アセット・ファイナンス

アセット・ファイナンスとは

<概要>

①アセット・ファイナンスの定義

「アセット・ファイナンス」という言葉は、実務において色々な使われ方をしているのが現状であるが、その種類は、主にその定義付けをどのように行うかによって違ってくる。
アセット・ファイナンスを広義にとらえ、「企業が保有している資産を活用して資金調達する方法」と定義づければ、資産の流動化・証券化およびアセット・ベースド・ファイナンス(ABF、資産に基づくファイナンス) がアセット・ファイナンスに分類される。ここで、ABFには一般的にアセット・ベースド・レンディング(ABL、資産に基づく融資)、ファクタリング、手形割引等が含まれる。
また、資産をオリジネーターからSPC等に切出し、SPC等が当該財産のみを引当として借入れることにより、オリジネーターの財産にまで借入の弁済責任が遡及しない(non recourse)状態でのノンリコース・ファイナンスをアセット・ファイナンスと定義すれば、資産の流動化・証券化のみがアセット・ファイナンスに分類される。

②流動化と証券化の違い

一般に、流動化とは企業が保有している流動性の乏しい資産について、流動性を与えることをいう。企業が持つ資産(アセット)をSPC等に譲渡する等の行為により企業より切り離し、当該資産を貸借対照表からオフバランスし、資金調達することを一般的に資産の流動化という。その場合に、流動性・透明性を付与するために、有価証券を発行することを、資産の証券化という。
バブル崩壊後の日本において、信用力が悪化した企業であっても、自らの信用力に依存しない資金調達が可能となり、また資産や債務を圧縮できる手法として、流動化・証券化は急速に広まった。具体的には、不良債権処理や不動産に流動性を与える手段として流動化・証券化は広く利用された。

③コーポレート・ファイナンスとの違い

従来のコーポレート・ファイナンスでは、企業全体の信用力をベースに資金調達を行ってきたが、貸借対照表の借方にある資産を活用して資金調達を行う方法である。それに対し、流動化に基づくアセット・ファイナンスの場合、企業は自社の信用力の問題から借入・株式による資金調達ができない場合であっても、資産を流動化することにより資金調達を行うことができる。また企業の信用力を切り離し、資産自体の信用力を利用して資金調達することから、企業の信用リスクが高くても、低コストの資金調達も可能となる。結果として資産を貸借対照表からオフバランス化することができるので、財務比率が改善され、企業の信用力が高まることになる。
コーポレート・ファイナンスは、「企業としての信用力」をもって資金調達を行うが、流動化によるアセット・ファイナンスは、企業が保有している「資産」を活用し、資金調達を行うものである。従来は企業(コーポレート)の信用力に応じて銀行が融資を行っていたが、バブルの崩壊とともに、企業の信用力が低下し、銀行が企業の信用力に応じて融資するのが困難となった。そのような状況の下で、企業が保有している資産(アセット)の価値やアセットが生み出す収益力(キャッシュ・フロー)に着目して融資を行うという流動化の手法が新たに導入された。
流動化においては、まずSPCが設立される。SPCとは、Special Purpose Company(特別目的会社)の略である。なお、厳密には会社(Company)以外の任意組合、投資事業組合、信託等も含めてSPV(Special Purpose Vehicle)と呼ばれることもあるが、本書では一般的な呼称であるSPCを全てのVehicle(器)を含めた概念として記載する点、あらかじめご了解頂きたい。
SPCは通常借入や社債等により資金調達を行い、流動化の対象となる資産の保有者(オリジネーターという)は、SPCに当該資産を売却するが、そのようなSPCに対する融資はノンリコース・ローンで行われる。ここで、ノンリコース・ローンとは、借入金の返済原資が借手の持つ特定の資産のみに限定されるローンをいう。SPCが有する特定の資産のみがノンリコース・ローンの引当となる(この場合の資産を責任財産という)。ノンリコース・ローンにおいて、オリジネーターの財産が融資の引当となることはなく、返済義務がオリジネーターに遡及することはない。

流動化に基づくアセット・ファイナンスにおいては、企業の信用力とは切り離したファイナンス(SPCを使ったノンリコース型のファイナンス)が行われるため、業績の悪い企業であっても、企業の信用リスクとは切り離した形で資金調達が可能である。同時に企業から資産をオフバランス化(企業のバランスシートから資産を切り離す)することによりバランスシートを圧縮し経営を効率化するも可能である。





資産の流動化

<概要>

(1)資産流動化の種類

 資産の流動化には、大きく分けて不動産の流動化、金銭債権の流動化に分類される。不動産流動化は、流動化の裏付け資産が不動産となるものであり、金銭債権の流動化は、流動化の裏付け資産が売掛金、受取手形、住宅ローン、貸付債権等の金銭債権となるものである。その他の流動化としては、知的財産の流動化や設備資産(船舶や航空機等)の流動化等がある。
以下では、第2節において不動産の流動化を、第3節において金銭債権の流動化について記載する。そして第4節において知的財産の流動化を紹介する。

(2)流動化のメリット

資産の流動化は、オリジネーターと投資家の以下のようなメリットが合致することにより行われる。

□オリジネーターのメリット
低コストの資金調達:企業の信用リスクが高い場合、保有している優良な資産の価値をベースとして低い調達コストで資金調達できる可能性がある。
財務内容の改善:オフバランス化により貸借対照表の総資産残高を圧縮することができるので、自己資本比率が高まる。また流動化対象資産の含み損益を実現することができる。管理面では流動化対象資産の維持管理コストを削減することができる(不動産流動化の場合)。
リスク移転:不動産の保有リスク(価格の下落、自然災害のリスク等)や債権の債務者の信用リスクを第三者へ移転することができる。
継続的な関与:不動産流動化の場合にSPCに不動産を売却しても、当該不動産をリースバックすることにより継続的に利用したり、SPCの資金調達(出資)やアセットマネジメント業務、PM業務に関与することにより、売却後も継続的な関係を保つことができる。

□投資家のメリット

税務メリット:SPCの段階と投資家の段階で二重課税されるのを回避することができる。
リスク選好に見合った商品:SPCの借入・出資等に関し、優先劣後構造を施すことにより、ローリスク・ローリターンの商品からハイリスク・ハイリターンのものまでクラス分け(トランチング)され、投資家のニーズに見合った商品を購入することができる。
倒産隔離:SPCがオリジネーターから真正売買により取得する資産は、仮にオリジネーターが倒産しても、SPCは倒産による影響を受けない。また、SPCの役員や株主、債権者から倒産の申立を受けない仕掛みとなっているので、法的な安定性が確保されている。

(3)仕組み

①基本的スキーム

資金調達目的や、財務体質を改善したり税務メリットを享受したいオリジネーター(原資産保有者)は、流動化対象資産を信託銀行に信託することにより信託受益権化する。アレンジャーはSPCを組成し、流動化対象資産の将来キャッシュ・フローを見極めた上で、投資家のリスク選好に応じた証券を発行し投資家に売却することにより資金調達を行う。SPCは調達した資金で信託受益権を購入する。期中は事務受託会社が資金管理や記帳業務を行うというのが基本的なスキームである。


 実際のスキームにおいては、現物の資産をそのまま流動化するのではなく、オリジネーターがその資産を信託銀行に信託して信託受益権化する場合が多い。これは、不動産取得税や登録免許税を軽減することで節税することができ、また資産を信託受益権化することにより委託者からも受託者からも独立した財産を作り出すことができるからである。

②倒産隔離

倒産隔離とは、投資家が負うリスクを流動化の対象資産のリスクに限定するための枠組みであり、オリジネーターからの倒産隔離と、SPCそのものの倒産隔離の2つの側面がある。オリジネーターからの倒産隔離とは、オリジネーターが流動化対象資産をSPCに売却後倒産した場合には、その管財人によりSPCへの流動化対象資産の売却が否認されたり、オリジネーターの債権者から詐害行為を理由にSPCへの流動化対象資産の売却を取り消されたりする恐れがある。この様な自体を回避するため、オリジネーターからSPCへの流動化対象資産の譲渡は、真性売買であること、すなわち譲渡が法的に有効であり、流動化対象資産がオリジネーターから法的に分離されていることが必要である。
SPCそのものの倒産隔離の方法としては、SPC自らが倒産申立や定款に定められた一定の事業以外の事業を行うことを禁止する旨を定款等で規定すると同時に、海外SPCや有限責任中間法人などをスキームに組み入れる方法がある。

③信用補完

流動化のスキームにおいては、スキームの安定性を保つため、信用補完措置が講じられる。信用補完とは、投資家への元利払いが優先的に行われる証券を作ることで元利金が支払われないリスクを回避する仕組みや、資産から生じるキャッシュ・フローが、投資家への元利払い不足するリスクを回避するための仕組みをいう。

□信用補完

優先劣後方式の採用(トランチング):優先劣後構造とは、発行する証券を、優先部分と劣後部分に区分する方式を言う。原資産のリスクが凝縮された劣後部分をオリジネーターが保有することも信用補完として機能する。元利金の返済が優先的に受けられる相対的にリスクが低い優先部分と、優先部分への元利金の返済後に元利金を受け取る相対的にリスクの高い劣後部分とに区分し、優先部分の安全性を高める信用補完措置である。優先劣後方式による区分により、資産からのキャッシュ・フローを受け取る権利に優先順位をつけることにより、ハイリスク・ハイリターンの証券からローリスク・ローリターンの証券まで、投資家のニーズに合致した証券を発行することができる。
超過担保:企業がSPCに資産を譲渡するにあたり、SPCが発行する証券の総額を超える価額の資産を譲渡し、その差額分の現金をSPCに留保する仕組み。資産から発生するキャッシュ・フローが予想外に少なくても、SPCに留保された現金により投資家への元利金支払いが滞らないようにすることができる。債権の一部デフォルト時には、まず差額分が充当される。
キャッシュ・リザーブ:資産から発生するキャッシュ・フローの一部を、不測の事態に備えてSPC内部に積み立てておくこと。一定期間分の投資家への元利金支払い等を賄えるだけの現金をあらかじめ積み立てて準備しておく。
保証・保険:譲渡される資産について、保証付けたり、保険を付したりすること。 保険事故が発生した場合に、保険金により損失額がカバーされ、投資家に対して滞りなく元利金を支払うことができる。
買戻し条件の付与:オリジネーターがSPCに資産を譲渡するにあたり、資産に瑕疵がある場合や債権がデフォルトした場合には、オリジネーターが買戻す条項を譲渡契約上に盛り込むこと。オリジネーターが実質的に保証を付しているのと同様の経済的効果が生じる。

