ファンド

不動産流動化で利用されるビークルとその特徴

総論

(1)不動産流動化においてビークルが利用される理由 

不動産の流動化スキームでは、投資家と不動産とを繋ぐ事業媒体(「器」もしくは「ビークル」と言われる。)が存在する。

このビークルは、社債の発行、借入および出資等により得られる金銭をもって不動産等の資産を取得し、その不動産等の資産の管理および処分により得られる金銭をもって社債や借入に係る債務を履行し、利益の配当や残余財産の分配を行うことを唯一の目的としているため、「特別目的会社」とか「SPC」(Special Purpose Companyの略称)と専門用語を用いて称される。

不動産の流動化スキームにおけるSPCの意義は、不動産の譲渡人であるオリジネーターと投資家の双方にとって次のようなメリットが存在する点にある。


① オリジネーター側のメリット

オリジネーターは所有不動産をSPCに真正売却して流動化することにより、例えば、以下のような効果を期待し、その達成を図っている。


a. 財務の改善

不動産の含み益や評価損の実現、オフバランス化(会計上の売却認識、非連結)、ならびに不動産の維持管理に係る費用の削減などの財務の改善を図ることができる。


b. リスクの回避

不動産の保有に伴う価額下落リスク、事故発生時の所有者責任リスクなどの諸リスクから解放される。


c. 不動産への継続関与

 不動産を利害の対立する第三者へ単純に売却した場合には、その不動産から生じる収益への参加や将来的な買戻しの権利を持つことは基本的にはできないだろう。しかしながら、SPCを使って流動化することにより、出資による収益参加や買戻し権の取得などの将来的なオプションを継続的に持つことが可能となる。


d. 低コスト資金調達の可能性

企業自体の借入コストが高いような場合には、特定の優良な不動産の価値と将来キャッシュフローのみをベースとした資金調達の方が低コストとなる可能性がある。さらに、後述の「トランチング」という手法により、加重平均調達コストも低めることができる。


②投資家側のメリット

投資家はSPCを介在して実質的に不動産の価値および将来キャッシュフローを目的とする投資を行うことにより、例えば、以下のような効果を期待し、その達成を図っている。


a. 倒産隔離(バンクラプシー・リモート)

SPCとそのSPCが真正売買により取得する不動産は、オリジネーターの倒産による影響を受けることなく、また、SPCの役員、株主、債権者(ただし、債務不履行時を除く。)から倒産の申立を受けない仕掛けがなされ、その結果、資産運用の安定化が図れる。


b. ノンリコース

オリジネーターの信用リスク、事業リスクなどを考慮する必要がなく、不動産の価値と将来キャッシュフローのみに着目して投資を行えばよく、リスクとリターンの明確化が図れる。


c. 税務導管体(タックスパススルー・エンティティ)

例えば、SPCが営業者として匿名組合を組成し、または特定目的会社として一定の要件の下で事業を行うことにより、SPCの段階と投資家の配当段階での二重課税を回避することができ、もって投資家の投資効率を高めることができる。


d. トランチング

SPCが発行する社債やローン等に関して複数階層の優先劣後構造を施すことにより、投資対象を低リスク低リターン商品のものから高リスク高リターン商品のものまでクラス分けすることにより、幅広い投資家のニーズに応えることが可能となる。


e. 機能の分解

不動産の管理運営やSPCの事務などの専門的機能を外部専門家へアウトソースすることで、業務の効率化が期待でき、同時にSPCは「器」に徹することで事務等に係るリスクの低減を図ることができる。

ビークルの種類と概要

我が国の法制度の下で存在する主なビークルの種類とその概要は以下のとおりである。

 

①任意組合

任意組合とは、民法に基づく組合で、各当事者が出資を行い、共同の事業を営む旨の合意を行うことによって成立する一定レベルの団体性を有する組織体であり、法人格を有さず、組合に出資された財産は各出資者の共有持分となり、通常、業務執行組合員が選定される(民法667条、668条、670条)。


②匿名組合

匿名組合とは、商法に基づく組合で、匿名組合員が営業者に出資をし、営業者がその営業から生ずる利益を組合員に分配する二者間の契約である。出資財産は営業者に帰属し、出資者は、利益分配請求権と出資金返還請求権を有する(商法535条、542条)。

       

③投資事業有限責任組合

投資事業有限責任組合とは、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に基づいて成立する組合契約である。民法上の任意組合との主たる相違は、(a)投資事業有限責任組合が事業への円滑な資金供給を促すとともにその成長発展を図ることを目的としているがゆえにその事業の範囲に制限があること、(b) 有限責任組合員がいることなどである。


④信託

信託とは、委託者が受託者に財産権の名義を移転させるとともに、管理処分権等を帰属させ、一定の信託目的に従って委託者本人等のために、受託者をしてその信託財産を運営させる法律関係である(信託法第1条)。


⑤特定目的会社

特定目的会社とは、SPCを利用した資産流動化取引が適正に行われることを確保するとともに、投資家の保護を図ることにより投資を容易にし、もって国民経済の健全な発展に資することを目的として制定された「資産の流動化に関する法律」に基づいて、設立される事業体である。特定目的会社には、一定の要件のもと、税負担の軽減措置が図られている。


⑥有限責任事業組合(LLP)

有限責任事業組合とは、平成17年5月に成立した「有限責任事業組合契約に関する法律」に基づく組合で、各当事者が出資の全部を履行し、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約することにより、成立する組合契約である。民法上の任意組合との主たる相違点としては、有限責任組合員のみで構成され、組合員全員に業務執行への参加が強制される点などがある。


⑦合同会社(GK)

合同会社とは、平成17年6月に成立した「会社法」により新設された会社類型で、会社の内部関係については組合的規律が適用され、有限責任社員のみからなる法人である。機関設計や社員の権利など広く定款自治が認められている。


 

不動産流動化において利用される主なビークル

 オリジネーターが所有不動産を流動化して資金調達を行おうとするときに、スキームとともに流動化のビークルとしてどのような法形態のものを選択するかについても検討が行われる。その際、一般に次のような実務上の観点が考慮される。


①SPCとして法的安定性が高いこと。

②SPCの税務上の導管性が確保されること。

③SPCの設立にあたっての元手や事務コストができるだけ低減されること。

④SPCの組織が簡便である等により維持運営に係るコストができるだけ低減されること。

⑤SPCとの不動産取引に係る税務コストができるだけ低減できること。

⑥行政面の手続き(届出、認可等)などの負担が少ないこと。


 結果的には、これまでの国内における不動産流動化スキームの多くは、流動化のビークルであるSPCを有限会社として設立し、当該有限会社が営業者として不動産(正確には不動産信託受益権)の購入、管理および処分等の営業を行うため匿名組合員から出資を受け入れ、かかる営業から生じる利益もしくは損失を匿名組合員に分配することを目的とする匿名組合契約を投資家との間で締結するスキーム(所謂TK-GKスキーム)が採用されてきた。有限会社の持つ簡便な組織の許容性や会社更生法が適用されないという側面が好まれ、税務の導管性を図るため匿名組合との併用スキームが組成されたわけである。さらに、不動産取引に係る税務コストの軽減を図るべく不動産について管理処分目的の信託設定が行われ流動化対象を不動産信託受益権とするスキームが一般化してきたわけである。

ところが、この度の会社法の制定により、有限会社制度は株式会社制度に統合され廃止されることとなった。この結果、会社法の施行以降は有限会社に代替するビークル、あるいは所謂TK-GKスキームに代わるスキームが必要になってくる。

本章では、有限会社制度が廃止された後もビークルとしての利用が継続されるものと思われる特定目的会社、匿名組合および信託を、また、会社法や「有限責任事業組合契約に関する法律」の制定により新たな会社類型として創設された有限責任事業組合(LLP)および合同会社(GK)を取り上げ、それぞれの特徴と不動産流動化ビークルとしての適応性についての若干の考察などを以下に述べてみたい。

なお、これまでも有限会社の代りに株式会社を用いて匿名組合と併用した所謂TK-KKスキームも、比較的少ないものの、組成されてきた。今回、会社法に基づく株式会社を取り上げることとはしないが、①最低資本金制度が撤廃され(ただし、資本金の額にかかわらず、純資産額が300万円未満の場合には株主への配当ができない。)、②取締役1名(取締役会の設置不要)の組織を許容するなど機関設計の柔軟性も図られ、③事後設立における検査役の調査制度が廃止されるなど、改正前商法に基づく株式会社と比較してSPCとして利用しやすくなっている側面も少なくない。ただし、大型案件であるがために大会社に該当するような場合には内部統制システムの構築が義務づけられるなど、SPCとしての利用が現実的か課題の残る面もあろう。

特定目的会社

(1)総論

特定目的会社とは、証券化の裏付けとなる資産を譲り受け、それに見合う証券を発行するために、「資産の流動化に関する法律」(なお、平成17年6月に会社法と共に成立した会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律により改正が行われた。以下「資産流動化法」という)により、設立される会社である。特定目的会社は、その設立目的より資産流動化業務以外の業務が禁止され、以下の主たる特徴を有する。


