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資金調達の基礎

資金調達の概要

 経済・金融が発展するにつれ、ヒト・モノ・カネがグローバルに動く時代になると、企業は従来とは異なった環境に置かれるようになった。特に世界的な金余り現象が生じ、投資機会を求めて瞬時にマネーが世界中を飛び回る時代になり、大きなカネのうねりが世界中を駆けめぐるようになった。情報技術の発達とともに、世界規模で裁定取引の機会が提供され、収益機会を求めて巨額の資金が瞬時に動く時代が訪れた。

このように環境が急速に変化すると、企業の内部環境が変化しなくても、企業を取り巻く外部環境が凄い勢いで大きく変化するようになった。特に、サブプライムローン問題のように、日本以外の国で起こった事象が全世界に波及し、各国の金融システムを通じてローカル・ビジネスに影響するというのは、まさにグローバル社会で起こりうる現象である。また、地震や津波などの天災も、いつ起こるかもしれない。

 しかし、このように外部環境が大きく急速に変化する時代であっても、企業は多数の利害関係者との関わりの中で、継続企業として成長・発展していかなければならいという本質的な部分は、従来と変わっていない。外部環境が変化するなかで、企業もその変化の流れを読み、その変化に柔軟に対応して成長・発展することが必要である。

 企業の資金調達は、その時代の経済環境の状況に左右される。なぜなら、資金調達は資金の出し手(主に金融機関や投資家)がどのような経済環境に置かれているか、金利・為替の水準がどのように推移しているのか、金融機関の融資のスタンスが積極的なのか、それとも融資の回収重視なのか、資金調達の制度がどの程度整備されているのかに大きく依存するからである。

 その意味でも、簡単に日本経済の環境変化の大枠につい振り返ることは、今後の資金調達の戦略を立てる上でも有益であると考えられる。

(1)高度成長の時代

 戦後、日本は未曾有の高度成長期を体験し、世界に類を見ないほど高成長を遂げた。当時は高度成長期の日本は資本市場が未成熟だったこともあり、直接金融よりも間接金融が支配的であった。高度成長期には資本市場が未整備であったことから、銀行からの融資が資金調達のメインであった。このような銀行からの融資に頼る中で、銀行と企業の間で信頼関係が生まれ、メインバンク制が形成されていった。

 メインバンクとは主取引銀行のことをいう。メインバンクは企業と銀行との取引関係が長期間継続し、企業に対する融資額が最も多く、企業の株式を保有している銀行であることが多い。メインバンクは企業の経営を常に監視モニタリングし、企業の経営内容を審査し、企業に何か経営上の問題が生じた場合、企業がデフォルトしないよう資金援助を中心とした経営改革の支援を行ってきた。また株式持合いの関係の中で、株主として企業に役員を派遣し、経営に参画することもあった。

 メインバンク制は日本固有の金融システムであるが、メインバンク制が維持されていた理由は、企業の不測の資金需要に応えてくれ、経営危機の際に救済してくれる期待感があった点が挙げられる。

 また、当時日本の金融機関は「護送船団方式」と呼ばれ、過度に保護された規制産業であることから、超過利潤を享受していた点、および金融機関が保有する不動産や有価証券が含み益を有していたことから、銀行が企業への資金提供者としての地位を確立し、メインバンク制が維持され続けていた。

(2)バブル期

 1980年代後半、日本経済はバブルを迎えた。当時、企業は右肩上がりの株価や過剰流動性の中で、容易に資金調達を行うことができる環境にあった。この頃から、企業は従来までの間接金融中心の資金調達から、直接金融へとシフトし始めた。転換社債やワラント債による資金調達は、表面利率が銀行借入や社債発行よりも低かったことから、活発に行われるようになった。当時の株価は「右肩上がりの株価」とも言われ、配当よりも将来の株式売却によるキャピタルゲインを狙った株式の購入が盛んで、エクイティ・ファイナンスによる資金調達の資本コストが低下した。資本市場からの資金調達にシフトする傾向が顕著になり、その結果としてエクイティ・ファイナンスが浸透した。

