破産・倒産

第2節 経営が悪化する原因

(1)原因があって、結果がある

長く続けていた会社が突然倒産することもあれば、予兆がある場合もあります。いずれにせよ、経営者がどのように危機に対処するかにより、倒産する場合もあれば、再生する場合もあります。「因果応報」という言葉があるように、世の中原因なくして結果はありません。経営が悪化する原因なくして、倒産という結果は起こりえません。まず、その原因をしっかり認識しているかどうかで、経営者の能力が問われます。
近年、「コンプライアンス(法令遵守)」という言葉が新聞紙上を賑わすようになりました。法令遵守をしない会社は、それが世間に明るみに出た瞬間に、厳しく市場から退場を求められ、一気に倒産に向かうこともあります。このような現象は、一昔前にはなかったことです。
 経営が悪化する原因としては、大別して事業の問題、経営陣の問題、経営管理上の問題、財務の問題、従業員の問題に分けられます。

<事業の問題>

① 事業が時代の変化についていけず、売上が低迷、利益率が減少
時代の変化とともに、売上が減少し利益も減少してゆくというケースがこれに該当します。本業がうまくいかず、銀行から借入れした当初は増収増益でしたが、途中から減収減益になるようなケースです。このようなケースは、根本的な問題が本業にあることから、ビジネス自体を見直さなければ立ちゆかないという非常に難しい局面にいるといえます。

② 本業以外での投資の失敗(ゴルフ会員権・不動産の購入・不必要な自社ビル建設)
本業は順調であるけれども、本業で設けたお金を、本業以外の投資、たとえば自社ビルを建設したり、投資用の不動産を購入してみたり、ゴルフ会員権や株式などの有価証券に余剰資金を投資(運用)しているようなケースです。このようなケースは景気の善し悪しによる相場の変動などの外的要因により会社経営が左右されることにもなりかねません。

③ コンプライアンス違反による信用の失墜
賞味期限の偽装や、リコール隠しなど、法令を遵守していなかったことが明るみに出て、信用を失い経営危機に陥るケースです。このケースの特徴は、法令違反が明るみに出ると、一晩で経営危機に陥る点に特徴があります。法令違反後の経営者の対応が、その後の経営者の命運を分けると言ってもいいでしょう。

④ 大口の取引先の突然の倒産や方針の転換
得意先が一社に集中している場合、その得意先が経営危機に陥ると、一気に連鎖的に経営危機に陥るケースや、主要な取引先が海外に生産拠点を移管する場合に仕事がなくなるケースがこれに該当します。特定の大企業の下請けをしている中小企業などが抱えているリスクです。このような場合は、得意先の経営状況や経営方針の転換により、会社の命運が左右されてしまうという「依存のリスク」があります。

⑤ 販売した商品の回収
販売した商品を不良品として回収しなければならないようなケースです。いったん商品として販売したまではいいですが、その後に不良品であることが発覚し、リコールや修理の対応に追われ、多額の経費・時間がかかり、不良品の在庫の山に囲まれて経営危機に陥るようなケースです。

⑥ 天災により工場や在庫が滅失
地震・洪水・台風・火事などにより、工場が破壊されたり、在庫が水浸しになったりして、操業停止することにより多大な損害が発生し、経営危機に陥るようなケースです。アイルランドで火山が噴火した結果、EU諸国で交通が麻痺するということがありましたが、日本企業もその影響を大きく受けました。世界経済がグローバル化したことにより、対岸の火事が我が身にも降りかかってくるのが現代資本主義社会の特徴です。

⑦ 海外の拠点が政変により稼働不能
政情が不安定な国に生産拠点などがある場合には、その国にクーデターなどが起こると、営業・操業が停止してしまいます。また、政権の交代により預金封鎖が起こったり、突然資産が凍結されたり、外出禁止命令が出たりします。グローバル化した企業に避けられないのがこの「カントリーリスク」です。

⑧ 外注先の倒産
自社の主な製品を外注している場合に、その外注先が倒産するような場合には、外注先の倒産により自社製品が完成品とならずに半製品のまま在庫として抱えることになります。半製品のまま外部に販売することはできず、言うまでもなくこのような未完成品の在庫は資金繰り悪化の原因となります。