① 業務開始のための「業務開始届出」を「資産流動化計画」とともに、内  閣総理大臣に提出する(資産流動化法第45条)。

② 特定資産を原則として、信託会社に信託しなければならない(資産流動化法第200条1項)。また、特定資産を貸付、譲渡等することが禁止される(資産流動化法第213条)。

③ 特定目的会社においてよる取得が禁止される資産がある(資産流動化法第212条1項)。代表的なものとして、組合契約の出資の持分、匿名組合契約の出資の持分、金銭の信託受益権等がある。

④ 特定目的会社の資金の借入、資金の運用に制限がある(資産流動化法第210条、第211条、第214条)。


(2)特定目的会社の法的な特徴

①特定社員と優先出資社員

特定目的会社の社員には、特定社員と優先出資社員(ただし、優先出資を発行する場合に限る。)の二種類が存在するによる二重構造になる。いずれも有限責任であるが、前者が議決権をもつのに対し、後者は議決権が資産流動化法または定款に別段の定めがある一定の重要な事項に制限されるが、利益配当、残余財産の分配に関し特定社員に対し優先する権利権を有するもつ。


②特定社債券と優先出資証券、特定約束手形

特定社債とは、特定目的会社が資産流動化法の規定により発行する社債であり、特定目的会社は、一つの資産流動化計画において、種類、発行時期の異なる特定社債を発行できる(資産流動化法第2条、第206条)。

優先出資証券とは、特定目的会社が優先出資につき、資産流動化法の規定により発行する出資証券をいう(資産流動化法第48条)。当該証券の保有者は、優先配当を受けとることになる。

特定約束手形とは、特定目的会社が資産流動化法の規定にしたがい発行する約束手形をいう。特定約束手形を発行するためには、これが特定資産を取得するために必要な資金調達であること、発行限度額が定められている等の一定の要件を満たす必要がある(資産流動化法第205条)。


③社員総会

特定目的会社の社員総会には、優先出資社員が存在しない「第一種特定目的会社」と、優先出資社員が存在する「第二種特定目的会社」とに分類されるがある。また、決議議案は次の2つに分類される(資産流動化法第51条)。


a. 無議決権事項

ア.第一種特定目的会社の社員総会が会議の目的とすべき事項

イ.第二種特定目的会社の社員総会が会議の目的とすべき事項のうち、優先出資社員が議決権を有しない事項


b. 有議決権事項

第二種特定目的会社の社員総会が会議の目的とすべき事項のうち、優先出資社員が議決権を有する事項


④会計監査人

特定目的会社は、毎決算期に、貸借対照表、損益計算書、営業報告書(会計に関する部分に限る)、利益の処分又は損失の処理に関する議案、及び附属明細書(会計に関する部分に限る)について監査役及び会計監査人の監査を受けなければならない(資産流動化法第87条、第91条)。


(3)特定目的会社を利用した流動化スキーム

特定目的会社を利用した代表的スキームは、以下のとおりである。




 実際のスキームにおいては、資産の原所有者がその資産を信託銀行に信託(自益信託)し、これにより取得する「信託受益権」を特定目的会社に譲渡するケース形が多い。これは、対象資産を信託会社の債権者は、信託財産に対する強制執行を禁止されているという信託財産の独立性が保証されることに加え、別紙のような、税務上のメリットを享受できるためである。信託することにより委託者からも受託者からも独立した財産を作り出すことができること、ならびに不動産取得税および登録免許税を軽減することができることなどの理由によるものである。




(4)特有の会計処理及び開示

特定目的会社では、計算書類等は、「特定目的会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書および附属明細書に関する規則」に準拠して作成されなければならない(資産流動化法第102条)。当該規則の主な特徴点は、以下のとおりである。

①金額単位

千円単位(会計監査人設置会社は、百万円単位)

①②資産の部の表示

資産の部は特定資産の部とその他の資産の部に区分する。


② 自己の特定持分又は自己の優先出資

自己の特定持分又は自己の優先出資は、流動資産の部に特別の科目を設けて記載しなければならない。


③減価償却累計額

2以上の科目について一括記載が認められない。

④親会社株式

独立表示しない。

③⑤繰延資産

優先出資発行費

優先出資を発行したときは、その発行のために必要な費用の額は、貸借対照表の資産の部に計上することができる。この場合において、その発行の後三年以内に毎決算期において均等額以上の償却をしなければならない。

商法施行規則と区分が異なる

④特定社債発行費

特定社債を発行したときは、その発行のために必要な費用の額は、貸借対照表の資産の部に計上することができる。この場合において、その発行の後三年以内(三年以内に特定社債償還の期限が到来するときは、その期限内)に毎決算期において均等額以上の償却をしなければならない。

⑥資本の部

特定資本金と優先資本金を区分

⑦⑤特定社債発行差金

特定社債権者に償還すべき金額の総額が特定社債の募集によって得た実額を超えるときは、その差額は、貸借対照表の資産の部に計上することができる。この場合において、特定社債償還の期限内に毎決算期において均等額以上の償却をしなければならない。法定準備金


⑥負債の部

負債の部の流動負債及び固定負債の各部は、営業未払金、支払手形、特定約束手形、特定社債、特定目的借入れその他の負債の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければならない。


⑦資本金の部

資本金の部は、特定資本金と優先資本金とを区分して記載しなければならない。概念なし

⑧1株あたり利益

注記不要

⑨自己株式、借入金、社債

特定を明示

⑩資本金

優先資本金と特定資本金に区分


 特定目的会社の貸借対照表、損益計算書またはその要旨は、公告することとされている(資産流動化法第104条5項)。


 なお、日本公認会計士協会は、業種別監査委員会報告第12号及び31号において、「特定目的会社の計算書類の様式及び監査報告書の文例」を公表している。


(5)特定目的会社の税務


 特定目的会社は資産流動化法に基づいて設立された内国法人であり(資産流動化法第13条1項)、法人格を有することから、法人課税の対象となる(法人税法第4条)。しかし、国内において資産の流動化を促進するという資産流動化法の趣旨に鑑み、下記のような税制上の特典が認められている。


①法人税

a. 支払配当の損金算入(租税特別措置法第67条の14)

支払配当は利益処分項目であることから損金不算入として扱われるのが通常であるが、特定目的会社が支払う利益配当金については、下記の別紙要件を満たすものに限り、当該事業年度の特定目的会社の課税所得の計算上、損金に算入できる。


支払配当の損金算入要件



特定目的会社に関する要件      

(以下全て)  

  ①特定目的会社名簿に登録されていること  

  ②次のいずれか  

  A 特定社債券の発行が公募で1億円以上  

  B 特定社債券の引受けが適格機関投資家のみ  

  C 優先出資証券の引受けが50人以上  

  D 優先出資証券の引受けが適格機関投資家のみ  

  ③発行した特定社債券及び優先出資証券の募集の50%超が国内で行われる

  ④営業年度等の月数が1年を超えない  



事業年度に関する要件      

(以下全て)  

  ①資産流動化業務を資産流動化計画に従って行っている

  ②他の業務を行っていない

  ③特定資産を信託財産として信託しているか、又は特定資産の管理及び処分に係る業務を他の者に委託している

  ④事業年度終了時に、同族会社に該当しない

  ⑤配当可能所得の90%超を配当している

  ⑥その他政令で定める要件を満たしている


b. 土地重課

特定目的会社が土地の譲渡等をした場合、一定要件を満たすものについては、土地重課の課税はない。一定の要件とは、上記の支払配当の損金算入の要件のうち、特定目的会社の事業年度の要件(90%の配当要件を除く)をいう。

c. 受取配当等の益金不算入の不適用適応(租税特別措置法第67条の14第2項)

特定目的会社は、一定の条件を満たせば支払配当を損金に算入することから、いわゆる二重課税の問題は発生しない。よって、特定目的会社においては、受取配当につき受取配当の益金不算入の規定(法人税法第23条)を適用することはできない。

d. 中小企業の軽減税率の不適用(租税特別措置法第67条の14第2項)

特定目的会社の資本金が1億円以下であっても、年間800万円以下の所得に対する当該軽減税率(22%)の適用はない。

e. 外国税額控除(租税特別措置法第67条の14第2項)

特定目的会社の所得のうち国外源泉所得がある場合、外国税額控除の適用がある。控除限度額の算定で使用する所得は、支払配当損金算入前の所得ものである。なお、適用されるのは直接税額控除のみである。

f. 中小企業等の貸倒引当金特例の不適用適応(租税特別措置法第67条の14第3項)

特定目的会社が貸倒引当金繰入限度額を算定するにあたり、中小企業等の当該貸倒引当金繰入限度額の算定の際に用いられる法定繰入率を用いることはできない。限度額の割増規定は、特定目的会社には適用されない。

g. 交際費の損金不算入(租税特別措置法第67条の14第3項)

特定目的会社には、資本金基準による損金算入規定が適用できない。

h. 運用財産等に係る利子等の課税の特例(租税特別措置法第9条の4)