 また規制緩和により社債発行の適債基準が廃止され、社債市場での起債が容易となった。右肩上がりで株価が上昇している中で企業の格付が上昇したことと相まって、社債の調達コストが銀行借入より低くなるというケースも生じ、社債による資金調達が拡大した。

 一方で、1980年代の金利の自由化の流れの中で、銀行の資金調達コストは上昇した。銀行の資金調達コストの上昇は、企業の側からすれば、銀行からの借入金利の上昇となるため、企業は銀行借入よりも相対的に資本コストの低い資本市場からの調達が有利となった。結果的に企業の自己資本比率は上昇していった。

 銀行はこのような経済環境の中で、融資残高を増やすために、担保があればキャッシュ・フローの見積もりが甘い企業に対しても融資を積極期に行った。また、銀行間でのシェア争いを展開する中で、企業に対する貸付に限界を感じ、相場が上昇していた不動産に対する貸付に注力した。不動産価格の上昇に伴い、銀行が企業に対して貸付ける際にも、企業が保有している担保の評価額が高かったことから、過度に不動産の担保価値に依存した貸付が頻繁に行われるようになった。

(3)バブル崩壊

 1990年代に入り、それまで右肩上がりだった株価が急落し、企業の業績も急激に悪化し始めた。特に不動産価格の下落が著しく、借入の担保となっていた不動産の価値が急激に低下し、巨額の不動産融資が焦げ付いた。銀行の不動産融資は、不動産の担保価値だけでは回収することができず、大量の不良債権が銀行内部で蓄積されていった。

 バブル経済による不動産価格の上昇により、メインバンクは過度に担保価値に依存した資金貸し出しが融資審査を甘くし、担保価値のある不動産を有する企業の経営内容のモニタリングを行わなくなり、銀行による借入企業に対するガバナンス機能がなくなった。またBIS規制による銀行の自己資本増強の要請、金融検査マニュアルにおける自己査定制度の導入等の理由が相まって、銀行による「貸し渋り」が増加した。メインバンクは自行の不良債権処理の負担のために体力を失い、金融危機の中でガバナンス機能が急速に低下した。

(4)外国人投資家の登場

 バブル崩壊後株価が急落し、法人が株式相互持合いを解消する過程で、マーケットに放出された持合株式を買い取る受け皿として、外国人投資家が登場した。特にヘッジファンドと呼ばれる投資家が登場し、世界的な金余り現象と相まってクロスボーダー取引が一段と活発化した。日本の上場企業の大株主リストには外国人投資家が名前を連ねるようになり、外国人投資家はリスクに対するリターンを当然のように要求した。株主総会でも積極的に発言する「モノ言う株主」の登場である。

 株式相互持合いの時代は株式による資金調達コストは定額配当のみと認識されていたが、企業は投資家としてのリターンを要求される時代に突入し、経営陣には説明責任及び数字による結果が求められるようになった。その過程で、日本企業も投資家を意識した経営への変革を余儀なくされた。

 また、外国人投資家は、マーケットで株価が割安と判断された企業に対して、TOB(Take Over Bidの略。「株式公開買付」とも呼ばれる)を仕掛けるという事態が発生した。特にキャッシュを潤沢に保有しているが、株価が低い会社はM&Aの恰好の標的となった。日本企業は敵対的買収に対応するために、次々と買収防衛策を導入していった。

(5)アセット・ファイナンスの幕開け

 日本企業の業績はバブル期以降急激に悪化していったが、外国人投資家から期待利回りを要求された企業は、効率的な経営が求められ、バブル期に肥大したバランスシートを圧縮する必要に迫られた。バランスシートを圧縮する手法として、資産の流動化・証券化という手法が導入されることとなった。