(4)主なプレーヤー

流動化の場合には、以下のようなプレーヤー(登場人物)が存在するが、各登場人物の主な役割は以下の通りである。


オリジネーター:オリジネーターとは、流動化の対象となる資産を保有している企業をいう。SPCに流動化の対象資産を売却する。SPCへの出資者として参加することもある。
アレンジャー:流動化商品を組成(アレンジ)し、ストラクチャーを検討する業務を行う企業をいう。オリジネーターの流動化目的に合ったストラクチャーを構築し、投資家のニーズに合った商品を設計し、投資家を募る。
SPC:SPCは、流動化の対象となる資産の受け皿として、対象資産を保有するために設立される会社をいう。一般的に、SPCはオリジネーターから資産を買い取り、その資産を裏付けとする証券を発行する。
アセットマネージャー:投資家利益の極大化のため、SPCが保有している資産の売買などのアセットマネジメント業務を行う企業をいう。
サービサー:原債権の債権回収を代行する業務を行う。原債務者からの支払いをSPCに代わって受領し、SPCに引き渡す。オリジネーターがサービサーを兼ねる場合も多い。
格付機関:流動化・証券化商品について、元利金の支払いの確実性について、第三者として評価する機関をいう。
一般社団法人:「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づく法人。
プロパティ・マネージャー:対象不動産が生み出すキャッシュ・フローの極大化することを目的として、不動産の管理を行う企業をいう。不動産の価値保全・修繕などの運営管理業務やリーシング(テナント誘致)業務を行う。
レンダー:SPCに貸付を行う金融機関をいう。
エクイティ投資家:SPCのエクイティ部分に投資を行う投資家をいう。最劣後で投資リスクを引受ける。オリジネーターがエクイティ投資家となるケースもある。
信託銀行:オリジネーターが流動化の対象資産を信託銀行に信託することにより、対象資産を信託受益権化する。
事務受託会社:SPCの運営・管理を行う会社をいう。主にSPCの資金管理や記帳事務を行う会社である。
弁護士:SPC組成時に、法律意見書を作成する。また契約書等のドキュメントを作成する。
公認会計士:SPCの組成時に、オフバランスや連結に関する会計意見書を作成する。またSPCの外部監査を行う。
税理士:SPCの組成時に、税務意見書を作成する。またSPCの税務申告業務を行う。

(5)流動化に使われるSPC

アセット・ファイナンスで用いられるSPCには、特定目的会社、合同会社、匿名組合、任意組合、投資事業有限責任組合、信託、有限責任組合等がある。
流動化スキームにおいてどのようなSPCを選択するかは、SPCとして法的安定性、税務上のメリット、SPCの運営管理コスト、手続の簡便性(公官庁等への認可、届出関係)を勘案し、総合的に判断される。

□流動化に用いられるSPC

特定目的会社(TMK)特定目的会社とは、「資産の流動化に関する法律」に基づいて設立される資産の流動化のみを目的としたSPCである。
合同会社(GK):合同会社とは、会社法第3編において定められる持分会社の一つである。社員は全員有限責任であり、会社の内部関係については組合的規律が適用され、機関設計や社員の権利などについて、内部自治が認められている。
匿名組合(TK):匿名組合とは、商法535条から542条において定められている組合である。匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる(商法535条)。出資財産は匿名組合員ではなく営業者に帰属する(商法536条)。
任意組合(NK):任意組合とは、民法において定められる組合で、2名以上の当事者が出資を行い、共同事業を営む旨の合意を行うことによって成立する(民法667条1項)。任意組合は法人ではないため、法人格を有しない。組合に出資された財産は各出資者の共有持分となり、組合の債務については組合員が直接債権者に対して無限責任を負う。
投資事業有限責任組合:投資事業有限責任組合とは、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」において定められている組合である。投資事業有限責任組合には有限責任社員と無限責任社員が存在している。
信託:信託とは、委託者が受託者のために、委託者の財産等の管理処分権等を受託者に移転し、一定の目的に従い委託者本人等のために、管理処分等を行わせる仕組をいう。(信託法第1条)。信託は倒産隔離としての機能や現物の資産を信託受益権に変換する機能を有している。


<不動産の流動化>

 不動産の流動化は、企業の本社ビルや工場、保養所、商業施設、物流施設等がその対象となり、日本でもかなりの実績がある。不動産の流動化の場合、対象物件を流動化してオフバランスを達成しても、リースバックにより継続的に利用するケースもある。

(1)仕組み 

以下では、不動産流動化の基本的スキームについて、SPCを使ったスキームで解説を行う。

 まず、オリジネーターは、流動化の対象となる不動産を信託銀行に信託することにより信託受益権化し、それをSPCに対し適正な価額(時価)で、売却し、SPCから売却代金を受領する。SPCは、第三者からの基金拠出により設立された有限責任中間法人からの全額出資(特定出資)により設立された法人である。
SPCは、オリジネーターが第三者テナントとの間で締結していた各賃貸借契約に関し、当初売却と同時に、賃貸人としての契約上の地位及び権利義務の一切を引継ぎ、各本件第三者テナントに対し継続して賃貸する
SPCは、不動産アセット・マネジメント会社(AM会社)との間で、当初売却と同時にアセット・マネジメント契約を締結し、不動産の管理及び処分に関する業務を委託する。アセット・マネジャーは、不動産管理会社(PM会社)との間で、資産管理業務委託契約を締結し、不動産の建物管理等に係る業務を委託する。
SPCは、信託受益権の購入資金および流動性補完のため必要な資金を、特定目的借入、特定社債、優先出資、特定出資により調達し、信託受益権の購入代金に充てる。
期中において、SPCはリース契約に係る賃借人である第三者テナントから賃料を収受する。また、SPCは、特定社債の利払日において、社債利息の支払いを行う。

(2)メリット・デメリットと実務上の留意点

不動産の流動化により、流動性の乏しい不動産に流動性を付与し、資金化することができる。また、不動産をオフバランス化することにより財務指標が良くすることができる。さらに、二重課税を排除でき、税務上のメリットを享受できる。
ただし、流動化の仕組みが複雑であり、SPC設立などの手続きが煩雑である。また優良な不動産でないと流動化できないケースがある。

•流動性の乏しい不動産に流動性を付与することができ、資金調達方法が多様化する。
•不動産をオフバランス化することにより、財務指標が良くなる。
•自己の信用力に依存しないため、場合によっては低利で資金調達することができる。
•二重課税を排除でき、税務上のメリットを享受できる。
•当該不動産をリースバックすることにより継続的に利用することができる。
•仕組みが複雑であり、手続きが煩雑である。
•優良な不動産でないと流動化できないケースがある。

(3)会計(オフバランス・連結)

a. 不動産流動化とオフバランス

アセット・ファイナンスの普及に伴い、不動産の流動化による資金調達が積極的に行われたが、不動産の流動化を行って不動産を譲渡したにもかかわらず、地価下落その他の当該流動化した不動産に係るリスクが依然として譲渡人に存在していると認められる場合もあった。また、不動産流動化による売却処理を行うための根拠としてのリスクの移転に係る判断等については、必ずしも明確になっておらず、実務で混乱が生じていた。
そこで、特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理について、その取扱いを統一するために、平成12年7月に「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(不動産流動化実務指針)が公表された。
 不動産流動化実務指針によれば、特別目的会社とは、資産の流動化に関する法律第2条第3項に規定する特定目的会社及び事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体をいい、特別目的会社を活用した不動産の流動化とは、特別目的会社に不動産を譲渡することにより、当該不動産を資金化することと定義されている。


b. リスク・経済価値アプローチの採用

金融資産の消滅の認識(オフバランス)に関する考え方については、リスク・経済価値アプローチと財務構成要素アプローチがある。リスク・経済価値アプローチとは、金融資産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方法をいい、財務構成要素アプローチとは、金融資産を構成する財務的要素に対する支配が他に移転した場合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する方法をいう。

□資産の消滅を認識に対する二つのアプローチ

リスク・経済価値アプローチ:金融資産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する考え方。
財務構成要素アプローチ:財金融資産を構成する財務構成要素の一部に対する支配が第三者に移転した場合に移転した当該財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する考え方。

金融資産の譲渡に係る消滅の認識は金融資産を財務構成要素に分解して支配の移転を認識する財務構成要素アプローチを適用しているが(金融商品会計基準58項)、この取扱いは金融資産に係るものであり、金融資産でない不動産の流動化においては、信託受益権による流動化を含め、①不動産に係る権利の譲渡であるということ、②リスクと経済価値が不動産の所有と一体化していること、③金融商品に比べ時価の算定が容易でなく流通性も劣ることから、不動産の流動化におけるオフバランスに関して、リスク・経済価値アプローチを採用することとなった。
不動産のリスクとは、経済環境の変化等の要因によって当該不動産の価値が下落することであり、不動産の経済価値とは、当該不動産を保有、使用又は処分することによって生ずる経済的利益を得る権利に基づく価値のことである。

c. 不動産の流動化に係る会計処理

上記のリスク・経済価値アプローチに従い、不動産が特別目的会社に①適正な価額で譲渡されており、かつ、②当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる場合には、譲渡人は不動産の譲渡取引を売却取引として会計処理する。
一方、不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されているが当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められない場合には、当該取引は売却取引とは認められず、譲渡人は不動産の譲渡取引を金融取引として会計処理する。

d. リスクと経済価値の移転に関する判断

不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転しているか否かの判断は、形式的ではなくスキーム全体の構成内容等を踏まえて、実質的に判断する。
例えば、不動産の流動化に伴って証券が発行されていても、当該証券の保有者が譲渡人と実質的融資者のみの場合には、譲渡人が買い戻す可能性が極めて高いと推定される。このような場合は、形式よりも実質を重視し、売却取引としてではなく金融取引として会計処理すべきものと考えられる。すなわち、不動産のリスクと経済価値の移転に関しては、スキーム全体の構成内容等を踏まえて実質的な判断を行なければならない。

e. 継続的関与

不動産の流動化におけるオフバランスにおいて、問題となるのが不動産の譲渡人であるオリジネーターによる継続的関与の程度である。不動産の流動化取引においては、オリジネーターが流動化対象資産に何らかの形で関与することが多い。例えば、本社ビルを流動化する場合には、本社ビルの機能をすぐに他のビルに移すことが困難な場合も多く、そのような場合には一旦流動化において本社ビルを売却し、リースバックしている場合がある。
また、不動産の譲渡後において譲渡人が当該不動産に継続的に関与している場合は、リスクと経済価値が他の者に移転していない可能性がある。例えば、流動化取引において、オリジネーターが流動化対象資産を譲渡するにあたり、譲渡契約上において、買戻義務が盛り込まれている場合には、将来的に買い戻すことが前提となっているため、リスクと経済価値が他の者に移転しているとは考えられない。
具体的には、オリジネーターは以下のような形で流動化した不動産に関わるケースが考えられる。