特定目的会社が所有する一定の有価証券の運用利子、配当については、源泉徴収が不要とされている。


②その他の税金

  a. 登録免許税(登録免許税法別表第1第19の2、第83条の4第1項)

    特定目的会社の設立登記に係る登録免許税は、一律3万円とされている。

    特定目的会社が不動産を取得した場合の移転登記の場合の登録免許税は、取得後1年以内に登記を行うものに限り、一定の要件のもと、(不動産取得税と同様)税率 0.6%に軽減される。

  b. 不動産取得税(地方税法附則第11条第102項、地方税法施行令第7条6項)

    特定目的会社が不動産を取得した場合には、次の条件を満たす場合ことにより、課税標準たる不動産価格を3分の1とすることができる。

    1.資産対応証券を発行する旨が資産流動化計画に記載。

    2.特定不動産割合が、75%以上とすることを流動化契約書に記載。

    3.借入は、特定出資者からのものではないこと。適格機関投資家からのものであること。

    4.特定不動産割合が、75%以上であること。

  c. 特別土地保有税(地方税法附則第31条の2の2第1項)

    上記の不動産取得税の特例を受けた場合、特別土地保有税も課されない。なお、特別土地保有税は、2003年以降、課税されないこととなっている。


(6)投資家の税務

①現物出資(租税特別措置法第67条の14第5項)

投資家が、適格現物出資により特定目的会社を設立した場合、資産、負債の簿価による移転は認められない。

②受取配当金、受取利息の源泉税

  受取配当金、受取利息に源泉税(20%)が課されるのは、通常の投資の場合と同じである。ただし、日本の居住者が受取る配当について、配当控除は適用されない。また内国法人が受け取る配当について、受取配当等の益金不算入の適用はない。

③優先出資証券、特定社債券の譲渡

  出資者が法人の場合、譲渡損益は通常の課税所得となり、法人税、地方税の課税対象となる。

  出資者が個人の場合、譲渡益に対し、申告分離課税(所得税15%、地方税5%)となる。ただし、特定社債券の譲渡益は非課税となる。

匿名組合 


(1)匿名組合の概要

匿名組合契約とは、当事者の一方が相手方の営業の為に出資をなし、その営業により生じる利益を配分すべきことを約する契約であり、商法535条以下において規定されている。匿名組合は、資金力のある資本家と有能な経営者が相互に結びつくことを予定した事業形態である。匿名組合においては、匿名組合員が営業者に対して出資を行い、その資金を元手に有能な経営者が営業者としての一切の営業活動を行い、その営業活動の結果として獲得される利益は匿名組合員に配当という形で分配される。匿名組合契約の契約主体は営業者と匿名組合員であり、3名以上の当事者の存在は認められておらず、その意味で団体性が認められていない。匿名組合契約は、営業者と匿名組合員による二者間の契約であることから、匿名組合契約が複数存在しても、組合員相互間の匿名性は保たれ、匿名組合員相互間に何ら法律関係は生じることはない。




匿名組合は法的には営業者の単独企業であり、匿名組合員の出資による財産は営業者のみに帰属する(商法536条1項)。民法上の任意組合と異なり、各組合員が出資した財産は組合員の共有とはならない。営業者のみが営業の運営にあたり、法的には匿名組合員には自ら業務を執行する権限がなく、匿名組合員は営業者の行為について第三者に対し権利義務を有していない(商法536条3、4項)。また、現物出資を行うことが可能であるが、労務による出資は認められていない。匿名組合員は法人でも個人でも、民法上の任意組合でもよく、商人でも非商人でも構わない。営業活動の結果、損失額が出資額を超えた場合、特約がない限り匿名組合員は出資額を上限とし、匿名組合員が出資額を超えて損失の負担を分担することはなく、その意味において、匿名組合員の有限責任が保たれている。


(2)匿名組合を利用した流動化スキーム


①TK-GKスキーム

国内における不動産流動化スキームのこれまでの多くは、流動化のビークルであるSPCを有限会社として設立し、当該有限会社が営業者として不動産もしくは不動産信託受益権(後述)の購入、管理、運用および処分等の営業を行うため匿名組合員から出資を受け入れ、かかる営業から生じる利益もしくは損失を匿名組合員に分配することを目的とする匿名組合契約を投資家との間で締結するスキーム(以下「TK-GKスキーム」という)である。


TY-GKスキームにおいて匿名組合が利用される主な理由としては、①匿名組合員が有限責任であること、②営業者であるSPCの段階で課税せず、匿名組合員に直接課税することにより二重課税を回避することなどが挙げられ、また、有限会社が利用される主な理由としては、①最低出資金が比較的少額(300万円)であること、②機関設計が簡便であること(取締役が1名でよい等)、③株式会社でないがゆえに会社更生法の適用を受けないことなどが挙げられる。

また、TK-GKスキームにおいては、オリジネーターが不動産を信託(自益信託)し、これにより取得する信託受益権をSPCに譲渡する形をとるのが一般的である。不動産そのものを譲渡するのではなく信託受益権という形に転換してから譲渡する理由として、信託設定することにより委託者からも受託者からも独立した財産を作り出すことができること、ならびに不動産取得税および登録免許税を軽減することができることなどが考えられる。不動産取得税および登録免許税については、信託受益権の譲渡は不動産の譲渡に該当せず、あくまで受益権の譲渡であると捉えられ、その経済的効果を実現するために信託受益権の譲渡という形をとることが一般的である。

オリジネーターがSPC(有限会社であり、匿名組合の営業者でもある)に対して不動産信託受益権を譲渡するのに対し、SPCは、この譲渡代金の支払いに必要な資金を調達するため、投資家に対してかかる不動産信託受益権を裏付けとする証券を発行するか、若しくは借入金により資金調達を行う。また、SPCは匿名組合契約に基づき匿名組合員から出資を受けるが、オリジネーター自身が匿名組合員として出資をしているケースもある。そのようなケースにおいては会計上の論点として、オフバランスの可否やSPCの連結の要否についての検討する必要がある。

ところで、会社法の制定により、有限会社制度は株式会社制度に統合され廃止されることとなった。この結果、会社法の施行以降は、国内の不動産流動化スキームにおいて、前述のTK-GKスキームに代わるスキームの構築、もしくは有限会社に代わるビークルが必要となる。

なお、会社法の施行時に旧有限会社法の下で既に設立されている有限会社については、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「会社整備法」という)により、実質的には従前の有限会社とほぼ同様の規律の適用を受ける会社として存続することが認められている(会社整備法2条~44条)。かかる会社は、株式会社との誤認を避けるため、その商号の中で「有限会社」を継続使用することが求められ(会社整備法3条1項)、会社整備法において、特例有限会社と定義されている(会社整備法3条2項)。したがって、会社法の施行前にTK-GKスキームで既に設立、使用されている有限会社は従前の規律を実質的に維持したまま使用することは可能である。なお、特例有限会社は社債を発行することができる(会社整備法第一章二節に会社法第四編「社債」の規程を除外する規定がない)。これは、会社法においては持分会社も社債を発行することができることから、このこととの均衡上、特例有限会社のみを除外する理由もないための措置とされている。

ただし、特例有限会社は、会社法に定める株式会社であることから(会社整備法2条1項)、会社更生法の適用は受けるものと考えられる(会社更生法1条)。


②TK-GKスキームにおける匿名組合と破産

匿名組合においては、営業者または匿名組合員の破産は匿名組合契約の終了原因とされている(商法541条3項)。匿名組合の財産は営業者に帰属する(商法536条1項)ことから、営業者が破産したときは、当然に営業者の財産は全て破産財団とされ、その管理は破産管財人に専属される。この場合、匿名組合員は出資払戻請求権を破産債権として有することとなり(出資が未払いの場合を除く)、全ての匿名組合員と営業者との契約が終了することとなる。

一方、匿名組合員が破産した場合、当該匿名組合員の組合への出資払戻請求権は破産財団に組込まれ、配当の原資とされる。匿名組合員のうちの一人が破産した場合には、当該匿名組合員と営業者との契約のみが終了することとなり、他の匿名組合員と営業者の契約に何ら影響を及ぼすものではない。

ただし、匿名組合員の破産を原因として、営業者がかかる匿名組合契約を終了し、出資を匿名組合員に返還する義務を負う場合、当該出資の金額が多額のときは、その返還すべき金銭を捻出するため、営業者が行う事業について影響を及ぼす可能性が生じうる。かかる事態を想定し、TK-GKスキームにおける匿名組合契約においては、一般に、営業者の匿名組合員に対する出資の返還債務その他匿名組合契約に基づく一切の支払債務を、営業者の匿名組合員以外の第三者に対する現在および将来の一切の債務(社債や借入金に係る債務を含む。)の履行に劣後させ、かつ、かかる劣後債務は、その上位の一切の債務が全額弁済されることを条件としてその条件が成就したときに効力を生じる措置がとられている。