<経営陣の問題>
① 経営者の病気・事故
経営者がある日交通事故で亡くなったり、病気になって復帰できないということはしばしばあります。このようなリスクはなかなか避けられないものですが、経営者に代わり経営を引き継ぐ人が社内にいるかどうかが焦点になります。

② 2代目・3代目などの後継者の無能力
創業経営者の子供や孫が会社を引き継ぐことは、事業承継としては望ましいのですが、引き継ぎ手にその資質があるかどうかが、その後の会社の命運を分けます。創業経営者のようなハングリー精神がないケースや、会社のお金を浪費したり、経営権の奪い合いをしている間に会社が倒産状態になっているようなケースがこれに該当します。

③ ワンマン社長の暴走を止める人がいない
創業経営者はワンマンタイプの人が多く、自分の成功に誇りを持っていますので、自分の耳に痛いことは、聞かないことにするか、耳に入らないようにしがちです。気がつけばイエスマンばかりが取り巻きとなり、裸の王様状態になっているようなケースがこれに該当します。

④ 公私混同・放漫経営
経営者は、会社そのものです。会社であれば本来は株主が一番偉いということになっているはずですが、中小企業の場合、所有と経営が一致しているケースがほとんどであり、社長の放漫経営を止める人は事実上いないことになります。会社のお金を私的に流用したり、遊興費などに使ってしまい、気がつけば会社経営が傾いていた、という話はよく耳にします。

⑤ 経営陣の対立、お家騒動
経営陣の中で過度な権力争いが生じたり、お家騒動が起こってある日突然経営者が解任されたりするようなケースです。これは2代目・3代目などの後継者の無能力と同じかもしれませんが、会社の内紛に莫大なエネルギーが浪費され、それが外部に知れることとなると、銀行や取引先から敬遠されたりして、会社が傾く場合もあります。

<経営管理上の問題>
① 粉飾決算
粉飾とは、実態よりも利益を過大もしくは過少に表示するための一連の財務操作のことを言います。粉飾決算をする動機としては、金融機関対策として、赤字決算を黒字にしたり、仕入先・取引先に対する信用維持たり、受注条件を確保したりすることにあります。粉飾決算にも、いくつかのレベルがあります。
 会計帳簿自体は単一で正確であるが、作成時に決算書だけ粉飾したもの。
 会計伝票の作成段階で行われる粉飾で、会社の経営幹部も気付かず会計帳簿そのものが粉飾となっているもの。
 帳簿が二重化し、裏帳簿と秘密預金口座が存在する、もしくは多額の簿外負債が存在しているケース。
粉飾決算を行っている場合、いずれバレる日が来ますので、爆弾を抱えながら会社経営をしているようなものです。粉飾決算はコンプライアンス上の問題でもあります。一度粉飾に手を染めてしてしまうと、後には戻れない怖さがあります。

② 子会社の事業不振
業績不振の子会社を抱えており、その処理のため親会社が多大な負担を強いられるようなケースです。巨額の債権放棄をしたり、親会社が子会社の借入金の保証や経営指導念書の差し入れをしているような場合には、親会社が経営上の責任を取らされることとなり、子会社と共倒れするケースもあります。

③ 与信管理が甘い
商品を売れば現金が増える、と初歩的な勘違いしているような経営者が踏んでしまう地雷です。商品を売った後の「売掛金」が回収されなければ、現金が増えたことにはならず、不良債権が増えただけになります。与信管理の甘さは、積もり積もれば不良債権の山となり、資金繰り悪化の原因となります。このような会社は、債権管理の責任を明確にする必要があります。

④ 売上至上主義
売上が急増しているベンチャー企業などによくあるケースですが、とにかく売上をあげることに全勢力を投入するような会社は、売上げを上げるために、手段を選ばなくなります。特に給与が業績と直結しているようなケースでは、営業マンはどんな手でも使って売上げを伸ばそうと考えます。そのあげくに、不正な取引や法令違反などを犯してしまうような事件は、古今東西、規模の大小を問わず、どの世界でも起こっています。

⑤ 行き過ぎた多角化
ブランド力を生かした多角化戦略が行き過ぎると、シナジー効果がない事業が増え、事業内容をコントロールできなくなり、立ちゆかなくなるケースがあります。このような会社は、good(採算がとれている事業)とbad(不採算事業)を明確にし、どのように整理統合してゆくか協議する必要があります。