 譲渡人が譲渡した不動産の管理業務を行っている場合
 譲渡人が不動産を買戻し条件付きで譲渡している場合
 譲受人である特別目的会社が譲渡人に対して売戻しの権利を保有している場合
 譲渡人が譲渡不動産からのキャッシュ・フローや譲渡不動産の残存価額を実質的に保証している場合
 譲渡人が、譲渡不動産の対価の全部又は一部として特別目的会社の発行する証券等(信託の受益権、組合の出資金、株式、会社の出資金、社債、劣後債等)を有しており、形式的には金融資産であるが実質的には譲渡不動産の持分を保有している場合
 譲渡人が譲渡不動産の開発を行っている場合
 譲渡人が譲渡不動産の価格上昇の利益を直接又は間接的に享受している場合
 譲渡人が譲受人の不動産購入に関して譲受人に融資又は債務保証を行っている場合
 譲渡人がセール・アンド・リースバック取引により、継続的に譲渡不動産を使用している場合

 このように関与の形態は様々であるが、このような関与について、リスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているかどうかを判断する必要がある。下記では、継続的関与が存在する場合における判断の指針について記載する。

□継続的関与の形態とリスク・経済価値の移転の判断

通常の不動産管理業務を行っている場合:通常の契約条件による不動産管理業務を行っている場合には、その限りにおいて、当該不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転していると認められる。ただし、不動産の管理報酬が通常の相場から逸脱しているような場合には、通常の条件による不動産管理業務に該当しない可能性がある。
譲渡人が買戻し条件付きで譲渡している場合:譲渡人が不動産を買戻し条件付きで譲渡している場合には、実質的に金融取引と同様の効果が生ずることとなる。したがって、譲渡した不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているとは認められない。
特殊性を有する不動産の場合:流動化された不動産が、譲渡人の用途等に合わせて特別な仕様により建設された建物、用途制限や環境問題等のある土地や建物、地域経済や仕様等により収益性に著しい問題のある土地や建物のように、市場性に乏しくそのまま他に転用することが困難である等の特殊性を有する不動産であり、かつ、何らかの継続的関与がある場合には、原則として、譲渡した不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが譲渡人から他の者に移転しているとは認められない。
セール・アンド・リースバック取引を行っている場合:不動産の流動化がセール・アンド・リースバック取引となっており、当該リースバック取引がオペレーティング・リース取引であって、譲渡人(借手)が適正な賃借料を支払うこととなっている場合には、その限りにおいて、当該不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが譲渡人(借手)から譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる。
特別目的会社が譲渡人の子会社に該当する場合:不動産の流動化が、譲渡人の子会社に該当する特別目的会社を譲受人として行われている場合には、譲渡人は売却処理を行うことができない。

f. リスクと経済価値が移転についての判断

リスクと経済価値の移転についての判断に当たっては、リスク負担を流動化する不動産がその価値のすべてを失った場合に生ずる損失であるとして、以下に示したリスク負担割合によって判定し、流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価)に対するリスク負担の金額の割合がおおむね5%の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているものと判断される。


g. リスクを負担する場合の継続的関与に係るリスク負担の金額の算定

オリジネーターが継続的関与をしている場合に、リスク負担の金額(上式の分子の金額)をどのように考えるかについては、例えば以下に示した考え方に基づいて算定する。

□継続的関与の種類とリスク負担に関する考え方

譲渡人が不動産を買戻し条件付きで譲渡している場合:売却処理を行うことができない。買戻しの義務がなく、オプションとして買戻しの権利又は優先買取交渉権を保有している場合には、買戻し条件付きの場合とは異なり、直ちにリスクの負担に結び付くものではないが、実態に基づいて譲渡人のリスクの負担となるか否かを判断する。
譲受人である特別目的会社が譲渡人に対して売戻しの権利を保有している場合:譲渡人にとっては、買戻し義務を負っている場合と同様に売却処理を行うことができない。
譲渡人が譲渡不動産からのキャッシュ・フロー若しくは譲渡不動産の残存価額の全部又は一部を実質的に保証している場合:保証しているキャッシュ・フローの額又は残存価額の保証額がリスク負担の金額となる。
譲渡人が譲渡不動産の対価の全部又は一部として特別目的会社の発行する証券等(信託の受益権、組合の出資金、株式、会社の出資金、社債、劣後債等)を有しており、形式的には金融資産であるが実質的には譲渡不動産の持分を保有している場合:当該持分の取得価額がリスク負担の金額となる。よって、SPCの資金調達額の5%以上をオリジネーターが出資している場合には、オフバランスすることができない。
譲渡人が譲渡不動産の開発を行う場合:開発コストのうち譲渡人が負担すべき金額がリスク負担の金額となる。また、分母は、合理的に見積り可能な開発物件の譲渡時の適正な価額によって算定する。
譲渡人が譲渡不動産の価格上昇の利益を直接又は間接的に享受している場合:享受する権利を得るための対価がリスク負担の金額となる。
譲渡人が譲受人の不動産購入に関して譲受人に融資又は債務保証を行っている場合:融資額又は保証額がリスク負担の金額となる。

セール・アンド・リースバック取引(オペレーティング・リース取引であるものに限る。)における適正な賃借料の支払額 適正な賃借料の支払額はリスク負担の金額に含めない。

h.実質的なリスク負担額を算定する際の留意点

リスク負担割合を算定するにあたり、分子であるリスク負担額は、流動化のスキーム全体を考慮して算定する点に留意が必要である。ここで、実質的なリスク負担とは、流動化した不動産がその価値のすべてを失った場合に譲渡人に生ずる損失のことをいう。
例えば、契約書上の出資割合等が、リスクと経済価値のほとんどすべてが移転していると認められるリスク負担割合の範囲内であっても、契約書上追加出資(キャピタル・コール)を行う可能性がある場合には、追加出資等に伴うリスク負担額も考慮に入れてリスク負担割合を算定する。
また、不動産の流動化スキームにおいて譲渡人の子会社又は関連会社が特別目的会社に出資を行っていること等により、当該子会社又は関連会社が当該不動産に関する何らかのリスクを負っている場合には、当該子会社又は関連会社が負担するリスクを譲渡人が負担するリスクに加算して、リスク負担割合を算定して判断する。

i. 金融取引として会計処理を行った場合の注記

金融取引として会計処理を行った場合、担保資産の注記に準じて、その旨並びに関連する債務を示す科目の名称及び金額を記載しなければならない。


(4)税務

①実質所得者課税と租税回避行為

 不動産の流動化取引の中で、会計上はオフバランス取引として処理されたとしても、スキーム全体の観点から租税回避行為と認定された場合には、税務上は金融取引として認定されるリスクがある。流動化スキームの場合には、SPCという受動的なペーパーカンパニーが「箱」として存在しており、実質所得者課税の原則の観点から、オリジネーターがその箱を利用して租税回避を行っていると認定されることもある点に留意が必要である。

②不動産流動化と消費税

a. 不動産流動化と消費税のタックス・プランニング

不動産流動化スキームを考えるにあたり、消費税のタックスプランニングは重要な項目である。一般的に、不動産流動化スキームにより設立されるSPCについては、主に次の特徴がある。

・ 不動産等の取得により、多額の課税仕入れが発生すること。
・ 資本金の額または出資の額が少額であるケースが多いこと。
・ スキーム組成の段階において、スキーム終了までの全体像が予め決められていること。

SPCの持つ特徴から、消費税のタックスプランニングを行う場合、主に次の内容について検討を要する。

・ 課税事業者を選択するか否か。
・ 本則課税又は簡易課税いずれの方式により消費税の計算を行うか。
・ 届出書の内容および提出期限。

以下消費税の概要から、タックスプランニングの内容について検討する。

b. 課税の対象

消費税は消費税法4条において「国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税を課する」とされている。ここにいう「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。」とされる(消法2条8項)。ただし、消法6条及び同法別表1及び2において非課税となる資産の譲渡等について限定列挙されている。
不動産流動化において非課税となる資産の譲渡等のうち、特に重要性が高いものとして「土地の譲渡及び貸付」と「住宅の貸付け」があげられる。これらは後述する課税売上割合の判定に重要な影響をおよぼす。

c. 納税義務者

消法5条において「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等(資産の譲渡等のうち国内において行う非課税となる資産の譲渡等以外のもの)につき、消費税を納める義務がある。」としている。しかし、消法第9条において「その課税期間における基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者」については、上記規定にかかわらず、消費税の納税義務が免除される。また、消法12条の2において、基準期間がない法人についても納税義務が免除されている。ただし、基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人(以下「新設法人」という)については、納税義務は免除されない。ここで、基準期間とは、その事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)をいう。
なお、匿名組合の事業に属する資産の譲渡等または課税仕入れ等については、営業者が単独で行ったこととして取り扱われ、営業者が納税義務者となる(消基通1-3-2)。

d. 計算構造

消費税の基本的な計算構造は「課税売上に係る消費税-課税仕入れに係る消費税=納付すべき消費税」となる。ここで「課税仕入れにかかる消費税」の算出方法として、次の方法がある。

(a). 課税売上割合が95%以上の場合

課税仕入れに係る消費税の全額が控除される。 

課税売上割合=課税期間中の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額課税期間中の国内における資産の譲渡等の対価の額の合計額

(b). 課税売上割合が95%未満の場合

下記の個別対応方式または一括比例配分方式のいずれかにより課税仕入れに係る消費税を計算する。ただし、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間以上継続して適用しなければならない。

(イ) 個別対応方式

その期間中に行った課税仕入れ等について、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの3種類に区分し、次に掲げる金額の合計額を課税仕入れに係る消費税額とする。

・ 課税資産の譲渡等にのみ要するもの
・ 課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの×課税売上割合

