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デリバティブとは

概要

 デリバティブ(金融派生商品)とは、株式・債券・通貨・金利・商品(金、石油、砂糖、コーヒー、大豆等)の源となる資産(原資産)がまず存在し、その資産から派生した取引・商品のことを言う。すなわち、株式・債券・通貨・金利・商品等の原資産のように何かに起源を有するものから派生してきた取引や商品のことを言う。

 デリバティブは、取引の形態により、先物・スワップ・オプションに分類される。デリバティブは市場を通した取引もあれば、相対で取引されるものもあるが、基本的にはゼロサムゲームである。つまり、参加者間での資金のやりとりが生じるだけで、その総和は全体としてゼロになる。デリバティブには以下のような機能がある。

リスクヘッジ: 原資産を直接売買しなくても、原資産が持つリスクを回避することができる。レバレッジ 少ない資金で大きな取引ができることから、収益機会を逃さずに効率的な資金運用が可能である。
裁定取引の機会:原資産の市場とは別のデリバティブの市場が存在することにより、裁定取引(arbitrage)が可能となる。裁定取引とは、同じ資産が複数の市場で異なる価格で取引されている場合、割安な市場で買い、割高な市場で売ることにより利益を得ることができ、次第に一物一価に収斂してゆく過程の取引をいう。
新しい金融商品の開発:複数のデリバティブ取引を組み合わせることにより、投資家のリスク選好に見合った金融商品を開発することができ、リスクを分散し易くする。


 このうち、デリバティブの最も大きな機能はリスクヘッジ機能であり、原資産の持つリスクをヘッジ(回避)することにある。ヘッジ取引は、原資産の保有者のリスクを、他社に転嫁させる取引である。ただし、デリバティブ取引でヘッジできるのは、主としてマーケットが存在する原資産(為替・金利・株式・商品)の価格変動リスクである。

デリバティブの種類

デリバティブには、先物・スワップ・オプション取引に分類される。

(1)先物(商品・金融)

先物とは、将来のある時点において、商品等の現物を受渡すことを約束することをいう。その商品等が金融商品である場合には、金融先物取引と呼ばれ、小麦や石油などの商品の場合は、商品先物と呼ばれる。現物取引の場合は、約定時にすみやかに決済するが、先物取引の場合、決済が将来時点に行われる点に特徴がある。

(2)スワップ

スワップとは、2つの想定される資産又は負債から生じるキャッシュ・フローを交換する取引を言う。代表的なスワップ取引として。金利スワップ取引と通貨スワップ取引がある。

金利スワップ取引は、同一通貨の異なる金利(変動金利と固定金利など)を交換する取引をいう。通貨スワップ取引は、異なる通貨の金利(円金利とドル金利など)を交換する取引をいう。

スワップ取引は、2つの資産または負債のキャッシュ・フローを交換する契約であり、交換により資産・負債が有するリスクをヘッジすることができる。

(3)オプション

オプション取引とは、一定の期日または一定の期間内において、あらかじめ決められた価格で、商品や証券等を売る権利または買う権利をいう。この権利が売買される市場はオプション市場と呼ばれる。代表的なオプション取引には2種類あり、一つはコールオプション(ある決められた値段である決められた資産を買う権利)であり、もう一つはプットオプション(ある決められた値段である決められた資産を売る権利)である。その他、キャップ契約、フロアー契約、カラー契約などがある。これらは、金利を原資産とする金利オプション取引である。

オプション取引においては、権利の売買が行われることから、売買の都度決済が行われる。オプションの売り手は、オプションの買い手が権利を行使した場合に、それに応じる義務が生じる。一般的に、オプションの買い手が有利な場合に権利行使を行うが、不利な場合は権利行使を行わない。

資金調達とデリバティブ

デリバティブは、原資産から派生した取引・商品であるが、資金調達における最も重要な機能はリスク回避手段としての機能である。企業が資金調達を行う上でのリスクは、例えば、企業が変動金利で借入をしている場合、将来の金利の変動というリスクに直面する。金利上昇局面で借入を行ったとすれば、将来的な金利負担は上昇することになることから、変動金利で借入を行っている場合には、金利変動リスクに直面することになる。
ここで、変動金利を固定金利に変換するスワップ契約を締結すれば、変動金利を固定金利に変換することができ、金利負担を事前に確定することができ、金利変動リスクを回避することができる。
 以下では、デット・ファイナンスを行う際に有効と考えられるデリバティブ取引について紹介する。