 コーポレート・ファイナンスは、「企業としての信用力」をもって資金調達を行うが、アセット・ファイナンスは、企業が保有している「資産」を活用し、資金調達を行うものである。従来は企業(コーポレート)の信用力に応じて銀行が融資を行っていたが、バブルの崩壊とともに、企業の信用力が低下し、銀行が企業の信用力に応じて融資するのが困難となった。そのような状況の下で、企業が保有している資産(アセット)の価値やアセットが生み出す収益力(キャッシュ・フロー)に着目して融資を行うという手法が新たに導入された。

 証券化・流動化においては、まずSPCが設立される。SPCとは、Special Purpose Company(特別目的会社)の略である。なお、厳密にはSPC以外の任意組合、投資事業組合、信託等も含めてSPV(Special Purpose Vehicle)と呼ばれることもある。

 SPCは通常借入や社債等により資金調達を行い、流動化の対象となる資産の保有者(オリジネーターという)は、SPCに当該資産を売却するが、そのようなSPCに対する融資はノンリコースローンで行われる。ここで、ノンリコースローンとは、借入金の返済原資が借手の持つ特定の資産のみに限定されるローンをいう。SPCが有する特定の資産のみがノンリコースローンの引当となる(この場合の資産を責任財産という)。ノンリコースローンにおいて、オリジネーターの財産が融資の引当となることはなく、返済義務がオリジネーターに遡及することはない。

アセット・ファイナンスには、一般的に以下のようなメリットがある。

①現に保有している資産を流動化しオフバランス化することによりバランスシートをスリム化し、総資本営業利益率(ROA)を高め経営を効率化することができる。
②ノンリコースローンの活用により、企業の信用リスクとは切り離された形で資金を調達できる。
③ノンリコースローンによる借入により、財務レバレッジを高めることができるので、特定の状況下(総資本利益率よりノンリコースローンの金利が低い場合)において資本効率を高めることができる。

 流動化・証券化においては、企業の信用力とは切り離したファイナンス(SPCを使ったノンリコース型のファイナンス)が行われるため、業績の悪い企業であっても、企業の信用リスクとは切り離した形で資金調達が可能である。同時に企業から資産をオフバランス化(企業のバランスシートから資産を切り離す)することによりバランスシートを圧縮することで経営を効率化するも可能である。

 このようなノンリコース・ファイナンスの登場により、企業の信用力・担保力に応じて融資するという「ストック型の融資」から、企業のキャッシュ・フロー創出能力に応じて融資するという「フロー型の融資」が徐々に浸透していった。

 さらに、不動産に過度に依存した融資を見直し、企業の保有する不動産以外の資産を担保とするABL(Asset Based Lending)が登場した。例えば、売掛債権担保融資や、動産担保融資、知的財産担保融資がその典型である。

(6)サブプライムローン問題の発生

 アメリカでは日本に先駆けて主に住宅ローン債権の証券化市場が拡大していた。アメリカでは1997年頃から住宅価格が上昇し続け、住宅を購入しても数年後には購入額を上回る価格で売却できる例が多数生じ、不動産投資ブームが起こった。このような不動産投資ブームの中、住宅ローン専門会社(モーゲージバンカー)はサブプライムローンと呼ばれる比較的信用力の低い人々に対して積極的に貸付を行った。

 サブプライムローンは借入当初は返済額が少なくてすむが借入から一定期間が過ぎると急激に返済額が増えるタイプや、借入当初は金利が低いが数年後から段階的に金利が高くなるもの等、借入当初の負担が軽く、時の経過とともに返済負担が多くなる点に特徴がある。

 また、そのような貸付債権のリスクが証券化という手法を通じて分散され、様々な投資家へ移転していった。このように証券化された商品のリスク評価は非常に難しく、その影響度が計数的に把握するのが困難な状態に陥った。アメリカ初のサブプライムローン問題は、証券化商品を通して全世界に波及することとなった。このような証券化商品のリスクが顕在化した結果、金融システムの安定性が損なわれ、投資家は損切りをしてもリスクマネーの回収に動き、銀行は回収が危ぶまれる企業や個人に対する貸出債権の早期回収に動き始めている。