(ロ) 一括比例配分方式

課税仕入れ等について区分せず、すべての課税仕入れにについて次の算式により計算した金額を課税仕入れに係る消費税額とする。

課税仕入れ等の消費税額×課税売上割合

e. 簡易課税制度

基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者については、原則その課税期間開始の日の前日までに「消費税簡易課税選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出することにより、簡易課税制度により課税仕入れに係る消費税を計算することができる。簡易課税制度は、課税売上に係る消費税額に、業種ごとに設定されたみなし仕入税率を乗じたものを課税仕入れに係る消費税額として計算することが出来る方法である。

f. 消費税に関する届出書

消費税においては、届出書および申請書とその提出期限が非常に重要である。次に主な消費税の届出書および申請書とその提出期限、留意点について記載する。


消費税課税事業者選択届出書: 免税事業者が課税事業者になることを選択しようとする場合 選択する課税期間の初日の前日まで(注1)
消費税課税事業者選択不適用届出書: 課税事業者の選択をやめようとする場合 選択をやめようとする課税期間の初日の前日まで(注1)
消費税簡易課税制度選択届出書: 簡易課税制度を選択しようとする場合 選択しようとする課税期間の初日の前日まで(注2)
消費税簡易課税制度選択不適用届出書: 簡易課税制度の選択をやめようとする場合 選択をやめようとする課税期間の初日の前日まで(注2)
消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書: 課税売上割合に準ずる割合で仕入税額控除を計算しようとする場合 -
消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書: 適用を受けた課税売上割合に準ずる割合をやめようとする場合 適用をやめようとする課税期間の末日まで
消費税の新設法人に該当する旨の届出書: 新設法人に該当する場合 速やかに提出
消費税課税期間特例選択・変更届出書: 課税期間の短縮を選択または変更しようとする場合 選択しようとする短縮に係る課税期間の初日の前日まで)
消費税課税期間特例選択不適用届出書: 課税期間短縮の選択をやめようとする場合 選択をやめようとする短縮課税期間の初日の前日まで(注3)
(注1)消費税課税事業者選択不適用届は、消費税課税事業者選択届出書の効力
が発生した課税期間の初日から2年間を経過する日の属する課税期間の初
日以後でなければ提出できない。
(注2)消費税簡易課税制度選択不適用届は、簡易課税制度選択届出書の効力が
発生した課税期間の初日から2年間を経過する日の属する課税期間の初日
以後でなければ提出できない。
(注3)消費税課税期間特例選択不適用届は、特例の適用を受けた課税期間の初
日から2年間を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出で
きない。

g. タックスプランニング

(a). 納税義務者の選択

不動産流動化スキームにおいて設立されるSPCは、設立時における資本金の額または出資の額が1,000万円以下であるケースが多い。つまり、設立時においては消費税の新設法人に該当しないため、消費税の納税義務は免除される。この場合において、設立1期目に建物の取得等多額の課税仕入れが発生すると見込まれる場合には「消費税課税事業者選択届出書」をその事業年度終了の日までに提出することにより、消費税の還付を受けることができる。
また、設立2期目以降において消費税の課税事業者を選択する場合には、その課税期間開始の日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなければならない。ただし、新設法人に該当しないSPCにつき、設立課税期間が設立登記を行ったのみで事業活動を行っておらず、翌課税期間から実質的な営業活動を行っている場合には、その翌課税期間は設立課税期間に該当すると定められている。(消基通1-4-7)この場合、その翌課税期間の末日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば課税事業者となることができる。また、課税事業者を選択した場合には、事業を廃止した場合を除き、2年間継続した後でなければ課税事業者の選択をやめることは出来ない。
SPCの設立に際して、いつ課税仕入れが発生するか、それにつき消費税の還付を受けるか否か、消費税の還付を受ける場合には課税事業者を選択しなければならないが、課税事業者を選択すると最低2年間は課税事業者となるため、2年間を通算して考えた場合に、課税事業者となる方が有利か否かの検討が重要となる。

(b). 簡易課税の選択

基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合で、消費税簡易課税選択届出書を提出することにより、簡易課税制度を選択できる。ただし、消費税簡易課税選択届出書は、原則的に簡易課税制度を選択しようとする課税期間開始の日の前日までに提出しなければならない。また、簡易課税制度を選択した場合は最低2年間の継続適用となる。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合で簡易課税制度を選択した場合、「消費税簡易課税制度選択不適用届」を図表4-11に掲げる日までに提出しない限り、その効果は消滅しない。
原則的な計算方法により納付すべき消費税額を計算する場合に比べて、簡易課税方式により納付すべき消費税を計算した方が有利な場合には、簡易課税制度を選択するか否かについて検討が必要である。この場合、多額の課税仕入が発生する時期、簡易課税選択届出書の提出期限、さらに2年間の継続適用となるため、原則的な計算方法と比較するときは、2年間を通算した上での検討や簡易課税制度選択不適用届の提出期限および提出時期を総合勘案した上での検討が重要となる。


<金銭債権流動化>

(1)概要

①金銭債権流動化とは

金銭債権流動化とは、流動化の対象となる資産が金銭債権となるものである。比較的将来キャッシュ・フローの予測がし易い金銭債権(回収スケジュールの予測が簡単な金銭債権)や、対抗要件具備が容易な金銭債権が金銭債権流動化になじむ債権である。

②流動化の対象となる金銭債権

金銭債権流動化の対象となる債権の代表的なものとしては、売上債権、貸付債権、割賦債権、リース債権、敷金、建設協力金、保証金、完成工事未収入金、診療報酬債権、クレジット債権等がある。
以下では、一般事業会社になじみの深い売上債権を流動化するケースを例にとって、金銭債権流動化の基本的な仕組みについて説明する。

(2)仕組み

売上債権流動化のスキームにおいては、企業が保有している売掛金や受取手形などの売上債権から生み出されるキャッシュ・フローを裏付けとして証券を発行し、資金調達を行うスキームをいう。売掛金は通常決済日まで現金化できず、また決済日に受取手形で支払われることも多く、実際に商品等を売上げてから現金で決済されるまで、数か月のタイムラグが生じる。このような売掛金や受取手形を早期に現金化する手段として、売上債権流動化という手法が使われる。
受取手形に関しては、手形の割引や裏書きにより資金調達が可能であるが、実質的な金利面において流動化した方が有利なケースもある。
一般的には、まずオリジネーターが流動化の対象となる売上債権を金融機関がアレンジしたSPCに譲渡する。SPCは売上債権を裏付けとしたコマーシャル・ペーパー(ABCP, Asset Backed Commercial Paper)を発行し、その代金を売上債権の購入代金に充当する。発行されるABCPに対しては、アレンジした金融機関が信用補完及び流動性補(バックアップラインの供与)を行う。
オリジネーターは売上債権の回収業務を行い、SCPに回収した代金を支払う。SPCはこの資金をもってABCPの償還を行う。

(3)メリット・デメリットと実務上の留意点

売上債権流動化により流動性の乏しい売上債権に流動性を付与し早期に現金化することができる。また、売上債権をオフバランス化することにより、財務指標が良くなる場合がある。自己の信用力に依存せず債務者の信用力に依存して資金を調達するため、場合によっては証書借入や手形割引よりも低利で資金調達することができる。
ただし、仕組みが複雑であり、手続きが煩雑である。契約によっては売上債権のリスク移転が限定される場合がある。また、債権調査(デューデリジェンス)が必要な場合がある。さらに、対抗要件を具備するための手続きが煩雑である。

• 流動性の乏しい売上債権に流動性を付与することができ、資金調達方法が多様化する。
• 売上債権をオフバランス化することにより、財務指標が良くなる場合がある。
• 自己の信用力に依存しないため、場合によっては低利で資金調達することができる。
• 仕組みが複雑であり、手続きが煩雑である。
• 契約によっては売上債権のリスク移転が限定される場合がある。
• 債権調査(デューデリジェンス)が必要な場合がある。
• 対抗要件を具備するための手続きが煩雑である。

売上債権の流動化を行うに際し、売上債権のデータ管理・整備が重要となる。売上債権流動化の場合、売上債権の中身(債務者の信用力)が非常に重要であり、その属性が明らかでないと投資対象とはなり得ない。また、実務上売上債権の明細が分からなければ、売上債権の譲渡や回収時に混乱が生じるリスクがある。
このようなリスクを避けるために、事前に債権調査(デューデリジェンス)が行われることにより、その中で債権不存在のリスク、譲渡無効のリスク、相殺リスク等が洗い出されることもある。また、デューデリジェンスにより全てのリスクを洗い出すことは事実上困難なため、このようなリスクを回避するために、オリジネーターによる表明保証(債権の状態などについて、契約上で保証すること)が行われるのが一般的である。
また、売上債権の譲渡にあたり、企業の得意先との間で締結されている売買契約の中で債権譲渡禁止特約がある場合、企業が売上債権をSPCに譲渡することはできない点に留意する必要がある。もし債権譲渡禁止特約がある場合には、事前に特約を解除する必要がある。
 さらに、売上債権を譲渡し流動化する場合には、対抗要件が具備されていなければならない。ここで、対抗要件とは、債権の移転について、契約当事者だけでなく第三者にも主張するために必要な手続要件のことをいい、その種類としては「債務者対抗要件」と「第三者対抗要件」がある。

□債務者対抗要件と第三者対抗要件

債務者対抗要件:債務者が二重弁済等の危険を回避できるようにするため。また、この債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、債権の帰属を第三者に公示する。
①債務者に対して通知するか、債務者の承諾を取得する(民法467条1項)。
②債権譲渡登記がされた登記事項証明書を譲渡人若しくは譲受人が債務者に対して交付し通知するか、当該債務者の承諾を取得する(債権譲渡特例法4条2項)。
第三者対抗要件:第三者に対し、債権の帰属を主張するとともに、旧債権者が債権を二重譲渡し、債務者と通謀して譲渡の通知またはその承諾のあった日時を遡らせる等の作為により、債務者を通じた表示を信頼した第三者の権利を害することを可及的に防止する。
①債務者に対して確定日付ある証書により通知するか、債務者の承諾を取得する(民法467条2項)。
②債権の譲渡人と譲受人の共同申請により、法務局に備え付けられた債権譲渡登記ファイルに登記する(債権譲渡特例法4条1項)。