(3)匿名組合特有の会計処理および開示


①特有の会計処理

a. 匿名組合の会計

我が国においては、法令として匿名組合に関する固有の会計規定が定められていない。ただし、匿名組合の営業者は商人であることから、商法32条の規定に従い、営業上の財産および損益の状況について明らかにするために会計帳簿および貸借対照表を作成する必要があり、その作成にあたっては、一般に公正妥当と認められる会計慣行に準拠することとされている。

また、匿名組合においては、匿名組合員に対して利益または損失の分配を行う必要があることから、一般的に営業者の貸借対照表とは別個に匿名組合の貸借対照表、損益計算書及び利益分配計算書が作成される。また、実質課税の原則の観点から匿名組合段階での課税は行われないが、匿名組合員への配当に対しては課税が行われることから、各匿名組合員への配当額およびその根拠を明らかにするためにも、一般的にこれらの計算書類が必要とされる。

匿名組合は法的には営業者の単独企業であり、その財産は営業者のみに帰属し匿名組合員の共有とはならない。したがって、営業者にとおいては匿名組合員からの出資は会計上預り金として処理される。匿名組合の会計は、営業者の会計と匿名組合の会計の2つから成り立っており、匿名組合の会計は営業者の会計の一部を構成すると解される。


b. 利益の分配

匿名組合員は営業者に対して出資金の返還請求権および利益分配請求権を有している(商法535、542条)。営業者は匿名組合員に対して利益を分配する義務を負うが、その分配割合は契約により定められ、別段の定めがない場合は匿名組合員の出資割合に応じて配分すると解されている。

匿名組合において損失が発生し、出資額が減少している場合においては、匿名組合員はその損失を補填した後でなければ利益の分配を受けることができない(商法538条)。損失の分担については、契約の定めるところによるが、特段の定めがない場合は、匿名組合員の出資割合に応じて配分すると推定される(民法674条2項)。


②開示

匿名組合の会計慣行として一般的に、貸借対照表、損益計算書、利益分配計算書または損失分配計算書が作成される。


(4)匿名組合の税務の概要

匿名組合は税務上法人とみなされる人格のない社団等に含まれず、法人格を有しないことから、匿名組合に法人税が課されることはなく、匿名組合は税務上導管体として取り扱われる。したがって、組合段階での所得に関しては課税が行われず匿名組合員に配当された段階で課税される。利益だけでなく基本的には出資の範囲内で損失の分配も可能であることから、投資家はタックスメリットを享受することができる(租税特別措置法67条の12を参照)。

一方、匿名組合の営業者は、事業収益から費用を差し引いた額を純損益として算定するが、その額から匿名組合員に分配すべき利益または損失の額を控除した額をもって、営業者の当該事業年度の益金の額または損金の額に算入し、課税所得を計算する。

匿名組合員が10人未満の場合には、利益の分配にあたり源泉徴収は行われないが、10人以上の場合には利益の分配にあたり20%が源泉徴収される。また、匿名組合員が非居住者または外国法人である場合、原則として利益の分配にあたり20%の源泉徴収が行われる。

匿名組合の事業に属する資産の譲渡等または課税仕入れ等については、営業者が単独で行ったこととして取り扱われ、営業者が納税義務者となる(消費税基本通達1-3-2)。


有限責任事業組合(LLP)


(1)LLPの意義について

我が国において、株式会社を利用して共同事業を行うことは従前より一般に行われてきた。しかしながら、株式会社の場合、出資者の責任は有限ではあるものの出資者の利益配当や議決権の配分については出資金額に比例して行われ、その知識や技術・ノウハウなどの人的貢献を反映することができない。また、税制面に関しても、株式会社というビークルに対して法人課税がなされる上、出資者への配当にも課税が行われる。法人段階で損失が発生したとしても、この損失は出資者に帰属しないため出資者が他の所得と通算して税負担の軽減を図ることができない。

また、共同事業を民法上の組合(以下「任意組合」という)を組成して行う場合もある。任意組合の場合は、出資額とは関係なく利益を出資者の貢献に応じて自由に決めることができ、かつ、構成員課税の適用を受けることができることからタックスメリットを享受できるものの、出資者は無限責任を負わなければならない。

そこで、①出資者が有限責任で、②出資者への利益と権限の配分を知識、技術・ノウハウ等の人的貢献に応じて決められる内部自治が許容され、かつ、③ビークル段階と出資者段階での二段階課税を回避し税負担の軽減が図れる構成員課税となる3つの特徴を兼ね備えた仕組みを可能とする事業媒体の創設が待たれていた。

そのような背景のもとで、出資者の有限責任制、内部自治、構成員課税という3つの特徴を備えた事業媒体の設立を可能とするため、「有限責任事業組合契約に関する法律(以下「LLP法」という)」が制定され、平成17年8月、我が国に有限責任事業組合(以下「LLP」という)制度が創設されたのである。以下、LLPの特徴について述べる。


(2)LLPの法的な特徴


①組合員の要件と責任

LLPの組合員は、個人または法人であれば特に要件は限定されていないが(LLP法3条1項)、最低一人(一社)の組合員は、居住者(国内に住所を有し、または現在まで引続き一年以上居所を有する個人)または内国法人(国内に本店または主たる事務所を有する法人)である必要がある(LLP法3条2項)。

LLPにおいては、組合員は有限責任でありその出資額の範囲までしか組合の債務の弁済義務を負わない(LLP法15条)。よって、組合員の全員が無限責任を負う任意組合と異なり、LLPにおいては組合員の負担するリスクがその出資額に限定され、投資家の立場からすれば出資が容易となった。


②債権者保護

 LLPにおいては、全ての組合員が有限責任であり組合員のリスクが限定されていることから、取引の相手方、債権者が負担するリスクとの公平を図るため、以下の債権者保護の仕組みが図られている。


a. .登記の義務付け

LLP法においては、LLPの事業、名称、事務所の所在場所、組合員の氏名・名称および住所、組合契約の効力発生時期、存続期間、組合員が法人である場合は同法第19条に基づき当該組合員の職務を行うべき者として選任された者(以下「職務執行者」という)の氏名および住所、その他の一定の事項の登記が義務づけられており、これらの登記事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない(LLP法8、57条)。これは、組合と取引をする債権者に対して、組合契約の内容を公示することにより、第三者の取引の安全を保護することを趣旨とする規定である。


b. 名称の使用制限

LLPと他の法人格等との名称を峻別するために、名称中に「有限責任事業組合」という文字を用いなければならず、組合でないものは、何人もその名称中にかかる文字を用いてはならない(LLP法9条)。


c. 財務諸表の開示義務

LLPは財務諸表を作成し、主たる事務所に、一定期間、備え置くことが義務づけられている(LLP法31条4項)。また、組合契約書についても同時に備え置かなければならない(LLP法31法5項)。そして、組合の債権者は、当該組合の営業時間内はいつでも、財務諸表(作成した日から5年以内のものに限る。)および組合契約書について、閲覧または謄写の請求を行うことができる(LLP法31条6項)。


d. 組合財産の確保

LLP契約は、組合の財産的基礎を確保するため、各組合員がそれぞれの出資に係る払込みまたは給付の全部を履行することによって、その効力を生ずるものとし、出資の全額払込みを要求している(LLP法3条1項)。また、出資は金銭その他の財産に限定され、客観的評価の難しい労務や信用の出資は認められていない(LLP法11条)。


e. 分別管理義務

組合員は、組合財産を自己の固有財産および他の組合の組合財産と分別して管理することを義務づけられている(LLP法20条)。これは、LLPには法人格が無いため組合員固有の財産と組合財産とが混在するが、これらが区別できない状態で管理されていると、万一、組合員が組合員固有の債務不履行を原因として強制執行されたときに、組合財産まで取り込まれるリスクが生じうることから、これを防止することを趣旨としている。


f. 組合員固有の債務に対する債権者による組合財産への強制執行等の禁止

 LLPの組合財産となる前の原因により生じた権利およびLLPの業務に関して生じた権利に基づく場合を除き、組合財産に対して強制執行、仮差押えもしくは仮処分をし、または組合財産を競売することはできず、これに違反してなされた強制執行、仮差押え、仮処分または競売に対しては、組合員は異議を主張することができる(LLP法22条1、2項)。これは、組合員固有の債務に対する債権者が組合財産に対し強制執行等を行うことができないことを明記し、かかる債権者から組合財産を守ることを趣旨としている。


g. 組合財産の分配規制

 LLPの組合財産の分配に一定の制限を設けることにより、その債権者に対する責任財産の最低限の維持が図られており、さらに、かかる制限に違反して分配を受けた組合員は、連帯して、その分配額に相当する金銭を組合に対し支払う義務を負い、または組合の債務を直接弁済する責任が生じる。なお、分配規制の詳細については、「(3)LLP特有の会計処理および開示」の「①特有の会計処理」、「a.損益の分配」の項において後述する。


h. 組合員等の第三者に対する損害賠償責任

組合の業務に関して第三者に損害が生じたときは、組合員は、組合財産をもって当該損害を賠償する責任を負う(LLP法17条)。また、組合員または職務執行者(以下「組合員等」という)が自己の職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該組合員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負い、他の組合員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする(LLP法18条)。