⑥ 脱税
税金を払いたくないがために、課税所得を過少に申告し、税金を逃れようとするケースがこれに該当します。脱税はコンプライアンスの問題であり、反社会的行為でもあります。

<財務の問題>
① 資金繰りの管理ができていない
中小企業の場合、資金繰り表を作成していない会社も多く見受けられます。手形や小切手を切っている場合には、高度な資金繰り管理が求められます。決済日に1円でも口座残高が足りなければ、不渡りを出したことになり、一度の事故が、会社の命運を分けることになります。中小企業最大のリスク要因です。

② 計数管理が無茶苦茶で、社内の誰もが財務内容が正確に把握できない
会社内部での計数管理ができておらず、なりゆき経営でなんとか回っているような会社がこれに該当します。経理も外注で会計事務所の担当者だけがかろうじて数字の中味を知っており、会社内で誰も貸借対照表の資産や負債の状況を把握できていないような会社がこれに該当します。このような会社の財務諸表はあてにならないので、一度財務内容を精査する必要があります。

③ 過剰な在庫、不良在庫を抱えているのに放置している
粉飾決算の結果として帳簿上過大な在庫がある場合や、実際に売れない商品で倉庫が一杯になっているような会社がこれに該当します。お金にならないデッドストックの山が、資金繰りを大きく圧迫する原因になりますので、このような会社は一度実地棚卸しを正確にする必要があります。

④ 設備投資の合理性が数字で裏付けられておらず、思いつきで借入して投資している
経営者の思いつきで新製品の開発をするために設備投資をする会社がこれに該当します。新製品の開発は悪いことではないですが、実際に買ってくれるお客さんがいるか、いつどれだけ売れて、そのための設備投資が今どれだけ必要で、どれくらいの期間で回収できるのか、精緻な設備投資計画が必要ですが、適当な計画で銀行からお金を借り入れているような会社がこれに該当します。

⑤ 頼りになる会計・税務顧問がいない
会計・税務顧問は、ある意味で経営を後ろからバックアップしてくれる、外部のブレーンのような存在であるべきですが、単に税務申告の外注先となっていて会社経営には全く関与していない場合や、相談にのってくれる顧問がいないような会社は、これに該当します。

⑥ リース債務などの見えない借金の管理ができていない
リース契約は、リース期間中に解約できない条項が付いている場合が多く、解約する場合には、残債を一括で支払う旨が契約に盛り込まれている場合があります。このような場合には、リース契約を解除しようにも、残債の支払い義務が残ることから、結局固産を割賦で購入したのと同じ結果となり、リース会社から借入を行っているのと同じ効果がありますが、貸借対照表上は、リース債務が表示されないため、簿外の債務となっています。会社をたたむ場合には、このリース債務がどれぐらいあるのかについても、正確に把握するする必要があります。また、会社が残債を支払えない場合には、経営者個人が連帯保証になっている場合も多く、会社が倒産すると経営者個人に請求がくるので注意が必要です。

⑦ 支払い関係が滞りがち
資金繰りが厳しくなってくると、取引先への支払いや、税金・社会保険料の支払い、借入金の返済などが滞ってきます。手元にあるお金で優先順位の高い支払いから先に支払っていくことになりますが、支払いのために借入を起こすという循環から抜け出ることができなくなった場合、会社をたたむことを考える「サイン」と受け取ってください。

⑧ 租税債務の滞納
資金繰りが厳しくなってくると、手元にあるお金をまず借入金の返済にあてる場合が多いですが、債権者によって督促の度合いは異なります。租税債務は他の債権に較べると督促が緩いため、ついつい滞納しがちですが、租税債務は滞納すると年14.6%の利息がついて回りますので、雪だるま式に債務が増える点に特徴があります。また租税債務は非免責債権なので、破産しても免責されることはないため、他の債権とは性格が異なり、会社を再建させる場合にも思い足かせとなります。

<従業員の問題>
① 従業員の大量退職や事業の主要メンバー・役員の独立
従業員が会社に不満を持っているような会社では、従業員が一時に大量に退職したり、役員の一部が従業員を引き連れて独立したりすることがあります。このような場合には、仕事の担い手である従業員がいなくなるため、一気に会社の業績に悪影響を及ぼすことがあります。