(4)会計

①金融資産の消滅の認識とは

 金銭債権等の金融資産を流動化する場合には、金融資産の消滅の認識の要件を満たすかどうかが重要なポイントとなる。金融資産の消滅の認識とは、貸借対照表に計上されている金融資産の金額が、貸借対照表において計上されない(オフバランスされる)ことをいう。どのような時に金融資産の消滅を認識するかについて、経済価値アプローチと財務構成要素アプローチという二つの考え方がある。
リスク・経済価値アプローチとは、金融資産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方法をいう。次に、財務構成要素アプローチとは、財金融資産を構成する財務構成要素の一部に対する支配が第三者に移転した場合に移転した当該財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する方法をいう。
金融商品会計基準においては、リスク・経済価値アプローチでは金融資産を財務構成要素に分解して支配の移転を認識することができないため取引の実質的な経済効果が譲渡人の財務諸表に反映されないという理由から、金融資産の消滅の認識について財務構成要素アプローチの考え方を採用している。つまり、将来のキャッシュの流入、回収コスト又は信用リスク等の各財務構成要素に対する企業の「支配」が、第三者に移転した場合に、移転した部分に関して金融資産の消滅の認識をしようというのが基本的な考え方である。

②金融資産の消滅が認められるための要件

以下のa.~c.のケースのいずれかに該当する場合には、金融資産の消滅の認識を行うことができる(金融商品会計基準8項)。

a. 金融資産の契約上の権利を行使したとき
b. 金融資産の契約上の権利を喪失したとき
c. 権利に対する支配が他に移転したとき

このうち、c. の「金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転したとき」というのは、下記(a).~(c).の要件がすべて充たされた場合である。

(a). 譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること。
(b). 譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること(注)。
(c). 譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。

□金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転する要件

(a). 譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること。
譲渡人に倒産等の事態が生じても譲渡人やその債権者等が譲渡された金融資産に対して請求権等のいかなる権利も存在しないこと等、譲渡された金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていることが必要である。したがって、譲渡人が実質的に譲渡を行わなかったこととなるような買戻権がある場合や譲渡人が倒産したときには譲渡が無効になると推定される場合は、当該金融資産の支配が移転しているとは認められない。なお、譲渡された金融資産が譲渡人及びその債権者の請求権の対象となる状態にあるかどうかは、法的観点から判断されることになる。
(b). 譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること(注)。
譲受人が譲渡された金融資産を実質的に利用し、元本の返済、利息又は配当等により投下した資金等のほとんどすべてを回収できる等、譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できることが必要である。したがって、譲渡制限があっても支配の移転は認められるが、譲渡制限又は実質的な譲渡制限となる買戻条件の存在により、譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受することが制約される場合には、当該金融資産の支配が移転しているとは認められない。なお、譲受人が特別目的会社の場合には、その発行する証券の保有者が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できることが必要である。
(c). 譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。
譲渡人が譲渡した金融資産を満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していることにより、金融資産を担保とした金銭貸借と実質的に同様の取引がある。現先取引や債券レポ取引といわれる取引のように買戻すことにより当該取引を完結することがあらかじめ合意されている取引については、その約定が売買契約であっても支配が移転しているとは認められない。このような取引については、売買取引ではなく金融取引として処理することが必要である。

ただし、上記 (b). の(注)に関して、譲受人が特別目的会社の場合については、下記の2つの要件を満たしている場合には、当該特別目的会社が発行する証券の保有者を当該金融資産の譲受人とみなして 上記(b). の要件を適用する。

①特別目的会社が、適正な価額で譲り受けた金融資産から生じる収益を当該特別目的会社が発行する証券の保有者に享受させることを目的として設立されていること
②特別目的会社の事業が、①の目的に従って適正に遂行されていると認められること

また、特別目的会社の事業は、適正な価額で譲り受けた金融資産から生ずる収益を当該会社が発行する証券の保有者に享受させる目的に従って適正に遂行されている必要があるが、その目的に従い又は付随して発生する下記のような取引を行った場合には事業目的に従って適正に遂行されていると考えられると規定されている(金融商品会計基準実務指針35項)。

① 資産処分により収益をあげ、証券の保有者へこれを享受させる場合
② 証券の保有者への配当、利払い及び償還等の時期まで余資を運用して収益を高める場合
③ 事業目的を遂行する上でデリバティブによりキャッシュ・フローを調整する場合
④ 事業目的を遂行する上でキャッシュ・フローを調整するための借入(例えば、証券を完売するまでの借入、又は証券の保有者への配当、利払い及び償還等のための借入)を行う場合
⑤ 事業目的に従い、一部の金融資産の回収に伴い譲渡人から新たな金融資産を譲り受けることを繰り返す場合、又は当初譲り受けた金融資産をすべて回収した後、譲渡人から再度新たな金融資産を譲り受ける場合


(5)税務

①税務上の金融資産の消滅の認識

税務上の金融資産の消滅の認識の要件は、会計上の要件とほぼ同じであると考えられる。ただし、税務上は実質所得者課税の原則に従い、スキーム全体の観点から見た場合にオフバランス取引ではなく金融取引と見なされるリスクがある点、注意が必要である。

法人税基本通達 2-1-44 (金融資産の消滅を認識する権利支配移転の範囲)

法人が金融資産の売却等の契約をした場合において、当該契約により当該金融資産に係る権利の支配が他の者に移転したときは、当該金融資産の売却等による消滅を認識するのであるから、原則として、次に掲げる要件のすべてを満たしているときは、当該売却等に伴い収受する金銭等の額又は当該売却等の直前の当該金融資産の帳簿価額は、当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。

(1) 売却等を受けた者は、次のような要件が満たされていること等により、当該金融資産に係る権利を実質的な制約なしに行使できること。

イ 売却等をした者(以下、「譲渡人」という。)は、契約又は自己の自由な意思により当該売却等を取り消すことができないこと。

ロ 譲渡人に倒産等の事態が生じた場合であっても譲渡人やその債権者(管財人を含む。)が売却等をした当該金融資産を取り戻す権利を有していない等、売却等がされた金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていること。

(2) 譲渡人は、売却等をした金融資産を当該金融資産の満期日前に買い戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。

(注) 新たに二次的な権利又は義務が発生する場合には、2-1-46《金融資産等の消滅時に発生する資産及び負債の取扱い》の適用があることに留意する。

②金融資産の消滅時に発生する資産および負債の取扱い

金融資産の消滅時に発生する新たな資産および負債を計上した場合において、当該計上した金額を当該売却等の対価である受払金額に加算し、又は受払金額から控除して当該売却等に係る損益の額を計算しているときは、原則として、当該新たな資産又は負債として区分経理したものがないものとしたところにより、売却等に係る損益の額を計算することとされている。

法人税基本通達2-1-46 (金融資産等の消滅時に発生する資産及び負債の取扱い)

金融資産等の消滅を目的とした売却等の取引で、その取引により譲渡人、原債務者等に保証債務等の二次的な権利又は義務を発生させることとなるものを行った場合において、当該譲渡人、原債務者等である法人が、これらの潜在する二次的な権利又は義務に見合う金額として新たな資産又は負債を計上し、当該計上した金額を当該売却等の対価である受払金額に加算し、又は受払金額から控除して当該売却等に係る損益の額を計算しているときは、原則として、当該新たな資産又は負債として区分経理したものがないものとしたところにより、売却等に係る損益の額を計算する。



<知的財産流動化>

(1)仕組み

知的財産とは、「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創作活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」を言う(知的財産基本法第2条第1項)。知的財産は土地・建物・設備等の有形固定資産とは異なり、無形の固定資産であり、例えば、特許権、実用新案権、著作権、意匠権、商標権、ブランド、ノウハウ等がこれに該当し、目には見えない無体財産であるが企業の競争優位の源泉となるものである。このような知的財産の価値に着目し、資金を調達するというのが知的財産ファイナンスである。 
知的財産の流動化とは、既に存在する知的財産をSPCに譲渡して証券を発行し、投資家から資金を調達するスキームがある。平成16年12月の信託業法の改正により、受託可能財産の制限が撤廃されたことにより、知的財産の信託も可能となっていることから、知的財産を信託受益権化し、第三者に譲渡することにより資金調達することが可能となった。ただし、知的財産を流動化する場合には、ある程度のキャッシュ・フローを予測できることが必要であることから、キャッシュ・フローが予測できない知的財産は流動化には適さない。


知的財産は目に見えない価値であることから、その評価がポイントとなる。すなわち、その知的財産がどれぐらいの将来キャッシュ・フローを生み出すか、その把握及び評価が非常に重要になる。知的財産の中には、例えばブランド力のような、いわゆる「のれん」とも考えられる貸借対照表上で計上されないものもある。知的財産の中にはマーケットで売買の対象になるようなものもあれば、企業が保有している独自の技術力のように売買になじまない資産もあるため、非常に評価が難しいという特徴がある。
知的財産を評価するにあたり、知的財産の公正価値を反映する売買マーケットが存在しないことから、個別にその価値を評価する必要がある。
 知的財産の評価方法として、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの3つに大別される。

□知的財産の評価方法

コストアプローチ:知的財産を取得原価に基づいて評価する考え方。研究開発費や登録料等の知的財産を取得するのに投下したコストの合計額をもって知的資産の価値と考える。 実際に投下したコストで測定するため、客観的かつ正確な評価を行うことができる。 知的財産が持つコスト以外の側面、例えば、戦略性や事業性、将来生み出されるキャッシュ・フロー等を反映することができない。
マーケットアプローチ:知的財産をマーケットバリューにより評価するという考え方。 知的財産の売買マーケットが存在する場合には、客観的な評価が可能である。 知的財産の売買マーケットが存在しない場合には、客観的な評価ができない。
インカムアプローチ:知的財産を知的財産が生み出す将来のキャッシュ・フロー予測に基づいて評価しようという考え方。 知的財産が生み出す将来キャッシュ・フローにより評価することから、DCF法により理論的な評価ができる 将来キャッシュ・フローの予測が困難な場合には評価できない。また将来キャッシュ・フローの金額やや割引率の選定などに主観的判断が介入するリスクがある。

(2)メリット・デメリットと実務上の留意点

知的財産流動化により、無形の知的財産を用いた資金調達が可能である。特に競争優位を有する知的財産を保有するベンチャー企業などが創業期において資金調達をすることが可能となる。また、一般に知的財産は事務的な管理コストが必要であるが、流動化する場合、知的財産の管理の手間がなくなるというメリットがある。
 ただし、知的財産は価値の評価が難しく、必ずしも価値に見合った資金を調達できるとは限らない。価値評価方法が確立していないことから、実務上あまり浸透しておらず、大規模な資金調達の事例がない。また、価値の評価(デューデリジェンス)にコストがかかるため、小規模な資金調達の場合はコストが高くなるリスクがある。また、他社とのライセンス契約のなかで、知的財産を自由に流動化できないリスクがある。


