得ることができる。また、事業承継はしたいが後継者の能力に不安をもっている経営者は、自らが当該拒否権付株式を保有し、他の種類の株式を承継すれば、引続き会社の経営に携わることができる。
 なお、拒否権付株式には譲渡制限や取得条項を付すなど、第三者に譲渡されないようにすることもできる。

①定款記載事項

a. 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
b. 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
c. 発行可能種類株式総数

②定款記載例

(拒否権付株式)
第○条 当会社が、次に定める事項についての決議をする場合には、株主総会または取締役会の決議に加え、甲種類株式の株主による種類株主総会の決議を必要とする
 ①取締役会の選解任
 ②定款変更

(9)役員選任権付株式(会社法108条1項9号)

 当該種類の株式の株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任する旨の定めのある株式である。なお委員会設置会社及び公開会社は発行することができない。また、当該種類の株式を発行している場合、取締役又は監査役の選任は、通常の株主総会では行わず、各種類株主総会において行われる。
 役員選任権付株式の活用方法としては、従業員に役員選任権付株式を付与し、役員の一部を従業員に選任させることにより、従業員のモチベーションを高めることなどが考えられる。ただし、この場合においても支配力が分散するのを避けるために、取得条項を付すなどトラブル回避のための対策をしておくべきである。

①定款記載事項

a.当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
b.上記aの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
c. 上記a又はbに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後の上記a又はbに掲げる事項
d. 上記に掲げるもののほか、会施規19条(種類株主総会における取締役又は監査役の選任)で定める事項
e. 発行可能種類株式総数

②定款記載例
(役員選任権付株式)
第○条 甲種類株主を構成員とする種類株主総会において、取締役○名及び監査役○名を選任する。