 株価が低迷している状態で決算期を迎え時価会計を適用する場合には、多額の評価損を計上することが懸念される。また、資金の貸し手である金融機関もBIS規制に基づき算定した自己資本比率が大幅に低下することも懸念されることから、今後、企業の資金調達環境が悪化してゆくことが懸念される。

資金調達の必要性

 資金調達のニーズは企業によって様々である。企業が継続企業(Going Concern)として活動してゆく限り、資金のニーズは枯渇することはない。資金調達のニーズは、一般的には資金運用、すなわち、資金を何に使うのかと関連している。資金運用は資金の使い道であり、資金使途とも呼ばれているが、それ以外にも個々の企業の置かれている状況によって、資金調達に関するニーズは異なっている。例えば、信用力のある会社とない会社、収益性が高い会社と低い会社、担保となる不動産を有している会社と有していない会社等によって条件が異なっている。

(1)なぜ資金調達が必要か?

 なぜ企業は資金調達が必要なのだろうか。通常の企業の健全な経営活動を例に考えてみる。製造業を例にとると、製品の開発→製造→販売→回収という一連のビジネスプロセスの中で、様々な資金が必要となる。原材料の購入、研究開発のための資金、製造設備の購入資金、販売のためのマーケティングの資金、回収コスト、人件費や家賃、販売後の修理費用などの間接経費など、利益を生み出すための活動の中で、継続的に資金が必要となる。健全な企業が継続的に成長・発展してゆくためには、継続的に資金需要が発生するのである。

(2)資金使途の分類

 企業によって資金使途は様々であるが、一般的に資金使途は以下のように分類される。

  • 経常運転資金: 売上代金回収のサイトと仕入代金支払いのサイトに不整合が生じた場合、一時的にキャッシュ・フローが悪化することから必要とされる資金。
  • 増加運転資金: 取引条件が変化した場合や、期中で売上・仕入の金額が急に変動した場合に必要となる資金。
  • つなぎ資金: 資金の収入・支出の時期に一時的に差が生じた場合に必要となる資金。
  • 設備資金: 企業が設備投資を行う場合に必要となる資金。
  • 在庫資金: 将来の売上げを見越して在庫を備蓄するための資金。
  • 滞貨資金: 過剰在庫や死蔵品を処分するめに必要な資金。
  • 決算資金: 納税・賞与の支払い・配当の支払いなど、決算と関連して必要となる資金。
  • 季節資金: 季節性の強い商品を販売している場合等において、繁忙期に必要となる資金。

企業の資金の運用先や企業が置かれている状況によって、資金調達のニーズは異なる。

  • 資金使途: 運転資金、設備資金、決算資金等、資金の使途に合った資金調達が必要である。
  • 短期・長期: 資金使途により資金調達の期間は異なる。
  • 金額の大小: 必要となる資金量が大きい場合と小さい場合がある。
  • 担保の有無: 換金価値の高い資産を保有している方が資金調達が容易であり、またコストも低くなることが多い。特に借入による資金調達の場合は、担保が必要となることが多い
  • 信用力: 信用力の高い企業の場合、デフォルト確率が低いと考えられるので、資金調達が比較的容易であるが、信用力が低くても資金を調達したいというニーズがある。
  • 支配権: 資金を調達したいが、資金の出し手に会社の支配権を奪われたくないというニーズが存在する。特に中小企業の場合は、会社の閉鎖性を保ちたいというニーズがある。
  • 資金の出し手: 資金の出し手は金融機関、投資家、縁故者、金融系事業会社、公的機関など様々である。資金の出し手により、資金拠出の見返りとして要求するリターンが異なる点に留意が必要である。