• 無形の知的財産を用いて資金調達が可能であり、資金調達手段が多様化する。
• 競争優位を有する知的財産を保有するベンチャー企業などが創業期において資金調達をすることが可能となる。
• 流動化する場合、知的財産の管理の手間がなくなる。 • 知的財産の評価が難しく、必ずしも価値に見合った資金を調達できるとは限らない。
• 価値の評価(デューデリジェンス)にコストがかかるため、小規模な資金調達の場合はコストが高くなるリスクがある。
• 知的財産の中には、価値の評価が難しいことから、資金調達になじまない資産がある。
• 評価の客観性が保つことが難しく、実務上、あまり浸透していない。
• 大規模な資金調達の事例がない。
• 他社との契約のなかで、知的財産を自由に流動化できない場合がある。

 知的財産を流動化するためには、証券の裏付けとなる知的財産の価値を適切に評価する必要がある。知的財産から生じる将来のライセンス収益(キャッシュ・フロー)が評価の基礎となるが、この将来のライセンス収益の価値をどのように見積もるかが重要となる点に留意する必要がある。


<SPCと連結>

 企業が流動化を行い、SPCに対して流動化対象資産を売却処理し、企業の個別財務諸表上において売却益を計上したとしても、企業が連結財務諸表を作成する場合で当該SPCが連結の範囲に含まれる場合には、当該売却取引が連結修正仕訳の中で相殺消去され、売却損益が計上されないこととなる。SPCが連結の範囲もしくは持分法の適用範囲に含まれるかどうかにより、流動化取引が連結財務諸表上の損益に影響を及ぼすことになる。
よって、連結財務諸表を作成する会社においては、SPCが連結の範囲もしくは持分法の適用範囲に含まれるかどうかが大きな問題となる。実際には、流動化のスキーム組成時においてSPCが連結の範囲に含まれるかどうか検討が行われる。

(1)原則的取扱い

連結財務諸表原則によれば、親会社は原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めなければならない(連結財務諸表原則 第三、一、1)。ここで、親会社とは、他の会社を支配している会社をいい、子会社とは、当該他の会社をいう。他の会社を支配しているとは、他の会社の意思決定機関を支配していることをいい、次の場合には、当該意思決定機関を支配していないことが明らかに示されない限り、当該他の会社は子会社に該当するものとする。

 他の会社の議決権の過半数を実質的に所有している場合
 他の会社に対する議決権の所有割合が100分の50以下であっても、高い比率の議決権を有しており、かつ、当該会社の意思決定機関を支配している一定の事実が認められる場合

(2)例外的取扱い

連結財務諸表原則に従えば、原則として全ての子会社を連結することになるが、その例外として、財規8条7項においてSPCの連結の特則が設けられている。

財務諸表等規則 8条7項

特別目的会社(資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号。以下この項及び第122条第8号において「資産流動化法」という。)第2条第3項に規定する特定目的会社(第122条第8号において「特定目的会社」という。)及び事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体をいう。以下この項において同じ。)については、適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特別目的会社が発行する証券の所有者(資産流動化法第2条第12項に規定する特定目的借入れに係る債権者を含む。)に享受させることを目的として設立されており、当該特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されているときは、当該特別目的会社に対する出資者及び当該特別目的会社に資産を譲渡した会社等(以下この項において「出資者等」という。)から独立しているものと認め、第3項及び第4項の規定にかかわらず、出資者等の子会社に該当しないものと推定する。

すなわち、特別目的会社については、①適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを目的として設立され、②当該特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されているときは、出資者等の子会社に該当しないものと推定する旨が規定されている。
ここで、上記②の要件について、事業目的に従って適正に遂行されている場合とは、具体的には以下のような場合が考えられる(金融商品会計実務指針35項)。

 資産処分により収益をあげ、証券の保有者へこれを享受させる場合
 証券の保有者への配当、利払い及び償還等の時期まで余資を運用して収益を高める場合
 事業目的を遂行する上でデリバティブによりキャッシュ・フローを調整する場合
 事業目的を遂行する上でキャッシュ・フローを調整するための借入(例えば、証券を完売するまでの借入、又は証券の保有者への配当、利払い及び償還等のための借入)を行う場合
 事業目的に従い、一部の金融資産の回収に伴い譲渡人から新たな金融資産を譲り受けることを繰り返す場合、又は当初譲り受けた金融資産をすべて回収した後、譲渡人から再度新たな金融資産を譲り受ける場合

(3)一定の特別目的会社に係る開示に関する適用指針(企業会計基準適用指針15号)

上記例外規定により出資者等の子会社に該当しないものと推定された特別目的会社(開示対象特別目的会社)については、その概要や取引金額等の開示を行うことが有用であると考えられることから、下記の事項について連結財務諸表に注記することと規定されている。

(4)投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い(実務対応報告第20号)

①概要

投資事業組合(任意組合、匿名組合、投資事業有限責任組合)の連結の判断においては、実務界に混乱も多く、不適切な会計処理が指摘されており、その適用に関する取扱いをより明確にするために、企業会計基準委員会より「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い(実務対応報告第20号)」が公表された。実務対応報告第20号のおおよその内容は以下の通りである。
投資事業組合に対しても、会社と同様に支配力基準及び影響力基準を適用する。ただし、投資事業組合の場合には、会社のように出資者が業務執行者を選任するのではなく、出資者が業務執行の決定(財務及び営業又は事業の方針の決定)を直接行うことから、「議決権」に代えて、「業務執行権」によって、当該投資事業組合に対する支配力又は影響力を判断することとする。
また、出資者が投資事業組合の業務執行権を有していない場合であっても、当該出資者からの出資額や資金調達額の状況や、投資事業から生ずる利益又は損失の享受又は負担の状況等によっては、当該投資事業組合は当該出資者の子会社に該当するものとして取り扱われることがある。つまり、支配力基準や影響力基準は、「議決権」を支配力や影響力の判断基準とするところ、投資事業組合の場合は、出資者が議決権を通じて業務執行者を選任することを通じて会社の意思決定を支配する構造になっていないため、支配力や影響力の判断にあたり、この「業務執行権」という観点からを支配力や影響力の判断基準とすると規定されている。

② 投資事業組合が業務執行者の子会社に該当するか否かの判断

以下の場合には、業務執行者(匿名組合における営業者を含む。以下同じ。)が当該投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針を決定できないことが明らかであると認められる場合を除き、当該投資事業組合は業務執行者の子会社に該当する。

a. 当該投資事業組合の業務の執行を決定することができる場合(すなわち、業務執行者が複数いる場合には、業務執行を決定する権限全体のうち、その過半の割合を自己の計算において有している場合)。

b. 当該投資事業組合の業務執行の権限全体のうち、その100分の40以上、100分の50以下を自己の計算において有している場合であって、かつ、次のいずれかの要件に該当する場合。

(a).自己の計算において有している業務執行の権限と緊密な者及び同意している者が有している業務執行の権限とを合わせて、当該投資事業組合に係る業務執行の権限の過半の割合を占めている。ここで、「緊密な者」とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、自己の意思と同一の内容の業務執行の権限を行使すると認められる者をいう。

(b).当該投資事業組合の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在する。なお、例えば、単なる事務管理契約など、当該契約の終了によっても当該投資事業組合による投資事業の継続に重要な影響を及ぼすこととならない契約等は、これに該当しない。

(c).当該投資事業組合の資金調達額(貸借対照表の負債に計上されているもの)の総額の概ね過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。以下同じ。)を行っている(緊密な者が行う融資を合わせて資金調達額の総額の概ね過半となる場合を含む。)。ただし、金融機関が通常の営業取引として融資を行っている場合であって、資金の関係を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定を支配していないときには、該当しない。

(d).当該投資事業組合の資金調達額(貸借対照表の負債に計上されているものに限らない。)の総額の概ね過半について融資及び出資を行っている(緊密な者が行う融資及び出資を合わせて資金調達額の総額の概ね過半となる場合を含む)。ただし、金融機関が通常の営業取引として融資を行っている場合であって、資金の関係を通じて財務及び営業又は事業の方針の決定を支配していないときには、該当しない。

(e).当該投資事業組合の投資事業から生ずる利益又は損失の概ね過半について享受又は負担することとなっている(緊密な者が享受又は負担する額を合わせて当該利益又は損失の概ね過半となる場合を含む。)。

(f).その他当該投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針の決定を左右すると推測される事実が存在する。

c. 自己の計算において有している当該投資事業組合に係る業務執行の権限(当該業務執行の権限を有していない場合を含む。)と、緊密な者及び同意している者が有している業務執行の権限とを合わせて、当該業務執行の権限の過半の割合を占めているときであって、かつ、上記(ロ)の②から⑥までのいずれかの要件に該当する場合。


③投資事業組合が業務執行者の関連会社に該当するか否かの判断

以下の場合には、投資事業組合が子会社にあたる場合又は投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができないことが明らかであると認められる場合を除き、当該投資事業組合は業務執行者の関連会社に該当する。

a. 当該投資事業組合に係る業務執行の権限の100分の20以上を自己の計算において有している場合。

b. 当該投資事業組合に係る業務執行の権限の100分の15以上、100分の20未満を自己の計算において有している場合であって、かつ、次のいずれかの要件に該当する場合。

(a).当該投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針の決定に重要な影響を与える契約が存在すること。

(b).当該投資事業組合に対して重要な融資(債務の保証及び担保の提供を含む。)又は出資を行っていること。

(c).当該投資事業組合の多くの投資先との間に、重要な投資育成や再生支援等、営業上又は事業上の取引があること。

(d).その他当該投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができることが推測される事実が存在すること。これには、例えば、当該投資事業組合の組成への関与を通じて、その後も重要な影響を与えている場合などを含む。

c. 自己の計算において有している当該投資事業組合に係る業務執行の権限(自己の計算において有していない場合を含むが、自己の計算において有している割合が100分の15未満である場合を前提とする。)と緊密な者及び同意している者が有している業務執行の権限とを合わせて、当該業務執行の権限の100分の20以上を占めているときであって、かつ、上記(ロ)の①から④までのいずれかの要件に該当する場合。

なお、持分法の適用において(非連結子会社の場合を含む。)、組合員の個別財務諸表上、貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を計上する方法(いわゆる総額法)や、貸借対照表については持分相当額を純額で損益計算書については損益項目の持分相当額を計上する方法(いわゆる折衷法)を採用している場合でも、個別財務諸表の処理をそのまま連結財務諸表に取り込むことができる。