(1)金利スワップ

 金利スワップは、契約当事者間で、契約により定められた元本金額に基づき算定される固定金利と変動金利を交換する取引である。実際に元本の受け渡しは行われず、金利計算の基になる元本は、想定元本と呼ばれる。

① 変動金利借入の場合のリスクヘッジ

<設例>

A商事はB銀行から借入により100億円の資金を変動金利で借入れ、C銀行と金利スワップ契約を締結した。想定元本は100億円であり、A商事は固定金利をC銀行に支払い、C銀行は変動金利をA商事に支払う取引である。

<契約条件>
変動金利支払い:C銀行
固定金利支払い:A商事
想定元本:100億円
期間:5年
固定金利:1%(実日数)
変動金利:6ヶ月円LIBOR+0.3%(実日数)
開始日:平成X1年3月15日
終了日:平成X6年3月15日
利払日:初回平成X1年9月15日、以降毎年3月15日及び9月15日

 開始日(平成X1年3月15日)から初回の利払い日(平成X1年9月15日)までの日数は、184日である。当該期間のLIBORが0.5%だったとすると、

A商事のC銀行からの変動金利受取額 =100億円×(0.5%+0.3%)×184日/360日=40,888,889円
A商事のC銀行への固定金利支払額=100億円×1%×184日/365日=50,410,959円

差引決済額=50,410,959円-40,888,889円=9,522,070円(受取り)

上記金利スワップ取引により、A商事は、最初の利払い日に9,522,070円をC銀行から受取ることになる。当然、A商事は、最初の利払い日に固定金利50,410,9590円をB銀行に支払う。このように、変動金利借入に同額の想定元本を持つ金利スワップ取引を行うことにより、変動金利部分が相殺され、C銀行への固定金利支払いだけが残る。その結果として金利上昇のリスクをヘッジすることができる。結果的に、A商事は、将来金利が変動しても、固定金利を負担するだけでよいのである。

②固定金利借入の場合のリスクヘッジ

<設例>

A商事は、B銀行から借入により100億円の資金を固定金利で借入れ、C銀行と金利スワップ契約を締結した。想定元本は100億円であり、A商事は変動金利をC銀行に支払い、C銀行は固定金利をA商事に支払う取引である。

<契約条件>
固定金利支払い:B銀行
変動金利支払い:A商事
想定元本:100億円
期間:5年
固定金利:1%(実日数)
変動金利:6ヶ月円LIBOR(実日数)
開始日:平成X1年3月15日
終了日:平成X6年3月15日
利払日:初回平成X1年9月15日、以降毎年3月15日及び9月15日

開始日(平成X1年3月15日)から初回の利払い日(平成X1年9月15日)までの日数は、184日である。当該期間のLIBORが0.5%だったとすると、

A商事のC銀行への変動金利支払い額 =100億円×0.5%×184日/360日=25,555,556円
A商事のC銀行からの固定金利受取り金額=100億円×1%×184日/365日=50,410,959円

差引決済額=50,410,959円-25,555,556円=24,855,403円(受取り)

上記金利スワップ取引により、A商事は、最初の利払い日に24,855,403円をC銀行より受取ることになる。このように、固定借入に同額の想定元本を持つ金利スワップ取引を行うことにより、LIBOR+0.5%の変動金利により借り入れたのと同様の経済効果を持つことができる。よって、LIBORが0.5%以下になると、資金調達コストが低くなることになる。

(2)スワップション

 スワップションとは、「スワップを締結する権利」をオプションとして取引するデリバティブである。スワップションの買い手は、権利行使すると固定金利の受取り又は支払いを行う金利スワップを締結することができる。

<設例>

<契約条件>
スワップションの買い手:A商事
スワップションの売り手:B銀行
タイプ:
想定元本:100億円
期間:5年
ペイヤーズヨーロピアン(固定金利を支払う権利を権利行使日のみに行使できるタイプ)
決済方式:スワップ・セトルメント
約定日:平成X1年3月15日
権利行使日:平成X1年9月15日
スワップション・プレミアム(スワップションの購入価格):6,000,000円

(スワップ取引の内容)
固定金利の支払い:A商事
固定金利の受取り:B銀行
スワップ金利:0.5%
開始日:平成X1年9月20日
終了日:平成X6年9月20日

この場合、スワップションの行使レートは0.5%であることから、平成X1年9月15日におけるマーケットでの5年物円金利スワップレートが0.5%より高いと、A商事はスワップションを行使し、固定金利0.5%を支払う金利スワップ契約を締結することができる。その結果、将来の金利上昇リスクをヘッジすることができる。