③内部自治

LLPにおいては、重要な意思決定の全員一致、業務執行への全員参加が共同事業要件として強制されるが、この要件を満たす範囲で各組合員の業務分担や権限は柔軟に決定できる。すなわち、業務分担や権限については、組合員全員の合意の上、LLP契約、または契約の詳細事項を決める組合員間の規約などで定めることもできる。任意組合と同様に、監視機関の設置が義務づけられていない。

LLPにおける組合員間の損益分配は原則出資比率に応じて行われるが、特段の定めがある場合には、労務や知的財産、ノウハウの提供などの組織への貢献度を勘案して、出資比率と異なる損益分配を行うことができるとされている。


④構成員課税

我が国の法人税の規定にしたがえば、法人格を有する場合には法人課税が行われることが原則となり、その後、利益が配当として出資者に分配される段階で課税が行われることから二重課税が生じてしまう。

これに対し、LLPは法人格を持たないうえ、損失の取り込みだけを狙った租税回避を抑止することに鑑みて共同事業性の確保を図り、もって、LLPの段階では課税せずに組合員に対して直接課税する構成員課税が認められている。


⑤業務の執行

LLPにおいては、組合員全員の同意により業務執行の意思決定を行わなければならない。ただし、重要な財産の処分および譲受け、ならびに多額の借財以外の事項については、LLP契約において組合員全員の同意を要しない旨を定めることが可能である(LLP法12条1項)。なお、重要な財産の処分および譲受け、ならびに多額の借財に係る事項の決定要件についても、一定の場合には、総組合員の三分の二まで軽減することはできる(LLP法12条2項、同施行規則5項)。そして、組合員は、上記の決定に基づいて、組合の業務執行の権利義務を有する。また、組合員はLLPの業務執行の一部のみを委任することができるが、債権者保護の観点から、組合員の組合の業務を執行する権利に加えた制限は善意の第三者に対抗することができない(LLP法13条)。

LLPは、LLP契約に基づいて、組合員全員がそれぞれの個性や能力を生かして共通の目的を持って主体的に組合事業に参画するというニーズに対応して導入された制度であり、これらの規定はこうした共同事業性を確保するために設けられた要件である。なお、こうした共同事業要件は、損失の取り込みだけを狙った租税回避目的の濫用を防止する効果もある。


⑥財産の分割の禁止

LLPにおいては、組合財産が組合員全員の合有財産となる。ここで、合有とは、組合における財産の共有形態のことで、合有財産の場合、通常の共有と異なり、組合員はこれを自由に分割したり持分を処分したりすることができない(民法676条)。

また、LLP法においては、組合財産の安定性を高めるための措置として、組合財産を組合員固有の債務に対する債権者が差押え等を行うことができないこととしたうえ、組合財産が不動産に関する権利である場合には、民法676条第2項(組合財産の分割禁止)の規定に拘わらず、共有物分割禁止の定めの登記をしなければ、清算前に当該組合財産について分割を求めることができないことを第三者に対抗できないこととし、登記制度上、共有物不分割の登記を導入した(LLP法74条)。


(3)LLP特有の会計処理および開示


①特有の会計処理

LLPの会計は、法律および経済産業省令の規定によるほか、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行にしたがい(LLP法28条)、組合員は、組合成立の日の貸借対照表、毎事業年度の貸借対照表、損益計算書および附属明細書の作成と事務所での備え置き、ならびに債権者の求めに応じた開示が義務付けられている(LLP法31条)。以下、LLPの会計の特徴について述べる。                                                                                                               


a. 損益の分配

損益分配については組合員全員の同意により出資比率とは異なる割合によりこれを行うことができる(LLP法33条)。この場合、LLP法施行規則で定められた「様式第一」により書面を作成し、組合員全員の署名または記名押印が必要である。当該書面を電磁気録によって作成する場合は、電子署名または記名押印に代わる措置を行う必要がある。LLP契約書において組合員の損益分配の割合に関する別段の定めをする場合には、上記に拘わらず、当該契約書に組合員の出資の割合、組合員の損益分配の割合およびその理由、ならびに当該損益分配の割合の適用開始の年月日がLLPの効力発生日と異なる場合における当該適用開始の年月日を記載し、組合員全員の署名または記名押印があれば足りる。ただし、上記の組合員の損益分配の割合の理由は、組合員の出資の割合と異なる損益分配の割合を定める理由および当該損益分配の割合の合理性を明らかにする事由を含むものでなければならない(LLP法施行規則36条)。

これらの措置によって、LLPでは労務や信用の出資は認められていないものの、組合員全員の合意があれば出資者の労務を考慮した損益の分配を行うことができる。なお、税務上の問題として、経済的合理性を欠く損益の分配については否認されるおそれがあるので注意が必要である。

また、上記のとおり損益の分配を自由に行うことができるが、債権者保護の観点から、組合財産をその分配の日における分配可能額を超えて分配することはできないことなどの財産分配の制限がある(LLP法34条)。ここで、分配可能額とは、その分配の日における純資産額から300万円(組合員による出資の総額が当該額に満たない場合には、組合員による出資の総額)を控除する方法により算定される額のことをいう。

なお、分配した組合財産の帳簿価額がその分配の日における分配可能額を超える場合には、当該分配を受けた組合員は、組合に対し、連帯して、分配額に相当する金銭を支払う義務を負い、当該分配を受けた組合員は分配額が分配可能額を超過した額(上記の組合に対する支払義務を履行した額を除く)を限度として、連帯して、組合の債務を弁済する責任を負うこととされている(LLP法35条)。

また、組合員が組合財産の分配を受けた場合において、当該分配を受けた日の属する事業年度の末日に欠損が生じた場合、当該分配を受けた組合員は組合に対して連帯して当該欠損額を支払う義務を負い(ただし、組合員が組合財産を分配することについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、かかる義務を負わない)、または、当該欠損額(上記の組合に対する支払義務を履行した額を除く)を限度として、連帯して、組合の債務を弁済する責任を負う(LLP法36条)。


b. 財産の評価

 LLPの会計帳簿に付すべき財産に付すべき価額については、商法施行規則の定めによる(LLP法施行規則7条)。


c. 金銭以外の財産による出資の評価

 現物出資を行う場合、出資の価額としてその財産の市場価額(市場価額がない場合は一般に合理的と認められる評価慣行により算定された価額)を付さなければならない。ただし、市場価額がなく、一般に合理的と認められる評価慣行が確立されていない財産については、出資の価額として、その財産を出資する者の直前におけるその財産の適正な帳簿価額または会計帳簿上その財産が存在することを示す備忘価格を付すものとされている(LLP法施行規則8条)。


d. 金銭以外の組合財産の分配を行う場合の分配額の算定方法

金銭以外の組合財産を組合員に分配する場合には、分配金の価額として、その組合財産の市場価額を付さなければならない。ただし、市場価額がなく、一般に合理的と認められる評価慣行が確立されていない組合財産については、分配金の価額として、その分配の直前における当該組合財産の適正な簿価を付すものとされている(LLP法施行規則9条)。


e. 会計帳簿の記載事項

LLP法施行規則11条においては、会計帳簿に以下の事項を記載することを要求している。

第十一条

 法第二十九条第二項に規定する経済産業省令で定める事項は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項とする。

一 組合が成立したとき並びに組合員の加入及び組合員による新たな出資があったとき(第三号に該当する場合を除く。) 組合の成立の日又は組合員の加入若しくは組合員による新たな出資の日における各組合員が履行した出資の価額及びその合計額

二 組合の事業年度が終了したとき 次に掲げる事項

  イ 当該事業年度終了の日における資産の部、負債の部及び純資産の部(以下この条において「貸借対照表各部」という。)の各科目の金額並びに当該金額の組合員別の内訳

  ロ 当該事業年度における営業損益の部及び営業外損益の部並びに特別損益の部(以下この条において「損益計算書各部」という。)の各科目の金額並びに当該金額の組合員別の内訳

  ハ 当該事業年度中に損益分配の割合の変更又は組合員の脱退があったときは、最終の損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日(次項の規定により当該最終の損益分配の割合の変更又は脱退の日の前後一月以内の日を基準日として定めたときは、当該基準日。次号ロにおいて同じ。)から当該事業年度終了の日までの損益計算書各部の各科目の金額及び当該金額の組合員別の内訳

三 損益分配の割合の変更又は組合員の脱退があったとき 次に掲げる事項

  イ 当該損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の前日における貸借対照表各部の各科目の金額及び当該金額の組合員別の内訳

  ロ 当該損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の属する事業年度開始の日(当該事業年度中に既に損益分配の割合の変更又は組合員の脱退があったときは、最終の損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日)から当該損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の前日までの損益計算書各部の各科目の金額及び当該金額の組合員別の内訳

  ハ 組合員の加入又は組合員による新たな出資の日における各組合員が履行した出資の価額及びその合計額(組合員の加入又は組合員による新たな出資があったときに限る。)