アセット・ベースド・ファイナンス

第1節 ABL

ABL(アセット・ベースド・レンディング)とは、資産に基づく融資のことをいい、一般的には不動産以外の資産を担保とした融資を指すことが多い。ABLの担保となる資産としては、売掛債権、商品・製品等の在庫、知的財産などがある。

(1) 売掛債権担保融資

①仕組み 

a. 売掛債権担保融資とは

売掛債権担保融資とは、企業が保有している売掛債権の信用力を担保として、金融機関から融資を受けることをいう。
従来、我が国においては不動産を担保とした融資が一般的であり、中小企業に対する売掛債権を担保とした融資は非常に少なかった。その原因は、売掛先が倒産すると売掛債権の価値がなくなる貸倒リスク等が存在すること、売掛債権を担保として管理するためのコストがかかること、売掛債権まで利用して資金調達をしたという噂が広がり、風評リスクがあることが挙げられる。
そこで、中小企業の資金調達の多様化・円滑化を図るため、売掛債権担保融資保証制度が2001年12月に運用が開始され、その後、2007年8月に流動資産担保保証制度に移行した。流動資産担保融資保証制度とは、企業が売掛債権や棚卸資産を担保とした融資を金融機関から受ける場合に、信用保証協会が融資の保証を行う制度をいう。
担保となる売掛債権には、割賦販売代金債権、運送料債権、診療報酬債権、工事請負代金債権等も含まれる。
売掛債権担保融資の場合、創業期において事業規模が拡大する過程で、担保となる不動産がない場合であっても、事前に融資枠を設定しておけば機動的に資金調達することが可能となる。

b. 保証の種類

売掛債権担保融資における保証制度には、個別保証形式と根保証形式の2種類が存在する。個別保証形式とは、借入の都度信用保証協会へ保証の申込みを行い融資を受ける方式である。個別保証形式は、比較的金額が大きいが数が少ない債権や回収期間が長期の融資に向いている。
根保証形式とは、あらかじめ契約により定められた借入極度額の保証を得て、その範囲内で金融機関から融資を受ける形式をいう。企業は将来に発生する売掛債権を含めた売掛債権を担保譲渡し、借入極度額の範囲内で反復して融資を受けることができ、売掛債権のサイトが短く、かつ回転速度が早い小口の売掛債権の場合に適した形式である。


c. 借入金額・借入期間

 借入金額は、以下のように算定される。金融機関と信用保証協会の間で、売掛債権の信用力と担保の保全手続きの程度により、一定の掛け目が設定される。

借入金額=売掛債権金額×掛け目(70%~100%)

個別保証の場合は、手形借入の形式により、根保証の場合は当座借越の形式で融資が実行される。融資が手形借入の形式で実行される場合には、手形期日は売掛金の入金予定日であり、入金額は融資の返済に充当される。借入期間は一般的には最大で1年である。

d. 必要書類

債権譲渡担保対象売掛先明細書、および発注書・請求書・納品書・支払通知書等の売掛債権の実在性を確認できる書類が必要である。
企業は金融機関および信用保証協会の間で、売掛債権を担保として譲渡する契約を締結する。債務者への通知又は承諾による担保保全手続きが必要である。

e. 手続き

まず、企業は金融機関へ融資の申込みを行い、金融機関での審査を経た後に、信用保証協会で審査が行われる。次に、売掛債権の選定作業・担保の保全手続きが行われ、条件が整えば借入契約を締結し、融資が実行される。

□売掛債権担保融資の手続きのフローチャート

金融機関へ融資申込み

金融機関の審査

信用保証協会へ保証の申込み

信用保証協会の審査

債権譲渡禁止特約があれば解除手続きを実行

対抗要件の具備

借入契約の締結

融資実行

期中管理

②メリットとデメリットと実務上の留意点

売掛債権担保融資の場合、不動産担保がなくても、売掛債権があれば融資を受けることが可能であり、信用保証協会の保証が付いている場合は融資を受けやすい。また、売掛債権について、期日到来前に資金化できるので、運転資金に余裕ができる。
ただし、対抗要件具備のための手続きが煩雑であり、売掛債権をオフバランス化できない。また、ファクタリングとは異なり、融資を受けた金額は期日までに金融機関に返済しなければならず、債権の回収は自社で行わなければならない。

• 信用保証協会の保証が付く場合は借入がしやすい。
• 不動産担保がなくても融資を受けることが可能。
• 売掛債権について、期日到来前に資金化できるので、運転資金に余裕ができる。
• 売掛債権担保融資保証制度があるので、融資を返済できない場合信用保証協会が融資残高の90%を代位弁済する。 • ファクタリングとは異なり、融資を受けた金額は期日までに金融機関に返済しなければならない。また、債権の回収は自社で行わなければならない。
• 売掛債権をオフバランス化できない。
• 対抗要件具備のための手続きが煩雑。
• 信用保証協会の保証が付く場合は保証料が必要である。

売掛債権の譲渡にあたり、企業の得意先との間で締結されている売買契約の中で、債権譲渡禁止特約がある場合、企業が売掛債権を譲渡することはできない点に注意しなければならない。もし債権譲渡禁止特約がある場合には、事前に特約を解除してもらう必要がある。


③コスト

対抗要件具備のための当期費用等のコストがかかる。信用保証協会に支払う保証料が必要である。また、不動産担保と比較して担保の換金性や確実性・安定性に欠けることから、金利は不動産担保融資より高くなる場合が多い。


(2) 動産担保融資

①仕組み

a. 動産担保融資とは

 動産担保融資とは、企業が保有している動産(在庫や機械設備)の信用力を担保として、金融機関から融資を受けることをいう。動産担保融資は、将来キャッシュ・フローをもたらす事業収益資産を担保として融資を受けるものである。
従来、動産担保は不動産等の担保を補完する添え担保という位置づけであり、積極的に活用されてこなかった。その理由としては、金融機関サイドで担保の評価のノウハウや経験が不足していたこと、在庫商品を処分・換金するマーケットが限定されていることが挙げられる。
しかし、地価が下落過程において、不動産の担保価値が目減りする中で、不動産以外で担保力になる資産が求められていた。このような流れの中で、動産譲渡登記制度が創設され、動産の譲渡について登記することにより対抗要件を具備することができることとなった。また、動産担保融資ではコベナンツ条項を付すことにより代表者の責任を追及しないケースもある。
在庫担保融資の場合、創業期において事業規模が拡大する過程で、担保となる不動産がない場合であっても、事前に融資枠を設定しておけば機動的に資金調達することが可能となる。ベンチャー企業の創業期には資金需要が高まるが資金が不足するという構造的な問題があり、その場合には高い金利の融資に頼らざるを得ない局面があったが、事業収益に貢献する動産を保有している場合、動産担保融資により資金調達が可能となる。

 在庫担保は数量及び単価が絶えず変動することから、モニタリングのシステムが不可欠である。また在庫の内容によっては、陳腐化のリスクがある。さらに動産の場合は処分マーケットがない場合が多く、正確な資産評価が難しい点にという特徴がある。
動産担保融資の場合、契約書にコベナンツ条項が盛り込まれることが一般的である。金融機関はコベナンツ条項により融資先のモニタリングを行う。
また、在庫担保融資の場合、不動産担保融資と異なり担保価値が継続的に変動する点に特徴がある。よって、借入企業および金融機関は担保価値の変動について、適時かつ継続的にモニタリングする体制を構築する必要がある。その場合、借入企業の棚卸資産管理の程度が重要となるため、在庫担保融資を受ける場合には、正確な棚卸管理のシステムの整備及び運用が決定的に重要となる。また、動産の評価については、評価の客観性を保つため、外部の評価機関や監査法人・公認会計士事務所に依頼する場合も多い。
また、動産担保融資の場合、流動資産担保融資保証制度を利用して、信用保証協会が保証を受けることができる。ただし、動産譲渡登記の対象となる棚卸資産のみが担保の対象となり、棚卸資産は根保証の場合のみ担保とすることができる。

b. 借入金額・借入期間

 借入金額は、一般的に以下のように算定される。対象となる動産の信用力と担保の保全手続きの程度により、一定の掛け目が設定される。原材料や製品等の換価性の高い動産の場合は掛け目が高く設定されるが、仕掛品などの換価性の低い動産の場合は掛け目が低く設定される。不良在庫や長期滞留在庫、特別仕様の製品などは、在庫担保融資の担保目的物には適さない。

借入金額=動産の評価額×掛け目

c. 必要書類

譲渡担保対象棚卸資産一覧表、棚卸資産売上代金入金口座届出書、概要記録事項届出書等の書類が必要である。

d. 担保の対象となる動産

すべての在庫が担保として適格なのではなく、在庫を代表とする動産は、一般に回転が早く、単価・数量が変動するという特性を有していることから、在庫管理が厳密に行うことができる動産でないと担保の対象とすることはできない。長期滞留在庫や換価性のない特注品等は担保として不適格な在庫である。

図表4-27 動産担保として必要とされる特性
必要とされる特性 要件 具体例
担保価値の評価が簡単であること。 在庫を客観的に評価することができ、価格に透明性がるもの。属性が標準化されているもの。取引相場が存在しているもの。 取引所で上場されている鉄やアルミニウムなどの天然素材等。
在庫の管理が簡単であること。 在庫が計数的に管理できること。盗難対策を講じることができ、容易に持ち出せないもの。 お米や小麦等。
在庫の処分可能性が高いこと。 在庫処分時のマーケット(セカンダリーマーケットを含む)が存在しているもの。 中古車、ブランド品、中古パソコン等。

e. 動産の譲渡担保

動産の譲渡担保は、借入に際して担保目的物である動産の所有権を設定者から債権者に移転し、債務が完済された時点でその所有権を設定者に戻す形式の担保である。譲渡担保の形式を取ることにより、企業は担保目的物を従来通り使用・収益・処分することが可能となる。
動産譲渡登記制度では、第三者は登記事項の概要証明書をとることで譲渡の有無を確認することができる。このような登記制度の整備により、動産の譲渡の公示性が高まり、債権者の権利の安定化が図られることとなった。
動産譲渡担保には、担保の対象資産の特定の仕方によって、個別動産譲渡担保と集合動産譲渡担保がある。個別動産譲渡担保は、対象資産を個別に特定する方法である。集合動産譲渡担保は、対象資産の在庫数量が常時変動を繰り返す場合、それを一塊の集合物として特定する方法である。