(3)金利キャップ

 金利キャップ取引とは、変動金利を原資産とし、変動金利が上限金利を超えた場合、オプションの買い手が変動金利と上限金利の差額をオプションの売り手から受取る取引をいう。金利キャップ取引により、金利上昇のリスクをヘッジすることができる。すなわち、将来的に金利が上昇しても、契約により定められた上限金利以上の金利を負担することを回避することができる。
金利キャップ取引は権利行使の意思表示が不要であり、契約により定められた条件にヒットすれば、売り手から買い手に自動的に決済される。

<設例>

A商事は、B銀行から変動金利で借入を行ったが、将来の金利上昇リスクをヘッジするために、C銀行と金利キャップ契約を締結した。想定元本は100億円である。

<契約条件>
想定元本:100億円
期間:5年
上限金利:1%
約定日:平成X1年3月15日
開始日:平成X1年3月15日
終了日:平成X6年3月15日
決済日:初回平成X1年9月15日、以降毎年3月15日及び9月15日
金利キャップ・プレミアム(金利キャップの購入価格):6,000,000円
変動借入金:6ヶ月円LIBOR

開始日(平成X1年3月15日)から初回の利払い日(平成X1年9月15日)までの日数は、184日である。LIBORが1%を超える場合、A商事はC銀行からLIBORから1%を差し引いた金利を受け取ることができる。A商事はB銀行にLIBOR金利を支払うため、実質的な資金調達コストは1%+金利キャップ・プレミアム6,000,000円となる。

当該期間のLIBORが0.5%だったとすると、

A商事の変動金利支払い額 =100億円×0.5%×184日/360日=25,555,556円
A商事の固定金利受取り金額=100億円×1%×184日/365日=50,410,959円

差引決済額=50,410,959円-25,555,556円=24,855,403円(受取り)

上記金利キャップ取引により、A商事は、最初の利払い日に24,855,403円をC銀行より受取ることになる。このように、固定借入に同額の想定元本を持つ金利キャップ取引を行うことにより、LIBOR+0.5%の変動金利により借り入れたのと同様の経済効果を得ることができる。また、LIBORが0.5%以下になる場合には、資金調達コストが低くなる。

(4)金利先物

金利先物とは、金利商品を将来の一時点で一定価格で売買を約束する取引をいう。企業は金利先物を売買することにより、将来の金利の変動から生じるリスクを回避することができる。
東京金融先物取引所の金利先物の対象となる円預金の期間は四半期毎(3ヶ月)で、限月は3月、6月、9月、12月である。金利先物の決済方法は、取引最終日での最終決済もしくは取引最終期限前の反対売買かどちらかである。決済方法は差金決済である。最終決済の指標レートとして、LIBOR(London Interbank Offered Rate)とTIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)がある。取引単位は1億円で、価格の最小変動単位(価値)は0.005(1250円)である。

デリバティブの会計

(1)時価評価の原則

 デリバティブ取引は、取引により生じる正味の債権又は債務の時価により保有者が利益又は損失を被る取引である。このようなデリバティブ取引の特性を考えた場合、投資家や企業にとって意義のある価値は、デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務の時価であるという考え方から、デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、原則として、当期の損益として処理するのが原則である。

(2)「時価」に対する考え方

デリバティブ取引を評価するときの「時価」とは、「公正な評価額」であり、取引を実行するために必要な知識をもつ自発的な独立第三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額である(金融商品実務指針47)。金融資産に付すべき時価には、当該金融資産が市場で取引され、そこで成立している価格がある場合の「市場価格に基づく価額」と、当該金融資産に市場価格がない場合の「合理的に算定された価額」とがある。つまり、マーケットで価格が形成されているデリバティブについては、マーケットでの価格を客観性のある時価とし、マーケットで価格が形成されていない場合は、合理的に算定された価格をもって時価としている。
デリバティブ取引は、ヘッジ会計を適用するもの以外について、時価のあるものについて時価評価を行い、時価評価差額は当期の損益として処理するのが原則である。

(3)時価評価の方法

 時価評価の方法については、上場デリバティブの場合と非上場デリバティブのケースで分けて規定されている。非上場デリバティブの場合は、合理的に算定された時価を用いて評価する。