資金調達方法

(1)資金の調達手段

 資金調達手段は大きくデット・ファイナンス、エクイティ・ファイナンス、アセット・ファイナンスに分類される。



(2)資金の出し手と要求するリターン

 資金の出し手と要求するリターンをまとめたものが下記である。

  • 金融機関(銀行): 借入・社債・株式→ 主に利息、手数料
  • 機関投資家: 株式・社債→ 配当、利息、キャピタルゲイン、支配権
  • 個人投資家: 株式・社債→ 配当、利息、キャピタルゲイン
  • エンゼル: 株式→ 主にキャピタルゲイン
  • ベンチャーキャピタル: 株式→ 主にキャピタルゲイン
  • 親会社・子会社: 借入・株式・社債→ グループ経営戦略上の役割を果たす
  • 従業員持株会: 株式 → 配当、支配権(安定株主として)
  • 縁故者(私募): 借入・株式・社債→ 支配権、利息、配当

 銀行を中心とする金融機関は、企業への資金の貸し手として非常に大きな役割を有している。特に中小企業の場合は、直接金融市場から資金を調達するのが難しいことから、銀行からの借入に依存するケースが多い。中小企業の中でも、業績が良く成長性が見込める会社は、将来の株式公開を睨み、エンゼルやベンチャーキャピタル、中小企業投資育成会社などから出資を受けることが可能である。
 機関投資家は、顧客から受託した資金を運用してリターンを得ることを目標としていることから、主に配当・利息・キャピタルゲインというリターンを要求する。近年は、物言う株主として積極的に株主総会で発言する機関投資家が増えている。
 個人投資家は、主に株式市場から証券会社を通して株式を購入しており、配当やキャピタルゲインをリターンとして要求する。
 エンゼルやベンチャーキャピタルは、創業期の企業に株式の購入という形で資金提供を行い、株式公開後に当該株式を売却してキャピタルゲインを得ることを目的としている。エンゼルやベンチャーキャピタルによっては、会社経営に積極的に参画したり、経営助言を行ったりするケースもある。
 親会社・子会社間での資金調達については、主に親会社が経営戦略上の必要性から子会社を設立したり、子会社に資金を貸し付けたりするケースが多い。親会社・子会社間での資金調達の場合は配当や利息などの金銭的なリターンを要求するというよりも、親会社の連結経営上、子会社の戦略的位置づけを決定し、その機能を果たすために資金を提供している場合が多い。また、親会社が有する資産を子会社の借入時に担保に提供する場合や、子会社に対して債務保証を行う場合もある。

資本コストと資金調達

資本コストとは

 資本コストとは、企業が資金調達を行うにあたり、資金提供者である株主や社債権者、銀行が要求する収益率をいう。企業にとっては、資本コストは資金調達のコストであると同時に、企業にとって投資判断を行う際の基準となる収益率である。資本コストは、将来キャッシュ・フローの割引率としても用いられる。

(1)自己資本の資本コスト

 出資者としての株主は、資金提供に伴い、事業に対するリスクを引き受けているため、そのリターンとして配当及びキャピタルゲインを企業に要求する。株主は、出資金の返還が負債の支払いに劣後するため、通常は債権者よりも高い資本コストを要求する。

(2)負債の資本コスト

 銀行や社債権者は、資金提供のリターンとして金利を要求し、企業の信用リスクの水準に見合った金利を要求する。

(3)加重平均資本コスト(WACC)

企業は自己資本と負債により資金調達を行うのが通常である。よって、企業が直面する資本コストは、資本コストと負債の資本コストを、それぞれの調達金額で加重平均した値となる。自己資本と負債の資本コストの加重平均した資本コストをWACC(Weighted Average Cost of Capital)という。WACCは下記の式により算定される。自己資本の資本コストは、通常CAPMというモデルにより算定することができる。

WACC=D/(D+E)×rd(1-t)+E/(D+E)×re

D:負債の金額
E:自己資本の金額
rd:金利(リスクフリー・レート)
re:自己資本の資本コスト
t:実効税率(effective tax rate)