四 組合財産の分配があったとき 次に掲げる事項

  イ 当該分配に係る組合財産の内容、分配金の価額及び当該分配金の価額の組合員別の内訳

  ロ 当該分配に係る組合財産の分配日における帳簿価額及び当該帳簿価額の組合員別の内訳(金銭以外の組合財産の分配があったときに限る。)

2 前項第三号に掲げる場合において、やむを得ない事情があるときは、当該損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の前後一月以内の日を基準日として定め、同号イ及びロに掲げる事項に代えて、次に掲げる事項を記載することができる。

一 基準日の前日における貸借対照表各部の各科目の金額及び当該金額の組合員別の内訳

二 当該損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の属する事業年度開始の日(当該事業年度中に既に損益分配の割合の変更又は組合員の脱退があったときは、最終の損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日(この項の規定により当該最終の損益分配の割合の変更又は組合員の脱退の日の前後一月以内の日を基準日として定めたときは、当該基準日))から基準日の前日までの損益計算書各部の各科目の金額及び当該金額の組合員別の内訳


f. 出資金の処理

 LLPの純資産の部は、出資金、累計利益金もしくは累計損失金および累計分配金の各部に区分される(LLP法施行規則25条)。組合員からLLPに拠出された出資については出資金勘定により処理され、営業活動を通じて獲得された損益については、累積利益金(または累積損失金)として処理される。また、組合員への配当については、累積分配金として純資産の部の控除項目として処理される。これらの勘定は組合組成時から存続期間中において累積的に蓄積され、その増減は附属明細書において記載される。このような処理により、投資の元手たる出資金と投資の果実たる累積損益を別個に把握することができる。


②開示

組合員は、LLP成立後速やかにその成立時における貸借対照表を作成しなければならない。また、毎事業年度経過後2ヶ月以内に、経済産業省令で定めるところにより、当該事業年度の貸借対照表、損益計算書および附属明細書を作成しなければならない(LLP法31条1、2項)。

また、組合の会計帳簿を作成した組合員は、各組合員に対して当該会計帳簿の写しを交付しなければならない(LLP法29条3項)。また、組合員は財務諸表を作成の時から10年間主たる事務所に備え置かなければならない(LLP法31条4項)。組合の債権者は当該組合の営業時間内はいつでも財務諸表およびLLP契約書について閲覧または謄写を請求することができる(LLP法




(4)LLPの税務の概要


①構成員課税

LLPは任意組合の特例として創設された経緯があり、法人格を有しないことなどから、LLP自体に法人税が課されることはなく、構成員課税が適用される措置が講じられている。よって、LLPの損益は各組合員に帰属し、各組合員がそれぞれ組合事業の納税主体となる。つまり、LLPの所得はLLPの段階では課税されず、損益が原則としてあらかじめ定められた分配割合で組合員に配分され、各組合員の段階で課税が行われる。LLPにおいて損失が発生した場合についても、同様に損失が組合員に配分され組合員の段階で損失となる。

組合員が個人の場合、組合事業から生じる不動産所得、事業所得または山林所得を有するときは、組合事業によるこれらの損失額のうち、当該組合員の出資の価額を基礎として一定の方法(租税特別措置法施行令18条の3第2項に定める方法)により計算した金額(調整出資金額)を超える部分の金額は、その年分の不動産所得、事業所得または山林所得の金額の計算上、必要経費に算入されず、損失計上の上限が設けられている(租税特別措置法27条の2)。

また、組合員が法人の場合、組合事業による損失額のうち、当該組合員の出資の価額を基礎として一定の方法(租税特別措置法施行令39条の32第2項に定める方法)により計算した金額(調整出資金額)を超える部分の金額(組合損失超過額)は、その事業年度の損金の額に算入されない。ただし、当該法人において損金の額に算入されない組合損失については、確定申告書に明細を添付することを条件として翌年度以降に繰り越すことが認められている(租税特別措置法67条の13)。


②組合員所得に関する計算書

LLPの会計帳簿を作成した組合員は、当該組合に係る各組合員に生ずる利益または損失の額について、当該各組合員別のLLPに係る組合員所得に関する計算書を作成し、当該事業年度の終了の日の属する年の翌年の1月31日までに所轄税務署長に提出しなければならない(所得税法227条の2)。




③源泉所得税および消費税

  国内において行うLLP事業から生じる利益の配分を外国組合員(日本に恒久的施設(PE)を有する者に限る。)が受け取る場合、20%の源泉所得税が課される。

消費税については、共同事業に属する資産の譲渡等または課税仕入れ等について、当該共同事業の構成員が当該共同事業の持分の割合または利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等または課税仕入れ等を行ったこととして取り扱われる(消費税基本通達1-3-1)。LLPによる事業は共同事業に該当すると考えられ、各組合員が持分割合または利益の分配割合等により算定した部分について納税義務を負うと考えられる。なお、LLPの消費税の納付については、各組合員が連帯して納付する義務を負う(国税通則法9条)。


(5)LLPを利用した不動産流動化スキームの可能性について

 LLPは、これまで見てきたとおり、出資者の有限責任、内部自治、構成員課税という3つの特徴を兼ね備え、一定の債権者保護制度も図られている。さらに、法人格こそないものの、任意組合と同様、その業務執行者の名義で契約をし、財産を所有し、訴訟を提起することができ、その効果は組合員全員におよぶなど契約主体性も有しており、また、不動産その他の資産を組合の合有財産として保有でき、組合員固有の債務に対する債権者からの差押え等もできず、不動産の不分割登記制度が導入されるなど組合財産の独立性が確保されている。よって、経済主体として十分機能する性質を兼ね備えていると考えられる。

 しかしながら、LLPは、LLP契約に基づいて組合員全員がそれぞれの個性や能力を生かして共通の目的を持って主体的に組合事業に参画するというニーズに対応すべく導入された制度であるがゆえに、重要な意思決定の全員一致、業務執行への全員参加といった共同事業要件が課されている。一般に、不動産の保有者がSPCに不動産を売却することにより流動化を行う所謂流動化型スキームの場合においては、SPCが単独で特定の事業を遂行し(実際の活動は、専門家に委任され)、その投資家はSPCが譲り受けた不動産から生じる収益を享受するのみの受動的な立場にある。

したがって、所謂流動化型スキームを想定した場合には、共同事業要件が課されるLLPは、そのビークルとしてはあまり現実的でないように思われる。ただし、SPCが不動産を譲り受けて開発事業を行う所謂開発型スキームを想定した場合には、パートナーがそれぞれの機能と個性を発揮する共同事業として仕組みを組成することにより、LLPをビークルとして用いてそのメリットを享受できる可能性はあると思われ、今後のマーケットの創意工夫が待たれるところである。

なお、組合員が一人になったことや組合員のうち居住者もしくは内国法人がいなくなったことがLLPの解散事由に該当するため(LLP法37条)、この点も仕組み組成のうえで考慮が必要と思われる。

合同会社(GK)


(1)有限会社制度の廃止とGKの登場

国内における不動産流動化取引において、有限会社は実務上幅広く利用されてきたわけであるが、会社法の制定により、有限会社制度は株式会社制度に統合され廃止されることとなった。この結果、会社法の施行以降は、国内の不動産流動化スキームにおいて、有限会社に代わるビークルが必要となる。なお、旧有限会社法上の有限会社は特例有限会社として存続するが、特例有限会社は会社法に定める株式会社であることから(会社整備法2条1項、3条2項)、会社更生法の適用は受けるものと考えられ(会社更生法1条)、債権者の債権の回収可能性などに鑑みると、このことからも、新たなビークルの検討の必要性がありそうである。

そこで、国内の不動産流動化のマーケットにおいて、旧有限会社法に基づく有限会社に代わるビークルの一つとして、今後、社員全員が有限責任で会社の内部関係について組合的規律が適用される会社類型として会社法の制定により新設された合同会社(以下「GK」という)が用いられる可能性もあると考えられることから、以下、GKの特徴について述べる。


(2)GKの法的な特徴

①社員の責任

GKにおいては、その社員の全部が有限責任を負う(会社法576条4項)。


②債権者保護

GKにおいては、社員全員が有限責任社員であるため、債権者保護を図る必要がある。そこで、会社法においては、会社の財産状況が適切に開示されること、並びに会社に適切に財産が確保および維持されることを趣旨として、以下のような債権者保護の規定がなされている。


a. 基本的事項の登記、公示

GKは、その本店所在地において、目的、商号、事務所の所在場所、資本金の額、業務を執行する社員(以下「業務執行社員」という)およびGKを代表する社員の氏名等、その他一定の事項を登記し、公示することとしている(会社法914条)


b. 計算書類の作成、開示義務

GKは、計算書類(貸借対照表その他合同会社の財産の状況を示すために必要かつ適切なものとして法務省令で定めるもの。以下同じ)を作成して一定期間保存することが義務付けられ、GKの債権者は閲覧または謄写の請求権を有している。


c. 出資財産の確保

GKにおいては、金銭その他の財産のみの出資が認められており、労務や信用の出資は認められていない(会社法576条1項)。出資は全額払込制であり、原則として出資の履行が完了しない限り社員とはなれない(会社法578条)。


d. 利益配当の財源規制

 GKにおいては、利益の配当に一定の財源規制を課すことにより、債権者に対する責任財産の最低限の維持が図られている。なお、詳細については、「(3)GK特有の会計処理および開示」の「①特有の会計処理」、「a. 利益の配当」の項において後述する。


e. 業務執行社員の第三者責任

GKの業務執行社員は、GKに対して善管注意義務および忠実義務を負い(会社法593条1項、2項)、また、株式会社の取締役と同様、その職務を行うにつき悪意または重過失があったときは、連帯して、第三者生じた損害を賠償する責任を負う(会社法597条)。