①上場デリバティブのケース
取引所に上場しているデリバティブ取引により生じる債権及び債務は、貸借対照表日における当該取引所の最終価格(終値、終値がなければ気配値(公表された売り気配の最安値又は買い気配の最高値、それらがともに公表されている場合にはそれらの仲値))を用いて時価評価する。同日において最終価格がない場合には同日前直近における最終価格を用いる。また、委託手数料等取引に付随して発生する費用は時価に加味しない(金融商品会計実務指針101項)。
②非上場デリバティブのケース
a. インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引等の随時決済・換金ができる取引システムでの気配値による方法
b. 割引現在価値による方法
c. オプション価格モデルによる方法

ただし、非上場デリバティブ取引の時価評価について、公正な評価額を算定することが極めて困難と認められるデリバティブ取引については、取得価額をもって貸借対照表価額とする(金融商品会計実務指針104項)。

(4)ヘッジ会計

①ヘッジ会計が必要な理由

 デリバティブ取引をヘッジ目的で利用している場合において、デリバティブを原則通り時価評価すると、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益の認識時点が一致せず、ヘッジの効果が財務諸表上に反映されない場合がある。そこでこのような損益認識時点が一致しない場合に、損益認識の時点を合わせることによりヘッジの効果を財務諸表上反映させるために、ヘッジ会計が導入された。

 ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいう(金融商品会計基準29項)。ヘッジ会計には、繰延ヘッジ会計と時価ヘッジ会計の2種類がある。

繰延ヘッジ会計:ヘッジ手段の損益を、ヘッジ対象の損益が発生するまで繰延べ、ヘッジ対象の損益が発生した時にヘッジ手段の損益を認識する会計。

時価ヘッジ会計:ヘッジ対象の損益の発生時点において、ヘッジ手段のの損益を認識す
る会計。

②繰延ヘッジ会計

繰延ヘッジ会計とは、ヘッジ手段の損益を、ヘッジ対象の損益が発生するまで繰延べ、ヘッジ対象の損益が発生した時にヘッジ手段の損益を認識する会計をいう。金融商品会計基準においては、ヘッジ会計は原則として時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法によるとされていることから、繰延ヘッジ会計が原則的なヘッジ会計の処理方法となっている。繰延ヘッジ損益は、税効果会計適用後、貸借対照表の純資産の部において、「評価換算差額等」として表示する。

③時価ヘッジ会計

時価ヘッジ会計とは、ヘッジ対象の損益の発生時点において、ヘッジ手段のの損益を認識する会計をいう。金融商品実務指針185条によれば、金融商品会計基準第32項ただし書に規定された「ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する」方法は、「ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることができる場合」(金融商品会計基準第106項)に適用でき、したがって、この処理方法の適用対象は、ヘッジ対象の時価を貸借対照表価額とすることが認められているものに限定され、金融商品会計基準の規定との関係上、現時点ではその他有価証券のみである、とされている。よって、時価ヘッジ会計は、現行制度上はその他有価証券のヘッジのみに適用可能となっている。

④ヘッジ会計が適用されるための要件

ヘッジ取引にヘッジ会計が適用されるのは、次の要件がすべて充たされた場合とする(金融商品会計基準31項)。

a. ヘッジ取引時において、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められること

(a)当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
(b)企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること

b.ヘッジ取引時以降において、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること

(5)ヘッジ会計の適用要件

①事前テスト

ヘッジ会計を適用するにあたり、どのような取引をヘッジ取引と考えるかについては、企業のリスク管理方針を離れて一律に判定すべきものではなく、各企業のリスク管理方針におけるリスクの特定や財務目標等に基づいて判断する必要がある。例えば、将来の金利変動により、変動金利はキャッシュ・フローが変動するリスクがあり、固定金利は時価(割引現在価値)が変動するリスクがある。どちらをヘッジすべきリスクと考えるかは、それぞれの企業のリスク管理方針において定め、事前に明確に文書化することにより、ヘッジ会計適用に関する客観性を保つ必要がある。
また、ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ取引開始時に、下記の事項を正式な文書によって明確にしなければならない(金融商品会計実務指針143)。

記載事項 内容
ヘッジ手段とヘッジ対象について ヘッジ対象のリスクを明確にし、これらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確に記載する。例えば、固定金利又は変動金利の借入金の金利変動リスクに対し、金利スワップ、金利オプションをヘッジ手段として用いるなど。
ヘッジ有効性の評価方法について ヘッジ開始時点で相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法を明確に記載する。例えば、固定金利又は変動金利の借入金の金利のキャッシュフローと、金利スワップ、金利オプションをヘッジ手段として用いる場合の金利のキャッシュ・フローを一対一で直接結び付けてヘッジ有効性を判定するなど。有効性の評価方法としては、比率分析や回帰分析等を利用することも考えられる。