②メリット・デメリットと実務上の留意点

動産担保融資により、事業拡大期に在庫・設備等の調達が先行している状況の中で、不動産がなくても資金調達が可能である。また、一度クレジットラインを確保できれば安定的に資金調達でき、業績が一時的に悪化しても、調達枠とモニタリングに関する取り決めがなれていれば、資金を調達しやすい。また、在庫商品の販売前に資金化できるので、運転資金に余裕ができる。
ただし、担保の範囲内でしか資金を調達できないため、融資額に限界がある。
また、担保として適格な特性を備えている動産でなければ担保として差し入れることができないことから、担保価値の評価や動産の管理体制の確認などに時間がかかる場合がある。

メリット デメリット
• 信用保証協会の保証が付く場合は借入がしやすい。
• 事業拡大期に在庫・設備等の調達が先行している状況の中でも資金調達が可能である。
• 安定的に資金調達できる。
• 業績が一時的に悪化しても、調達枠とモニタリングに関する取り決めがなれていれば、資金を調達しやすい。
• 不動産担保がなくても融資を受けることが可能である。
• 在庫商品の販売前に資金化できるので、運転資金に余裕ができる。 • 融資額に限界がある。
• 動産の担保価値の評価や動産の管理体制の確認などに時間がかかる。
• 不動産担保融資に較べると金利が高くなることがある。
• 信用保証協会の保証が付く場合は保証料が必要である。


③コスト
対抗要件具備のための当期費用等のコストがかかる。また信用保証協会に支払う保証料が必要である。
銀行にとっては非定形的な融資であり、モニタリングのコストがかかるため、不動産担保融資に較べると金利が高くなることがある。在庫担保融資を受ける場合には、正確な棚卸管理のシステムの整備及び運用にコストが必要である。また、動産の評価については、外部の評価機関や監査法人・公認会計士事務所に依頼する場合には、評価のためのコストが必要となる。


(3)知的財産担保融資

①仕組み

 知的財産担保融資とは、企業が保有する知的財産を担保として金融機関から融資を受けることをいう。スキーム自体は通常の借入と同じであるが、担保として土地や建物等の不動産を差し出すのではなく、知的財産を担保として差し出す点が異なっている。


資金力のないベンチャー企業などは、創業期に銀行融資の担保となる不動産等の資産が存在しないが、IT企業のように技術的な優位性や差別化要因が競争力の源泉となっているような場合、知的財産を担保に借入を行うことができる場合がある。ただし、知的財産担保融資は案件が少なく、知的財産には様々な種類があり画一的な評価尺度でキャッシュ・フローを測定できないため、土地や建物のような物的担保のように評価方法が確立していないという特徴がある。
また、知的財産は無体財産権であることから、「見えない」という特性を有しており、実在性の確認や本来あるべき諸権利に瑕疵がないかを把握することが技術的に難しいという特徴がある。
 知的財産の担保としての適格性は、知的財産の権利としての確実性、譲渡可能性・換価性、担保価値の確認可能性等を考慮して判断される。知的財産が担保として適格かどうかは、その権利の内容と特に第三者へ譲渡可能性がポイントである。
知的財産を担保とする場合、価値評価や徴求手続に通常の不動産担保融資よりもコストが高くなる。知的財産権は流通市場が存在しないため、実際には当初評価した金額での担保処分は難しく、代物弁済手段としては十分に機能しない。よって知的財産担保融資を受けるためには、不動産担保融資よりも高い金利を要求されることが多い。
上記のように、知的財産担保融資にはいくつかの問題点があるものの、そのような問題点がクリアできている場合、例えば知的財産から生じる将来キャッシュ・フローの確度が極めて高く予測可能な場合や、担保としての安定性を有しているような場合には、知的財産担保融資として実行可能と考えられる。


②コスト

担保評価や担保徴求手続きにコストがかかるため、一般の融資よりも高い金利を要求される場合が多い。


<ファクタリング>

(1)仕組み

ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権を、ファクターと呼ばれるファクタリング会社に売却することにより資金調達することをいう。企業は売掛債権を決済期日の前にファクターに譲渡することにより、売掛債権をオフバランス化し、資金調達することができる。
ファクタリングと流動化の違いは、企業が保有する売掛債権を、直接ファクターに売却することで完結し、企業は債権管理や回収に従事する必要がなく、ファクターが売掛金の債務者から回収を行う点、および流動化のようにリスク移転が限定的になることがない点、ノンリコースのファクタリングの場合には売掛債権の貸倒リスクを負わない点が挙げられる。
 ファクタリングの場合、得意先からファクターが資金回収できない場合に、企業が売掛債権をファクターから買戻す義務がない場合には、得意先の信用リスクはファクターに移転し、金融資産の消滅を認識する。
しかし、得意先からファクターが資金回収できない場合に、企業が売掛債権をファクターから買戻す義務がある場合には、得意先の信用リスクは企業に留保される。この場合は、会計上金融取引に該当するか否かを検討することとなる。


(2)メリットとデメリットと実務上の留意点

ファクタリングにより企業は売掛債権を決済期日前に資金化することができる。売掛債権の買戻し請求権がない場合には、売掛債権の貸倒リスクを負わず、単純売却と同じ効果がある。また流動化のようにリスクの移転が限定されない。さらに、債権管理・回収の手間が省けるため、事務の効率化に資する。
ただし、売掛債権の買戻し請求権がある場合には、貸倒リスクを負い、オフバランスできない可能性がある。回収業務も企業が行わなければならない。


• 売掛債権を決済期日前に資金化することができる。
• 売掛債権の買戻し請求権がない場合には、貸倒リスクを負わない。
• 流動化のようにリスクの移転が限定されない。
• 債権管理・回収の手間が省ける。 • 売掛債権の買戻し請求権がある場合には、貸倒リスクを負い、回収業務も企業が行わなければならない。


(3)コスト

売掛債権の信用力はファクターの買取額に反映され、信用力が高い場合は買取額が高くなる仕組みになっている。また、売掛債権の買戻し請求権がない場合には、ファクターが得意先の信用リスクを負担することから、買取額が安くなる。
一般的に売掛債権の額が大きいほど、経費率が低くなることから、コストは相対的に低くなる。また、対抗要件の具備に要するコスト、事務コストが別途必要となる。


<手形割引>

(1)概要

①仕組み

手形割引とは、会社が取得した期日未到来の手形について、額面金額から満期日までの利息を控除した金額で手形期日前に銀行に売却し現金を受取る取引をいう。手形割引は資金繰りに応じた機動的な資金調達手段である。


譲渡人たる会社は、銀行に対して手形裏書人としての遡及義務を負う。遡及義務とは、割引手形が不渡りとなった場合に、裏書人たる会社が手形の買い戻す義務のことをいう。よって、手形の振出人が倒産したような場合には、会社は銀行に対して手形を買い戻さなければならない。

②メリット・デメリットと実務上の留意点


• 比較的低利である。
• 借入を受けやすい。
• 資金繰りに応じて手形を割引くことができるので、機動的な資金調達手段である。 • 手形の遡及義務を負う。
• 借入額と期間が手形の内容によって固定化されるので、資金調達内容の柔軟性に欠ける。


③コスト

手形割引の場合、手形売却損の金額が実質的な調達コストとなる。

(2)会計


①金商法上の取扱い

受取手形の割引額は、受取手形割引高という名称を付して注記しなければならない(財規58条の2)。

財務諸表等規則58条の2 (手形割引高及び裏書譲渡高の注記)

受取手形を割引に付し又は債務の弁済のために裏書譲渡した金額は、受取手形割引高又は受取手形裏書譲渡高の名称を付して注記しなければならない。
2  前項の規定は、割引に付し又は債務の弁済のために裏書譲渡した受取手形以外の手形について準用する。ただし、この場合における割引高又は裏書譲渡高の注記は、当該手形債権の発生原因を示す名称を付して記載しなければならない。

②会社法上の取扱い

受取手形の割引額は、偶発債務として注記しなければならない(会計規134条5号)。

会社計算規則134条(貸借対照表等に関する注記)

一~四(省略)
五  保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務(負債の部に計上したものを除く。)があるときは、当該債務の内容及び金額
(以下省略)

(3)税務

手形割引時の処理は、手形の消滅を認識する処理と、二次的責任である保証債務を時価評価して認識する処理に大別されるが、手形の消滅を認識する処理の場合、手形売却損は損金算入できるが(法基通2-1-44)、二次的責任である保証債務を時価評価して認識する処理する場合、税務上、二次的責任を新たな負債として区分経理していないものとして、損金算入が否認される(法基通2-1-46)。

法人税基本通達2-1-44(金融資産の消滅を認識する権利支配移転の範囲)

法人が金融資産(金融商品である資産をいう。以下この章において同じ。)の売却等の契約をした場合において、当該契約により当該金融資産に係る権利の支配が他の者に移転したときは、当該金融資産の売却等による消滅を認識するのであるから、原則として、次に掲げる要件のすべてを満たしているときは、当該売却等に伴い収受する金銭等の額又は当該売却等の直前の当該金融資産の帳簿価額は、当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。

(1) 売却等を受けた者は、次のような要件が満たされていること等により、当該金融資産に係る権利を実質的な制約なしに行使できること。
イ 売却等をした者(以下2-1-44において「譲渡人」という。)は、契約又は自己の自由な意思により当該売却等を取り消すことができないこと。
ロ 譲渡人に倒産等の事態が生じた場合であっても譲渡人やその債権者(管財人を含む。)が売却等をした当該金融資産を取り戻す権利を有していない等、売却等がされた金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていること。

(2) 譲渡人は、売却等をした金融資産を当該金融資産の満期日前に買い戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。

(注) 新たに二次的な権利又は義務が発生する場合には、2-1-46《金融資産等の消滅時に発生する資産及び負債の取扱い》の適用があることに留意する。

法人税基本通達2-1-46(金融資産等の消滅時に発生する資産及び負債の取扱い)

金融資産等(金融商品である資産又は負債をいう。以下2-1-47において同じ。)の消滅を目的とした売却等の取引で、その取引により譲渡人、原債務者等に保証債務等の二次的な権利又は義務を発生させることとなるものを行った場合において、当該譲渡人、原債務者等である法人が、これらの潜在する二次的な権利又は義務に見合う金額として新たな資産又は負債を計上し、当該計上した金額を当該売却等の対価である受払金額に加算し、又は受払金額から控除して当該売却等に係る損益の額を計算しているときは、原則として、当該新たな資産又は負債として区分経理したものがないものとしたところにより、売却等に係る損益の額を計算する。