③内部自治

 GKの定款には、会社法576条に定める定款の記載事項の他、同法の規定により定款に定めがなければその効力を生じない事項およびその他の事項で会社法の規定に違反しないものを記載しまたは記録することができ(会社法577条)、また、定款に別段の定めがある場合を除き、社員全員の同意によって、定款を変更することができる(会社法637条)。すなわち、GKにおいては、出資者が自ら経営を行うことから、内部関係について組合的規律が適用され、機関設計や社員の権利など広く定款自治が認められている。株式会社のような取締役の設置義務はなく、また、会計監査人の設置も強制されていない。


④業務の執行

GKにおいては、社員が業務執行権を有するが(会社法590条)、定款の定めまたは社員全員の同意により社員の一部を業務執行社員として定めることができ、法人もこれになることができる。

法人が業務執行社員の場合、当該法人は当該業務を執行する社員の職務を行うべき者(以下「職務執行者」という)を選任し、その氏名および住所を他の社員に通知しなければならない(会社法598条)。なお、当該社員の職務を行うべき者については、会社法上、特段の制限がない。組合と異なり一人会社も認められることから、例えば、GKを流動化のビークルとし、その社員を有限責任中間法人とした上で、その職務執行者を弁護士や公認会計士等の第三者とするスキームも可能と考えられる。

社員(業務執行社員を定めた場合は、業務執行社員)が2人以上いる場合、GKの業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員(業務執行社員を定めた場合は、業務執行社員)の過半数をもって決定をし(会社法590条2項、591条1項)、GKの常務は各社員(業務執行社員を定めた場合は、各業務執行社員)が単独で行うことができる(会社法590条3項)。

業務執行社員には、株式会社の取締役と同様、GKに対する善管注意義務および忠実義務のほか、競業避止義務、利益相反取引の制限が課されている(会社法594条、595条)。

なお、業務執行社員を定めた場合、各社員は、GKの業務執行権を有しないときであっても、その業務および財産状況の調査権を有する(会社法592条1項)。

 

⑤持分の譲渡

GKにおいては社員の個性が重視されることから、社員は他の社員全員の承諾がなければその持分の全部または一部を他人に譲渡することができない(会社法585条1項)。ただし、投下資本回収の手段を確保するため、業務を執行しない社員については、業務執行社員全員の承諾があるときは、その持分の全部または一部を他人に譲渡することが認められている(会社法585条2項)。


⑥社債の発行

GKも他の持分会社および株式会社と同様に社債の発行が認められるため(会社法676条)、資金調達方法の多様化を図ることができる。


⑦社員の入社、退社

GKは社員一人のみの設立および存続が認められている(会社法641条4号)。GKは、持分の一部譲渡によるほか、新たに社員を加入させることにより社員を増やすことができるが(会社法604条1項)、その場合、原則として社員全員の同意による定款変更を必要とする(会社法637条)。

社員の退社には、任意退社と法定退社がある。

任意退社については、GKの存続期間を定款で定めなかった場合またはある社員の終身の間GKが存続することを定款で定めた場合において、各社員は、6か月前までのGKへの予告により、事業年度の終了時において退社することができる。ただし、定款で別段の定めをすることができ、また、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる(会社法606条)。

法定退社の事由については、①定款で定めた事由の発生、②社員全員の同意、③死亡、④合併による消滅、⑤破産手続開始の決定、⑥解散(④、⑤の事由によるものを除く)、⑦後見開始の審判を受けたこと、並びに⑧除名された場合がある。ただし、GKの場合、⑤ないし⑦に掲げる事由の全部または一部によっては退社しない旨を定めることができる(会社法607条)。


(3)GK特有の会計処理および開示


①特有の会計処理

a. 利益の配当

GKにおいては、利益の配当に関する事項は定款において定めることができ(会社法621条2項)、いつでも利益配当を行うことができる。損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は各社員の出資の価額に応じて定めるが、定款記載の出資比率とは関係なく配当割合を決めることができる(会社法622条)。ただし、利益の配当により社員に対して交付する金銭等の帳簿価額が利益配当をする日における利益額を超える場合には、配当を行うことができない。この場合、GKは社員の利益配当の請求を拒むことができる(会社法628条)。これに違反して利益の配当をした場合には利益の配当に関する業務を執行した社員(ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除く。)は、GKに対して、利益配当を受けた社員と連帯して、利益配当額に相当する金銭を支払う義務を負う(会社法629条1項)。

また、GKが利益の配当により有限責任社員に対して交付した金銭等の帳簿価額が利益の配当をする日における利益額を超える場合には、当該利益の配当を受けた有限責任社員は、GKに対して連帯して当該配当額に相当する金銭を支払う義務を負う(会社法623条1項)。

GKはいつでも利益配当を行うことができるが、利益配当をした日の属する事業年度の末日に欠損額が生じた場合には、当該利益の配当に関する業務を執行した社員(ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除く。)は、当該GKに対して、当該利益配当を受けた社員と連帯して、その欠損額を支払う義務を負う(会社法631条1項)。


b. 出資の払戻し

GKの出資の払戻しには、退社に伴う持分の払戻しと定款の変更による出資の払戻しとがある。

退社した社員はその出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。退社時におけるGKの財産の状況にしたがい退社した社員とGKとの間の計算を行わなければならない。また、退社した社員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる(会社法611条1、2、3項)。

GKが退社に伴う持分の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下「持分払戻額」という)が、その持分の払戻しをする日における剰余金額を超える場合には、当該GKの債権者は当該GKに対しその払戻しに関し異議を述べることができ(会社法635条1項)、これに違反して払戻しを行った場合における当該払戻しに関する業務を執行した社員(ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除く。)は、その払戻しを受けた社員と連帯して、持分払戻額相当の金銭の支払義務を負う(会社法636条1項)。

一方、退社に伴う場合を除いては、GKの社員は出資の払戻しを請求することはできないが、定款を変更してその出資の価額を減少する場合、出資の払戻しを請求することができる(会社法624条1項、632条1項)。

 ただし、GKが資本金の額を減少する場合には、債権者保護のため一定の手続きを踏む必要がある(会社法627条)。

 GKが出資の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下「出資払戻額」という)が、出資の払戻しを請求した日における剰余金額または上記の出資の価額を減少した額の何れか少ない金額を超える場合には、当該払戻しをすることはできず(会社法632条2項)、これに違反して払戻しを行った場合における当該払戻しに関する業務を執行した社員(ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除く。)もまた、退社に伴う場合と同様に、出資払戻額相当の金銭の支払義務を負う(会社法633条1項)。


c. 開示

GKは有限責任社員のみで構成されており、債権者の引き当てとなる会社財産が有限であるため債権者を保護する必要があることに鑑み、株式会社の場合に準じた計算に関する規定が設けられている。

GKは一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行にしたがい会計を行い(会社法614条)、法務省令で定めるところにより、適時に正確な会計帳簿を作成しなければならず、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を保存しなければならない(会社法615条1項)。

GKはまた、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表、および各事業年度に係る計算書類を作成しなければならずない(会社法617条1項、会社計算規則第102条)、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表)を作成しなければならない(会社法617条2項、会社計算規則第103条2項)。。ななお、計算書類は電磁的記録をもって作成することができ、計算書類を作成した時から10年間の保存義務が定められている(会社法617条3項、4項)。

GKの社員は、計算書類を閲覧・謄写する権利を有している(会社法618条1項)が、決算公告は義務づけられていない。

また、GKの債権者は、GKの営業時間内において、いつでもその計算書類(作成した日から5年以内のものに限る)を閲覧・謄写する権利を有しており(会社法625条)、債権者保護が図られている。なお、このような債権者に対する計算書類の閲覧請求権は、無限責任社員がいる合名会社および合資会社においては規定されていないものである。


(4)GKの税務について

我が国においては、法人税の納税義務者である法人格を有する組織形態は法人課税の対象となるという大原則が存在する。このような原則を前提とすれば、GKは法人格を有することから、構成員課税は認められず、法人段階で課税が行われると考えられる。したがって、株式会社の場合と同様に、GKの段階で法人課税が行われ、社員への利益の分配については、社員が個人の場合は配当所得とされ、法人の場合は受取配当金として課税所得の計算上益金不算入として取り扱われると考えられる。