さらに、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、ヘッジ取引時に、次のいずれかによって客観的に認められる必要がある。

a. 当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること(比較的単純な形でヘッジ取引を行っている場合)。

b.企業のリスク管理方針に関して明確な内部規程及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること(個別のヘッジ取引とリスク管理方針との関係を具体的に文書化することが困難な場合)。この場合、ヘッジのためのデリバティブ取引を実行する部門とは分離されたリスク管理部門を設け、ヘッジ取引の実行を適切に管理するシステムを確立することにより、牽制機能が働いている必要がある。

②事後テスト

ヘッジ会計を適用するためには、上記の事前テストのみならず、指定したヘッジ関係についてヘッジ取引時以降も継続してヘッジ指定期間中にわたり高い有効性が保たれていることを事後的に確かめなければならない。すなわち、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動との間に高い相関関係があったかどうか(ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動がヘッジ手段によって高い水準で相殺されたかどうか)を事後的にテストしなければならない。
企業は、決算日には必ずヘッジ有効性の評価を行わなければならず、少なくとも6か月に一回程度、有効性の評価を行わなければならない。ヘッジ有効性の評価は、文書化されたリスク管理方針・管理方法と整合性が保たれている必要がある。

③有効性の判定基準

事後テストにおけるヘッジの有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する方法により行う。両者の変動額の比率がおおむね80%から125%の範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められ(金融商品実務指針156項)、ヘッジは有効であると判定される。
なお、ヘッジ取引開始時に行ったヘッジ効果の事前確認の結果がヘッジ手段の高い有効性を示している限り、たとえ上記により算出した変動額の比率が高い相関関係を示していなくても、その原因が変動幅が小さいことによる一時的なものと認められるときは、ヘッジ会計の適用を継続することができる。

(6)金利スワップの特例処理

デリバティブ取引は時価評価が原則であるが、その例外として、資産又は負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用されている金利スワップが金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することができる旨が規定されている。
ただし、このような特例処理はデリバティブの時価評価の原則の例外であることから、その適用には次の①~⑥の要件をすべて満たさなければならない。なお、売買目的有価証券及びその他有価証券は特例処理の対象とはならない。

①金利スワップの想定元本と貸借対照表上の対象資産又は負債の元本金額がほぼ一致していること。金利スワップの想定元本と対象となる資産又は負債の元本については、いずれかの5%以内の差異であれば、ほぼ同一であると考えて、この特例処理を適用することができる。

②金利スワップとヘッジ対象資産又は負債の契約期間及び満期がほぼ一致していること。契約期間又は満期の長さによって、一概に何日又は何か月異なっている場合が要件に該当しないということはできないが、その差異日数が金利スワップ又はヘッジ対象資産又は負債の契約期間又は満期のいずれかの5%以内であればほぼ一致していると考えられる。

③対象となる資産又は負債の金利が変動金利である場合には、その基礎となっているインデックスが金利スワップで受払される変動金利の基礎となっているインデックスとほぼ一致していること。例えば、3か月東京銀行間金利(TIBOR)と3か月ロンドン銀行間金利(LIBOR)は比較的高い相関関係を示すことが多いと考えられるが、自動的に「ほぼ一致」とするのではなく、ヘッジ取引開始時の直近の状況により「ほぼ一致」かどうかを判定すべきものと考えられ、直近の一定期間について両者が高い相関関係を示していることが確認されている場合には、ほぼ一致しているものとして扱うことができる。なお、プライムレートとTIBOR又はLIBORの関係については、TIBORやLIBORが時々刻々と変化するのに対して、プライムレートは一定期間変化しないのが通常であり、事前にほぼ一致と判定することはできないものと考えられ、特例処理の対象とはならない。

④金利スワップの金利改定のインターバル及び金利改定日がヘッジ対象の資産又は負債とほぼ一致していること。金利取引は3か月を単位として行われることが比較的多いため、金利改訂日及びインターバルの差異は最大でも3か月以内でなければ、ほぼ一致しているとはいえないと考えられる。

⑤金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であること(同一の固定金利及び変動金利のインデックスがスワップ期間を通して使用されていること)。

⑥金利スワップに期限前解約オプション、支払金利のフロアー又は受取金利のキャップが存在する場合には、ヘッジ対象の資産又は負債に含まれた同等の条件を相殺するためのものであること。