② 横領・不正
役員や従業員による度重なる横領により、会社が傾く場合があります。売掛金の一部が経理担当者が作った個人口座に振り込まれたり、商品などの在庫を横流しして販売したりするケースです。社長以外全員不正をしていた、という事例もあります。一般的に、社歴が5年以上ある会社には、何らかの不正があると言われています。このような会社は、横領や不正をただす「仕組み」が必要です。

(2)会社をたたむにあたっての「2つの鉄則」

 会社をたたむ場合に、これだけは踏み外してはいけないという鉄則が2つあります。









①早く手を打つ

これは、打つ手がなくなってから相談にきても、どうにもできないという意味です。往々にして、再建ギリギリのラインをかなり過ぎてから、相談にこられるケースが多いのは悲しい事実です。せめて1年前相談に来てくれたらどうにかなったのに、と思うこともしばしばです。なぜなら、時間がなくなるにつれ、打つ手の数が少なくなるからです。打つ手がなくなれば、最善の手を打つことができず、傷がそれだけ広がり、多くの人に迷惑をかけることになります。後に述べる「倒産分岐点」を超える前に、専門家に相談だけでもしてみましょう。倒産分岐点前に適切な専門家に出会えた人は幸せです。

③ 切り千両

 見切り千両というのは、株式投資の世界でよく使われる格言です。わかりやすく説明すると、手持ちの株を今売ると損をすることには違いないが、それによって「将来の大損」が避けられるのなら、千両の価値があるのだから、今株を処分した方がいい、という考え方のことです。
会社をたたむ局面であてはめると、今倒産するのはつらいが、このままズルズル会社経営を続け、じり貧になって周りに大きな迷惑をかけて倒産すると、目も当てられない惨状が待ち受けているので、今倒産させる方がいい、と考えるということです。
経営者が優柔不断な場合、往々にして決断力がなく、大局的に物事を判断できない人がいます。そのような経営者には、この見切り千両という格言の意味を理解してもらいたいと思います。

会社が再起できない場合の選択枝

(1)破産

任意整理でも借入金の返済に目処が立たず、事業の将来性がないような場合には、破産を選択せざるを得ないことになります。破産は、法人又は自然人の債務者が支払不能や債務超過の状態にある場合において、裁判所から委任された管財人が強制的に財産を処分し、すべての債権者に平等に配当する手続きです。債権者又は債務者の申立により手続が開始されます。破産申立により裁判所により任命された破産管財人が破産手続を進め、債権調査を行い債務者の財産等を換価し、債権者に弁済します。

(2)特別清算

裁判所は、株式会社の清算につき、清算の遂行に著しい支障を来すべき事情がある場合、株主や清算人などの申立により特別清算の開始を命ずることができます。特別清算を申立てることができるのは、 清算の遂行に著しい支障をきたすよう事情があるか、もしくは債務超過の疑いがある場合です。
特別清算は、裁判所の監督の下に進められる法的手続であり、一般的には破産手続に比較して簡易、迅速な清算手続と言われています。清算人は、債権者や株主などに対し、公平かつ誠実に清算業務を行う義務を負い、裁判所は清算人が適切に清算事務を行っていない場合には、債権者若しくは株主の申立又は職権で清算人を解任する事ができます。また、裁判所は一人以上の監督委員を選任し、財産の処分その他の行為の同意をする権限を付与する事ができます。さらに裁判所は、必要があると認めるときは、調査委員を選任し、特別清算に至った事情や当該会社の業務及び財産の状況などの調査を命じることができます。

(3)放置逃亡(夜逃げ)

会社の借入金を返済できない場合に、経営者がある日突然姿をくらまし、会社を放置して逃亡することを、放置逃亡と言います。いわゆる夜逃げです。法律的な各種手続も選択せず、全てを放り投げて夜逃げを選択する以外、道はないほど追い詰められるケースです。
しかし、夜逃げをすると実生活において様々障害が出てきます。たとえば、住民票の問題、子供の学校の問題、新たな就職先の問題、銀行口座の問題、健康保険の問題などに頭を悩ますことになります。逃亡生活は長続きせず、精神的にもかなり厳しい結果となる場合が多いです。
そもそも「逃げる」という行為には、道義的な責任が一生つきまとうので、この方法だけは選択してはいけません。それよりも、腹をくくって見栄も外聞も捨て、責任関係を明確にし、再スタートする方がその後の人生で必ずプラスになります。