(5) GKを利用した不動産流動化スキームの可能性について

GKは社員が全員有限責任で、第三者との関係でも、株式会社とほぼ同様の債権者保護手続きの規制が適用される。資金調達面に関しては、株式会社や他の持分会社と同様に社債の発行が可能でありその多様化が図られる。一方、会社の内部関係の規律については、株主総会や取締役等の機関を設け株主の権利内容も原則として株主平等原則が適用される株式会社とは異なり、機関設計や社員の権利内容等については広く定款自治に委ねられている。なお、株式会社と異なり決算公告も義務づけられていない。

また、GKはLLPとの比較においては、会社の内部関係についてこのように組合的な規律が適用される点で共通しているが、①法人格を有し、また、社員が一人でも存続可能な点で法的安定性が相対的に高く、②必ずしも全社員が業務執行を担当する必要がないため業務執行権限を有しない受動的な出資者も許容され、加えて、③構成員課税でなく法人課税が適用されるものと考えられるなどの点で異なる。

さらに、倒産法制との関係では、GKは株式会社でないがゆえに会社更生法の適用がないうえ、また、社員に破産手続の開始決定があっても社員は退社しない旨を定めることもできる。

以上から、GKは、発行体としての法的安定性や債権者保護の仕組みが保たれ、機関設計の柔軟性から簡便な組織による設立も可能であり、さらに、LLPと異なって共同事業要件が不徹底であるため受動的な出資者の存在も許容されており、不動産流動化スキームにおけるビークルとしての適用性はあるものと考えられる。ただし、構成員課税の適用がないものと考えられるが、この点、税務導管性(タックスパススルー)を図るためこれまで一般に利用されてきたTK-GKスキームのように、匿名組合等の組合との併用が考えられる。

信託 


(1)信託の機能と不動産流動化

信託とは、財産権を有する委託者が契約により受託者に対して財産権の名義や管理および処分権を帰属させ、受託者をして委託者または受益者のために一定の目的にしたがってその財産を管理または処分させる法律関係である。

信託には、①委託者から受託者に財産権の移転その他の処分をし、かつ、その財産を信託目的にしたがって拘束を加えることによって委託者からも受託者からも独立した財産を作り出す機能、②既存の財産権を信託受益権という債権に性状転換させる(結果的に処分性を増加させる)機能、③受託者の財産管理の専門的機能などがあり、こうした機能は不動産流動化の仕組みの中で有効な役割を果たしうるということで、国内の多くの不動産流動化スキームにおいて信託が使われている。




国内における不動産流動化と関連した信託としては不動産管理処分信託、土地信託、資産流動化法に基づく特定目的信託などが挙げられる。特定目的信託は、資産の流動化を行うことを目的とし、かつ信託契約の締結時において委託者が有する信託の受益権を分割することにより複数の者に取得させることを目的とした信託制度で、委託者が流動化対象資産を信託譲渡した信託会社が、物件の管理処分に加えて、自ら信託受益証券を発行し資金調達を行える制度であるが、現時点では具体的事例が少ない。

したがって、国内の不動産流動化スキームの中でこれまで広く普及している不動産管理処分信託と、土地所有者の有効活用ニーズに対応する開発手法として利用されてきた土地信託に絞って、以下、概説する。 


(2)不動産管理処分信託


①不動産管理処分信託を利用した不動産流動化スキーム

 国内における不動産流動化のスキームの多くは「不動産管理処分信託」という信託を利用している。不動産管理処分信託は、不動産の管理、運用および処分を目的とした信託で、自益信託(委託者自らが受益者となる信託)である。不動産流動化スキームにおいては、対象となる不動産の原所有者であるオリジネーターが、委託者兼当初受益者として当該不動産を不動産管理処分信託し、これにより取得した受益権を、投資家から譲渡代金相当額に足る資金の調達を行うSPCに対し真正売却する。そして、SPCは受益者の地位に基づいて、当該不動産から得られる賃貸収入、売却代金等の収入から所有、管理運営に係る諸費用および信託報酬を控除した残額を受託者から信託配当として収受し、投資家に元本・利息の返済あるいは利益の分配を行う。不動産管理処分信託はこうした構図の中で使われている。




②不動産管理処分信託の税務について

 合同運用信託、証券投資信託、特定目的信託等のただし書き信託(所得税法13条1項ただし書き、法人税法12条1項ただし書き)を除き、信託の課税上の取扱いは原則として「信託導管論」の考え方が採用されている。すなわち、信託財産に帰属する収入および支出については、受益者が特定している場合には受益者が、受益者が特定していない場合または存在していない場合には委託者がその信託財産を所有するとみなして税法の規定を適用する(所得税法13条1項本文、法人税法12条1項本文)。このような考え方は、信託財産から生じる収益について法律上帰属すると見られる者が単なる名義人であり、その収益をその者以外の者が享受する場合は、これを享受する者に収益が帰属するものとして税法の規定を適用する(所得税法12条、法人税法11条)という実質所得者課税の原則に基づくものである。また、この考え方は、取引の経済的実態を実質的に反映したものでもある。

 不動産管理処分信託についても上記の実質課税の原則に基づく信託導管論が適用される。すなわち、受益者が信託財産を所有するものとみなして税務上の取扱いが行われる。


③不動産管理処分信託が利用される理由

 不動産管理処分信託が不動産流動化の仕組みの中で使われる理由は、当該信託に主に以下のメリットがあるからである。

ア. 税制面において、不動産取引に係る税金が信託を利用しない場合と比較して軽減されるメリットがあるうえ、信託自体が実質課税の原則が適用され税務導管体(タックスパススルー・エンティティ)として機能する。

イ. 信託を利用しない場合には不動産特定共同事業法の適用関係が生じうるのに対し、不動産の法的所有者を信託とする仕組みは法的安定性が高いと考えられる。

ウ. 信託財産が委託者からも受託者からも独立した存在として機能するため倒産隔離を実現する有力な器として機能する。

エ. 信託銀行には、元来、不動産に関するノウハウ、人材、情報等が集積しており、こうした専門的能力の高い受託者が不動産を管理、処分することにより、有効な資産運用を行うことができる。


なお、平成16年12月の信託業法の改正により、信託受益権(証券取引法上の有価証券を除く)の販売または販売の代理もしくは媒介を業として行う場合、信託受益権販売業者の登録が必要になっており、不動産流動化スキームにおける不動産信託受益権の取扱いについてもかかる点留意が必要である。


(3)土地信託


①土地信託の仕組み

土地信託とは、地権者が所有土地を有効に利用するめ、委託者(兼受益者)として対象土地を信託銀行に信託(自益信託)し、信託銀行は受託者として開発のための資金を調達して建物等の開発を行い、その完成後においてテナントへの賃貸、管理等を行い、その賃料収入、売却代金等の収入から所有、管理運営に係る諸経費および信託報酬を控除した残額を受益者に信託配当として交付する信託である。土地信託も不動産信託の一種として位置づけられる。

土地信託は地権者が土地を有効に活用するために専門家である受託者に事業の遂行を委託する形をとる。土地信託においては、土地の所有権は受託者に移転するが当該土地の実質的な持分は受益者としての土地の当初所有者に留保されており、事実上土地を手放す必要がない点、また、受託者は土地を有効に利用するため建設会社と請負契約を締結して建築発注し、自行を含む銀行等から資金調達を行い、完成引渡し後の建物の賃貸、管理および処分等を行うなど一連の事業を行う点に特徴がある。なお、現行の信託法において事業信託は認められていないが、信託財産を管理運用する結果として事実上事業が営まれることについては認められ、こうした一連の事業が行われる土地信託も認められるものとされている。

このように受託者が専門家としての能力を生かして土地の有効利用を行うことから、委託者は信託報酬を負担して専門家に土地を委ねるだけでよく、土地の管理および運用の煩雑さから解放される。また、借入金により資金調達することにより金利を経費として計上すると同時に建物の減価償却費についても経費として計上することから、タックスメリットを享受することができる。



②土地信託の税務について

土地信託の税務上の取扱いについては、国税庁通達昭和61年直審5-6、直所3-9、直法2-6、直資1-10「土地信託に関する所得税、法人税ならびに相続税および贈与税の取扱について(以下「土地信託通達」という)」において規定されている。

土地信託通達によれば、委託者を受益者とする土地信託で受託者が信託銀行であるなどの一定の要件を満たす土地信託について、土地信託の信託財産の取得、運用もしくは譲渡または信託受益権の取得もしくは譲渡については、信託財産に帰属する財産債務はその信託の受益者が自ら有するものとし、信託受益権はその目的となっている信託財産に帰属している財産債務そのものを直接有する権利であるものとして、所得税、法人税、相続税または贈与税に関する法令の規定を適用すると規定されている。

また、土地信託において信託の設定による委託者から受託者への信託財産の移転または信託の終了に伴う受託者から受益者への信託財産の移転は、法人税に関する法令の規定の適用上、資産の譲渡または資産の取得には該当しないことと規定され、信託受益権の譲渡が行われた場合には、その信託受益権の目的となっている信託財産の構成物の全部が一括して譲渡されたものとして取扱うと規定されている。

すなわち、受益者は土地所有者と同様に、受益権もそれに係る信託財産そのものとして実質課税の原則がとられている。