支払金利に係るキャップ取引、受取金利に係るフロアー取引についても金利スワップに準じて特例処理の対象とすることができる。

(7)デリバティブの開示

 デリバティブ取引より生じる正味の債権債務は、資産又は負債として表示される。繰延ヘッジ会計を適用する場合の繰延ヘッジ損益は、貸借対象表の純資産の部に表示される。
繰延ヘッジ会計を適用する場合の繰延ヘッジ損益は、株主資本等変動計算書において、「株主資本以外の項目の事業年度中の変動額(純額)」として開示される。また、重要な会計方針として、ヘッジ会計の方法の記載が必要である(財規8の2第8号、連結財規13条5項)。ヘッジ会計の方法には、繰延ヘッジ等のヘッジ会計の方法に併せて、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジ方針、ヘッジ有効性評価の方法等リスク管理方針のうちヘッジ会計に係るものについても概括的に記載する(財規ガイドライン8の2-8 )。 
財規第8条の6の2(第7項を除く。)に定める事項のほか、デリバティブ取引については、次の各号に掲げる取引の区分に応じ、当該各号に定める事項を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。

①ヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引 

取引の対象物(通貨、金利、株式、債券、商品及びその他の取引の対象物をいう。次号において同じ。)の種類ごとの次に掲げる事項

a. 貸借対照表日における契約額又は契約において定められた元本相当額
b. 貸借対照表日における時価及び評価損益
c. 時価の算定方法

②ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引 

取引の対象物の種類ごとの次に掲げる事項

a. 貸借対照表日における契約額又は契約において定められた元本相当額
b. 貸借対照表日における時価
c. 時価の算定方法

また、下記の区分に応じて注記が必要とされている(財規8条の8)

①取引の状況に関する事項 

取引の内容、取引に対する取組方針、取引の利用目的、取引に係るリスクの内容、取引に係るリスク管理体制及び次号に定める事項についての補足説明について記載する。

②取引の時価等に関する事項(ヘッジ会計が適用されているものは除くことができる。) 

取引の対象物の種類(通貨、金利、株式、債券及び商品等をいう。)ごとの貸借対照表日における契約額又は契約において定められた元本相当額、時価及び評価損益並びに当該時価の算定根拠について記載する。

<デリバティブ取引関係の注記(例)>
デリバティブ取引関係

1 取引の状況に関する事項

(1)取引の内容
当社は金利スワップ取引を利用しております。

(2)取引の利用目的
当社は将来の金利上昇リスクを回避する手段として金利スワップ取引を行っております。

①ヘッジ手段とヘッジ対象
(ヘッジ手段)  (ヘッジ対象)
金利スワップ 借入利息

②ヘッジ方針
将来の金利上昇リスクを回避する手段として金利スワップ取引を行っております。ヘッジ対象の識別は、個別契約単位で行っております。

③ヘッジの有効性の判定
金利スワップは特例処理の要件を満たしているため、ヘッジの有効性の判定を省略しております。

(3)取引に対する取組方針
金利スワップ取引については、現在、変動金利を固定金利に変換する目的で金利スワップ取引を利用しております。投機目的の取引は行わない方針であります。

(4)取引に係るリスクの内容

 金利関連における金利スワップ取引においては、市場金利の変動による損失のリスクを有しております。当社のデリバティブ取引の契約先は、いずれも信用度の高い国内の銀行であるため、信用リスクは、ほとんどないと判断しています。

(5)取引に係るリスク管理体制
金利関連のデリバティプの管理・運用は、「内部管理規程」に従っております。

財務諸表規則第8条の2 (重要な会計方針の記載)

財務諸表作成のために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項で次の各号に掲げる事項は、キャッシュ・フロー計算書の次に記載しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、記載を省略することができる。
一~七(省略)
八  ヘッジ会計(ヘッジ手段(資産(将来の取引により確実に発生すると見込まれるものを含む。以下この号において同じ。)若しくは負債(将来の取引により確実に発生すると見込まれるものを含む。以下この号において同じ。)又はデリバティブ取引に係る価格変動、金利変動及び為替変動による損失の危険を減殺することを目的とし、かつ、当該損失の危険を減殺することが客観的に認められる取引をいう。以下この号及び第67条第1項第2号において同じ。)に係る損益とヘッジ対象(ヘッジ手段の対象である資産若しくは負債又はデリバティブ取引をいう。第8条の8第3項及び第67条第1項第2号において同じ。)に係る損益を同一の会計期間に認識するための会計処理をいう。第8条の8第1項及び第3項において同じ。)の方法
九  キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲
十  その他財務諸表作成のための基本となる重要な事項