ここで、リスクフリー・レートとは、例えば国債などの安全資産の利子率のことをいう。上式の中の(1-t)は、負債利子が法人税法上損金に算入されることから、その節税効果を反映するために負債利子率に掛け合わせたものである。WACCは資金調達サイドから見たトータルな資本コストを意味し、企業は事業が生み出すキャッシュ・フローの収益率が、WACCを上回らなければならない。

CAPM(Capital Asset Pricing Model)とは

(1)CAPMとは

 CAPM(Capital Asset Pricing Model)とは、資本資産評価モデルと呼ばれ、投資家はリスクに見合ったリターンを要求するという考え方に基づき、金融資産の期待収益率を求めるための理論モデルをいう。WACCを求めるためには自己資本の資本コストの値が必要であったが、CAPMに基づき企業の株式への投資に対する期待収益率(=自己資本の資本コスト)を求めることにより、WACCを求めることが可能となる。
 自己資本の資本コストは、投資家の側から見れば、企業の株式に投資する(リスクをテイクする)ことに対して期待するリターンであるが、企業の側から見れば自己資本の調達コストという関係にある。
CAPMにおいては、企業の自己資本の資本コスト( )は、安全資産に対してどの程度のリスクがあるかという観点から期待リターンを求める。そのリスクの程度は企業のリスクを表す「β(ベータという)」を用いて計算することにより求められる。

(2)βの意味

CAPMにおいては、企業のリスクはβという企業の株価の変動を表す係数により表される。βの値が表す意味は以下の通りである。

  β=1 市場全体の収益率の変動と同じだけ企業の株価が変動。
  β>1 市場全体の収益率の変動より、企業の株価の変動の方が大きい。
  β<1 市場全体の収益率の変動より、企業の株価の変動の方が小さい。

 要は、市場全体の収益率が1単位変動する場合に、企業の株価が何単位変動するのか、その関係を数値化したものがβである。βが1より大きければ、企業のリスクは市場平均より大きいと考えられ、βが1より小さければ、企業のリスクは市場平均より小さいと考えられる。リスクの裏返しがリターンであることから、βが大きい企業に対しては、株主は大きい期待収益率を要求することになる。

(3)自己資本の資本コストの算定

CAPMでは、自己資本の資本コストを以下の算式に従い算定する。この場合に、無リスク資産に対してどれぐらい高い期待リターンを求めているのかについて、企業のβを用いて計算する。

re=rf+βe×(rm-rf)
ここで、

re:負債の金額
rf:自己資本の金額
βe:金利(リスクフリーレート)
rm:自己資本の資本コスト
上の式は、直感的には、リスクのない資産に投資した場合のリターンに、企業の株式にリスクを取って投資した見返りとしてのリスクプレミアムを加えたものが、株主が要求する収益率でありと考えた式であり、裏返せば企業の自己資本の資本コストである。上式により求められる自己資本の資本コスト は、WACCを求める際に利用することができる。

モジリアーニ・ミラー定理と最適資本構成

 一般に、負債の資本コストは自己資本の資本コストよりも低いため、負債比率を高めるとWACCを低くする要因となる。しかし、負債比率を高めると、自己資本利益率の変動幅(標準偏差)が大きくなるリスクを株主が負担することになるため、自己資本の資本コストは上昇しWACCを高める要因となる。結果として、WACCは常に一定の値となることから、最適な資本構成は存在しない(モジリアーニ・ミラーの第一命題)。

 ただし、負債の利用による節税効果のメリットが考慮した場合、負債比率を上げれば挙げるほど負債の利用による節税効果によりWACCが低くなる要因となる。その反面、負債比率がある一定水準を超えると、負債の利用が過大となり、倒産のリスク(多額の負債を返済できずにデフォルトするリスク)が生る。企業が倒産する場合には、様々なコストが発生することから、過度な負債の利用は倒産コストの期待値を高め、WACCを高める要因となる。

 このように考えた場合、結局、WACCと負債比率の関係を示す曲線はU字型となり、その最低点において最適な資本構成(負債比率)が存在することになる。最適な負債比率が分かれば、負債と資本による調達額を求めることが可能となる。