財務諸表規則第8条の8(デリバティブ取引に関する注記)

第8条の6の2(第7項を除く。)に定める事項のほか、デリバティブ取引については、次の各号に掲げる取引の区分に応じ、当該各号に定める事項を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。
一  ヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引 取引の対象物(通貨、金利、株式、債券、商品及びその他の取引の対象物をいう。次号において同じ。)の種類ごとの次に掲げる事項
イ  貸借対照表日における契約額又は契約において定められた元本相当額
ロ  貸借対照表日における時価及び評価損益
ハ  時価の算定方法
二  ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引 取引の対象物の種類ごとの次に掲げる事項
イ  貸借対照表日における契約額又は契約において定められた元本相当額
ロ  貸借対照表日における時価
ハ  時価の算定方法
2  前項第1号に定める事項は、取引(先物取引、オプション取引、先渡取引、スワップ取引及びその他のデリバティブ取引をいう。次項において同じ。)の種類、市場取引又は市場取引以外の取引、買付約定に係るもの又は売付約定に係るもの、貸借対照表日から取引の決済日又は契約の終了時までの期間及びその他の項目に区分して記載しなければならない。
3  第1項第2号に定める事項は、ヘッジ会計の方法、取引の種類、ヘッジ対象及びその他の項目に区分して記載しなければならない。
4  第1項に定める事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、記載することを要しない。

デリバティブの税務

 デリバティブ取引の税務は、基本的に会計と考え方において差異はない。

(1)みなし決済損益の処理

法人税法においては、期末において未決済のデリバティブ取引(以下「未決済デリバティブ取引」という。)については、その時において当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令(法規27の7第3項)で定めるところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(以下「みなし決済金額」という。)について、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入され(法法61の5第1項)、その益金の額又は損金の額に算入された金額は翌期に洗替える(法令120条)。なお、未決済デリバティブ取引とは、期末において手仕舞いに係る約定が成立していないものをいい(法基通2-3-37)、次に掲げるものは含まれない(法規27の7第2項)。

① 一定の先物外国為替契約

② スワップ取引・オプション取引のうち、次に掲げる要件を満たす取引で一定のもの。

a 金利の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額(次号において「金利変動損失額」という。)を減少させるために行ったものであること。
b その取引を行った日において、金利変動損失額を減少させようとする法第61条の6第1項第1号 (繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ)に規定する資産若しくは負債又は同項第二号 に規定する金利に係る元本(以下この項において「ヘッジ対象資産等」という。)の種類、名称、金額、金利変動損失額を減少させようとする期間、金利変動損失額を減少させるためにその取引を行った旨、その取引を事業年度終了の時において決済したものとみなさない旨及びその他参考となるべき事項をその取引に関する帳簿書類に記載したこと。
c その取引の当事者がその取引の元本として定めた金額とヘッジ対象資産等の金額とがおおむね同額であること。
d その取引を行う期間の終了の日とヘッジ対象資産等の償還等の期日がおおむね同一であること。
e その取引の金利に相当する額の計算の基礎となる指標とヘッジ対象資産等から生ずる金利の計算の基礎となる指標とがおおむね一致していること。
f その取引の金利に相当する額の受取又は支払の期日とヘッジ対象資産等から生ずる金利の支払又は受取の期日とがおおむね一致していること。
g その取引の金利に相当する額がその取引を行う期間を通じて一定の金額又は特定の指標を基準として計算されること。

(2)みなし決済金額の算出

みなし決済金額の算出は、一定の区分に従って算出されている場合はこれが認められる。この場合、当該みなし決済金額は、法人が各事業年度において同一の方法により入手又は算出する金額により、その入手価額は、通常の方法により入手可能なもので差し支えないものとされている(法基通2-3-39)。

<みなし決済金算定時の時価>

(1)取引所に上場されているデリバティブ取引 当該取引が上場されている取引所において公表された事業年度終了の日の最終の取引成立価格(公表された同日における当該価格がない場合には、公表された同日における最終の気配値とし、公表された同日における当該価格及び当該気配値のいずれもない場合には、最終の取引成立価格又は最終の気配値が公表された日で当該事業年度終了の日に最も近い日におけるその最終の取引成立価格又は最終の気配値とする。)に基づき算出した金額をみなし決済金額とする。ただし、法人が、取引所の公表する清算価格(値洗いのために授受をする金銭の額の計算の基礎として用いられる金額をいう。)に基づき算出した金額を継続してみなし決済金額としているときは、これを認める。

(2)取引システムの気配値があるデリバティブ取引 

イ 当該デリバティブ取引について、インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引市場その他当該法人が随時決済又は換金ができる取引システムの気配値がある場合は、当該システムの気配値に基づき算出した金額をみなし決済金額とする。

ロ 当該デリバティブ取引に類似するデリバティブ取引について、インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引市場その他当該法人が随時決済又は換金ができる取引システムの気配値がある場合は、当該気配値に契約上の差異等を合理的に調整して算出した金額をみなし決済金額とする。

(3) (1)及び(2)以外のデリバティブ取引でみなし決済金額の算出が可能なもの デリバティブ取引のみなし決済金額を算出する専担者又は専担部署(関係会社を含む。)を有する等により常時みなし決済金額を算定している法人が行うデリバティブ取引についてはイ又はロに掲げる金額とし、それ以外の法人が行うデリバティブ取引についてはロに掲げる金額をみなし決済金額とする。

イ 当該デリバティブ取引の見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く方法、オプション価格モデルを用いて算定する方法その他合理的な方法で、法人があらかじめ定めている方法により算出した金額

ロ 銀行、証券会社、情報ベンダー等から入手した金額(イの方法に基づいて算定されたこれらの者の提示価額に限る。)

(4) (1)及び(2)以外のデリバティブ取引でみなし決済金額の算出が困難なもの イ又はロの区分に応じ、それぞれイ又はロによる

イ 債務保証等類似デリバティブ取引 みなし決済金額はないものとする。この場合において、法人が債務保証等類似デリバティブ取引について支払を受ける又は支払うプレミアムの額は、期間の経過に応じて益金の額又は損金の額に算入する。

ロ イ以外のデリバティブ取引で、市場価格のない株式の価格に係る数値、信用リスクに係る数値、気温等の気候の変動に係る数値、地震等の災害の発生に係る数値その他の算定をすることが極めて困難な数値を基礎数値とするデリバティブ取引 みなし決済金額はないものとする。この場合において、当該デリバティブ取引については、授受をする金銭等の価額をもってその授受の都度資産又は負債に計上し、当該資産又は負債に計上した金額は、当該デリバティブ取引の消滅が確定した日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。

(3)繰延ヘッジ処理

内国法人がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために一定のデリバティブ取引を行った場合(時価ヘッジの適用がある場合を除く)において、当該デリバティブ取引等を行った日からその事業年度終了の時までの間において、当該ヘッジ対象資産等損失額を減少させようとする資産の譲渡等がなく、かつそのデリバティブ取引等がそのヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められるときは、そのデリバティブ取引等に係る利益の額又は損失の額相当額のうちそのヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効な部分の金額は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入しない。(法法61の6)
 なお、その繰延べた利益の額又は損失の額相当額は、そのヘッジ対象資産等損失額を減少させようとする資産の譲渡等のあった日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。(法法61の6第4項)この規定の適用を受ける場合には、益金の額又は損金の額に算入されなかった金額に相当する金額は、当該内国法人の当該規定の適用を受ける事業年度終了の時の負債の帳簿価額又は資産の帳簿価額に含まれるものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する(法令121条の5第4項)。

(4)時価ヘッジ処理

内国法人が有する売買目的外有価証券の価額の変動により生ずるおそれのある損失の額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合において、当該デリバティブ取引等を行った時から事業年度終了の時までの間に当該売買目的外有価証券の譲渡がなく、かつ、当該デリバティブ取引等が当該ヘッジ対象有価証券損失額を減少させるために有効であると認められる場合として一定の場合に該当するときは、ヘッジ対象となる売買目的有価証券の時価評価差額は、下記のケースに応じて当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する(法法61条の7)。

①期末時のヘッジの有効性判定において価額変動に対する有効性割合がおおむね100分の80から100の125までとなっている場合、その有効性判定に係る売買目的外有価証券の時価評価差額が損金の額又は益金の額に算入される(法令121条の9第1項)。

②期末時の有効性判定において価額変動に対する有効性割合がおおむね100の80から100の125までとなっていない場合および当該事業年度においてそのデリバティブ取引等の決済をしている場合、価額変動に対する有効性割合がおおむね100の80から100の125までとなっていた当該事業年度終了の時の直近の有効性判定に係る売買目的外有価証券の時価評価差額が損金の額又は益金の額に算入される(法令121条の9第2項)。